“生きる力”を育む新しい学びのカタチ「探究学習」-茨城県立並木中等教育学校5人の挑戦-(特別レポート)
WORK MILL:「探究学習」に取り組んでみて、自分の意識と行動、他人に対する態度などに変化はありましたか。
護守:うすうす気付いてはいたんですけど、他の人は自分と違うすごい考えを持っていることがわかりました。これから、他の授業でも、積極的に人の意見を聴こうと思いました。僕は、基本的に「知らないことを知りたい」という欲求が強いので。
網野:私は、無意識に、「問い」と「答え」を探すようになりました。もともとは流れに身を任せるタイプだったんですけど、「コーポレートアクセス」に参加して意識が変わりました。無意識に、狭く、深く、一つひとつの言葉や出来事に向き合うようになりました。
野村:変化は大きく二つありました。一つ目は、自分の考えは正しいのか、本当にそれでいいのか、ということを立ち止まって考えるようになったことです。自分の意見だけでは不十分なこともあるので、時には妥協したり、客観的に捉えることも必要であることを学びました。二つ目は自分の意見の伝え方を意識するようになったことです。我が強い方なので、自分の意見を通すために、他の人の意見をなぎ払っていっちゃうと、グループで作業する意義がなくなってしまうので、みんなの意見を取り入れつつ、自分の意見も認めてもらえるように話すにはどうしたらいいか、「優しい伝え方」というものを考えるようになりました。
松下:人の話をきちんと聴くようになりました。幼稚園の頃からずっと言われてきましたけど、人の話を聴くって、簡単そうに見えて、すごく難しい。相手の話を聴いて、理解して行動に移すということまでできてようやく「人の話を聴いている」と言える状態なんじゃないかと思って。この部分が成長できたと思います。
中川:一番変わったのは、自分の意見をしっかり提案できるようになったことです。今までは、「クラスで決めよう」というシーンでも、「いいね」って眺めている感じだったんですけど、「こっちの意見もどう?」って提案ができるようになりました。あと、一番の変化は、身の回りにあるオカムラの製品に気付くようになったことです(笑)
野村:イスを見たら「オカムラかな」って見るようになったりね。
WORK MILL:「探究学習」は、自分の人生に必要な学問だと思いますか。
護守:必要だと思います。普段の授業って、教科書を使って、短い時間で、一つの答えにたどり着くことを求められるようなものが多いような気がします。例えば数学とかはその典型ではないかと思います。だけど、「探究学習」は、長い時間を使って、みんなで意見を交わしながら、必ずしも一つではない答えに向かって、共に考え続ける。人生で、そういう時間ってすごく重要なんじゃないかって思いました。
網野:私はこれまで「広く」「浅く」という考え方をしてきたんですが、「探究学習」で、何かを突き詰めて考えるという経験をしたことによって、考え方に「狭く」「深く」という選択肢が増えました。このことは、今後の人生に大きな影響を与えていく気がします。
野村:必要だと思います。その理由は、例えば、今回の学習の過程で、普段自分では絶対に選ばないような本を借りたりしました。「優しい伝え方」を実践するために、ビジネス本を借りてみたり。こうやって一つのことを突き詰めていく過程で、いろんな知識を得ていく感覚がすごく楽しかったし、自分の人生に必要な時間なんだなって思いました。
松下:人生に必要な学び方だと思いました。私は、考えることが苦手で嫌いだったけど、「探究学習」って、嫌でも考えないといけない場面が多くて。それがすごくよかったと思います。
中川:僕も、自分の人生に必要な学問だと思います。考えを深めることができたり、考えることによって、自分のベストの考え方にたどり着けたこともよかったです。普段の生活で、考えたことを応用できる場面もあったりして、人生が豊かになりました。
WORK MILL:会社や社会人とかかわってみて、どう感じましたか。
野村:敬語の使い方とか、とっさに質問を振られた時のアドリブ力とか、経験から滲み出る説得力も段違いで、これが「人生経験の差」なのかな、と思いました。
網野:質問をした時に、「こうしたらいいんじゃない?」ってすぐ反応して下さって、そのスピードに感動しました。先生とは違う社会人だなって。格の違いを感じました。
護守:社会人の立ち居振る舞いの一つひとつがすごいな、って思いました。例えば話しながらパソコンに記録をしていたり、ちょっとしたアドバイスで、僕たちのプレゼンテーションの質を上げて下さったり、単純に、すごいなと思いました。
WORK MILL:ナビゲーターの河田のサポートはいかがでしたか。
護守:言葉にならないです。発表の原案へのご指導をはじめ、いろいろと本当にありがとうございました。
網野:河田さんがいなかったら、私たちの案は、通らなかったです!
