男性の育休取得推進によって何が変わる?
この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE07 EDOlogy Thinking 江戸×令和の『持続可能な働き方』」(2022/06)からの転載です。
ー永見世央(ながみ・よう)
ラクスル取締役CFO。みずほ証券にてM&Aアドバイザリー業務に従事したのち、米カーライル・グループに所属し、バイアウト投資と投資先の経営及び事業運営に携わる。その後ディー・エヌ・エーを経て、2014年4月にラクスルにCFOとして参画し、同年10月に取締役就任。ペンシルバニア大学ウォートンスクールにてMBA取得。
2021年6月に育児・介護休業法が改正され、今年4月より段階的に施行されている。本改正では、子どもの誕生直後8週間以内に男性が最大4週間の休みを取得できる「出生時育児休業」が創設されるなど、男性の育児休業(育休)取得促進を目的とした枠組みも設けられることとなった。
厚生労働省の「雇用均等基本調査」によれば、07年以降、女性の育休取得率は常に80%を超える一方で、男性の育休取得率は同年に初めて1%を超えて以降、増加傾向にあるものの、20年時点でようやく12%を達成したばかり。欧米諸国では早くから軒並み10%を超え、スウェーデンに至っては88.5%と大きく水を開けられており、日本政府も男性の育休取得率について、2025年に30%を目標として掲げている。
まさに喫緊の課題として法改正が進む中、男性の育休取得率67%*¹、平均取得日数が34日間と大きな実績を上げているのが、ネット印刷事業などを手がけるラクスルだ。自身も4児の父であり、育休制度を活用した経験のある同社の取締役CFOの永見世央は次のように話す。
「経営陣である私自身が育休を取ることで、社内でも『男性が育休を取得すること』への理解や機運が高まったと自負しています。個人的にも、出産直後は配偶者や子どもへのケアが必要な時期なので、一緒にいる時間を過ごせてよかったと感じています。
また、育休を取ったことで育児そのものへの解像度が上がり、働くことに対してメリハリが出るようになりました。結果として働く人にとっても、より会社へのロイヤルティを感じていただけていると思います」
さまざまな選択肢が用意されたーより豊かな未来を創造することにつながる
仕事にまい進してきた若い世代も、家庭を持つなど年齢を重ねていくことで自身のライフ・キャリアバランスと直面することとなる。かつては将来の昇進やメンツのために自分を犠牲にして働くという考え方が主流だったが、現在は自身の想像する未来と会社のビジョンを合致させて”自己実現”を果たすマインドへとシフトしていると、永見は続ける。
「少子高齢化によって労働人口は減少しており、もはや男性だけが働く社会構造は成り立ちません。個人のライフスタイルも多様化していくなかで、会社のビジョンや制度も時代に合った魅力的なものでなければ、労働市場でサステナブルに勝つことはできないのです。そういった意味で、経営者としても男性の育休取得率の向上は合理的な施策だと考えています。
これからは、女性はもちろんのこと、移民を含めた海外人材や、LGBTQなどダイバーシティを許容する会社こそが多様な才能を惹きつけられると信じています」
永見は、特にスタートアップ企業は雇用の流動性が高いからこそ社員一人ひとりに向き合い、個人を輝かすことのできるビジョンや制度が肝要だと語る。
今や終身雇用を前提とした旧来の労働環境や価値観は変化し、ダイバーシティを許容しない社会や企業は先細りする一方となっている。男性による育休取得の推進は、その家族だけでなく、労働者や社会が多様な価値観を育み、人生におけるさまざまな選択肢が用意されたより豊かな未来を創造することにつながっているのだ。
*¹:最新(2022年度)の男性社員の育児休業取得率は73%になります
2022年5月取材
取材・執筆:須賀原 みち
編集:千吉良 美樹