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やってくる未来は変わらなくても、未来の波にどう乗るかは決められる。「未来思考」の育て方(未来予報株式会社 宮川麻衣子さん・曽我浩太郎さん)

予測不能な出来事が次々と起こっています。特に、AIの普及によって、「自分の仕事はどうなるのか」「なぜこの会社で働いているのだろうか」と漠然とした不安を抱える人は少なくありません。

その中で、未来を天気のように捉える「未来予報®︎」という考え方を広めているのが、未来予報株式会社です。

共同創業者である宮川麻衣子さんと曽我浩太郎さんに、漠然とした未来への不安で思考停止せず、行動していくための「未来思考」の身につけ方を聞きました。

「未来予報」と「未来予測」の違い

お二人は「未来予報」を事業にされています。まず、未来予報とはどういうものなのでしょうか?

Evoto

曽我

未来予報は、天気予報のようなものです。

天気予報を見て、その日の予定や服装を考えるのと同じように、未来予報は「こんな未来が来るかもしれないけど、あなたはどうしたい?」と問いかけるものです。

曽我浩太郎(そが・こうたろう)。未来予報株式会社 共同創業者・プロジェクトデザイナー。映像制作会社のAOI Pro.のデジタル部署にて、大手企業のキャンペーンや動画・アプリ・コミュニティサービスなどをプロデュース。その後、経営戦略部門と自社サービスの立ち上げまでを担当。2016年に「未来予報/VISIONGRAPH」を創業。大手企業のデザインセンターや研究所とともに未来像の構想や、経営企画部門と共にイノベーション人材の育成研修を企画。2019年に米国法人SXSW LLCと VISIONGRAPHがJapan Rep(日本代表)契約を結び、社内にSXSW Japan Officeを設立した。

似た言葉に「未来予測」があります。未来予測と未来予報はどのように違いますか?

Evoto

曽我

「未来予測」は、研究者が「2050年はこんな技術が発展するから、脳と脳で通信ができるんじゃないか」と語るなど、ファクトを基に確率が高いことを導き出し、選択肢を絞り込んで起こりうる未来を当てるものです。

(提供画像)

Evoto

曽我

一方、未来予報は現在起こっていることやみんながわかる未来から少し枠を広げて、「こういう未来があるかも?」という範囲まで思考を広げます。

「あるかもしれない未来」を予報するのが私たちの活動です。視野を広げることに意味があります。

Evoto

宮川

未来に対して漠然とした不安を感じ、思考が停止してしまうこともあります。

そうならないように「こんな未来があるかもしれない。だったらどうしていこうか」と仮説を持ちながら考える力を「未来思考」と定義しています。

宮川麻衣子(みやがわ・まいこ)。未来予報株式会社・共同創業者 / フューチャリスト / SXSW Japan代表。大手映像会社のAOI Pro.にて企業のオウンドメディアのコンテンツ戦略や広告の企画・制作に携わる。その後、自身でシェアリングエコノミー型ビジネスを立ち上げた後に退職。2016年に、「未来予報株式会社 / VISIONGRAPH」を創業。スタートアップの未来型コンセプトデザインや、大手企業の先進デザインプロジェクトや研究活動のビジョンメイキングに関わる。SXSWでは、2020年と2022年に公式スピーカーとして、世界に未来像を提案する。

アプローチによって異なる2つのワークショップ

未来思考を鍛えるにはどうすればいいのでしょうか?

Evoto

曽我

いろいろな方法がありますが、私たちは大きく2つのタイプのワークショップを用意しています。「建築家型」「考古学型」です。

建築家型は、未来の兆しマップ(未来年表)やオリジナルのカードを使用して、ありたい未来を考えていきます。

考古学型は、前提となる仮の未来の世界観やシナリオをこちらが用意して、参加者は「自分はその未来にどんな態度を表明するか」を考えます。

この2つのワークショップを、どのように使い分けているのでしょうか?

Evoto

曽我

自分たちが考える望ましい未来像を構想したい方には建築家型、ビジョンは掲げているものの行動と結びつかないという課題感をお持ちの方には考古学型が向いています。

これは『未来のおだい』というワークショップです。

カードを組み合わせることで現在の枠を取り払うことで発想を広げていくワークショップです。すでに存在する技術などの事例から未来の兆しを発想したいときに活用しています。

漫画の一コマみたいで面白いですね!

