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愛犬と出会い、人生の第2ステージへ。「丁寧に、誠実に、こつこつと」をモットーに共創の輪を広げた“おでかけわんこ部”という場(小西恵子さん)

犬と行けるカフェやドッグランなどの情報を発信する「おでかけわんこ部」。愛犬とおでかけすることで救われた原体験から、小西恵子さんが立ち上げたメディアです。

おでかけ場所の紹介にとどまらず、飼い主向けのマナー講習会や、ペットツーリズムやペットフレンドリーに関する取り組みなど、人間とペットの共生社会を目指して多岐にわたる活動を展開しています。

かつては銀行員、Web制作会社というキャリアを重ねてきた小西さん。ある辛い経験をきっかけにメディアを立ち上げ、「幸せにしたい人(ユーザー)ができた」と話します。

同じ思いに共感した人がメディアに集い、名前の通り「部活動」のようなコミュニティを形成するまでの歩んできた道のりと、大切にしてきた想いを伺いました。

小西恵子(こにし・けいこ)
株式会社tent tent代表取締役。滋賀県守山市出身。大学卒業後、三井住友銀行での営業職、Web制作会社での勤務を経験する。引きこもりになってしまったことがきっかけで出会った愛犬との時間が原動力となり、愛犬とのおでかけ情報メディア「おでかけわんこ部」を開設。

銀行、Web制作──メディアを立ち上げるまで

小西さんの今のお仕事について教えてください。

小西

わんちゃんとおでかけできるスポットを紹介しているメディア「おでかけわんこ部」を運営し、「飼い主さんとわんこをHAPPYにする」をコンセプトに「情報発信しています。現在、Instagramのフォロワーは9万人を超えました。

小西さんはこれまで、銀行で働かれていたこともあったとか。

小西

はい、新卒で入社して、融資担当として勤務していました。

でも、特別に銀行にこだわっていたわけではなくて。私は関西出身で、就職当時は「関西から離れたくない」という思いがすごく強かったんです。

全国転勤がない職業で待遇面も良く、専門性のある仕事に就きたいと、安定志向で銀行を選んだという感じでしたね。

なるほど。

小西

大企業のいろんな社風を間近で見ることができとても勉強になりましたし、銀行で働くこと自体は嫌いではなかったんです。でも、ふと「10年後も同じことをしているんだろうか」と考える瞬間がありました。

「会社の中で与えられた仕事をこなす」という意識が強くて、自分のスキルや好きなことを全て出し切れている感覚がなくて。

ちょうどその頃、大学時代にゼミのホームページを作っていたときのことを思い出して、また「ものを作る仕事がしたいな」と思うようになったのがきっかけで、Web制作会社に移りました。

全く異なる職種への転向だったんですね!

小西

そうですね。銀行で学んだ社会人としての基礎的なマナーや組織の中での立ち回り方、Web制作会社で学んだユーザー目線の意識などは、現在にも活きていると思います。

笑顔を思い出させてくれた1匹のポメラニアン

「おでかけわんこ部」を開設したきっかけは何だったのでしょうか?

グラフィカル ユーザー インターフェイス, Web サイト

自動的に生成された説明
わんちゃんと一緒におでかけできる施設について情報を発信している「おでかけわんこ部」(https://odekake-wanko-bu.com)
グラフィカル ユーザー インターフェイス, テキスト, アプリケーション, チャットまたはテキスト メッセージ

自動的に生成された説明
サイトには検索機能もあり、おでかけできる施設を探すことができる

小西

実は、Web制作の仕事をしていた頃に結婚したのですが、流産を3度経験したんです。体調も気持ちも本当にきつくて。

3年間はほとんど引きこもりのような生活になり、人生に対して前向きな気持ちを持てなくなっていました。

そうだったんですね。

小西

そんなとき、母に「犬を飼ってみたら?」と勧められて。地元・滋賀県のブリーダーさんの元に生まれたポメラニアンに会いに行くと、その子犬がぺろぺろ顔を舐めてくれたり、洋服に入ってきたりして……。自然と笑顔になったんですよね。

「私、笑えるんだ!」とびっくりして。「この子を迎えたら、私の暮らしも人生も少し変わるかもしれない」と思って、その子と一緒に暮らすことを決めました。

そこで出会った子犬をお迎えし、「きなこ」と名付けたそう(提供写真)

愛犬・きなこちゃんを飼い始めて生活はどう変わりましたか。

小西

引きこもりのような生活だったのが、犬と暮らすようになってからは自然と外に出るようになりました。散歩に行くときに季節を感じたりして。私にとって、外の空気を吸ってリフレッシュできる大事な時間になったんです

特に当時は気持ちが落ち込んでいたこともあって、犬との「おでかけ」が私自身の救いでもありました。

その経験が「おでかけわんこ部」立ち上げにつながったんですね。

小西

はい。愛犬のきなこはいろんなところに行くのが好きで、ドッグカフェなどに遊びに行くと自然と友達も増えていったんです。

友達と「次どこ行く?」「ここよかったよ」みたいに話していくうちに、どんどん行動範囲も広がっていきました。

いいですね……!

小西

でも当時は、犬と一緒におでかけできる場所の情報が本当に少なかったんですよね。

あったとしても、個人のブログだったり、写真が掲載されてなくてどんな場所かわからなかったり。本当に欲しい情報が見つからなくて。

だったら自分で情報が集約される場所を作ってみようと思ったのが、「おでかけわんこ部」の始まりでした。

きなこちゃんとおでかけしている様子(提供写真)

周りの人をどんどん巻き込んでいく「おでかけわんこ部」

現在はメディアとしてしっかりと運営されていますが、当初は1人で始めたのでしょうか?

