上質な意思決定を増やし、議論をクローズにしない。会議がもたらす「無駄」を省くヒント (MeetingBase 事業責任者 ・橘大地さん)
何度も会議をしているのに、物事が決まっていかない。会議に多くの時間をかけているのに、期待していた進歩が見られない。
そんな疑問を感じたことのあるビジネスパーソンは少なくないでしょう。
他者と仕事をする上で、会議は必要不可欠なもの。それでも会議に「無駄」が生じがちなのは、どうしてでしょうか。
今回は、会議の効率化を図るクラウドサービス「MeetingBase(ミーティングベース)」を開発した、弁護士ドットコム株式会社の橘大地取締役にインタビュー。
サービスリリースのきっかけになった会議のあり方への疑問や、会議を通して本質的な成果を得るためのヒントを伺いました。
橘大地(たちばな・だいち)
弁護士ドットコム取締役。弁護士(第二東京弁護士会)。MeetingBase事業責任者。2015年に、クラウド契約サービス「クラウドサイン」を開発。著書に『ベンチャー経営を支える法務ハンドブック』(第一法規)がある。
会議での決定事項を次の実行に移すための「MeetingBase」
まず、「MeetingBase」とは、どのようなツールなのでしょうか?
橘
MeetingBaseは、会議を効率化するクラウドサービスです。基本的には議事録を書くツールなのですが、ミーティング自体を改善し、実行力を高めるためのソリューションとして開発しました。
確かに、ミーティングの議事録には特別なルールがないため、どのように活用すれば実行力が高まるのかが気になります。
具体的にどんな特徴があるのでしょうか?
橘
主に3つあります。
1つ目は、アジェンダの可視化。会議には、「今日の議題は不明瞭だな」「やるべきことがわからない」といった課題を感じながら臨む人は少なくないですよね。
そこで、ミーティングで取り組むべき課題や、議論を経て決定した内容が整理できるデザインを施しています。
橘
2つ目が、リアクション機能。決定事項に対して参加者がスタンプで反応するものです。
橘
3つ目が、タスクの割り振り機能。会議中に決まった内容に対し、参加者が次にどんなことを行うのか、「期限」と「担当者」をわかりやすく明示できます。
これまでの課題とその解決、そして次にやるべきアクションがすべて可視化できるツールなんですね。
すべての議事録のフォーマットになりそうです。
橘
そうですね。また、このツールを組織全体に導入することで、議事録を一元管理し、ナレッジの集約もできます。
権限があれば、同じ時間帯に組織内の別の場所で開かれている会議の議事録を見たり、リアクションを押したりできます。
自分の参加しているミーティングだけでなく、組織全体でさまざまな議論や決定事項を把握できますね。
橘
一般的に、議事録をとる習慣があっても参加者以外には共有されない……といったことは少なくないですよね。
MeetingBaseを使うことで、部署間の垣根を越えてノウハウを共有できますし、生産性向上のカギになると思います。
実際に取り入れた組織には、どんな変化が生まれていますか?
橘
導入企業では、会議時間が半分に減り、意思決定の数は2倍に増えたというデータもあります。会議の無駄を省き、密度の高い議論ができるようになった、という声もいただきました。
今はZoomやGoogleMeetのように、オンライン会議ツールもあります。
MeetingBaseは違った視点からのソリューションツールになりますね。
橘
私が着目したのは、会議がもたらす「無駄」でした。今はオンラインでのミーティングが普及することで気軽に会議ができるようになりましたが、「無駄な会議」というものはオンラインだろうがオフラインだろうが関係ないんです。
会議自体を効率的に運営できなければ、根本的な問題は解決しません。
会議の効率化とは、「意思決定」を瞬時に行うこと
今はZoomやGoogleMeetのように、オンライン会議ツールもあります。
MeetingBaseは違った視点からのソリューションツールになりますね。
橘
前提として、そもそも企業の役割は大きく3つあると思っています。
・お客さまに価値を提供すること
・利益を出して株主に還元すること
・しっかり雇用をして働く人を幸せにすること
だからこそ質の高い意思決定を、瞬時にたくさん行う必要があります。時代の変化に合わせて舵取りをしなければ、あっという間に事業の価値が失われたり、競合他社に先を越されてしまったりしますからね。
なるほど。では、会議のもたらす「無駄」とはどんなものでしょうか?
