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WORK MILL

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「CHOICE」とワーク・エンゲイジメント

この記事は、“はたらく”にまつわる研究データをまとめた冊子「WORK MILL RESEARCH ISSUE01 はたらくを自分で選ぶ」(2019年11月発行)からの転載です。


柔軟な働き方の一つの方法であるABW(Activity Based Working)。ワーカーの仕事は、組織の考え方・チームのミッション・個人の業務などによってさまざまで、内容や目的を一括りにすることは困難です。

これまでのオフィスは席の利用率などを重視するがゆえに、画一的な環境となっていました。

しかし改めて考えてみると、活動に合わせて環境をつくった方が、ワーカーにも組織にも良い影響があるのではないでしょうか?

まずは「CHOICE」の一つの方法として、ABWの効果について見ていきます。

ABWの効果 その1 主観的パフォーマンス 
ABWと仕事のパフォーマンスについて分析していきます。

ABW(Activity Based Working)とは、仕事の内容や目的に合わせて働く場所を選択する働き方のこと。“ 柔軟な働き方” を実現するための方法の一つで、近年、オフィスの環境づくりのキーワードにもなっています。

オフィスにはこれまで固定席・グループアドレス・フリーアドレスなど、さまざまな席のつくり方がありました。ABW は、固定席もフリーアドレスも含めて、働く場所や環境を自分で選択していく働き方のことです。また、働く場所はオフィスの内外を問わず、サテライトオフィス、移動中、パブリックスペースなど、複数に広がります。

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今回は、ワーカー自身が実感しているパフォーマンス(主観的パフォーマンス)の向上についてアンケート調査(n=338) を行い分析しました。

その結果からは、すでにABW を実践している(選択できるさまざまなワークスペースがある)人がABW の効果として最も実感しているのは「集中できる」こと、次いで「仕事の効率が上がる」ことでした。一方でABW ではない(選択できるさまざまなワークスペースがない)人も、ABWになると「仕事の効率が上がるのではないか」と期待していることもわかりました。

ABWの効果 その2 健康
仕事の内容に合わせて場所を変えるABWの働き方が、健康リスクの低減に効果があると考えられます。

一日中オフィスの中で働いていたとしても、ABWは実践できます。例えば、午前中は固定の自席で働き、午後は会議室でミーティングや、カフェスペースでリラックスして仕事をするだけでも、実は動いています。

オーストラリアの先行研究(Van der Ploeg HP, Chey T, Korda RJ, Banks E, Bauman A.Sitting time and all-cause mortality risk in 222 497 Australian adults.Arch Intern Med. 2012;172:494-500.)によると、座位時間が長いほど死亡リスクが高くなることがわかっています。その他の研究でも、長時間の座りすぎと心疾患系の病気や糖尿病などとの関連が報告されています。

そこでオカムラは、明治安田厚生事業団と共同研究を実施し、多様な働く場所で、一日にどれくらいの時間座っているのかを測定しました。調査では、オフィスへABWを導入する前後で、ワーカーに活動量計を装着してもらい(前後2週間ずつ)、活動量の変化から座位時間を算定しました。

その結果、ABW を導入しているオフィスでは、導入していないオフィスよりも約28分の座位時間が減少しました。

ABWでは、仕事の内容に合わせて適宜場所を変えながら働くので、ABWを導入していないオフィスよりも活動が増え、その結果座位時間が減っていると考えられます。

ABWの効果 その3 ワーク・エンゲイジメント
ABWは、ワーカーの心の健康にも良い効果を与えることがわかっています。

オカムラでは、ABWと「ワーク・エンゲイジメント*」の関連についてもアンケート調査を実施しました。 対象としたのは、日本で働く会社員500名です。正社員かつオフィスで3日以上、20名以上と働いていることが条件で、「自席と会議室以外で作業空間を選べるか」という質問に対して「選べる」と回答した人(ABW を実践している人)400名、「選べない」と回答した人100名が対象です。

今回の調査では、まずはオフィスの中を対象として、働く場所を大きく「作業スペース」「ミーティングスペース」「支援スペース」の3つのカテゴリーに分類しました。

アンケートの回答では、ワーカーのオフィスにあるスペースが「作業スペース」は4個以上、「ミーティングスペース」は7~8個、「支援スペース」は6個以上になるとワーク・エンゲイジメントが増加していました。つまり、ワーカー自身は働く場所に関して「種類の多さ」を求めている傾向があり、働く場所の種類を増やして多様にすることによって、ワーク・エンゲイジメントが向上する可能性があると考えられます。

この結果から、例えばオフィスで「作業スペース」をつくる際は、集中エリアだけでなく、カフェやソファスペースなどを設けて作業ができる場所の種類を増やし、オフィス内のどこでも働けるようにすることが重要だと言えます。

*ワーク・エンゲイジメント
ワーカーの心の健康状態を示す概念のひとつ。仕事に対して「誇り(やりがい)を感じ」「熱心に取り組み」「活力を得ていきいきと働く」という3つの要素が揃って、充実している心理状態を指します(出典:職場のポジティブメンタルヘルス/島津明人/2015年)。

ABWに向いている人、求められる環境は?
仕事の内容や特性によって、効果的なスペースや環境、働き方も変わります。

次にワーク・エンゲイジメントを高めるために、どういった特徴の仕事のときに、どのような場所を設えるのが適切なのかも分析しました。

例えば、「チームとして共通の目標がある仕事」では、「個人作業」には集中用個室、「共同作業」にはリビングや部室(部門専用の部屋)といった環境の準備が重要です。

また一方で、一般的な会議室はあまり影響がありませんでした。チームとしての仕事は会議室よりも部室などを設ける方が、効果があるようです。

「ABWとワーク・エンゲイジメント」のまとめ

働く場所の選択肢を増やすことによって、主観的パフォーマンス、健康、ワーク・エンゲイジメントにプラスの効果があると考えられます。働き方が柔軟になり、オフィス環境も画一的なデザインから脱却し始めているいま、活動の目的・内容と場所が一対一だった時代は一歩先へ進み、ワーカーの主体的な判断によってどのようなスペースでも仕事ができる状態になってきています。その一つの方法としてABWを検討してみてください。

2019年12月26日更新