小西

そうですね。最初は私1人で小さく始めたメディアでした。まずは今あるWeb制作のスキルなどを活かして、何か始めてみたいなと思って。2019年のときのことでした。

ありがたいことにユーザーも増え、2020年には法人化して、役員4名と業務委託メンバー10名くらいで運営しています。

ちなみに業務委託のメンバーは全員、もともと「おでかけわんこ部」のユーザーさんだったんですよ。こうして仲間が増えていくのは本当にうれしいです。

1年に1回は全員で集まる感謝祭も開催。メンバーのわんちゃんも一緒に(提供写真)

小西

あと、ユーザーさんにもたくさん助けられています。

たとえば、運営メンバーだけではキャッチしきれないおでかけ情報をお寄せいただいたり、写真撮影時にモデル犬としてご活躍いただいたり……。

「おでかけわんこ部」ではその場所のリアルを伝えるために写真のクオリティも大切にしているのですが、いつもユーザーさんとその愛犬が写真に登場してくれて、自然な姿を見せてくれるんです。

今やInstagramのフォロワー数は9万人超! たくさんの方が「おでかけわんこ部」のメッセージや、小西さんの思いに共感されているから、メディアとしても成長してきたわけですよね。

小西

ありがたいですね。おでかけわんこ部を見てくださる方は、すごく意識が高い方が多いんですよ。たとえば、飼い主さん自身のマナーや、わんちゃんに対するしつけなど。

ユーザーのみなさんも、単に「犬と一緒に出かけるのが楽しい」というだけではなく、犬が苦手な方への配慮も含めて、みんなで犬と人が暮らしやすい社会を目指しています。メディア名の通り、「部活動」のような感覚ですね。

だからこそ、愛犬にまつわる事業者さんからも注目していただいるのかなと思います。

犬の顔と文字の加工写真

自動的に生成された説明
おでかけわんこ部では、オリジナルで「DOG OKシール」を作成し、全国の愛犬同伴OKの施設への配布を進めている。

愛犬に救われたからこそ、同じように幸せになってほしい

お仕事をするうえで、いちばん大切にしていることは何でしょうか?

小西

「丁寧に、誠実に、こつこつと」という言葉を大切にしています。対応が丁寧か、誠実かを常に考え、「おでかけわんこ部」らしくないと思われることはしないように。

たとえば、企業さんからPRのご相談をいただいたときに基準にしているのは、「本当に飼い主さんにとって有益な情報なのか」。

「丁寧か、誠実か」という軸に立ち返って、常に情報を精査しています。

全国のわんちゃんと、おでかけわんこ部のユーザーさんへの誠実さを感じます。その根底にあるのはどんな思いでしょうか?

小西

私自身、愛犬との出会いやおでかけの時間に救われ、引きこもりだった状態から社会に戻ってくることができました。

だからこそ、「かつての私のような存在や、愛犬と一緒に過ごす人たちを幸せにしたい」という気持ちが原点にあるように思います。その軸は今も変わっていません。

きっと、その思いがスタッフや多くのユーザーに伝播して、「おでかけわんこ部」という場が豊かになっているのではないでしょうか。

小西

だとすると、すごくうれしいですね。私にとって大きなやりがいは、やっぱりユーザーや飼い主さんに喜んでいただけることです。

今もDMを通じてうれしい言葉をいただくことが多く、かつてのユーザーさんが「もう愛犬は亡くなってしまったけれど、お礼が言いたくて……」と連絡してくださることもあって。

ユーザーさんとわんちゃんに幸せな瞬間を届けることができたんだな、と感じられる瞬間が一番のやりがいですね。

運営している方も幸せになれるエピソードですね。小西さんが自分らしい仕事をつくりあげていったのだな、と感じます。

小西

実は10年前は、まさか自分が起業するだなんて思ってもいなかったんです。

それまでは銀行に入行して、社会における大きなレールに乗りながら「こうやって生きた方がいいだろう」と思いながら生きていました。

辛い時期もありましたが、これが原体験となり、好きなことと幸せにしたい人ができて、求められているけどまだ誰もやっていないことをお仕事にできた。「こうやって生きた方がいい」から、「こうなりたい」と思えるようになり、人生の第2ステージが始まったと思っています。

人生の第2ステージ……。

小西

自分の全部をさらけ出したから、応援してくれる人が集まってきてくれたし、一緒にやりたいと思ってくれる仲間もできました。

共感してくれる人がたくさんいるから、今はそんな皆さんの思いをまといながら仕事をしている感覚です。

素敵です。

小西

もし今、やりたいことがある方には、小さなことでも一歩踏み出してみてほしいですね。

人生にはいろんなことがありますが、好きなことで生きていく自分を10年後の自分が描けるのであれば、楽しそうだなと思う方向へ進んでいってきっと大丈夫だと思いますよ。

宮野 玖瑠実
宮野 玖瑠実

【編集後記】
取材を通じて感じたのは、「おでかけわんこ部」がただの情報サイトではなく、“部活動”のように広がってきたコミュニティだということです。ユーザーがそのまま仲間=メンバーになり、共に「おでかけわんこ部」を育てていく。その循環に驚かされました。実は私自身も実家に犬がいて、飼い主として「こんなサイトがあってくれて本当に助かる」と感じながらお話を聞いていました。
今の小西さんの姿勢は、さまざまなご経験を経たうえで、たどり着いたものだと思います。その仕事への向き合い方に、1人の女性としても大きな刺激を受けました。(株式会社オカムラ WORK MILL 編集員 / Sea コミュニティマネージャー 宮野 玖瑠実)

2025年7月取材

取材・執筆=いわさきはるか
写真=古木絢也
編集=桒田萌(ノオト)