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有楽町にイノベーションの結節点が誕生! 東京都が国内最大級のスタートアップ支援拠点「Tokyo Innovation Base」をつくったワケ

2024年5月、東京・有楽町駅の目の前に、スタートアップ支援拠点としては国内最大級のフロア面積を誇る「Tokyo Innovation Base(以下、TIB)」がグランドオープンしました。

スタートアップと支援者が集い交流する場として、イベントの開催や、起業や製品開発の支援などスタートアップの成長を手厚くサポートするスポットです。アプリに登録すれば誰でも無料で利用できるところも特徴。

「知識、技術、アイデアが交わり、新たな価値や発見が生まれる場所を目指しています」と話すのは、TIBを管理運営する東京都スタートアップ・国際金融都市戦略室の西川知伸さん。どのような場なのか、詳しく伺いました。

東京に点在するエコシステムを繋ぐ。創業期のスタートアップの支えとなる存在に

まずは、TIBが誕生した背景から教えてください。

西川

東京には、多くのスタートアップエコシステムが点在しています。エコシステムとは、スタートアップを支援するための総合的な環境のことです。

具体的には、スタートアップを支援するベンチャーキャピタル、金融機関、アクセラレーター(経営面を支える組織・人)、自治体、大学、企業などが一体となってスタートアップを多方面から支援する仕組みを指します。

確かに、東京で「スタートアップといえばここ」と一つに絞るのは難しい印象です。

西川

はい、渋谷はIT系、本郷は東京大学を中心としたAI系、その他にも六本木、虎ノ門、日本橋、五反田など多くのエコシステムが存在します。

しかし、それぞれのエコシステムは独立して存在するため、そのエリア内での支援に限られてしまうという問題がありました。

また、かねてより外国の投資家などから「東京のエコシステムが分かりにくい」と指摘を受けていました。

確かに、日本でスタートアップに会いたくてもどこへいけばいいか迷いますね。

西川

そこで、東京都は

中立的な立場で、点在するエコシステムを繋げてスタートアップを支援する幅を広げること
・「ここにくれば東京のスタートアップや支援者と会える」という場所を設けること

という2点の実現を目指して、TIBの設立に至りました。

なるほど。つまりTIBはスタートアップ支援の輪が広がる場であり、海外投資家などにとっての玄関口でもあるわけですね。

設立から間もないスタートアップにとっては心強い気がします。

西川

おっしゃるとおりで、民間の手が届きにくいステージにいるスタートアップにもTIBを積極的に利用してもらいたいと考えています。

一般的にスタートアップの成長段階には、
「プレシード(起業準備段階)」
「シード(会社設立前、設立直後)」
「アーリー(発展途上期)」
「ミドル(成長期)」
「レイター(上場手前)」
のステージがあると言われています。

東京都スタートアップ・国際金融都市戦略室の西川知伸さん

西川

ミドルやレイターに突入すると、民間の投資家が積極的に投資を行いますが、プレシードやシードは、資金が流れにくいのが現状です。

行政がエコシステムに介入する意義は、初期ステージのスタートアップを支援することにもあると考えています。

でも、行政がスタートアップをここまで支援するって、あまり聞いたことがなかった気がするのですが……。

西川

確かに、少し前まで行政が積極的に支援する領域ではなかったと思います。風向きが変わったのは、2022年11月に政府の「スタートアップ育成5か年計画」策定以降かもしれません。

同時期に東京都もスタートアップ戦略「Global Innovation with STARTUPS」を策定しました。

どちらにも共通しているのは、革新的なアイデアを生み出すスタートアップを支援し、その数を増やすことで日本や東京の経済成長につなげていくという考え方です。

TIBのスタッフは、名刺のように、スマホでビジネス関連情報を交換できるプレーリーカードを携帯。仕事で使うツールも、スタートアップの世界観に合わせている。

西川

東京都は戦略の中で「未来を切り拓く10x10x10のイノベーションビジョン」を目標に掲げています。

具体的には、2027年までに
・10億ドル以上の評価額のある東京発のユニコーン企業数10倍
・東京の起業数10倍
・東京都とスタートアップとの協働実践数10倍
を目指すというものです。

かなり高い目標ではありますが、TIBを中心に達成に向けて取り組んでいます。

大型ビジョンからSHOPまで。スタートアップの未来を創る、多彩なサービス

具体的にTIBはどのようなことができる場所なのでしょうか?

