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人口530人の村で不動産屋を起業! 梅原颯大さんに聞く「担い手がいない仕事」に挑む道のり

現在、日本では地方を中心に、この30年間で空き家の数は2倍以上に増加しているといわれています。

東京、埼玉に隣接する自然豊かな山梨県丹波山村(たばやまむら)も、長年にわたって空き家の問題を抱えている地域の一つです。

この空き家問題の解消に向けて動き出したのが梅原颯大さんです。大学在学中に、梅原さんは丹波山村の空き家調査に取り組み、卒業後、村唯一の不動産屋として「梅鉢不動産」を立ち上げました。

必要とされていながらも、今まで村に担い手のいなかった空き家の調査事業を引き受け、「新しい仕事」を生み出そうと奮闘しています。その道のりで彼が感じていたことは、何だったのでしょうか。

梅原颯大(うめばら・はやと)
梅鉢不動産株式会社 代表取締役。1999年生まれ。静岡県伊豆の国市出身。中央大学商学部在学中、地域おこしを学ぶ授業で山梨県丹波山村と携わる。在学中に丹波山村との2拠点生活を実施しながら空き家問題解決に取り組む。卒業後は、村内唯一の不動産会社として「梅鉢不動産株式会社」を起業。今後は、利活用可能な空き家を増やすとともに、空き家の予防なども行っていく予定。

空き家の状態を調べるという仕事

丹波山村の唯一の不動産会社を経営している、と聞きました。具体的には、どんな仕事をしているのですか?

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梅原

主にやっているのは、空き家調査です。自治体からの依頼を受けて、村にある空き家をどのように有効活用していくか、計画づくりの部分をお手伝いしています。

不動産屋と名乗ってはいますが、多くの人がイメージするような不動産仲介業はメインにしていないので、少し不思議に思われるかもしれません。

そもそも、なぜ今まで丹波山村には不動産業の担い手がいなかったのでしょうか?

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梅原

一般的な不動産屋は、賃料や家の販売価格の何%を手数料としてもらう、というビジネスモデルです。そうすると、売買にしても管理にしても家賃の相場が低い地域で利益を出していくのはかなり厳しいんです。

それでも梅原さんはあえてそこにチャレンジされているわけですよね。起業してから一年が経って、新しく見えてきた課題はありますか?

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梅原

不動産屋として仲介業をしても、空き家問題の根本的な解決にはならないとわかりました。

もちろん仲介業で空き家を次の方に譲渡することはできますが、その空き家を使う方と自治体のニーズがマッチしていないことも多いんです。

村からすると、働ける生産年齢人口世代に住んでほしい。でも、実際に地方に暮らしたいのは、定年後やセカンドハウスにしたいという方が多い。このミスマッチもうまく解決していく必要を感じますね。

人手不足を掘り下げていたら、空き家問題にぶち当たった

梅原さんは、大学在学中に丹波山村に実際に住んだことがきっかけで、卒業後に不動産屋を立ち上げたとお伺いしました。

丹波山村は、出身地でもなんでもないんですよね?

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梅原

そうですね。丹波山村と縁ができたのは、大学の地域おこしを学ぶ授業がきっかけです。その授業を選択したのも本当にたまたまで……。実践的で楽しそうだな、くらいの気持ちで選びました。

ですが、大学3年生の秋頃から、講義がコロナ禍の影響で全部オンラインになり、通学する必要がなくなって。

今まで授業を通じて村に長期間滞在したことがなかったので、それならせっかく時間もあるし、実際に村にどんな課題があるのか住みながら考えてみようかなと思いました。

ある意味、コロナ禍がきっかけだったのですね。村に住みはじめてから、まずはどんなことをされていたのですか?

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梅原

空き家を1軒貸してもらって、そこを拠点にしながら村内の人手不足だと話す事業者さんのお手伝いに行かせてもらっていました。

その中で、皆さん揃って「家がない」と口にしていると気づいたんです。

どういうことですか?

