”日本だけ明らかに際立つ”、オン・ジャパンのコミュニティビルディングとは?
単に「走る」「商品を売る」のではなく、他に類を見ないユニークなコミュニティ作りを行なっているオン・ジャパン。実は各国からも「日本だけ明らかに違う」と評価されているそう。彼らは、コミュニティメンバーをどのようにとらえ、どんな心構えでコミュニティと向き合っているのだろう。オン・ジャパン代表の駒田氏と、創業時からのメンバーである広報の前原氏に伺った。
Onの価値観を生きている人が、コミュニティメンバー
Onのランニングイベントには、さまざまな年代の方が参加していました。年代が変わると打ち解けることが難しいこともあると思います。
駒田:コミュニティメンバーの年齢層は10歳から90歳くらいまでで、中心になるのは25歳から60歳くらいですが、彼らは似通った性質を持っている気がしています。
新しいことにチャレンジする気持ちがあるとか、次はもっと良い自分であろうと願っていること、チームや人を大事にすること、少しでも地球に良いことをする、そして、なるべく前向きに。今あげたこの5つの考え方は、そのままOnの企業文化でもあるんですよ。こういう価値観を持って生きている人が、Onを好きになってくれています。
僕は、「Onの価値観を大事に生きている人」をコミュニティメンバーと定義づけているんです。そういう人たちは、年齢に関係なく話が合うんですよ。逆に、口を開けば会社の愚痴を言ってしまう人や、ついネガティブなことを言ってしまう人と、Onのユーザーはあんまり合わないかもしれないですね。
僕はOnの精神性や価値観、文化を、自分の生き方と重ね合わせながら、自分の言葉で一生懸命、広めていくつもりなんです。それに深く共感してくれた人が、自分の周りにも広めてくれる。すると、僕の知らないところでOnを好きな前向きな明るい人たちが増えてくるんです。その人たちがイベントに来て一緒に走ると、「会いたかったです」とか、「ようやく会えました」と言ってくれて。
OnFriends に自分は所属していると、自覚させるような仕組みはあるのでしょうか?
駒田:あんまりそれはしてこなかったですね。強いていうなら、「#OnFriends」のハッシュタグを作ったことですかね。Onを好きだという人が少しずつ増えてきたときに、この人たちが一体感を持つためには、何か一つ言葉が必要だろうなと思ったんです。それで、OnFriendsって言葉を作って、例のごとく僕が真っ先に投稿し始めたんですね。
それで少しずつ広まっていきました。「あなたは今日からOnFriendsです」なんて、そんなのはないんですけど、勝手に使ってくれる感じですね。「OnFriendsってなんですか?」って聞かれた時は、「Onの商品を好きな人はもちろん、Onの価値観や生き方が好きで、共感してくれる人はみんなOnFriendsです」みたいな回答をずっとしてきました。そしたらOnのシューズ履いてない時も#OnFriendsってハッシュタグつけているから、マーケティング的にはあんまり良くないかもしれないけど(笑)
日本人はコミュニティ作りが苦手なところもあると思います。しかし御社は、コミュニティをすごく切り拓かれています。
駒田:確かにみなさん、そんなに得意ではないかもしれません。Onのコミュニティメンバーも最初からオープンな人ばかりではありませんでした。だからそこは、工夫が必要ですよね。人は、気持ちが上がればハイタッチだってしたいんですよ。気持ちを上げるところまでどうやれるか。
まずはとにかく自分が目一杯楽しんでみせること。僕が企画者だから後ろにいて、仕掛けを撒くんじゃなくて、僕自身が全力で楽しむ。「俺がこんなに楽しいんだからお前もきっと楽しいだろ」って雰囲気を出すことですね。ハイタッチをしてくれるまでずっと手を出しているとか。
本当に、10年前の僕には考えられないです。最初は、演技ですよ。でも、そういうふうに自分の人生をかけて、演技をしてまでもコミュニティを盛り上げようとする人間は他の国にいないです。
”日本だけ明らかに際立つ”、独自のコミュニティビルディングとは?
このコミュニティ作りは、ジャパン独自のものでしょうか?