野村:中間発表の時から、いつも笑顔でアドバイスをして下さり、私たちの心のサポーターそのものでした。
松下:私たちが考えているけど言語化できないことにアドバイスをいただき、感謝しかありません。
中川:いつも僕たちの意見を受け入れて下さり、安心できました。
さて、この訪問には、仕掛けがありました。河田は、生徒の集まっていた会議室の隣に潜みつつ、名古屋からリモートで取材に参加しているフリをしていたのです。
最後は、生徒と、感動のご対面!
学校の廊下に、歓喜の声が大きく響き渡りました。
提案をつくるときから、オンラインでの学校訪問でチームにずっと寄り添い、成長を見守ってきた河田。クエストカップの集大成となるプレゼンテーションの際、5人が見せた自信に満ちた姿に感激の涙を流していました。
「今日は初めて皆さんに実際にお会いできて、とてもうれしいです。一年間、一緒に学ぶことができてとても楽しかったです。また会える日を楽しみにしています。」と語りかけました。
他社の熱量や、いかに?
最後に、「他社の熱量や、いかに?」という疑問を解消すべく、Cueと同じ愛知県で、2018年から「コーポレートアクセス」に参画している、株式会社メニコン(以下「メニコン」)において、河田と同じくナビゲーターを務めたことのある、国内マーケティング戦略室・学術教育研修部・チームリーダーの間野愛也さんに、このプログラムの醍醐味を伺いました。
WORK MILL:メニコンが、このプログラムに参画するようになった経緯を教えてください。
間野:僕自身は、当時の上司からの推薦を受け、初年度(2018年)からプロジェクトメンバーとして参画しました。初年度はプロジェクトメンバー全員が手探り状態での活動だったのですが、その中で、自分自身のモノの見方や考え方の大きな変化が現れたことを実感したんです。
この時、「社内の人材育成にこのプログラムを活用したい、特に販売店のスタッフに届けたい!」という想いが生まれました。
弊社の社員が学校を訪問し、生徒に寄り添い、彼らの「学び」を支援する。生徒の先入観のない自由な発想や、独創的なアイデアに触れ、生徒たちの考える力、発信する力の飛躍的な向上を目の当たりにしていると、寄り添っている側の社員が刺激を受けることも多いんです。
メニコンでは、商品やサービスを直接エンドユーザーへ届ける「直営販売店」を展開しています。その直営販売店の多くは、5名程度のスタッフで運営する比較的小さなチームです。チームとしての成果が求められ、外部との接点が少ないこの環境では、「自分が社会人としてどれくらいのスキルがあるのか」とか「自分のキャリアプランが描けない」といった悩みを抱えているスタッフが少なくありません。
そこで、「コーポレートアクセス」の1年間のプロセスを、個々のファシリテーションスキルや、コーチングスキルを磨く絶好の機会と捉え、人材育成のための研修として活用しています。
それも、ただ学校に行って「よい体験ができました」という感想だけではなく、「コーポレートアクセス」という一つのプログラムで得た体験を言語化することが真の狙いです。
現在の僕の役割は、事前研修や、メンターとの面談のコーディネートなど、このプログラムが効果的に実施されるよう包括的な支援を行うことです。
このプログラムでは、企業と生徒が、お互いの想いをぶつけ合う過程で、それぞれの常識が常識でなくなる瞬間があります。この瞬間こそが、まさに「共創」そのもので、イノベーションが始まる瞬間であり、企業と生徒が自由な発想をぶつけ合う中で湧き上がるアイデアや気付きこそが、このプログラムの真価だと感じています。
これからの学びの鍵である「探究学習」。
情報化やグローバル化といった加速度的に進展する社会的な変化に対峙していくような、たくましく未来を生きる子供たちを育成することは、学校教育だけではなく、企業における人材育成の現場にも求められていることなのではないでしょうか。
2023年6月取材
テキスト:豊田 麻衣子
写真:中村 年孝