働く環境を変え、働き方を変え、生き方を変える。

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結局「自分らしく働く」ってどういうこと? 好きな日に働けるパプアニューギニア海産の代表・武藤北斗さんに聞く

好きな日に働き、好きな日に休む。嫌いな作業をしてはいけない。大阪にある天然エビの加工会社・パプアニューギニア海産では、そんな一風変わったルールを設けて、徹底的に「働きやすさ」「生きやすさ」を重視した職場づくりを行っています。

こんなに自由なのに、組織が回るのはどうしてでしょうか。自由な働き方を体現するにいたった根っこの精神とは?

多様な働き方が提案されている今だからこそ聞きたい、「自分らしく働く」ことの意味について、代表取締役社長の武藤北斗さんにお話を伺いました。

―武藤北斗(むとう・ほくと)
株式会社パプアニューギニア海産 代表取締役工場長。1975年福岡生まれ。高校卒業後、築地市場の荷受け業務を経て、父親の経営するパプアニューギニア海産に就職。当時会社は石巻市にあったものの、2011年の東日本大震災で被災に遭い、大阪に移転・移住。著書に『生きる職場 小さなエビ工場の人を縛らない働き方』(イースト・プレス)がある。

常識にとらわれない、働き方の仕組みづくり

「好きな日に働く天然エビ工場」として、多くのメディアで取り上げられていますね。改めて、どんな会社なのかをご紹介ください。

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武藤

私たちは、パプアニューギニアの天然エビを輸入し、加工・販売している会社です。オーガニック業界を中心に、スーパーマーケットや飲食店に卸しているほか、自社のオンラインショップも運営しています。

武藤

現在は社員が3名、パート従業員が21名。パートの方たちは、好きな日に連絡なしで出勤できる「フリースケジュール」という制度で働いています。

イメージしにくいのですが、どんな仕組みなのでしょうか?

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武藤

いたってシンプルで、「好きな日に出勤してください。そのための連絡の必要はありません」というだけのことです。

詳しくいうと、1カ月にトータル30時間以上勤務すれば、出勤・退勤の時間や日数は自由。出勤・欠勤の会社への連絡は「禁止」です。

かなり自由ですね……! なぜこの仕組みを考えたんですか?

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武藤

当時のうちの会社には、子育て中のパートさんが多かったのです。すると、お子さんの急な体調不良などでやむを得ず当日欠勤することもある。そんな時、会社に連絡を入れるのは気を使うし、ストレスですよね。

そこで、「従業員が働きやすい職場とは、休みやすい会社」なのではと気づいたんです。 つまり、好きな日に出勤できるよりは、好きな日に気兼ねなく休めることが重要なのではないか、と。

また、「欠勤連絡は不要」と伝えても、連絡する人がどうしても出てきてしまう。だから、あえて「連絡は禁止」としました。

出勤後は、「自分の好きな作業」を担当する。

しかし、連絡がないと、出勤人数が読めないですよね。人数が極端に少なかったり、誰も来なかったりして、困ることはありませんか?

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武藤

人が少なければ、その人数でできる作業に切り替えるだけです。もし誰も来ない日があったとしても、祝日が1日増えたと思えば大した問題ではありません。

もちろん、この仕組みを始めた2013年には、多少の不安を感じていました。でも、そもそも出勤しないとお給料が出ないわけですから、何日も来ないという状況はまずないんですよ。

フリースケジュールを始めてみて、武藤さんご自身の心境の変化はありましたか?

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武藤

心配だと思っていたことが、実は大して心配するようなことではないと気づきました。何をそんなに恐れていたんだろうと。そこから、改革や変化に対する恐怖心が取り除かれていったと思います。

フリースケジュールを始めて1~2カ月後にはすでに「この仕組みは絶対うまくいく」と確信が持てていたこともあり、2年後に「嫌いな作業をしてはいけない」という新しいルールもスタートしました。

なぜ、「嫌いな作業をしてはいけない」というルールを作ろうと思ったんですか?