Evoto

曽我

実在するスタートアップの先進事例に対して、「未来予報タグカード」を組み合わせることで、アイデア出しをしていきます。

Evoto

曽我

未来予報タグカードは、数百のイノベーターのビジョンを集め、その傾向を大きく分類して作りました。

大きく7つに大別していて、現在公開しているのは次の5つのテーマです。

代替、依存条件、コミュニティ、合理、正義……。

どれも面白そうですね。

Evoto

宮川

一方、考古学型は私たちが事業をしてきた10年の気づきをもとにした、比較的新しいワークショップです。

その気づきとは、「未来は今を写す鏡であり、自分が発想する未来は自分の今を反映している」ことです。

未来は今を写す鏡?

Evoto

宮川

たとえば、AIに支配されると感じる人は、支配とコントロールに関する恐怖感をもっています。未来を想像したときに「こんな未来は嫌だ」と思うことには、今の自分の心が反映されているのです。

だから、今の心を反映せずに思考を広げていただくために、このワークショップでは「未来はこんな世界観です」とこちらが提示して、進めていきます。

参加者が今の思考から離れるために、あえて前提が提示されるんですね。

Evoto

宮川

そうです。このワークショップでは、結果や現象からもっともらしい原因を推測する「アブダクション」という手法を使いました。

Evoto

宮川

たとえば、男性のVIO脱毛が流行しているそうです。その背景には「介護で周りに迷惑をかけたくない」「心の手間を最小化したい」という心理があると推測しました。

そうすると、コスパやタイパのように「メンパ(メンタルパフォーマンス)という言葉が生まれている未来」があるかもしれない。それをお題として提示します。

メンパが定着した未来を前提にしたんですね。

Evoto

宮川

はい。そして、参加者にとってメンパがいいこと・悪いことをご自身の言葉で書き出してもらい、参加者同士が話し合いました。

そして、メンパが当たり前になった2030年にはどんなサービスがあるかを考えていったんです。

どんな意見が出てくるんですか?

Evoto

宮川

先日、ある企業でこのワークショップを実施したときは、「予測できないことにストレスを感じる、メンパが悪い」という話題で盛り上がりました。

他には「どんな予測ができたら幸せなのか」「むしろ予測できなくてワクワクできるものは何だろうか」という問いも生まれました。

そして、このワークショップでお伝えしている最も重要なポイントは「未来は変えられない」というスタンスに立つことです。

未来は変えられない?

Evoto

宮川

大きな社会の変化があったとき、自分ひとりで何かを変えられるわけではありません。なので、「この未来は来るかもしれない。そのとき、あなたが未来の波にどう乗るかが大事です」と伝えています。

そこでワークショップでは、仮定した未来に対して、自分はどんなスタンスを取るのかを、次の6つの態度から選択してもらっています。

1. 推進:その未来を加速させ、新しいサービスを作る側になる。
2. 翻訳:新しい価値観を、これまでの社会や組織が理解できる言葉に置き換えて伝える。
3. 保護:変化によってこぼれ落ちたり、失われたりしそうな文化や人々を守る立場に回る。
4. 支援:未来を作ろうとしている人を、リソースや技術で支える。
5. 逃避:その未来から距離を置き、あえて違う場所で生きる道を探す。
6. 静観:今はまだ動かず、状況をじっくりと見極める。

Evoto

宮川

すると、「私個人としては推進派だけど、会社の立場としては保護や支援かな」といった意見が出てきたりします。

みんなが自分の立場を表明してから対話するので、価値観の違いを超えて未来の話を共有できるのも、このワークショップの面白さです。

Evoto

宮川

会社でビジョンを考えるワークショップなどは多数ありますが、なかなか1年後まで覚えておくのって難しいですよね。

でも、未来に対してどんな態度を表明するかなら、記憶に残りやすいと思っていて。結果として、その後の行動にもつながると考えています。

SXSWに出会ったことが創業のきっかけ

なぜ、お二人は「未来予報」を発信し始めたのでしょうか?

Evoto

宮川

2012年頃にさかのぼりますが、当時私たちは広告業界で働いていました。

Webサイトの動画をFlashで制作していましたが、スマホの普及や技術進化で「広告のクリエイティブ業界はどんどん仕事がなくなる」という予測のニュースばかりを目にするようになり。

「私たちの仕事ってどうなるのだろう?」と、とても不安な気持ちになりました。

「AIに仕事が奪われる」という今の雰囲気と近いものを感じます。

Evoto

宮川

その頃、アメリカのテキサスで行われている「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」というイベントに二人で参加する機会がありました。

毎年3月にアメリカのテキサス州オースティンで開かれている、音楽、映画、テクノロジーが集まるフェスティバルです。ネクストブレイクを探す場でもある。(提供写真)

Evoto

宮川

SXSWで交わされていたのは、未来について希望のある話でした。「ディストピアな未来は来るかもしれないけど、自分たちは何をするか」が前向きに話されていて衝撃を受けたのです。

これを日本の皆さんにも伝えられたら、大きなマインドチェンジが起きるのではないか。その想いが創業のきっかけになりました。

現在は、SXSWの日本事務局として、日本企業の出展や参加をサポートする役割も担う。(提供写真)

創業後は、どんなお仕事を?

