遊ぶように働く組織人と考える「プレイフルワーク」の可能性 イノベーションを起こすマインドセットのカギは「遊び」 イベントレポート
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「NO PLAY, NO WORK 『遊び』こそ生産活動だ! 北欧流プレイフルワーク」をテーマに、北欧を取材したビジネス誌『WORK MILL with Forbes JAPAN 08』。
幸福度が高いにもかかわらず、世界トップクラスの競争力やイノベーションを創出している北欧。その働き方に注目すると、「PLAY=遊び」がヒントとして見えてきました。
今回は、「イノベーションを起こすマインドセットのカギは『遊び』~人が活きる組織づくりの新たな切り口とは~」と題して、ディスカッションイベントを開催しました。
北欧で見えた「遊び」の可能性
イベントの冒頭では、北欧の働き方を現地でリサーチしてきたWORK MILLの山田雄介編集長が、働き方における「遊び」の可能性や実践の事例を紹介します。
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山田
WORK MILLでは「自分らしい楽しみを創造的に作りながら夢中に働いている」状態を「プレイフルワーク」と定義しています。
コロナ禍以前になりますが、ノーベル賞の科学者を輩出している、とある世界最先端の研究所を視察して私が気になったのは、研究者たちの働き方でした。
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山田
一見すると「遊び」に見える行為は、パフォーマンスを上げるための一つの手段だったのです。
なぜ、「遊び」がイノベーションの種につながるのか? 最近、「人的資本経営」というキーワードを聞く機会が増えてきたことから考えていきます。
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山田
人的資本経営は、「人材を資源として消費していくのではなく、資本として投資と捉える」という経営のあり方の一つです。
イノベーションや生産性向上、ウェルビーイングを実現していくには、まさに人を資本に変える働き方が求められているのではないかと考えています。
さらに、生産性と幸福度がともに高い北欧にて、デンマークのコペンハーゲンIT大学で「遊び」を専門に研究をしているミゲル・シカール教授に話を伺いました。
教授いわく、「遊び」は現実の枠から外れる行為であり、そこから可能性を探る自由が生まれるのだと言います。
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山田
職場にこの考え方を取り入れるなら、「自由」と「選択」を持つことが大切です。
興味あることに、時間をどう使っていくか? それこそが「遊び」を取り入れた価値なのではないかと考えています。
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山田
「プレイフルワーク」は、自分らしい楽しみを創造的につくりながら夢中に働くこと。
オフィスや職場で「遊ぶ」という行為そのものを行うのではなく、遊んでいるような状態を職場や働き方にどうやって取り入れられるか? それが「プレイフルワーク」に必要なマインドです。
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山田
フィンランド・ヘルシンキにある「Reaktor(リアクター)」は、もっとも優れた雇用主の賞を4年連続で取っている企業です。ここでは「自由」と「選択」を従業員に与える仕組みがありました。
やはり、ガチガチに固めている組織や働き方からは、新しいものは生まれにくいのではないでしょうか。
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山田
職場だけでなくて、自分が「夢中」になれることの探求も大切です。北欧には「フォルケホイスコーレ」という成人教育機関があり、働くだけでなく、学びや教育の過程で立ち止まって探求できる仕組みがあります。
評価されずに、挑戦できる場所がある。それも「プレイフル」に働くためのヒントになると思っています。
日本でも「遊び」をどんどん生産活動に繋げていくマインドや働き方が広がっていけばと思っています。
真剣に遊んでいたら、いつのまにか仕事に
ここからは、ゲストのお二人に自己紹介と、それぞれの視点での遊びについてお話を伺っていきます。
本日は楽しい会にお呼びいただいて、ありがとうございます。
私はデザインやエンジニアリングの融合領域をメインに仕事をしているのですが、2016年頃から社内のコミュニティスペース運営を担当し、社内外の人々を巻き込んで、日々さまざまなイベントを開催中です。
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福馬
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それまでイベント運営をやったことがなかったので、最初は練習がてら隔月で開催していたのですが、やっているうちに楽しくなっちゃって。今では週6回開催することもあります。
おかげさまで、私もさまざまな人たちとたくさんお会いできて、毎日を楽しく過ごさせていただいております。
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福馬
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現在は、R&Dセンターでボトムアップ提案活動の実行委員長を務めたり、社内でイベント運営のノウハウを共有したり、リモートでもインタラクティブに楽しめる空間づくりのナレッジをみんなで蓄積したりもしています。
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福馬
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また、趣味で3Dプリンターを開発設計しているうちに、国内外の方々に興味を持っていただいて、オープンソースのハードウェアとして情報共有しています。
要約すると、遊ぶように働いたり、遊びだからこそ真剣に取り組んだりすることが大好きです。本日は、よろしくお願いします!
