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パートナーとどうやって対話する? ハイブリッドワークでも仕事と家庭を両立し、「最高のパフォーマンス」を発揮するには

コロナ禍の今、多くの企業やワーカーが働き方を模索している真っ最中です。最近では、リモートワークとオフィスへの出社を組み合わせた「ハイブリッドワーク」が登場したほど、働き方の選択肢は多様になっています。

在宅勤務が可能になったことで、これまでのように「オフィス=働く場所」「家=生活する場所」という枠組みが取り払われ、生活と仕事のバランスが取りづらくなった方もいるのではないでしょうか。

特に、パートナーと同居している場合、これまで以上に2人とも自宅で過ごす時間が増え、些細なことでモヤモヤし、喧嘩してしまうことも……。こうした重要な人間関係の悪化は、仕事のパフォーマンス低下にも繋がります。

多様な働き方が広がった今、仕事と家庭を両立しながら、パートナーとの健全な関係性を育むには? 『共働きのすごい対話術』の著者で、株式会社すきだよのあつたゆかさんに教えてもらいました。

―あつたゆか
株式会社すきだよ代表取締役。「誰もが大切な人とずっと幸せでいられる社会をつくる」をビジョンに、家族・パートナーシップに関する社会課題を解決し、ふたりらしい生き方を支援している。夫婦やカップルが利用する対話ツール「ふたり会議」の開発や、パートナーシップの築き方を学ぶ「ふたりの教室」の運営を行っている。

リモートワークによって生まれる、同居中のパートナーとのモヤモヤ

あつたさんは、日頃から多くの夫婦やカップルの声を聞いていますよね。パートナーと同居しながらリモートワークで働いている方は、どんな悩みがあるのでしょうか?

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あつた

どちらもリモートワークで働いている場合、一人の時間が減り、パートナーとギスギスしてしまう方が多いですね。

これまでは、オフィスに出社することでそれぞれの時間を過ごせていたのが、どちらもリモートワークになると、24時間一緒にいることになりますから。「プライベートと仕事の区切りがつかない」「一緒にいすぎて疲れた」という声をよく聞きます。

私も夫から「一人の時間が少なくて辛い」と言われたことがありました。詳しく聞いてみたら、仕事部屋とリビングが隣り合っているせいで、リビングで休んでいても、隣の部屋から私のWeb会議の声が聞こえてきてリラックスできない、と。

それは解決したんですか?

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あつた

はい。「対話」をして、お互いの感じていることをすり合わせました。今回は、間取りの変更で解決する問題だという意見がまとまり、私の仕事部屋を遠い場所に移動して、リビングまで声が届かないようにしました。

シンプルですが、確実な解決策ですね。

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あつた

対話で大事なのは、「誰も悪くない」という前提で解決策を考えることです。

リモートワークで発生する問題って、多くの場合は誰も悪くないんです。「私 VS. パートナー」のようにどちらが悪いかを考えるのではなく、「私たち VS. 問題」の構図にして、仕組みやシステムで解決する。これを「無責的思考」といいます。

他にも、リモートワークやハイブリッドワークになってから、家事の分担で揉めることもありそうです。

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あつた

やはり家事負担の偏りに関する相談が多いです。

特に、片方がリモートワークで、もう片方が出社というパターンのご家庭は悩みやすい問題ですね。「家にいるなら家事ができるよね」という理由でリモートワークをしている方に負担が増えすぎてしまうと、当然不満が生まれてしまいますから。

この問題を解決するのにお勧めしたいのは、ツールを積極的に使うこと

例えば、『魔法の家事ノート』という家事の見える化ができるアプリ。あらかじめ家事をリストアップし、済ませた後にチェックをつけるだけで、「誰が何をしたのか」や家事全体の達成度が可視できるんです。

まずこうした「見える化」をすることが、ちょうどいい家事分担を考えるヒントになると思います

家庭というプライベートの場にツールを導入するのは新鮮ですね。

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あつた

家庭も一つの組織です。ツールに頼れる部分があるのなら積極的に頼って、不要なトラブルをなくす方が健全です。

もちろん、ツールを使うのが正義というわけではありません。アプリ以外の方法でうまくバランスがとれている夫婦・カップルの方々もいます。まずは、ご自身に合った方法をいろいろ試してみてはいかがでしょうか。

健全なパートナーシップにおいて重要な「対話」。相手にモヤモヤを伝えるのがその第一歩

これまでの事例を聞いていると、夫婦・カップル間で正しい「対話」がなされているからこそ、問題が解決されているのだなと感じます。

あつたさんご自身、パートナーとの健全な関係性を実現するために「対話」の重要性を発信していらっしゃいますよね。そもそもあつたさんの考える対話とは、どのような行為なのでしょうか?