駒田:Onは全社的にコミュニティをすごく大事に考えていますが、「日本だけ明らかに違うことをやっている」と評価していただいていますね。
正直にいうと、きっかけは必要に迫られてだったんです。オン・ジャパンを立ち上げる前、前職の商社時代に、マーケティングに使えるお金がなかった。唯一できたのが、一緒に走ること。レースで一緒に走った人たちと、SNSでつながって、定期的にその人たちに向けて発信することでした。振り返ってみると、コミュニティーマーケティングという考え方が日本に浸透する前から近しいことをやっていましたね。
「お客様とつながること」は、世界中で当然取り組んでいることですが、ブランドの精神性まで理解したいエンドユーザーがこんなに集まってくるのは日本独自かもしれません。他の国のイベントは大体、試し履きシューズで一緒に走って、「よかったらシューズ買ってくださいね」っていうイベントなんですよ。僕はイベントをやる時、1足も売るつもりがないんです。ただ、Onと一緒にいると楽しいよっていう気持ちだけを持ち帰ってもらいたい。
例えば100人規模のイベントをやったとしても、100人に売るのではなく、100人を通じて売ることを考えた方がいいんです。100人がイベントに来て、10足しか売れなかったらそのイベントは失敗なのでしょうか?そういうことじゃないと僕は思っているんですよ。強力にOnのことを好きになって「一生のファンになりました」「オン・ジャパンの人と走るのが楽しいです」っていう人が一人でも地元に戻ってOnを広めてくれたら、それが成功だと僕は思うんですよね。
強烈なファンを一人でも増やすことが、結果として商品を売ることにつながると。
駒田:イベントでは全身にOnをまとって参加してくださる方が必ずいて、別の参加者の方に「あの人Onの人ですか?」と訊かれることもよくあります。
Onの掲げる生き方や価値観を共有してくれる会社もたくさんあるんですよ。そういった会社と一緒にイベントをやると、「今日はオン・ジャパンの社員さんがたくさんいましたね」と、言われることもあって、でも実はオン・ジャパンメンバーは僕しかいないとか。
前原:ランニングイベントを企画すると、頭から足元まで全部Onで揃えてきてくださる方が必ずいらっしゃいます。「Onの人ですか?」って訊かれると、すごく嬉しそうにしてくれて。Onのファンの方々が、口コミの力で少しずつファンを増やしてくれるので、本当に有難い存在です。
ファンの方々やパートナー企業と、本当に友達のようになっていますよね。先日、実際にイベントに参加してみて、駒田さんは若い人たちにもいじられてるなぁと思ってみていました。
駒田:年齢なんてただの数字だってずっと言ってますからね。彼らの中には僕より走れる人はたくさんいて、素直にすごいなぁっと思えます。どうやら彼らも僕のことを尊敬してくれているみたいですが、同時にめちゃくちゃいじってくる。
駒田:この10年で、駒田=Onと見てくれる人も相当増えました。これはもう事実なのであえて謙遜せずに言いますけど、そういう人たちが僕と接することで、Onと深く関わっているという実感を持てるみたいなんです。ブランドが自分たちに寄り添ってくれると。それが、強いコミュニティができる秘訣なのかもしれないですね。
「Onと繋がってる」と言っても結局、「誰と繋がっているか」だと思うんです。人と繋がっているからOnというブランドと繋がっているわけで。法人格と繋がるのは難しいですからね。だからうちの社員にもできるだけいろんなイベントに行ってほしいと思っています。すると「あなたが僕に商品を届けてくれたカスタマーサービスの人だったんですね」って会話が生まれるんですよ。「ブランドの中の人」じゃなくて、表に出て行くんです。
Onプロダクトに対する絶対の自信
社員である前原さんから見たOnの魅力とは?