Evoto

宮川

当初は、スタートアップの方々と仕事をする機会が多かったです。

開発から実用化までの期間が長いハードウェアのスタートアップと関わり、そのプロダクトが世界に出たときのインパクトを可視化するお手伝いをしていました。

Evoto

曽我

スタートアップが描く未来のビジョンをビジュアルに落とすことで、投資家に「こんな未来を実現したい」と伝えることができ、資金調達につなげることができました。

そうした支援をしながら、ブログで未来予報を発信し続けて、2017年には『10年後の働き方』(インプレス)というこれから世の中に生まれうる職業を紹介する書籍を出しました。

そこから大企業の方から「一緒に未来を描いてほしい」と声がけをいただく機会が増え、未来予報がメイン事業になっていきました。

「もしもエクササイズ」で未来思考力を鍛える

お二人は、働き方の未来はどうなっていくと思いますか?

Evoto

宮川

直近の大きなテーマは「働く動機の回復」です。「なぜこの会社で働いているのか」を深く考えずやり過ごしている人が増えているように思います。カギになるのは、アナログな関係性をどう構築していくかです。

また、「自分が昨日より成長している」と感じられる瞬間が、新たなウェルビーイングの定義になっていくと考えています。AI時代だからこそ、適切な負荷の設計もしやすいはずです。

Evoto

曽我

AIが高速で回答する時代だからこそ、人間が時間をかけて積み上げたり体得したりすることが、贅沢で豊かな時間になり価値を増していきます。

「自分も未来思考を身につけたい」と思った方は、まず何から始めるといいでしょうか?

Evoto

曽我

私たちが長期の研修などでお伝えしているのは、「もしもエクササイズ」をすることです。

「生成AIの流行」というニュースを目にしたら、「生成AIが当たり前の世の中になったら、私たちの暮らしや大切にしている価値観はどう変化するだろう?」とさらに先のことを考えてみる。

すると、ただのニュースが意味のあるものに変わります。「もしもエクササイズ」は、筋トレのようなもので毎日続けることが大事です。

オフィスには未来予報がずらりと貼られていました。

お二人と話していると、未来に対してとても前向きな気持ちになります!

ついネガティブに考えがちな人も多いと思うのですが、未来思考を身につければ前向きになれますか?

Evoto

宮川

リスクを考えて注意することにも意味があるので、ネガティブは悪いことばかりではないと思っています。

ワークショップの問いかけをきっかけに、急に目の色が変わって、思考の縛りから解放される人ってたくさんいるんです。

たとえば、「AIが普及すると人間らしさがなくなる」と話されている方に、「人間らしさって本当にあるのでしょうか?」と問いかけたら、「たしかに……。それだったら、こういう可能性もあるかもしれない」と前向きに話し始めて。

Evoto

曽我

「未来は暗い」とネガティブに捉えていたとしても、「未来に対して何か一つでも自分が考えていることが実行できる」と思えれば、捉え方が変わりますよね。

そういった変化はアンケートでもよく目にします。

未来への不安は選択肢がないことから生まれています。思いもよらなかった新たな選択肢があるかもしれないと思った瞬間、思考が解放される。その価値観や思考の枠を取り払うのが、私たちの仕事だと思っています。

宮野 玖瑠実
宮野 玖瑠実

【編集後記】
オフィスにお伺いしたときから取材が終わるまで、お二人が常に明るく、ハツラツと対応してくださったことが印象に残っています。たとえどのような未来が訪れたとしても、その中で自分たちはどう行動するのか、未来に対して希望を持ち、前向きに議論していこうとする姿勢が、お二人のキャラクターそのものにも表れているように感じました。
AIの台頭によって、私たちの未来はますます予測しづらくなったと言われていますが、大切なのは、どんな未来が来るのかを正確に知ることではなく、訪れるかもしれない未来に対して、どのような態度で向き合い、生きていくのかということに気づかされるインタビューでした。(株式会社オカムラ WORK MILL 編集員 / 共創ディレクター 宮野 玖瑠実)

2026年2月取材

取材・執筆=久保佳那
撮影=小野那奈子
編集=鬼頭佳代/ノオト