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あつた

対話とは、「相手の考えの背景を聞きながら、相互理解を深めていく行為」だと考えています。相手の行動の裏にはどんな価値観があるのかを深掘りし、2人にとっての最適な解をすり合わせるイメージですね。

例えば、自分は「子育てとリモートワークの両立が難しい。相手が担当の家事を増やしてほしい」と思っているのに、相手からは「これ以上、家事負担を増やしたくない」と言われてしまったとします。

しかしここで諦めるのではなく、相手はどうしてそう思うのか、背景をしっかり聞くことが大切です。もしかすると「昇進試験を控えていて、今は勉強に集中したい」のかもしれません。

相手の背景が見えてきたら、そこで初めて、お互いに我慢のない道はないかを考えられます。そうすると、試験が終わるまでは家事代行サービスを使おう、などのアイデアが出てくるかもしれません。

まさに建設的な話し合いができますね。

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あつた

対話って、義務教育で習うわけでもないので、やり方を知らない方が多いのではないかと思います。

また、本人は対話ができていると思っていても、実際は一方的に自分の要求を押し付けているだけだったということも珍しくありません。

よくあるのが、「対話」のつもりが「命令」や「討論」になっているパターン。例えば「家事をやってよ」と要望を押し付けるだけなら「命令」。「時短なんだから、あなたが家事を多くやるべきだ」「子育てをしている時間が短い方が他の家事をするべきだ」などと互いの正当性を主張し合うのは「討論」なんです。

もしくは、日常会話のような他愛のない「会話」で止まっている場合も多いですね。

まさに建設的な話し合では、そんな夫婦・カップルが対話を習慣化するために、どんなことから始めればいいのでしょうか?

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あつた

普段の会話から、対話の習慣を身につけてみましょう。例えば、「こういう映画が好きなんだよね」みたい何気ない会話で、「そうなんだ」で終わらせずに「なぜ」を深掘ってみる。

「どういうところが好きなの?」「いつからそのジャンルが好きになったの?」と背景を聞いていくと、他愛のない会話から対話に変わる瞬間があるんです。

仕事の愚痴でも同じです。「こういうこと言われて、イラっとしたんだよね」と言われたら、「何にイラっとしたの?」と聞いてみる。

それで「自分はこんなことをがんばっていて、これを大事にしているのに、踏みにじられたようで嫌だったんだよね」と返ってきたら、相手が大事にしているものを新しく発見できるチャンスかもしれません。

相手の答えや主張を聞くだけでなく、そこに至るまでの背景にも耳を傾ける。普段の会話からでも、できることはあるんですね!

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相手に不満があっても、なかなか伝えられずにモヤモヤを抱えているときは、どうすればいいのでしょうか?

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あつた

その場合、我慢するより、「こういうことがあって、嫌だった」と一度思い切って伝えてしまうことが、対話の始まりになります。

不満を隠して我慢するのは、自分にも相手にも良くないじゃないですか。伝えるのに勇気がいるとは思いますが、言ってみると意外と受け入れてもらえることもあると思うので、一度発散してみることをオススメします。

不満を伝えるとき、自分が何にモヤモヤしているのか、うまく言葉にできない方もいると思います。ハッキリと言語化ができていなくても、相手に伝えていいものですか?

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あつた

確かに、事実と感情を整理して言語化できるに越したことはありませんが、「モヤモヤしてるんだけど、理由までは分からないんだよね」と持ちかけてみるのはアリだと思います。

「自分のモヤモヤの原因を相手と一緒に考える」という行為自体が、対話の始まりになりそうですね。

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あつた

まさにそうだと思います!

例えば、「皿洗いは自分がやることに納得しているはずなんだけど、なぜかここ3カ月ちょっとモヤモヤしていて。家事分担に納得してないわけじゃないのに、なんでだろう」という伝え方なら、相手への攻撃にはなりませんよね。

それで一緒に理由を考えていくと、「仕事の負担が増えたから辛くなっているのかもしれないね。じゃあ、食洗器を導入してみようか」という話に繋がるかもしれない。

モヤモヤを伝えることは、対話の一歩目としてちょうど良いと思います。しかし、対話はお互いに余裕がないとできません。何でもかんでもモヤモヤを相手に投げかけるのではなく、相手の状況も見ながら、伝えるようにしてみてくださいね。

仕事も家庭も両立して、最高のパフォーマンスを発揮するには

あつたさんは、夫婦が「共同経営者」として家庭を運営していくスタイルを提案されていますよね。そう考えるに至った背景を教えてください。

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あつた

1990年前半までは専業主婦家庭が多く、「女性は家庭、男性は仕事」と性別で役割がハッキリと分かれていました。ところが、今は共働き世帯が急増して、2人で仕事と家事・育児を分担する形に変わりつつある。性別による役割がなくなってきたからこそ、対話の必要性が増えたのではないかと考えます。