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武藤

きっかけは、「嫌いな作業を苦しんでやることに何の意味があるんだろう?」という素朴な疑問でした。人には好き嫌いや得手不得手があります。それを「多様性」と捉えて、組織の仕組みづくりに生かせたら、さらに働きやすい職場になると考えたんです。

例えば、僕は子どもの頃から掃除が嫌いで。ところが、パートさんたちと面談をする中で、「掃除が好き」と話す人がたくさんいて、とても驚きました。

じゃあ、他の作業はどうだろうと考え、好きな作業と嫌いな作業をアンケートで聞いてみると、答えが見事にバラバラで。つまり、誰かの嫌いな作業は、他の誰かの好きな作業だったんです。

これならお互いを補い合うことができて、問題なく工場は回る。それで、「嫌いな作業をしてはいけない」ルールを導入し、6年ほど続いています。

働きやすい職場だから生まれる、プラスの循環

他にもたくさんのルールがあるそうですね。ルールを設ける基準はありますか?

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武藤

すべての基準は、従業員が「争わず」「苦しまず」に働けること。僕はもともと「人間は争う生き物」だと思っているんです。だからこそ、「スタッフの動きを縛るため」ではなく、「争いや苦しみをできるだけ取り除くため」にルールをたくさん作ってきました。

人間関係が良好で、心理的安全性が担保されていれば、効率は絶対についてきます。効率を上げたいなら、まずは人間関係を良くする。これが、僕が考える順番なんです。

実際にさまざまなルールを設けたことで、効率は上がりましたか?

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武藤

予想を上回るプラスの循環が生まれています。まず職場の満足度が上がると、離職率が下がる。すると、全員がどんどんベテランになっていくので、当たり前のように生産効率が上がり、品質が向上し、売上も伸びていきました。

働きやすい職場を目指したら、自然とよい連鎖が生まれていったんですね。

WORK MILL

武藤

そうですね。でも、実はそんなに難しいことではなくて、すごく単純なことが起きているだけだと思います。

でも実は、昔の自分は今とは真逆で、現場にビデオカメラを設置して、従業員を監視してプレッシャーを与えるというやり方をしていたこともあって……。当時は疑うこともなく、それが正しいと思い込んでいました。

今のパプアニューギニア海産からは想像できないですね。

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武藤

そんなやり方をしていると、当然、人はどんどん辞めていきます。人の出入りが激しくなり、新人が入ってくるたびに、ベテランが作業の手を止めて仕事を教えることになる。

つまり、仕事ができない新人と、力を発揮できないベテランが常にいる状態になる。効率が上がるわけがないですよね。

今とは真逆の状況ですね。武藤さんはどうやって考え方を変えたんでしょうか?

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武藤

いいえ、考え方を変えたわけではないんです。昔も今も、「合理的に考えている」という意味では同じですから。

昔から「利益を出す」という目標は変わりません。でも、アプローチする方法を「監視」から、「働きやすい職場にする」へ変えただけです。

今のアプローチのほうが理にかなっているし、自分自身も苦しくないですね。昔は従業員から嫌われている自覚がめちゃくちゃあったんです(笑)。むしろ、嫌われるのも仕事のうちだと思っていたくらいで。

武藤

でも今は、感謝の気持ちを持てるようになった。従業員のみんながいるから会社が成り立つという当たり前のことに気づけたし、毎日会社に来てくれるのが当然ではない。僕自身も、今のほうが心地良いんですよ。

従業員にとって働きやすい職場を整えたことで、武藤さん自身も働きやすくなったんですね。

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武藤

経営者である自分にとってもすごくプラスでしたね。だから、ある意味、従業員のためだけじゃなくて、自分のためであり、会社のためでもあるんです。

自由な働き方を支える、信頼関係と自主性

ルールがたくさんあっても、みんなが守らなければ意味がないですよね。ルールをちゃんと機能させるために、何か工夫されていますか?

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武藤

シンプルに、「どうしたら良いと思いますか?」と従業員に問いかけて、一緒に考えてルールを作っていくようにしています。自分の意見が反映されているルール、自分たちが作ったルールだから、みんな守るんです。

そういうふうに多様な意見をもとにして作るので、ルールは凸凹になっていきます。でも、きちんと整えられてなくていい。みんなで作ったっていうことがすごく大事だと思います。

従業員の声をちゃんと聞くために意識していることはありますか?

