持続可能な観光は日本の資源を再評価する ― 一般社団法人JARTA代表理事 高山傑
この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE07 EDOlogy Thinking 江戸×令和の『持続可能な働き方』」(2022/06)からの転載です。
「ブームの観光」ではなく「ルーツの観光」に。地域が主体となること、サステナブルツーリズムの可能性とは。
日本にはいま、サステナブルツーリズムの追い風が吹いている。「旅行者や産業、環境そして地域コミュニティのニーズを満たしつつ、現在と将来の経済・社会・環境への影響を十分に考慮した観光」を意味するこのサステナブルツーリズムの考え方は、これまで欧米の観光客を中心に広まってきた。
しかし、特に若者の間でSDGsへの意識が高まったこと、そしてコロナ禍を経て「訪問先に配慮する」という機運が高まったこともあり、国内でも徐々に広まりつつあるのだ。そうした意識の高い観光客を迎え、地域のためになる質の高い観光を実現する方向に舵を切っている地域は多い。
このサステナブルツーリズムの国際認証団体のひとつが、グリーン・デスティネーションズ。グローバルサステナブルツーリズム協議会(GSTC)が作成した国際指標をもとに、「マネジメント」「経済的サステナビリティ」「文化的サステナビリティ」「環境的サステナビリティ」の4つの柱で100項目の評価指標を策定している。なかでも重視されているのはマネジメントの部分。観光客のための地域ではなく地域のための観光となるには、地元の人の声を吸い上げマネジメントすることが大切になるからだ。例えば地元で祭られている場所がアドベンチャーツーリズムの対象にならないように、あるいは外来種が入ってきて自然が脅かされることがないように、コミュニティの配慮が結局は観光地のサステナビリティにつながる。
よく「認証を取ったら観光客が来るのか」という質問を受けるが、認証は取り組みを可視化するためのツールにすぎない。人間ドックに入って自分の健康状態を知り、将来の病気を予防するのと同じで、認証も現状を把握し、オーバーツーリズムを防いだり、観光のひずみが出そうなところを知ったりすることに意味がある。「サステナブルツーリズムはジャーニー(旅)だ」とよく言っているが常に改善の余地はあり、認証を取ることが目的になってはならない。
サステナブルツーリズムは、日本の観光資源を再評価することにつながる。日本を含むアジアでは、文化と自然は切り離せないものだ。信仰の対象として自然が存在し、それが地元のコミュニティを形成している。例えば富士山を考えると、現在は到着するなり登頂してご来光の写真を撮り、すぐに下山する人が多い。しかし、地域の信仰に配慮するサステナブルツーリズムの観点を取り入れれば、宿場町に泊まり、麓でお参りをしてから信仰の対象として登るという、自然と文化の価値を高めるような観光を打ち出すこともできるだろう。
日本は観光資源を安売りしてしまいがちだ。説明不足だったり、それゆえに観光客のマナー違反が問題になったりすることも多い。しかし、大切なのは「ブームの観光」を追うのではなく、「ルーツの観光」に目を向けることだ。地域の人たちの声に耳を傾けて観光振興をしたり、サステナビリティを取り入れた観光戦略を立てたりできれば、よりよい日本のためになるだろう。
ー高山傑( たかやま・まさる )
カリフォルニア州立⼤卒。アジア太平洋21カ国のエコツーリズムネットワーク(AEN)理事長として活動するほか、訪日外国人向けのエコラグジュアリーツアーを日本各地で開催。グリーン・デスティネーションズ審査員。
2022年5月取材
テキスト:川鍋明日香