昭和のドラマを観ていても、「疲れて帰ってきたら、お茶がスッと出てくるシーン」が多いなと。阿吽の呼吸というか、察することが重要視されていたのかなと思うんです。

この分かりやすい例となったのが、日本で社会現象をも巻き起こしたテレビドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)です。

この作品で象徴的だったのは、夫の平匡さんが転職に迷い、妻のみくりさんと「経営責任者会議」を開き、フラットに話し合うシーン。

平匡さんは、給与が良いA社と、給与は下がるけど仕事内容に惹かれているB社で転職を悩んでいる。けれど、平匡さんの収入が減っても、妻のみくりさんが働きに出れば全体では補填できる。そうするならば、2人の家事分担の調整が必要だねと、建設的な話し合いでお互いが納得できるあり方を実現していたんです。

共働きならどちらがどのくらい稼ぐか、どんなキャリアを歩んでいきたいか、家事は外注するのか、得意分野で家事を分担するのかなど、自分たちで決めていく時代になったのだと感じさせられるシーンでした。

まさに家庭内でのリソースのマネジメントですね。

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あつた

どちらか一方ではなく、2人で家庭を運営しているという当事者意識を持って、限りあるリソースの中から意思決定をしていく必要がある。そういう意味で、「共同経営責任者」という言葉を使っています。

確かに、仕事で使うような思考フレームを活用して家庭を運営していく『逃げ恥』は、革新的なドラマでしたね。

そう考えると、仕事ではできていることが、家庭ではできなくなる人が多いですよね。

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あつた

そうなんですよ。たくさんの夫婦やカップルの話を聞いてきましたが、「仕事だったら対話できるんです」といった声は本当に多くて。仕事ではできるのに、パートナーには甘えちゃうんですよね。

最初は「家事をしてくれてありがとう」と伝えていても、時間が経つと言わなくなってくる。やっぱり関係性が近いからこそ、「言わなくても伝わるはず」「分かってほしい」という甘えが生まれてしまうのだと思います。

しかし、パートナーも価値観が異なる他人であることには変わりありません。「察してほしい」と願うことが悪いわけではありませんが、もしもそれが実際に伝わっていなかったときに、それに対して怒ったりするのは理不尽だと思います。それでは、押し付けですからね。

「仕事だったら対話ができる」という人は、仕事がオンで家庭がオフなのでしょうね。

でもそれって、どちらを起点にして考えるのかでスタンスは変えられるはず。仕事と家庭を主従や上下の関係で捉えるのではなく、別個で考えるべきなのかなと感じました。

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あつた

その通りですね。仕事で100%のエネルギーを使ってしまうと、家事は難しいですよ。育児もしているのであれば、仕事=60、育児=40くらいでエネルギーを配分するのが現実的ではないかなと。

マネジメントの視点を家庭に持ち込む考え方に対して、「家庭の中でくらい、仕事のような考え方からは離れたい」と感じる方もいると思います。

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あつた

確かに、「家庭でも職場みたいに運用を考えなきゃいけないのか」とよく言われます。でも、自分たちで考えないと、誰が家庭を回していくんですか? 家庭も組織じゃないですか。だから予算管理や家事のオペレーションの回し方について考える必要がある。

「家庭はリラックスする場所」というのは、一つの側面ではありますが、その場づくりをしていくのは自分たちです。その場の運営に自分も関わっているのだ、という意識が大事だと思いますね。

健全に対話を重ねながら、仕事と家庭を両立していくためには、必要な考え方のように思います。

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あつた

たくさんの夫婦を見てきた上で思うのは、仕事が順調な2人は、相手の仕事状況をよく把握していることが多いです。自分が日々「どんな人たち」と、「どんな仕事」をしていて、「どんなやりがい」を持っていて、「どんなプレッシャー」があるのか。

それを共有しておくことで、将来何か状況が変わったときにも、お互い融通を効かせやすくなり、それが将来の働きやすさにも繋がるはずです。

そして、仕事と家庭を健全に両立している夫婦・カップルの共通点は、2人の幸せの最大公約数を諦めないことです。

例えば、子どもができて時短勤務になっても、「じゃあキャリアは諦めるしかないね」とならずに「こういう仕事に転職してみたら?」などと2人で考えられること。我慢を最小限にして、2人の幸せを最大化しようと考えられる関係性だと、何が起きても強いですよ

2022年9月取材

取材・執筆:早川大輝
編集:桒田萌(ノオト)