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福馬
空間に「遊び」を取り入れた事例を紹介
「こころうごかす空間をつくりあげるために。」をミッションに、空間づくりを行う丹青社の近藤です。
弊社では、年間6000件以上のプロジェクトを手掛けていて、デザインからモノを作って運営するまで総合的にサポートしています。実際にその場で皆さんに体験していただき、感動してもらうためのテクノロジーを実装するところに我々の強みがあります。
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近藤
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私が所属しているクロスメディアイノベーション(CMI)センターは、空間体験価値を最大化・最適化する専門チームです。
関わった仕事の一つが、総合産業機械メーカー「YANMAR(ヤンマー)」の企業博物館「ヤンマーミュージアム」です。子どもから大人まで楽しめる体験型コンテンツを通じて、漁業や農業・機械などのヤンマーの幅広い事業領域を楽しく学べるのが特徴です。
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近藤
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事業主:ヤンマーグローバルエキスパート株式会社
業務範囲 総合プロデュース:佐藤可士和 デザイン・設計、制作・施工、展示企画、ソフト/コンテンツ企画・制作、システム設計・制作:(株)丹青社
また、「アートレンタルサービス」といって、オフィスにアートを置いたときに生産性がどう変わるのか、アンケートやデータを取り、それに基づいたアートや空間デザインを提案サービスも手掛けています。
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近藤
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他にも、企業の従業員がアーティストに協力してもらいながら、企業カラーを表現するアートを作ろうという「センスシェアリング」ワークショップも行っています。
「自分の企業ってどんなところだろう?」と見つめ直す機会として、チームビルディングにつながっているプロジェクトです。
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近藤
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私個人がプレイフルに働くために実践しているのは「散歩、1ボケ、ポジティブ、観察、X」です。
社内を歩き回って面白そうなことをやっている人を見つけ、その人に話しかけて一緒に仕事をしたり、自分がポジティブに仕事していると相手に面白がってもらえたり、そういった心がけを大事にしています。よろしくお願いいたします。
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近藤
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「遊び」がもたらす働き方の可能性を探る
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宮野
ここからはさらに深掘りするため、トークセッションに入っていきます。
まずは山田さん、北欧スタイルの「プレイフルワーク」から学びになったことは何ですか?
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山田
あくまで僕がリサーチしてきた範囲で感じたことですが、「遊び」に対しても目的を持って真剣に取り組んでいる姿が印象的でした。
限られた時間の中で、どれだけ成果やパフォーマンスを出していくか。それを常に考えているからこそ、「遊び」にも真剣なんです。北欧の生産性が高い理由は、そこにもヒントがあるのかなと感じました。
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宮野
日本の職場で「遊び」というと「ふざけている、さぼっている」というイメージを持つ人がいるかもしれません。ですが、北欧ではむしろ逆で「遊び」を取り入れるからこそ生産性が上がる、というマインドがあるんですね。
福馬さんは「遊び」の要素が、自身の仕事やキャリアにどのような影響を与えていると感じていますか?
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私が所属する部署では、学生時代に趣味でパソコンをいじっていた人たちが多く、私も同じくその一人でした。
20年前にパソコンで遊んだことが、仕事に役に立っている場面も往々にしてあるので、何が起きるか分からないですよね。今では趣味と仕事がより一体化している感覚です。
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福馬
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山田
福馬さんの働き方は、まさに資本的ですよね。私は資本=投資と捉えていて、必ず当たるものはではないし、それが何に化けるかも分からない。すぐに結果が出るわけではなく、もしかしたら5年後に芽が出る可能性もある。
資源はただ減っていく一方ですが、資本はいつか大きく化ける可能性を含んでいるんですよね。
僕の会社には同じ働き方をする人も沢山いて、彼らも学生時代から趣味で何かを発信し続けています。
たとえば、ディープラーニングの専門家が業務も趣味もYouTubeで発信して、大いに本業へも生かされていたり。
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福馬
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宮野
会社を上手に活用しながら、自分のやりたいことを実現する。それを逆手に、どんどん新しいアイデアを持ち寄られることで連鎖が生まれ、会社にとってもプラスになっているのを感じました。
会社や上司が理解してくれていることも大きいです。趣味の活動を「いいことだね」と褒めてくれる人が社内にいる状態なので。
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福馬
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宮野