橘
・会議で何が決定したのか
・誰に決定されたものなのか
この2点が会議の後に抜け漏れてしまう状態のことです。
その結果、決定事項の半分も実行されなかったり、うまくチームでの連携ができなくなったりして、事業が進まなくなってしまうわけです。
確かに、決めたことが実行できなければ、それもまた会議の「無駄」になりますね。
橘
他にも、8人が会議に参加しているのに2人しか発言していない、なんて状況もありますよね。
会議は、自分1人では解決できないものを他者と解決するための場であり、素晴らしい行為だと私は思っていて。それなのに、多くの人が無駄だと感じているのが現状です。
それでは、モチベーションも上がりません。会議をもっと楽しく、そして仕事をもっと楽しくできたら……。そんな思いが、MeetingBaseの開発につながりました。
さまざまな層によって異なる、会議がもたらす「無駄」
会議における課題は、立場や年代によっても違いそうです。
たとえば、経営層・管理職は組織の状態を把握するためにも、会議ごとに何が決定されているのかを知る必要がありますよね。
橘
橘 その通りなのです。しかし、管理職の人はさまざまな会議やタスクに追われ、メールやメッセージすら確認する時間もなく、どこでどんな決議が行われたのかがすべて把握しきれないことも多々あるのが実情です。
だからこそ、他の会議でも何が決まったのかをすばやくキャッチできるツールが必要なのです。
一方で、経営層でない若手の社員にとっても、異なる意味で会議の「無駄」が生じていそうです。
橘
若手であればあるほど決定権をもっておらず、会議での発言機会が少ないのは悩ましいです。
「自分の発言は上司の時間を奪ってしまうのではないか」と気を遣ってしまったり、口頭で込み入った意見をするのは勇気が必要だったり。
せっかく会議に時間を割いているのに、若手社員は主体性を発揮できず、結果的に「無駄」な時間になってしまう。
一方若手だからこそ、遠慮がちな気持ちになってしまうのですね。
橘
でも、当社で実際にMeetingBaseを使ってみると、あることがわかりました。それは、口頭ではなく文章上ならば、若手も意見が言えるということです。
MeetingBaseでは、議事録に対して、参加者がリアルタイムでスタンプを押したりコメントを書いたりできるのですが、若手社員からのリアクションはかなり多くて。
口頭ではなく、チャットならば意見を述べることへのハードルが下がるんですね!
橘
今、コミュニケーションはテキストやチャット、スタンプが主流になっているじゃないですか。
スタンプで気持ちを表現したり、コメント欄で気軽に質問や提案をしたりできるようになることで、会議への参加の度合いが高くなっています。
慣れた方法だと、参加がしやすいんですね。
橘
その結果、8人中2人しか発言できていないといった状況がなくなり、全員がきちんと参加できる会議になる。
現代では、「ただ言われるがままに仕事をやる」というよりも、納得感を持って仕事をしたいと考える人が増えています。
特に成長意欲の高い方は、自分自身が意思決定をしたい、意思決定の背景を理解して行動したいと考えている。
会議は意思決定の場数を踏むチャンスの場。発言の数を増やして、より意思決定に関わることで、仕事への意欲も高まりますし、大きな成長になると思います。
効率良い会議に変えていくためのヒント
MeetingBaseのようなツールを活用して会議の生産性を上げられる組織がある一方、現状で会議の改善に進めないケースもあるかと思います。
まずは、何から取り組んでいけば良いでしょうか?
橘
企業は、社会に比べて新陳代謝がしにくいものだと思っていて。なぜなら、閉じられた世界で閉じられた意思決定をしてしまいがちだからです。
だからこそ、会議を一部の人だけのものにしないことが大切です。コメント機能などで参加者全員が発言できる場を整えたり、決定事項を共有したりすることで、全員参加型にする。
十人十色の意見を持ち寄って、適切な意思決定をできるようにしていきたいですね。
発言が苦手な人はどのように取り組めばよいでしょうか。
橘
会議中の発言が苦手な人はもちろんいると思います。大切なのは、自分が正しいと思うことをしっかりと言い続けることです。最初は小さな声でも正しいことを言い続ければ、いつか周囲が聞く耳を持ってくれるはずです。
僕自身、若い時に契約書などにハンコを押す押印文化に疑問を持ったことがあります。その改善を社内で訴え続けて、2015年に契約書や発注書の電子契約ができるサービスをリリースしました。
橘さんご自身も、発言や意思決定を重ねることで、大きな一歩を踏み出す経験ができたということですね。
橘
その通りです。私と同じように押印文化の改善を多くの人が望んでいたにもかかわらず、長年放置されてきた問題だったんですね。
会議についても、「無駄だと思っているけれど、これが当たり前。今さら変えられない」といった意識が蔓延しているからこそ、だれも変革に挑戦していないわけです。そんな状況に疑問があるなら、ぜひ変えていきましょうと言いたいですね。
橘さんご変化を恐れずに、さまざまなことをブラッシュアップしていきたいものですね。ありがとうございました!
2024年2月取材
取材・執筆:奥野大児
編集:桒田萌(ノオト)