野球をするだけが球団じゃない! 香川オリーブガイナーズが目指す次世代育成・地域との結びつき(澤村俊輔さん)
四国アイランドリーグplusに所属の独立リーグ球団である香川オリーブガイナーズ。プロ野球を目指す選手たちの育成と共に、単なる球団運営にとどまらない地域での活動を展開しています。
プロスポーツにおける「学び・挑戦・地域とのつながり」という価値を生かし、探究学習プログラムや地域教育連携、企業・自治体との協働による次世代育成を積極的に推進。
「社会価値創出型の球団」として、共創を通じて社会課題の解決や地域の活性化を目指すというのは全国でも稀なケースと言えます。
香川オリーブガイナーズの野球チームの枠を越えた活動について、教員から社員数5〜6人の球団社長へと転身を果たした澤村俊輔さんに伺います。

澤村 俊輔(さわむら・しゅんすけ)
神奈川県横浜市生まれ。香川オリーブガイナーズ球団株式会社・代表取締役社長。学生時代から野球を続け、大学卒業後、神奈川県・鎌倉学園にて13年間、英語教員と中学野球部監督を務める。退職後、香川オリーブガイナーズのコーチを経て、経営に参画、2025年12月代表取締役社長に就任。自らの経験を生かし、新たな教育事業を創出、探究授業を運営する他、企業や自治体との連携、選手発掘などマルチに活動する。
共創の提案などのアイデアで球団再生。20人の観客が3000人に
そもそも、香川オリーブガイナーズはどのような野球チームなのでしょうか?


澤村
香川オリーブガイナーズ(以下、ガイナーズ)は、四国アイランドリーグplusという独立リーグに所属し、リーグ戦を戦うプロ野球チームになります。
独立リーグ?


澤村
独立リーグは、「セ・リーグ」「パ・リーグ」で知られる日本プロ野球(NPB)に所属していないプロ野球リーグのことです。


澤村
独立リーグは、2005年にこの四国アイランドリーグを発祥として設立されました。当時、不況で社会人野球チームが次々と削減される中、若者たちがプロ野球を目指す場を残すこと、また、NPB球団のない地域での町おこしをすること。
独立リーグは、このように人材育成と地域貢献の2つを目的としているんです。
まさに、もう一つのプロ野球リーグなのですね。


澤村
はい。ガイナーズの場合、所属選手は大卒者が中心で、将来は野球でキャリアを作っていきたいと考える選手が集まり、切磋琢磨しています。
各選手は、NPBはもちろん、世界各国での活躍も視野に入れています。最近、中南米やヨーロッパなど世界中で野球のプロリーグが増えていますから。
世界まで目が向いているのですね。


英語教員・野球部監督。全国大会に出て感じた壁
現在、香川で球団経営をしている澤村さんですが、元々は関東で学校の先生をされていたと伺いました。


澤村
鎌倉学園という中高一貫校で13年間、英語の教員をしていました。
在職中は、中学野球部の監督もしていたのですが、絶対全国大会に行くことしか考えていなかったですね。
もちろん授業も手を抜きたくなかったので、ものすごく勉強して準備をしていましたし、総合学習にもとても力を入れていました。


それだけ熱のこもった鎌倉での教員生活から、なぜ香川へと向かったのですか?


澤村
教員になって10年目くらいの頃、野球部創部以来、初めて全国大会に行くことができたんです。そこで名門・明徳義塾中学と2回戦で当たったんですね。
自分が監督の立場で明徳と対峙するというのは、野球人として心躍る経験でした。でも、大会が終わったあと、「こんなものなんだ」と思ってしまったんです。自分が人生を懸けたいほどのものではないのかもしれない、と……。
想像したほどの高揚感ではなかった?


澤村
そうですね。それに加えて、総合学習でも自分の担当した学年が全国で認められて。「授業もやりきったのかもしれない」という気持ちになってしまったんです。
同時に、ちょうど子どもが生まれて、「この子に、これから自分が誇れる背中を見せていけるのかな……」と思っていたとき、ガイナーズの先々代の社長・福山敦士から「香川で球団を経営することになってね」と言われたのです。
福山さんとは元々お知り合いだったのですか?


