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抹茶の「侘び寂び精神」から学ぶ、正しい休み方 ― 株式会社千休・久保田夏美さん

いろんなことがやりたくて、つい休みの時間を省いてしまう。一生懸命仕事に打ち込みすぎて、スケジュールにいっぱい予定を詰め込んでしまう――。

宇治抹茶のスイーツやドリンクなどの商品を取り扱う株式会社千休の代表・久保田夏美さんも、そんなビジネスパーソンの一人でした。彼女の忙しい日々に癒しを与えてくれたのが、抹茶による「静」の時間。

現在、久保田さんはご自身の体験をもとに、20~40代の女性をターゲットに、抹茶を通して「静」の時間を生み出す商品を提供しています。 ライターやPR、デザイナーなどを経て、自ら会社を立ち上げた久保田さん。その歩みを伺いつつ、ビジネスパーソンが取り入れたい「侘び寂び」の考え方や「静」の時間を形にする抹茶の楽しみ方を語っていただきました。

久保田夏美(くぼた・なつみ)
株式会社千休 代表取締役。大学を卒業後、IT企業でエンジニアとして勤務する傍ら、学生時代から続けていたPRやライターなどの複業も実践。独立後、大好きな抹茶に関わりたい思いから会社を創業。

京都府産宇治抹茶100%使用のドリンクやスイーツを展開

今日は、久保田さんが手がける抹茶ブランド「千休」のお抹茶を用意いただきました。とても飲みやすく、デザインもとても柔らかく優しい印象を受けます。

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抹茶カプチーノ「はなえみ」。お湯に注いで簡単に抹茶ドリンクが楽しめる
https://risephoto.net/

久保田

ありがとうございます。千休は、「商品をきっかけに感謝の時間をつくりだす」がコンセプトの抹茶専門ブランドです。京都府産の宇治抹茶を100%使用した、オリジナルの宇治抹茶スイーツとドリンクを販売しています。

私が毎日でも飲みたいもの、食べたいと思えるものを意識して作っています。すべて無着色・無香料で、お湯や牛乳に溶かすだけで手軽に飲めるんですよ。

スイーツも、小麦に含まれるグルテンを気にしている方でも安心して食べられるよう、米粉を使った抹茶フィナンシェなどを展開しています。

抹茶のフィナンシェ「たまゆら」

久保田

「心に晴れのいっぷく。」というメインのキャッチコピーも、「雨の日も趣があって良い」という茶道の精神が元になっています。

一般的に雨の日は気分が落ち込んだり、だるくて嫌だと思う方が多いかと思うのですが、雨音が心を癒してくれたり、雨によって野菜や植物が育つと考えることで感謝の気持ちが生まれたりもします。

このように「気分が落ち込んだ日でも千休の抹茶を口にしたら心が晴れるようなひとときを生み出したい」という想いを込めたブランドになっています。

カフェでの出会いから、農家を訪ねるくらい抹茶に熱狂

久保田さんと抹茶との出会いについて教えてください。

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久保田

中学時代に友達と頻繁にカフェに行くようになったのですが、私はコーヒーも紅茶も飲めなくて。それで選択肢として残った抹茶ラテを飲んでみたところ、おいしくて。それが好きになったきっかけです。

また、元℃-uteの鈴木愛理さんのファンだったのですが、ちょうど彼女が抹茶で有名な京都府宇治市の宇治抹茶大使に就任して。彼女を追いかけていくうちに、どんどん抹茶が好きになりました。

アイドルファンが高じて、抹茶ファンになった、と。

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久保田

大学生になってからは、抹茶のスイーツだけでなく、和菓子の練り切りをお茶と合わせて飲むのが好きになりました。

すると、抹茶の種類の豊富さや産地による味の違いに気づいて、お茶の専門店や農家さんを訪ねて直接話を聞くようになったんです。

のめり込み方がすごいですね!

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久保田

オタク気質なのか、好きなことについては徹底的に知りたいという欲求があって。

また、大学生の頃からブログを書いて発信したり、ライター業でインタビューや、起業家や経営者を呼んだイベント運営のお手伝いもしたりしていたので、直接話を聞くことの大切さを感じていました。

新卒パラレルワーカーを経て独立・起業

今は抹茶一筋ですが、大学時代は複数の仕事を掛け持ちし、パラレル的に活動されていたんですね。

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久保田

そうですね。普通の大学生の稼ぎ方ではなかったかもしれません(笑)。

朝はマクドナルドでアルバイトして、大学の授業に出る。そして、夜はサークルに行ったり、ライターの仕事をしたり、企業の商品を紹介するPRの仕事をしたりしていました。

かなり忙しくされていたんですね。

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久保田

暇だといろいろ考えて不安になってしまうので、中学時代から予定を詰め込みがちでしたね。小さい悩みは悩んでも変わらないと思って、それを考えないように動き続けていました。

大学卒業後はどのような進路を選択されたんですか?

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久保田

理系だったので、そのまま大学院に進学するか、それとも企業に就職するか、フリーランスで働くか、起業するか、とても悩みました。

その結果、一度は会社に就職した方が良いと思い、WebシステムをBtoBで販売する会社にエンジニアとして就職し、ライター業などは副業として続けることにしました。

日中は本業のエンジニア業をして、朝や帰宅後、休日に副業をしていましたね。

その後、どういった経緯で独立・起業されたのでしょうか?