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武藤

僕の場合は、面談をとても大切にしています。どうすればみんなが心理的安全性を持って話ができるかを考えて、面談方法も試行錯誤を重ねてきました。

大事なのは、話を聞いたら必ず答えを返すこと。答えを返すと決めているからこそこちらも真剣に考えますし、従業員も会社がちゃんと返答してくれると思えば、また意見を出そうと思ってくれます。

僕、基本的に人間は信用しないんです(笑)。でも、従業員は信用している。対話をして一緒に働くことを繰り返していけば、信頼関係は自然にできてくるので。

そうやって信頼関係を築いてきたからこそ、今の会社の形に行き着いたんですね。働き方改革が進められている今、悩んでいる会社にとって大きなヒントになりそうです。

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武藤

ただ、「働き方改革」という言葉を大きく掲げてなにかしようとしている会社は、まずはわかりやすい「形」を求めがちな印象があります。

例えば、うちの会社のように「フリースケジュールの制度を作りました」と言えばわかりやすいし、社外へのアピールもしやすい。

でも、実際にやってみるとフリースケジュールという「形」自体は、それほど重要じゃないんです。従業員は、自分の意見を会社に言いやすいかどうか、会社が真剣に聞いて考えてチャレンジしているかどうか、という過程自体をずっと見ている。

だから、結果としての形よりもプロセスのほうが大事なんですよね。

そのプロセスによって信頼関係が生まれ、自由な働き方にもつながっているんですね。

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武藤

このプロセスをすべての会社がやりさえすれば、社会ががらっと変わると僕は思っています。結果として何も新しいものが生み出せなかったとしても、問題ありません。プロセスの時点で、すでに組織は成長しているので。

自由な働き方を実現し、維持していくためには、「自立」や「自律」の精神も求められるのではないかと思いますが、何か工夫はされていますか?

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武藤

一人ひとりが自分で考えて選択することを大切にしています。出勤するかしないか、この作業をするかしないか、それぞれが自分で選んでいく。それが意欲やチームワークにもつながるはずです。

「自立」「自律」の精神を高めるためにやっているわけではないので、結果として高まっているという感覚ですね。

パプアニューギニア海産は、もともと自分たちで考えることを重視する社風なのでしょうか?

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武藤

うちの会社は、自分で考えて選択できるルールになっているだけだと思います。そうすると、自分で考える力や選択する力を発揮せざるを得ないですから。

たぶん、人間はみんな考える力を持っているんです。でも、社会や組織の中で考えさせてもらえない枠組みに入れられてしまい、「自立」や「自律」の力が発揮できないことが多いのではないでしょうか。

自立・自律は、結果として「自分らしく働く」につながるのですね。

武藤さんにとって、「自分らしく働く」とはどういうことだと思いますか?

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武藤

僕にとって「自分らしい」とは、苦しまずに生きていける状態。自分らしく働いている様子としてイメージされがちな「すごく気持ちが高揚している状態」とは、ちょっと違っていて。僕はそれを求めていないんですね。

「好きなことを仕事に」という言葉をよく耳にしますが、そもそも、みんながそれを求めているわけじゃないと思うんです。逆に、その言葉に苦しめられている人もいるんじゃないかと。

そこで武藤さんの考える「自分らしく働く」を体現した職場が、現在のパプアニューギニア海産なのですね。

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武藤

そうですね。もちろん今の仕事に誇りを持っているし楽しいけれども、僕にとってはやっぱり誰と一緒に仕事をするかのほうが、仕事内容よりも重要なんです。

人間関係で悩んだり、争ったりして苦しまないように、フリースケジュールや「嫌いな作業をしてはいけない」というルールを作っている。それこそが僕やパプアニューギニア海産にとっての「自分らしく働く」だといえそうです。

取材:2022年10月

取材・執筆:藤原朋
写真:古木絢也
編集:桒田萌(ノオト)