澤村
高校、大学と一緒に野球をやった仲です。社会に出てからもありがたいことに縁が続き、共感できる部分もたくさんあって、鎌倉学園では一緒に探究授業を立ち上げてきました。
サイバーエージェント出身の連続起業家でもあった福山が球団を経営するという言葉に「一体、どういうことだ?」と思いつつも話を聞いていくうちに、「面白そうだな」と感じはじめて。
そこから家族会議を開いて、これから人生に何を懸けていくのか、どう生きていきたいかを話し合い、鎌倉から香川に来ちゃったって感じですね。
ガイナーズの財政危機を救ったのは「スポンサー企業」との共創
とはいえ、教員からの球団経営はかなり大きなキャリアチェンジですよね。



澤村
私もちゃんとビジネスをやるのは初めてでしたから、2025年末までは、福山とずっと一緒に仕事をしていました。
福山のアイデアや行動力にどんどんインスパイアされ、いつの間にか、いろいろ考えるようになっていましたね。どうせなら人生いろいろなことをやってみたいですから。
福山さんが継いだ頃、ガイナーズは大きな経営の危機に直面していたと伺いました。


澤村
そうですね。福山がガイナーズの経営を引き継いだ2023年当時、ガイナーズを支えてくれる企業数は30社ほど。
さらに財務面でも赤字になるなど危機的状況、観客は平均150人程度、少ない時だと20人だったそうです。
それは大変ですね……。その状況から、一体何をしていったんですか?


澤村
支援してくださる企業に対して、単なるスポンサーとしてだけでなく、「ガイナーズとさまざまな形で共創していきましょう」と提案すると決めたんです。
球場にスポンサー企業の名前を掲げるだけではなくて、ガイナーズと共創することでそれぞれの企業にとってきちんと課題解決になる提案をしていけばいいのではないかと。
課題解決?


澤村
その一つが学校の探究学習での共創です。たとえば、スポンサー企業の中に、人手不足で採用が厳しい地域密着のゼネコンさんがいたんです。
その企業は地元での人材採用のために、建築科のある地元の高校で授業をして、学生に認知をしてもらいたい……。でも、企業が学校に行くと、どうしても営業のようになってしまい、なかなかうまくいかない。
そういうご相談をいただき、私たちガイナーズが間に入って、一緒にやることにしたんです。
どうやって進めたのですか?


澤村
まず企業側の言いたいことを全部、私がヒアリングし、プリントや授業案、スライドを起こしました。そして学校へ提案し、社員の方も同席で、私が授業をファシリテートしたんです。
この時は、私たちの球場で学生の制作物のアート展を行い、観客からの投票や、この企業の社員からの表彰を行うことになりました。
それに合わせて、この企業の良さや仕事の紹介、この企業と行うスタジアム企画に「みんなも一緒にやりませんか?」といった授業を行ったんです。


澤村
これがとても盛り上がって。
企業と学生が一緒にプロジェクトに取り組むことで、学生が企業のファンになり、実際の採用にもつながっていきました。
実際に社会とつながった内容に取り組めるのは、学生にとってもプラスの体験ですね。
しかも、澤村さんは学校や教育のことをよくご存知なので、学校側も安心してご一緒できるという。


澤村
ありがとうございます。
今ではガイナーズがスポンサー企業と一緒に作る探究授業の実績が、全国のいろいろな学校で少しずつ増えてきました。


澤村
このような提案をする中で、提携企業は300社ほどに増え、ガイナーズの財務もある程度安定しました。

球団、学生、企業、地域をつないで共に創る・共に育つ

澤村
一方で学生たち側にも「社会実験の場として球団を使っていいよ、それに私たちが伴走するよ」と伝えていて。
そういう共創も生まれています。


澤村
社会から隔離された教室で国語や数学を学ぶだけではなく、実践社会で何かに取り組む。そして、中高生の段階で自分たちの考えを社会に発信してみる。これは本来の教育のあり方の一つだと思っています。
そして、彼らの最大の強みは失敗できることだと思うんですね。だから、球団を良くするために学生に意見、アイデアを恐れずにどんどん出してもらう。
たぶん、学生が企画できるプロチームなんて日本で1個だけだと思っていますから。
球団も学校も企業もお互いにできることを出しあって、共に育っていこう、なんですね。


