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“生きる力”を育む新しい学びのカタチ「探究学習」-茨城県立並木中等教育学校5人の挑戦-(特別レポート)


近年、どのような未来を創っていくのか、どのように社会や人生をよりよいものにしていくのかという問いを自ら考え、自らの可能性を発揮し、よりよい社会と幸福な人生の創り手となる力を身に付けられるようにする、「探究学習」に注目が集まっています。 

「探究学習」とは、“生きる力”を育む、新しい学びのカタチです。

その「探究学習」に魅了され、ナビゲーターとして全国各地を駆け巡っているのが、WORK MILLの運営する共創空間・Open Innovation Biotope “Cue”のコミュニティマネージャーである河田佳美です。

今回は、株式会社教育と探求社(以下「教育と探求社」)の提供する「コーポレートアクセス」というプログラムに迫るとともに、同社が主催する、クエストカップ2023全国大会 企業探究部門「コーポレートアクセス」オカムラ企業賞を獲得した、茨城県立並木中等教育学校の生徒たち(チーム名「KONOHA=MU」)に突撃し、取り組みの成果と、彼らの成長の裏側に迫ります!


クエストカップ2023全国大会 企業探究部門「コーポレートアクセス」オカムラ企業賞を獲得した「KONOHA=MU」のメンバー

「探究学習」とは何なのか

はじめに、教育と探求社 エリア企画部 マネージャーの羽生真理子さんに、「探究学習」に関する基本的な考え方や、プログラムの概要について尋ねました。

教育と探求社 エリア企画部 マネージャー 羽生真理子さん

WORK MILL:教育と探求社の考える「“探求”学習」とはどのようなものですか。

羽生:弊社の考える“探求”とは、第一に、生徒たちが仲間と共に答えのない問いに向き合い、「自分はこんなことを考えていたのか」「こんな考えが生まれるのか」と、自他の可能性の大きさに気付くこと。第二に、生徒たちが話し合いの過程で「誰も答えを持っていないこと」を自覚し、「自分たちで答えを創り出そうとしていく」こと。第三に、生徒たちが「本質にたどり着きたい!」という内なる衝動に向き合うことにあります。

社長の宮地は、これら一連の出来事を「野性味」と表現することがありますが、一人ひとりが本能的に探し求める力をもっと解放したいという想いから、あえて“探求”という文字を使用しています。

弊社では、この“探求”について、生徒が何を伝えるのか(プレゼンの質)、生徒が何をつくるのか(企画の質)ではなく、生徒に何が残るのか(気付き・学びの質)ということを最も重視しています。そのために、ただ活動をして終わるのではなく、授業を通して、一人でも多くの生徒に、より豊かな気付きや学びが得られるよう、「学びのデザイン」を“探求”してきました。その「学びのデザイン」の一つが「クエストエデュケーション」です。

「クエストエデュケーション」は、2005年にスタートした、現実社会と連動しながら「生きる力」を育む教育プログラムです。生徒たちは、教室の中にいながら、現実社会につながるテーマに取り組む過程において、自ら感じ、考え、表現して、自分でも驚くような力を発揮していきます。

その「クエストエデュケーション」の中で、実在する企業へのインターンを教室で体験し、働くことの意義や経済活動を学び、企業という仕組みを活用して、自分たちの手で未来をつくることを学ぶプログラムが、オカムラ様にも参画いただいている企業探究コース「コーポレートアクセス」です。

WORK MILL:羽生さんが、この仕事に関わる意義は何ですか。

羽生:私がこの仕事で目指していることは、「クエストエデュケーション」を機会として「学校が変わる」ことです。一人の生徒が変わる、生徒の変化を見た先生が変わる、クラス全体の生徒が変わる。私はいつも「その渦をどうやって起こすか」を常に考えています。どうせなら生徒がワクワクして、気づいたらハマっていたという流れのほうがいいと思っていますので、ストーリーづくりには、特に気を配っています。

答えのない問いに向き合うことは、不安ばかりではなく、可能性に満ち溢れていると教えてくれるのが、ずばり“探求”なんです。この学びを知っている生徒と大人と未来について語り合い、次世代がワクワクできる未来を残すため行動し続けるこの仕事は、私の使命だと思っています。


舞台は茨城県立並木中等教育学校へ!生徒の成長に迫ります。

さて、次に河田が向かったのは、2020年度から「コーポレートアクセス」を導入している茨城県立並木中等教育学校です。クエストカップ2023全国大会 企業探究部門「コーポレートアクセス」オカムラ企業賞を獲得した、「KONOHA=MU」の5名の生徒とともに、この1年間の意識や行動の変化を振り返りました。

左から、野村 明穂さん、松下 奈央さん、網野 清音さん、護守 隼人さん(リーダー)、中川 航さん

WORK MILL:「コーポレートアクセス」に参加する前、このプログラム自体にどのようなイメージをもっていましたか?

