計画とは、見積もりどおりにいかないもの。1年単位ではなく3カ月ごとに叶えるタイム・コーディネートとは(吉武麻子さん)

この春、新しく目標や計画を立てた方は多いのではないでしょうか。
その一方で、「やりたいことはあるのに時間が足りない」「計画を立てても挫折してしまう」といった悩みを抱えている人もいるはず。時間に追われる日々を送っていると、大切な目標も日常のせわしなさに埋もれてしまいます。
環境が変わりやすい新年度は、目標を叶えるために時間の使い方を見直す絶好のチャンス。仕事に追われる生活を経験し、独自のタイムコーディネート術を確立した吉武麻子さんに、余裕ある日々と確かな成果を両立させる時間管理術を伺いました。

吉武麻子(よしたけ・あさこ)
1981年神奈川県生まれ。中央大学文学部教育学科卒業後、26歳で韓国に語学留学。現地法人でキャスティングディレクターとして働く中、24時間365日仕事に追われる生活と結婚・出産などのライフイベントとの葛藤から独自のタイムコーディネート術を考案。現在は時間を効率よく使い目標実現するためのコンサルティングを提供。著書『目標や夢が達成できる 1年・1カ月・1週間・1日の時間術』(かんき出版)。
変化のタイミングこそ“時間の余白”を設計する
吉武さんがタイムコーディネーターとして活動するようになったきっかけを教えてください。


吉武
26歳で韓国へ語学留学した後、現地の法人でキャスティングディレクターとして働きました。そこで24時間365日、仕事に追われる生活に。ちょうど結婚が重なったのですが、この働き方では妊娠や出産、育児は難しいのではないか?と考えるようになりました。
時間の使い方を見直さざるを得ない状況に直面したんです。
仕事と子育ての両立は、多くの方が悩まれているテーマですね。


吉武
その後、ベビーマッサージ講師をしていた時期もあるのですが、そのときママたちが「5分、10分の時間すら取れない」と言っていたのが印象的でした。
大人が忙しさで余裕を失っていると、子どもにも影響が出る。だからこそ、まずは大人が「楽しく過ごせる時間設計」が必要だと感じたんです。

世間では「時間管理術」などのハウツーが多いですが、「コーディネート」という考え方がユニークですね。


吉武
時間を“管理する”というより、服やインテリアのように“調和させる”ことを意識しました。
仕事や家庭、自分のやりたいこと。いろんな時間や仕事の自分、プライベートの自分、家族といるときの自分など、それぞれの役割をバランスよく調整していく。
その結果、自分らしい日々がコーディネートできると考えています。
なるほど。


吉武
特に春は、気持ちを新たにしやすい時期。多くの人が部署異動やお子さんの入学など、生活の変化を経験します。ですが、こうした変化はルーティンを崩す原因になり、知らずしらずのうちに決断疲れを招くことも。
だからこそ、「最初から余裕を持つ」ことが大事。新しいことを始める前に、まずは「何を引き算するか」を決めてください。
週末や夏休みなどまとまった休みのタイミングで振り返る時間を設けるのもおすすめです。振り返りの習慣があると、計画の軌道修正もしやすくなります。
「余白」があることで、気持ちにもゆとりが生まれそうです。


吉武
そうですね。余白があれば、たとえ突発的な予定やトラブルが挟み込まれても、うまく対応できます。
そんな時、多くの人が「火事場の馬鹿力」で何とかしようとしますが、それは自分に鞭を打っている状態。体も心もすり減ってしまいます。無理せず「平坦に走る」ことを意識したほうが、パフォーマンスも持続性も上がりますよ。
1年は長すぎる? 3カ月単位で叶える目標術
年間目標を立てる際に気をつけるべきポイントはありますか?


吉武
新年度などに1年の目標を立てる人は多いと思いますが、実際に1年経って目標を覚えている人の方が少ないですよね。
確かに……。


吉武
1年って、距離がありすぎて心が折れやすくなる期間でもあるんです。
だから私は、3カ月ごとにテーマを分けるやり方をおすすめしています。その方が具体的に取り組めますし、「今はこれに集中すればいい」と迷いも減るんです。
テーマごとに分けるとは、具体的にはどういうことでしょう?