澤村
おっしゃる通りです。まさに町自体が学校になればいいと思っています。そして、未来をみんなで作っていく。それが、徐々に郷土愛やシビックプライドを生み出していくのではと考えています。
香川って、大学で県外に出てそのまま就職する方が沢山いる人材流出が多い県なんです。ガイナーズがハブとなって、「香川にもこんなに良い企業があるんだよ」と学生のうちに伝えていけたらいいなと思ってやっていますね。
「共創のプラットフォーム」でありつつ、真正面から野球に向き合う
本当にいろいろなところで共創が生まれているのだなと驚きました。
プロ野球チームとは思えないですね。


澤村
私たちは、ガイナーズを「さまざまな共創メニューを実装したプラットフォーム」であると定義しているんですね。我々は授業もできるし、授業から派生したイベントもできる。
スポンサー同士や自治体ともつなぐこともできます。さらに、引退する選手の採用や子どもたち向けのアカデミーもご一緒できる。
スポンサーの企業さんに向けては、そうやって私たちができる「共創メニュー」を、全部一式で提案しています。


澤村
球団はあくまでも起点。まずは選手を育成し、子どもたちや学生を育てる教育事業、若くして引退する選手のセカンドキャリア支援も含め、人手不足の企業と人材のマッチングなどの人材事業を段階的に進めていく。
これを「香川モデル」として確立、他地域にも展開していければと考えています。


澤村
そうして、他にはないプロ球団と香川の独自モデルを作り上げ、いずれは、うどんと並ぶ存在になり、ガイナーズも香川でNPB球団以上の盛り上がりを作るのが目標です。
2025年には球場での集客に力を入れ、開幕戦には2000人、花火を打ち上げた日には3000人もの方に来ていただくことができました。
ところで、こういった地域の活動を野球選手の皆さんはどう感じていらっしゃるんでしょうか?


澤村
幼稚園での野球教室なども行っているのですが、選手たちも本当に楽しそうなんですね。


澤村
自分が誰かの役に立っているという実感を得て帰ってくるのでしょうね。子どもたちから元気をもらってくるようです。
「このイベントは行きたいです」と自分から進んで行ってくれる選手もいます。


澤村
選手たちは、「どうしてもプロになりたい」という決意で野球のために来ていますから、このような活動は意外かもしれません。
ただ、実際にやってみて、意味のあることなんだと気づいてくれているのだと思います。
改めて澤村さんは、大きなキャリアチェンジをして香川に来たことをどう思っていらっしゃいますか?


澤村
何の後悔もないです。やっぱり鎌倉にいたらわからない世界がここには広がっている。そして、何かを追い求めるのではなく、今このプロセスそのものを楽しめるようになってきたかな、と。
スティーブ・ジョブズの有名なスピーチ「Stay Hungry Stay Foolish」の中に「Connecting the dots」という言葉があります。
元々、これが座右の銘で。教員をやっているときは、英語の最後の授業でこのスピーチの原文を読んでいたんです。
素敵ですね。


澤村
「Connecting the dots」とは、点と点がつながっていくには行動しなければならないし、打算的にはつなげられないよという内容です。
でも、今の教育って打算的だなと感じるんです。大学に入るために勉強して、目的の大学に入ったら望んだ企業に入れて、人生が順調に進んでいく……。なんて、実際は思い通りにはいかないものだし、むしろその方が面白いと思っているんですよ。
逆に、自分がチャレンジしたいことをやっていけば、おのずとご縁がつながっていくと信じています。死ぬときに後悔しない選択をしていきたいので、きっとまだまだチャレンジしちゃいますね。
ご自身は、これからどんなことにチャレンジしていきたいですか?


澤村
これまでは、野球以外の部分に大きく価値を作ってこられたかなと考えているんです。
そこで、ここからはやはりもう一度しっかり球団として、本業の野球に向き合っていきたいと思っています。
最近、球場にようやく3000人くらいを呼べるようになりましたが、そこに満足することなく、この本当に不便な立地に1万人を集めるのを目標にやっていきたいと思います。


澤村
今は本当に弱いチームなので、もっと強化するために良い選手を獲得し、育成していきたい。そして、NPBや海外リーグに選手たちをどんどん羽ばたかせていきます。
さらに、教育事業では、より多くの子どもたち、学生たちに充実した授業を届けていきたいです。続けていけば、おのずとガイナーズの価値がより一層高まっていくのではと思っていますね。
2026年5月取材
取材・執筆=わたなべひろみ
アイキャッチ制作=サンノ
編集=鬼頭佳代/ノオト


