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サステナブルファイナンスに必要な「目利き力」- PwCサステナビリティ合同会社執行役員 安間匡明

この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE07 EDOlogy Thinking 江戸×令和の『持続可能な働き方』」(2022/06)からの転載です。

「インパクト投資」から、日本の社会課題解決を後押しする「イノベーションファイナンス」へ。社会を変えるファイナンスのあり方とは?

サステナブルファイナンスは、世界全体の投融資の3割ほどを占める。最近ではESGを勘案した投資だけでなく、社会課題の解決度合いを計測するインパクト投資にも注目が集まる。GSIA(世界の主要なサステナブルファイナンスの調査団体で構成される連携組織)によれば、2020年のサステナブル投資の規模は世界全体で35.3兆ドルだ。GIIN(インパクト投資の活性化を目的としたグローバルな投資家ネットワーク)による年次インパクト投資家調査によると、インパ
クト投資は7,150億ドルにとどまるものの、ここ数年で急増している。

国別では、社会課題への問題意識が高く環境問題などの取り組みをリードする先進国への投資が多い。一方日本は、他国に比べれば依然として社会課題を解決する新しい技術やビジネスモデルに乏しく、これらへのリスクマネーの供給も課題だ。サステナビリティの実現にはイノベーションが不可欠であり、環境・社会課題解決型のスタートアップ企業の成長がもっと必要となる。ところが日本でのIPO社数は年間100件前後にすぎず、多くの場合、事業のグローバル展開もできていない。

日本でも個別に見れば、利益の追求と社会課題の解決を同時に目指す、素晴らしいスタートアップが生まれ始めている。例えば、保育士や介護士、教員など公益性の高い仕事に就く人々の労働環境の改善に取り組む企業だ。日本の未来を考える上で重要な事業である。

こうしたサステナブルな社会を実現する事業を増やすには、スタートアップへ投資するベンチャーキャピタルや金融機関の「目利き力」、そして経営者のビジネスプラン構築力と説明力など、両者の能力向上が不可欠となる。これらには専門性の高いスキルが求められるが、日本は総じてゼネラリストが圧倒的に多く秀でた専門性の高い人材が相対的に少ない。博士号取得者が年々減少傾向にあるのも悩ましい。対してアメリカはPh.D.取得者が多く、優秀な人ほど起業し、世の中を良くしようとするパブリックマインドとビジネスマインドもともに強い。ゆえに、リスクマネーが多く流れやすくなるのだ。専門性へのリスペクトが強い風潮はイノベーションにつながり、サステナビリティの推進を加速させる。

日本のサステナビリティの大テーマである2050年カーボンニュートラル実現は、このままでは難しいと言われる。日本は再生可能エネルギーの生産に不向きな地形、CO2排出量の多い製造業が盛ん、移行期に必要となる安価な天然ガス供給もない、という三重苦を抱えるからだ。だからこそ再生可能エネルギー普及に伴う電力料金の引き上げなど国民の理解を得る努力が必要であり、意図的に技術開発を加速してイノベーションを起こさなければならない。そのためにも金融パーソンの「目利き力」を高め、有望な技術開発に投融資する「イノベーションファイナンス」の推進が必要だろう。

ー安間匡明
PwCサステナビリティ合同会社執行役員。1982年現・国際協力銀行入行。世界銀行出向、経営企画部長、企画管理部門長などを経て取締役退任後、大和証券顧問を経て2021年より現職。

2022年5月取材

テキスト=御代貴子