西川

特徴的なものをご紹介しますと、まずはイベント開催です。

西川

世界のスタートアップイベントでは、TEDスタイルのプレゼンテーションピッチが一般的です。

TIBは日本のスタートアップが世界と肩を並べることを目指しているので、そのために必要な環境整備として大型ビジョンを設置しました。

こんなに大きなビジョンを見かけることって、ほとんどないですね。

このビジョンの前に立って、いかにインパクトあるピッチができるかがスタートアップにとっては大事になるわけですね。

西川

そうですね。ピッチは投資家の目に留まるためにも重要な機会です。起業家の表現力や熱量、スライドの工夫などいろいろなことが試されます。

TIBでは毎月1回、公式ピッチイベント「TIB PITCH」を開催しており、毎回大いに盛り上がっています。

西川

次に、「SALON」と呼んでいる交流スペース。大小さまざまなミーティングスペースを用意しており、コミュニティ形成の場として活用してもらうことを想定しています。

インテリアがポップ&カラフルで素敵ですね!

西川

そうですね。

また、フロア全体は区切らず、オープンでフラットな空間にしました。集中して仕事をしたいとき向けに、個人用のブースも用意しています。

ビジョンがあるフロアでイベントをしたあとに、このSALONに集まってネットワーキングをしていただくような使い方も想定しています。

西川

あと、ユニークなポイントとしては、ものづくりスタートアップの実証フィールド「FAB」です。

「FAB」は、3Dプリンターやレーザーカッターなど、約2000点の機材を使える場所です。

製品を試作するにあたり、技術スタッフによる機材の利用サポートや、量産化に向けたアドバイスを受けることができます。

西川

もう一つ、テストマーケティングのための「SHOP」。その名の通り商品を販売する場なのですが、一般消費者向けのプロダクトや食品を試験的に一定期間販売できるスペースです。専門家による出店サポートやアドバイスを受けることもできます。

その他にも、起業に必要な行政手続をワンストップでサポートする窓口や、日本進出を目指す外国企業向けのコンシェルジュサービス、ビジネスプラン策定から資金調達まで伴走型で支援するプログラムなど、幅広くスタートアップを支援しています。

すべての人にチャンスを。TIBがハブとなり、可能性を無限に広げたい

個人的には「SHOP」が気になりました! 有楽町駅チカの一等地で、実際に製品を販売できる機会はレアですよね。

西川

そう思います。1〜2カ月程度の期間ではあるのですが、テナント料は無料ですし、「SHOP」の運営事業者のサポートを受けることもできます。

スタートアップにとっては、大きな価値があると思います。

スタートアップエコシステムの結節点であり、スタートアップを支援する仕組みも充実していることがよく分かりました。

実際にどのような人たちがTIBを利用できるのでしょうか?

西川

基本的には、スタートアップやその支援者を対象としています。

ただ、興味を持った人に気軽に訪れていただきたいという考え方のもと、入場に年齢や職業の制限は設けていません。

西川

スタートアップに関心を持っている学生もよく利用されています。いまや大学生だけでなく、高校生や中学生も起業に関心を持つ時代です。若い世代からアントレプレナーシップ(起業家精神)を養うことが重要で、そのためのイベントも開催しています。

なんだか希望を感じます!

若者がスタートアップエコシステムとの出会いを経て、すごいイノベーションが起きるかもしれませんよね。

西川

それを期待したいです。TIBで出会った人とディスカッションしたことで新しいビジネスプランを思い付いたとか、そんな可能性が一つでも増えればいいなと思っています。

スタートアップと組んだ新規事業開発やイノベーションに取り組みたいと考えている大企業の担当者の方にも、ぜひ利用していただきたいです。

東京と地方をつなぐ機会も創出。イベントで生み出す新たなビジネスネットワーク

グランドオープンからまだ間もないのですが、手ごたえはいかがですか?

西川

2023年11月のプレオープン以降、ほぼ毎日のように何かしらのイベントを開催し、すでに140回を超えました。

大型ビジョンを活用したピッチをはじめ、ビジネスアイデアの壁打ち会から、起業家養成プログラムなど種類は多岐にわたります。

たくさんの方に関心を持っていただいていると感じています。

西川さんの印象に残っているイベントはありますか?

西川

福井県が開催した、地元のスタートアップによるピッチイベントです。

イベントには、投資家をはじめ東京で活動するスタートアップ支援者が数多く参加しており、東京と地方に新たなネットワークが生まれる可能性を感じました。

実際は、日本のスタートアップの多くが東京に集まっています。しかし、東京だけではなく地方にも優れたアイデアやイノベーティブな製品を生み出しているスタートアップは存在します。

TIBがハブとなり、日本全体のスタートアップを活性化できればと思っています。

もしかしたら、TIBをきっかけに「未来のスティーブ・ジョブズ」が世界に羽ばたくかもしれませんね。

TIBがどんな存在感を発揮するスポットになるのか。これからに期待大です!

西川

結節点であるTIBは様々な人と出会い、可能性を広げる場です。

どなたでも利用できる施設ですので、まずは一度足を運んでいただきたいなと思っています。

ありがとうございました!

2024年5月取材


取材・執筆=末吉陽子
撮影=小野奈那子
編集=鬼頭佳代(ノオト)