空間作りのプロである近藤さんには、オフィスに遊びを取り入れることで、どのようなメリットがあるのかを伺いたいです。
企業によって考え方は異なりますが、空間の中に「余白」を作ることは大事だと思います。言い換れば、「逃げ道」を意識的に作る。
オフィス内に、振り返って考えられたり、ふっと落ち着けたりする場所やモノ、体験があるのは大きいです。
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近藤
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コロナ禍以前の話ですが、丹青社にはエントランスにバーカウンターがあって、そこで飲み会や忘年会がよく行われていました。
飲食店と違って他のお客さんもいないし、込み入った話もできるので意外とみんな喜んでいたんです。
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近藤
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山田
僕がコロナ禍で驚いたのは、オランダのIT企業がデスクやテーブル上の飛沫防止用のアクリルパネルをアートに変えたという事例です。どうせなら透明のパネルのままではなく、みんなが心地よく感じられるアートにしちゃおう、と。
結果的に、アートを眺めながらリラックスできる空間が作られ、今でも置いたままにしているそうです。
ソニーにも、一部をDIYしたイベントスペースがあって。執務エリアの内装を変えただけなんですが、そこでは年間400回以上のイベントが開かれています。そこでメンバー同士で深い話をしながら、プレゼンを行うこともあるんです。
普通の飲み屋で大規模なプレゼンするのは難しいですが、社内のスペースを使えば機密性を守りながら「実はこの人とこんな仕事をしてみたいんです」というラフな相談もできる。そこから「私も、私も!」といろんな提案があがることもあります。
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福馬
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宮野
連鎖していくのが素敵ですね。チームとしてのあり方がとても理想的だなと思いました。
皆さんは、組織における「遊び」の役割は何だと思いますか?
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山田
「遊び」は、その組織にいるさまざまな人々を繋ぐツールやきっかけになっているのではないでしょうか。
仕事だけだと、業務に直接関係する人たちとしか繋がらない可能性がありますが、「遊び」を通すとさまざまな人々と繋がれる。業務起点のスタートをA面とするならば、裏のB面が「遊び」が横に広がる人々との繋がりなのかな、と。可能性を広げる最初のきっかけになるのかなと思います。
「遊び」自体が、仕事のきっかけになることがありますね。
先日、私がリリースしたサービスについて社内を散歩しながら考えていたとき、知り合いの社員と出会って。「こんなことをやりたい」と話したら、「ここで実証実験をやってみたら、面白いんじゃない?」と提案してくれたんです。それがきっかけでリリースまで行き着きました。この提案がなかったら、プロジェクト自体、頓挫していたかもしれません。
仕事の中での「遊び」が、新しいアイデアやプロジェクトのきっかけになることがあるのかなと思います。
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近藤
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弊社は元々、録音機兼再生機を公共機関に提供する事業から始まりましたが、今ではエンターテイメント事業が主力になっています。
私も入社当初は家電の開発に携わっていましたが、現在は「ロケーションベースエンターテイメント」と呼ばれる、ミニ遊園地のような体験を提供する事業開発が主業務の一つになっています。
新しい事業を立ち上げの際に、真剣に遊んでいた人たちが「面白い」を持ち寄ることで、良い種になることがある。そういうことができる場から生まれるアイデアが新しい事業の礎になっているのではないでしょうか。
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福馬
「プレイフルワーク」を実践する、小さな始めの一歩
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宮野
最後に、「プレイフル」に働くために実践できる第一歩はどんなことがあるでしょうか?
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山田
実践しやすいのは、今皆さんでやっているチームや組織のルーティーンをほんの少し変えてみることではないでしょうか。
たとえば、弊社は昔から、毎朝朝礼前にラジオ体操をやっているのですが、それを各自が異なるタイミングで行ったり、YouTubeで見つけた新しい体操に変えてみたり。体操しながらアイデアを出す時間にしてみたりしてもいいかもしれません。
そういった小さなことからでも、日々のルーティンにひと工夫を加えてみるのはいかがでしょうか?
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興味のないことにも共感してみたり、生産性的には無駄とされることに興味を持ってみたりすること。興味のアンテナが増えていくと、意外なところに繋がることがあると思います。
これまで見向きもしなかったものに目を向け、評価ポイントを見つけるのも意外と楽しいですよ。
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福馬
月並みな表現にはなりますが、ポジティブに仕事に取り組むことが重要だと思っています。そうすると、楽しい仕事が自然と舞い込んでくる感覚があるんですよね。これを上手に活かすことが「プレイフル」に働くコツではないでしょうか。
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近藤
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宮野
まだまだ日本では「プレイフルワーク」という概念に馴染みがないかもしれませんが、新しいことに挑戦する第一歩は大切です。本イベントが、そのきっかけとなれば幸いです。ありがとうございました!
2024年1月取材
取材・執筆=矢内あや
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代(ノオト)