前原:私は駒田と違ってもともとランニングが好きだったんです。そしてOnで働くにあたってキーワードになったのは「楽しく働くこと」でした。でも、「楽しい」と「楽」は違うし、もちろん簡単なことではありませんが…。
オン・ジャパンは2015年に駒田と、鎌田と私の三人で始めました。いま私はPRをやっているんですけど、創業当時はカスタマーサービスのチームにいました。カスタマーサービスをOnでは「ハピネスデリバラー」と呼んでいます。幸せを届ける人ですね。眉間にシワを寄せてつまらなそうに仕事をしている人に、ハピネスを届けることはできません。駒田の話にもありましたけど、やっぱり自分自身が楽しくあること。ランニングを楽しむとか、チームのみんなとどうやって楽しく過ごせるかを、優先順位高く仕事してきました。
また、Onの商品…シューズやアパレルが好きなので、それを身につけて働くこと、走ることを、純粋に楽しいと思っていました。同じ気持ちを持ったメンバーが少しずつ増え、大きくなってきたのがオン・ジャパンかなと思います。
前原:Onの商品を通して、皆さんにハピネスを届けられると私は信じています。「こんな素敵な商品があるよ」と、大切な友人や家族にも自信を持って勧められます。
定期的に私たちはスイス本国の開発メンバーに会いにいっているのですが、商品に対する彼らの思いを聞くと、ますますOnを好きになります。見た目のかっこよさ・可愛さだけではなく、科学的根拠を持って、どうすれば走る人がより楽しくなるかを色々な角度から研究しているんです。それを聞くと、本当にたくさんの思いがこのシューズに詰まっているのだなと感じます。
前原:私たちは、カスタマーサービスはコールセンターじゃないと思っていて。常に、お客様一人一人に向き合う気持ちでいたいです。商品をどこよりも速く、間違いなく届けること。こういった基本的なことをした上で、お客様の期待をどれだけ越えられるかですね。
もちろんミスはあると思います。でも、そのときにきちんと謝れるかどうか。どれもシンプルなことなんですけど、自分で実践してチームのみんなに見せてきたつもりです。
離れていても、同じ生き方をする人たちがつながる場所
今後の展望について伺ってもいいですか?
駒田:一言で言うと「つなぐ」。2020年の4月、5月、6月あたりにすごく思ったのが、小さいながらもつながりかけてきたコミュニティや人間関係が、離れてしまった。それが僕はすごく悲しかったし、時を同じくしてスポーツイベントもどんどん減ってきた。分断された上に、その人たちが集まるお祭りの場が無くなったんですね。でもようやく、うっすらつながりが戻って、お祭りが増えてきました。
人をつなげ、彼らが楽しめるお祭りの場みたいなものを定期的に提案していきたいです。そこで出会った人たちが各地に戻っても、いまはSNSがあるから、どんなに離れてもうっすらつながっていくじゃないですか。蜘蛛の巣というか、網の目のように、ブワーっとつながっていくイメージです。
そうすれば、この2年半で分断されかけてしまった、寂しかったものがまたつながっていくはずです。離れていても、同じ生き方をしている人たちがたくさんいるんだってことを発信していきたい。そうやっていると、「Onは自分たちの生き方を明るくしてくれる」って思ってくれる人が出てくるはずです。
うちの全社的目標は、NO1のスポーツブランドになるってことなんですけど、そこに到達するために、最も愛されるブランドであろうと思っているし、そのために人をつなげていくことが大事だと思うんです。
NO1のスポーツブランドになる以上のことが生まれそうです。
駒田:だといいですね。数字だけではなく、一人でも多くの人生を前向きに変えるとか。それはOnの企業文化、ミッションにも通じます。Onの企業文化は「行動を通じて人の魂に火を灯す」なんです。だから、お客さんたちの心に火をともすのが究極的には僕たちの仕事になるはずだなと思っています。
そのための手段としてアパレルとかシューズを届ける。受け取った人たちが、「これで新しいチャレンジをしよう」と思ったり、「走るって楽しいかもしれない」と感じたり。「フルマラソンに出たい」「次は、こういうふうにやって成長してみよう」と思う。
そういう行動を繰り返していただくことによって、人生が前向きに明るくなるでしょう、きっと。僕がそうでしたから。そのお手伝いをしたいと思います。その結果として売上があるんでしょうけど、さらに先には、Onとして望む世界が少しでも広がっているんじゃないでしょうか。スポーツブランドとして社会に貢献するっていうのは、そういうことだと思っています。