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梅原

丹波山村は全体の97%が山林で、人が住めないんです。だから、残りの3%に家を建てないといけません。

しかし、そこにはすでに多くの空き家があり、新築するにも土地がない。そのまま住めたり、施設や事務所にできたりする状態のいい空き家も全くなかったんです。

だから、地域おこし協力隊や親子山村留学制度を使って、丹波山村に来たいという声はあっても、住める家が本当になくて来られなかったんです。

丹波山村の人口が増えない原因は空き家なのは、周知の事実だったんですね。

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梅原

はい。でも、皆さんそれぞれ自分の仕事があるので、なかなか空き家のことまで手が回らなかったみたいです。

その現状を知って、それなら自分がやってみようかな、と。それが、ちょうど大学4年生になるタイミングでした。

まず何から始めたのですか?

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梅原

現状を把握したかったので、空き家調査をさせてほしいと自分から自治体に提案しました。

それで、約200軒ある空き家を一軒ずつ実際に見に行って、本当に空き家なのかを確認し、空き家であれば物件の状態を評価したデータを取っていました。

一軒ずつ回る……。かなり大変そうな作業ですね。

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梅原

気合いで乗り切りました(笑)。

正直言うと、一つひとつはそんなに難しい作業ではないんですよ。ただ、データの処理をはじめ、労力と時間はすごくかかります。

所有者を特定するときも、郵送だと返答率が低く、結局、実情が把握できないので、自分の場合は人づてに情報を集めて、個別に連絡を取っていました。

今までも一部の空き家調査は役場がやっていたそうですが、そこまでやろうと思うと相当手が空いている人がいないと厳しいのかな、と思います。

正直、めちゃくちゃ起業したいというわけでもなかった

卒業後も丹波山村に残り、さらに起業までしたのはどんな流れだったのでしょうか?

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梅原

4年生のときには空き家調査と同時に、宅建の勉強も始めたので、そのときには何となく空き家関連の道でやってみようかなと思いはじめて。

周りは就活をしていましたが、特に不安はなかったですね。もし事業に失敗したら、そのときに就活すればいいだろうと思って。

ご家族や友人含め、周りの人は「なぜ丹波山村で起業?」など驚かれたのでは?

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梅原

いや、一切なかったです。

大学入学当初から変な活動はしていたので、何となく普通の道ではないほうに進むと周りも察していたのかもしれません(笑)。

“変な活動”とは……?

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梅原

社長に自分でアポを取って、「ビジネスとは? 商売とは?」といったビジネスのいろはを聞きに行ったりしていたんですよ。

「同じ大学を卒業した人なら会ってくれるのではないか」と思い、中央大卒の方にSNS経由で声をかけていって……。そこから、いろんな社長さんを紹介してもらいました。

すごい行動力ですね……!

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梅原

いえいえ。一通り話を聞き終わったときに、「結局、自分で動かないと何も起きないよな」と気づきました。そのときに、地域おこしの授業が始まったんです。

社長に会いに行っていたということは、もともと起業に興味があったんですか?

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梅原

ビジネスには興味を持っていましたね。中学生のとき、売り上げを伸ばす方法がクイズ形式で書いてある本を父親にもらって。たとえば、「ケチャップの売上を伸ばすには、どこ変えたらいいか?」とか。すごく面白いなと思いました。

それで調べると、その本の著者の肩書きが、経営コンサルタントだったんですよ。「世の中にはこんな職業があって、これを仕事にできるなんて面白いそうだな」と思って、その影響で大学も商学部を選びました。

なるほど。

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梅原

だけど正直、めちゃくちゃ起業したいというわけでもなかったんです。

それこそ、自分で会社を起こそうと決めたのは大学4年生の12月。自治体からの仕事がうまく形にまとまってきて、宅建にも受かった。それならそのままやっちゃったほうが良さそうだなと思い、起業の道を選んだだけなんですよね。

モチベーションは「実績作り」と「村への恩返し」

今は自治体からの依頼で空き家調査をしているということですが、これからはどういう活動をしていく予定なんですか?