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久保田

「副業が本業より稼げるようになったら独立しよう」と思っており、入社して数ヶ月のタイミングで独立しました。

フリーになってからは、Webライターのほかにも、抹茶関連企業の広報のお手伝いをしたり、抹茶を楽しむイベントを主催したりするようになりました。

次第に抹茶に携わる仕事が少しずつ増え、抹茶に関する知識も得て発信も続ける中で「自分で抹茶商品を作りたい」と思うようになり、千休を立ち上げたんです。

パラレル的に働いて得たスキルは、どのように生かされましたか?

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久保田

会社員時代だと、本業のエンジニア業にWebライターのインタビューで得た知識を生かして、新規事業として社内で提案していましたね。

それまでの仕事からSEOの知識もあったので、独立後、ネット上での発信にも役に立ちました。

また、アフィリエイトサイトもやっていたことから、広告を掲載する側の立場として「こういう素材があると宣伝しやすい」というのが理解できていたので、千休ではそれに即した情報発信ができたと思っています。

基本的なサイトの仕組みも理解していたので、サイトのちょっとした改善は自分でできましたし、サイトの要望についても明確に指示出しができました。

さまざまなスキルが役立っていますね。

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久保田

加えて学生時代の人との出逢いも、いまに活きています。大学時代に著名人を招いたトークイベント「朝渋」などの運営をしていた際に、いろいろな仕事論や精神論などの話を聞いてイベントの内容を記事にしていたので、起業家・経営者マインドが自然と身につきました。

茶道の精神を学び、休息の取り方が変化

元々は「好き」の一心で抹茶と関わっていたのではないかと思いますが、付き合い方は変わりましたか?

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久保田

学生時代の抹茶は趣味であり「楽しむため」の存在でしたが、社会人になってからは「癒すため」「自分を良くするため」の存在になりました。

たとえば、以前はインスタントやカフェの抹茶ラテを飲んでいましたが、いまは毎朝自分で抹茶を点てています。

抹茶にはコーヒーと同じくらいカフェインも入っているので、目を覚ますために飲むのはもちろん、抹茶をシャカシャカ点てること自体が精神統一になっている気がします。

抹茶の点て方はどこかで習われたんですか?

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久保田

抹茶のブランドを立ち上げるにあたり、茶の湯の精神を学ぶ必要があると感じ、茶道を習い始めました。

スマホやパソコンを手放し、2〜3時間お茶だけに集中する。その時間を取ることによって、頭のスイッチが切り替わるんです。凝り固まっていた心や体がリセットされるというか、フラットになるんですよね。

考えても答えが出なかったことも、茶道のお稽古をした後に心が軽くなることで、アイデアが思いついたりします。

ウェルビーイングな状態を感じられるんですね。自ら抹茶の商品を提供することで「静」の時間を届けるようになってから、ご自身の中で休息の取り方は変わりましたか?

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久保田

会社員時代までは、休憩時間も取らずにガムシャラに働いていましたが、いまは家で抹茶を点てて、お菓子を一緒に食べてゆっくりするといった「ちょっとした休憩」をあえて取るようになりました。そこで「頭がすっきりする感覚ってこういうことか」と気付けたというか。

実は、茶道をやっている経営者の方も多いんですよ。ゆとりがないと、クリエイティブなことをするのは難しいし、休憩時間を意識的に作ることが大事だと思っています。

私の茶道の先生も、元々アメリカで働いていたけれど、忙しくて心身のバランスを崩してしまったときに、茶道に出会って救われた方なので、すごく共感できるんですよね。

久保田

「自分が自然体でいられなくなってきたな」と感じたら休むようにするといいと思っています。

ビジネスでは急な出会いや巡り合わせがあります。そういう出会いを受け入れられる余白を持っておく意味でも、余裕を持つこと大切だと思っています。

茶道を通い始めてから、ご自身に変化はありましたか?

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久保田

細かい所作に気を配るようになりましたし、せっかちだった性格も落ち着きつつあります。また家で抹茶を点てることで、以前より仕事に集中したり、すぐに気持ちを切り替えたりできるようになりました。

「いきなり茶道はハードルが高い」と思う方には、テーブルに自分の好きなお茶碗と、お湯と茶筅を用意して楽しむ「テーブル茶道」がおすすめです。

不完全を愛し、自然体でいられることを重視するように

久保田さんが日々大切にしている茶道の精神を教えてください。

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久保田

茶道には、「侘び寂び」の精神があります。

「侘び寂び」とは、「不完全なものを美しく思う」「規則性のないものや、静けさや質素さを好む」というような日本文化特有の美意識のことを表します。その美意識から、茶道には「不完全を許し、愛する」という精神があるように思っています。

人は誰もが完璧ではなく、不完全です。だからイライラせずに、その不完全さを包み込むゆとりが必要。その精神が茶道の大元にあります。

茶室にも綺麗に剪定された花を生けるのではなく、野に咲くそのままの姿をした花を置くという、自然体を愛する精神があります。

その精神は、ビジネスにも生かせそうですね。

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久保田

そうですね。小さく不完全な状態でもいいから取り組んでみて、完成に近づけていく努力をする、というスタートアップ的思考は、茶道の精神に近い気がします。

最後に、今後の展望などがあれば教えてください。

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久保田

2023年で千休を立ち上げて5年目になるので、今後は商品開発以外で周りがより楽しめるような仕掛けをしていきたいですね。

例えば、得意な発信と好きな抹茶を掛け合わせてカフェとコラボして集客サポートをしたり、他の業態と抹茶を掛け合わせて新しい抹茶の可能性を見出してみたり、この5年間で得てきたことを生かしたいですね。

抹茶を通して、自分だけでなく周りの人も幸せなれるような取り組みをしていきたいです。

2023年7月取材

取材・執筆:中森りほ
写真:塩谷哲平
編集:桒田萌(ノオト)