吉武
たとえば「英語力を上げたい」という目標があるとします。最初の3カ月はリスニング、次はスピーキング、といった具合に段階を踏んでいくんです。
年間の目標を4つに分けることで、中間ゴールも見えて、達成感が得やすくなりますよ。


吉武
そして、もうひとつ大事なのは「やること」だけでなく、「やらないこと」も決めること。
なんでもバランスよくこなそうとすると、かえって全部が中途半端になりがちです。やらないことをあえて明確にして、やるべきことに集中する。
この“引き算の発想”が、結果的に大きな成果につながるんです。
「やること」だけでなく「やらないこと」も決めないと、増える一方ということですね。


吉武
そうです。また、「今、どれくらい余白の時間を持てているか」がわかっていると、新しい仕事や依頼を受けられるかどうかも判断しやすくなります。
責任感がある人ほど何でも引き受けてしまいがちですが、それで締切に遅れたら本末転倒ですよね。自分のキャパシティを正しく把握することが、信頼にもつながるんです。

忙しくても続く、習慣化のための小さな工夫
では、そうした3カ月の目標を達成するためにも、日々の時間の過ごし方はどうすればいいでしょうか? 進捗を確認することも重要ですよね。


吉武
第一歩として、「振り返りの時間」をスケジュールに組み込みましょう。
予定がない空き時間に、自分と向き合う時間をあらかじめ入れておくんです。
たとえば、週末や休日に「自分の仕事を整える時間」として確保しておくと、気持ちのリセットにもなります。
どのくらいの時間が最適ですか?


吉武
30分くらいでOKです。そのタイミングで、1週間の振り返りを行うのです。
ちなみに、毎日の振り返りも大切。これは1日10分で大丈夫です。
その日やり残したことを確認し、翌日にまわすタスクを整理する。夜に軽く振り返るだけでも、翌朝のスタートがスムーズになりますよ。
タスクが増えすぎたとき、整理のコツはありますか?


吉武
まず、期限があるものから組み込むこと。そして、相手の締切よりも少し前に、自分用の締切を設定しておくと安心です。
タスクを書き出したら、なるべく後回しにせず、ルールを決めて取り組むのがポイントです。時間に流されるのではなく、「終わる時間」を決めることが集中力にもつながります。
忙しい時期だと、どうしてもタスクに追われがちになることもあって……。


吉武
繁忙期はある程度割り切ることも大切です。「今は仕方ない」と認めつつ、作業量を把握したり、同僚がいるならチームで分担したり、環境を整える工夫をしましょう。
何より大事なのは、自分がベストパフォーマンスを出せる環境づくりです。
計画通りにいかなくてもOK。立て直しのコツとご褒美ルール
わかってはいても、計画どおりに進まないことって多いですよね。そんなときの立て直し方はありますか?


吉武
まず大前提として、「できた/できない」で一喜一憂するのではなく、「見積もりどおりにいくことはほとんどない」という前提でいることが大切です。うまくいかなかったら修正すればいいんです。
わかっていても、できなかったことに落ち込みでそうです……。


吉武
わかります。だからこそ、次はうまくいくために淡々と調整する。できなかったことより、「できたこと」をちゃんと見つけて、達成感を積み重ねていくといいですよ。
最初から見積もりを信じすぎず、まずはできたことにフォーカスしていくんですね。


吉武
そうです。習慣化のコツは、“一気にやろうとしない”こと。まずは1つだけ始めて、定着したら次を足していくくらいのステップでいいんです。
先延ばし癖がある人は、「リスケは3回まで」と回数のルールを決めるのも効果的。それを超えたら、自分にちょっとしたペナルティを課す。
逆に、続けられたらご褒美として「甘いものを食べる」とか「推し活の時間をつくる」といった、自分がワクワクする仕組みを用意しておくと続けやすくなりますよ。

“本当にやりたいこと”を見つける時間設計
目標を立てるときは、「やりたいこと」を軸にすればいいのでしょうか?


吉武
一見やりたいことのように思えても、実は周囲に流されているだけだったり、自分の本音じゃなかったりすることもあるんです。だから、まずは1年後の自分をリアルに想像してみてください。
リアルに想像、ですか?


吉武
はい。どんな服を着て、どんな場所で、誰といて、どんな表情をしているのか。映像のように思い浮かべて、心がワクワクするかどうかを想像してください。
もしワクワクしなければ、それは望んでいない夢を自分に当てはめているだけかもしれません。

なるほど、自分の「ワクワク」を軸にするんですね。


吉武
そうです。自分が心からやりたいと思えることに取り組んだ方が、成果も出やすいですし、クオリティも高くなります。
逆に、自分がやらなくてもいいことは、他の人に任せる勇気も必要です。
もし「ワクワクする未来」が思い描けないときは?


2025年4月取材
取材・執筆=ミノシマタカコ
撮影=吉田一之
編集=桒田萌/ノオト