護守:企業に自分の声が届くのは、本当にすごいことだと思いました。その分「すごいものを提案しなければ」というプレッシャーがありました。

野村:わかります。「インターン」という単語のハードルがとても高くて、中学生の私がやっていいものなんだろうかと思いました。でも、先生から、過去の先輩の取り組みを映像などで見せてもらって、「こんなにすごい体験をさせてもらえるんだ」と、わくわくもしていました。

網野:私は、最初に見せてもらった「コーポレートアクセス」に関する映像のクオリティがすごくて…自分もこうなれるとは全く思えなかったです。最後にそこまでいけるんだろうかって。

中川:「インターン」という制度に驚いたのもあるんですが、自分達の意見を本当に提案できるのか、実現できるのかなって思っていたので、初めは現実的なものでなければだめなんじゃないかという考えに捉われたりしていたんですけど、みんなとの議論を通して「自分がいいと思ったものを提案すればいいんだ」という考えに変わってきました。

松下:「難しそうだな」というイメージがあったんですけど、先生から「グループワークだよ」って言われた瞬間に救われました。グループワークなら「みんなで意見をたくさん出して、楽しそうだな」って。いろんな視点から物事を見るって、すごく大切だと思うので。個人での取り組みだったら、ちょっとくじけていたかもしれないです。

網野:自分だけで考えてしまうと、「私は」って、主観的で閉鎖的な視点でしか物事を考えられないように感じます。それって結局、最後に得をするのは「自分だけ」になってしまう。客観的で冷静にアイデアを出すことができるのは、グループワークならではだと思います。

WORK MILL:実際に「オカムラ」からの「ミッション」を見て、どう感じましたか。

株式会社オカムラの「ミッション」

護守:空間を作るっていうのが、自由度が高くて、さらに自分の好きなジャンルだったので、面白そうなミッションだと思いました。もともと、自分で作ったものを見たり眺めたりするのが好きなんです。その瞬間でしか表現できない輝きであったり、波動であったり、そういったものを見たり感じたりするのが好きだから。

網野:ちょっと質問からそれてしまうんですが、護守くんは、先生との橋渡しになってくれて、すごく助かりました。「コーポレートアクセス」は、基本的に授業中しか作業できないんですけど、護守くんは、その合間合間に私たちの疑問や迷いを解消してきてくれるんです。

護守:疑問は早めに解決したいんです。自分の疑問であっても、他人の疑問であっても。

野村:みんなの意見を調整して、まとめるのが得意だよね。

中川:護守くんは、いつも先頭に立って行動してくれるところが、すごかったです。先生と意見が対立した時も、チーム内で意見が分かれてしまった時も、うまく調整してくれたり。

護守:いつも、自分が持っている手段で、最高のものを生み出したいと思っているからかもしれません。ところで、学習を進めていく過程で、みんなが自分たちのやりたいことばかり提案に盛り込んでいた時があって、先生はそれを指摘してくれたんですけど、全員引かずに、食い下がったこともあって。

網野:5人の我が強かったです。まさに、全員が、主観の塊。引き下がらない。

野村:グループでやる課題だから、「私たちで作りたい」という想いが強かったのかも。

WORK MILL:「ミッション」に対して、どう取り組んでいきましたか。

護守:基本的に家で各自が自分の考えをまとめて、学校でみんなで意見をまとめるというやり方を繰り返しました。

野村:そうすると、次第にそれぞれに役割が出来て。私はアイデアを出しまくる係とか。

網野:そうそう。野村さんのアイデアは斬新なんだけど、不思議な納得感があった。

野村:変化球を投げて、相手を驚かせるのが好きなんです。

護守:野村さんのアイデアは、すごく練られて考えられたアイデアだっていうのがわかります。

野村:それにしても、この5人って、クラスも違うし、「コーポレートアクセス」がなかったら、話したりすることもなかったよね。一緒に活動ができて、よかった。

松下:私は、指摘をする係。みんなの意見に「ほんとかな」って突っ込みを入れる感じ。

中川:僕は、技術係。3Dプリンタで模型を作ろうとしたりしました。

網野:私は、絵を描く係。みんなの言語をイラスト化していました。

WORK MILL:意見が食い違った時は、どう切り抜けてきましたか。

野村:先生の意見を取り入れるか、私たちの意見だけでいくかということで、思いっきり揉めたことがありました。

網野:私は、先生の意見を取り入れたかったんですけど。最終的には、私たちだけの意見でいくことに決めました。先生も最後は認めてくれたというか。時間切れというか…(笑)

護守:意見が食い違った時は、基本的に折衷案を作る方針で行きたかったんですけど、実際には偏ったところもありました。

網野:最後の方はちょっとやけくそになったり(笑)

野村:とにかくお互いの意見を伝え合うことを優先して。みんなの意見を理解してもなお対立するんだったら、誰かが引くしかないよね、って。でも、無理やり引く必要はないよね、って。

網野:みんなが、メリット・デメリットをすごく主張していた記憶があります。

松下:とにかく意見を聴いて聴いて。納得するまで意見を聴くようにしました。

野村:最後の答えは、全員で納得して決めました。