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梅原

空き家は調査が完了しても、それで終わりになることはほぼありません。

引き続きデータの管理を請け負ったり、空き家バンクを使って出てきた物件を仲介に流したり。「こんなふうに空き家を使ってみませんか?」という提案も含めて、パッケージとして一貫して提供できるのが強みだと思っています。

空き家を入口に、さまざまなことができるんですね。

WORK MILL

梅原

はい。また、丹波山村の人口は530人ほど。現在、離島を除いて関東で一番人口が少ない村なんです。

つまり、空き家問題も過疎高齢化も、将来、地方自治体が抱えうる全ての問題が丹波山村ではすでに発生している。ある意味、日本の最先端を走っているのです。

なので、ここで実績を出して、これから人口が減っていく中でも、ほかの地方自治体にも横展開できるような解決策を考えていきたいと思っています。

梅原さんと同年代の新卒の人であれば、現在、上司や同僚が周りにいる環境の人も多いと思います。この1年間、ひとりで仕事に取り組まれていて不安はなかったのでしょうか?

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梅原

それが意外とひとりでやっている感覚はないんですよ。新しいことを始めるときも村内の事業者さんが手伝ってくださったり、山梨県の宅建協会さんが不動産業の師匠を付けてくださったり……。村の方に助けてもらっているので、とても恵まれた環境だと思います。

丹波山村は閉鎖的な雰囲気は全くなくて、人々がとてもオープンなんですよね。もしかしたら、昔は宿場町だったという歴史が影響しているのかもしれません。

先ほど、空き家事業は気合いが必要という話もありましたが、それでも気合いは作らないとなかなか沸き立ってこないものとも感じます。梅原さん自身、どこからその気合いが湧いていきているのでしょうか?

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梅原

大きく2つ理由があると考えています。1つは、先ほどお話ししたように、他の地域への展開を考えているので、ここでの実績づくりが大切だと考えていること。

あとは、やっぱり恩返ししたい気持ちが強いです。大学生のときから丹波山村の方には良くしていただいたので。

当時から素人の大学生が出したアイデアに対して、真剣にフィードバックを返してくれて、良いものは「良い」、悪いものは「ここが悪い」とはっきりと言っていただいて。しかも、「やってみたら?」と挑戦しやすい環境も作ってくれていたんですよね。

自分で課題を見つけて、解決することが好き

梅原さんの経営する「梅鉢不動産」のWebサイトを拝見しましたが、教育事業にも取り組まれているんですね。

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梅原

はい。自分が丹波山村に関わるきっかけになった大学の講義に、今度は教える側として携わっています。

それと、塾の講師をやっている同級生からの縁で、横浜の中学生たちが丹波山村で2泊3日を過ごすサマーキャンプもお手伝いしています。

サマーキャンプはどんなことをするのですか?

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梅原

丹波山村のことを教えるのはもちろん、生徒たちが村のためにできることをプロジェクトベースで考える取り組みも行っています。

都会で暮らす生徒たちにとっては、日本に丹波山村のような場所があると知るのは貴重な機会です。将来、起こりうる課題があるのを知ることで、日々の勉強への意識が変わるきっかけになったら嬉しいですね。

梅原さん自身の今後の目標を教えてください。

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梅原

移住者が来たいときに適切な家がない、何か事業を起こしたいときに適切な事務所がない、場所がない……。そういったことで困らなくていい村づくりをすることが直近の目標です。

村の需要に合わせて、常に適切な土地と建物を出せる状態にしておきたい。そこに時間がかかるのは非常にもったいないし、本来であれば苦労する必要がない部分だと思うんです。

その実績をもとに、他の市区町村さんの空き家問題の解消もお手伝いできたらいいのかな、と。

村がやりたいことをできるよう、橋渡し的な役割を担いたいということでしょうか?

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梅原

そうですね。あくまで僕がやるのは、必要最低限のハード面のインフラである土地、建物を整備させていただくこと。

あとはそれを用いて、いかに産業や地域を盛り上げるか。村でも、たとえばジビエ、舞茸、鮎などの特産物を扱う人たちがいるので、その部分は任せられる状況になるのが一番良いと思っています。

最後に、キャリアを選択するうえで、梅原さんが大切にしているモットーがあれば教えてください。

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梅原

課題を解決するのが好きなんです。だから、自分で課題を見つけて、考えたアイデアを実行することで解決に繋がるのであれば、それが別に大きなプロジェクトでなくても、面白がれる。

その対象が、現在は丹波山村で、空き家事業であったということだったのかなと思います。

2022年4月取材

取材・執筆=矢内あや
アイキャッチ制作=サンノ
編集=鬼頭佳代(ノオト)