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「お客様が私のキャリアをデザインしてくれる」 京都ランドリーカフェ・山本理恵さんがアップデートしつづける自分らしく働ける居場所

このまま、今の仕事を続けていてもいいのだろうか。もっと私にふさわしい居場所があるのではないか。忙しく働く中で、ふと立ち止まり悩んでしまう――。

京都ランドリーカフェのオーナー・山本理恵さんも、20代の頃は悩んだといいます。在日コリアン3世として日本に生まれ、大学卒業後は日本の出版社と法律事務所に勤務。一方で韓国語は話せず、韓国へは行ったこともない……。一時は自身のアイデンティティが揺らいだこともあったそう。

そんな葛藤がきっかけとなり、韓国でさまざまな大手企業に勤めたのちに帰国。現在は、地元でも広く知られる人気店のオーナーとなりました。

どんな風に自分の居場所を見つけたのか、自分らしく働くとは? 山本さんに伺います。

―山本理恵(やまもと・りえ)
在日コリアン3世として、京都に生まれ育ち、出版社と法律事務所で勤務したのち、韓国へ渡航。2018年に日本へ帰国し、翌年「京都ランドリーカフェ」をオープン。カフェをソーシャルスペースとしても活用してもらうべく、さまざまなイベント企画、運営する。

カフェであり地域コミュニティでもある「京都ランドリーカフェ」

コインランドリーとカフェが一緒になったユニークな営業形態ですね! 改めて、「京都ランドリーカフェ」とは、一体どんなお店なのでしょう?

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山本

その名の通り、コインランドリーがあるすぐ横には、食事やドリンクも楽しめるカフェを併設しています。お店のコンセプトは、「洗ってキレイ。食べてキレイ。ぐるぐる回る、人と人とのつながり」。

お客様には、洗濯が終わるまでのんびりお茶を楽しんでもらったり、純粋に食事だけをしにきてくれるお客様もいたり。

生活に結びつくコインランドリーを起点に、地域コミュニティの場としても活用してもらっています。

店内にはたくさんチラシも置いてありますが、カフェスペースではさまざまなイベントも開催されているんですね。

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お店の一角には、たくさんのイベント情報が。
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山本

はい。英会話レッスンやヨガ、韓国語会話、キャンドル教室など、毎月たくさんのイベントを実施しています。

イベントを通してお客様同士が繋がって交流が広がるなど、今では単なるカフェではない、人が集まって交流する「コミュニティスペース」として認知してもらえるようになりました。

また、2022年からはシェアキッチンも始めました。将来、自分で飲食店をしたいという人や、いつかは食に関する仕事に挑戦したい人など、どなたでも1日からカフェのオーナーになれるサービスです。

以前から、このようなコミュニティを作るというキャリアは見据えていたのでしょうか。

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山本

今でこそ、好きなことや自分のできることを生かした仕事ができていると思えるようになりました。

ですが、最初からこんな風に自分のやりたいことをうまく見つけられていたわけではありませんでした。

カフェオーナーになる前は、何をされていたのでしょうか?

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山本

出版社と法律事務所で働いていました。ですが、大学卒業から5年ほど経ち、働くことにも慣れてきた頃、ふとアイデンティティが揺らいだときがありました。

カフェがあるここ京都・壬生(みぶ)は、私の生まれ育った地元。私はここで在日コリアン3世として生まれ、日本語を話しながら育ち、日本の大学も卒業しました。

ですが、私の外国人登録証に載っているのは、韓国の住所。韓国語が話せず、一度も韓国に渡ったことのない私の居場所はどこなんだろう……と不安になってしまったんです。

山本さんにも、そんな葛藤があったんですね

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山本

もちろんです。そこで、一度韓国に行ってみようと決心。10年は帰ってこないつもりで、28歳のときに韓国へ渡りました。

組織人として働く日本、個人として働く韓国

いきなり韓国へ……! 最初のお仕事はどのように探されたのですか?

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山本

最初に勤めた広告代理店では、インターンという形で声を掛けてもらい働きはじめました。

韓国の会社では、プロジェクトごとにスタッフを雇うこともよくあります。日本のように正社員になったから安泰ということもなく、個人の資質が評価されて次の仕事に繋がっていくパターンが多いのです。

そのため、韓国では社員として働きつつ、フリーランスのような感覚で、次々と自分で仕事を見つけていきました。同じ会社で2年働けば長い方で、私の周りではどんどん会社を変わるのが当たり前といった風潮もありました。

日本語で育ったとのことですが、現地で必要な韓国語はどのように勉強されたのでしょうか?

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山本

韓国に渡る前にある程度は独学で勉強していましたが、あとはひたすら現地で身につけました。

英語も学んでいたので、日本語もあわせて3つの言語が話せることで重宝してもらえる部分がありました。

韓国の企業は多国籍なので、大手エンタメ系マルチメディアの会社で働いてきたときは、世界各国の人々とやり取りをしていました。

世界を相手に仕事をされていたのですね。

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山本

そうですね。オンラインで会議をする際は、アメリカと韓国など各国で時差があるので、時間調整をするのが一番大変でした(笑)。

ほかには、展示会の企画、日本語学校の講師、Webメディアに韓国のおすすめのグルメスポットを寄稿する仕事など、とにかくそのときできることに挑戦していました。

日本にはいつ戻られたのですか?

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山本

10年は戻らないと決めていたのですが、韓国に渡って8年経った36歳のとき、地域で学習塾を営んでいた父が病で倒れ、帰国することになりました。

半年後、父は亡くなってしまったのですが……。これからの仕事をどうしようかと悩んだとき、「自分も父のように、地元に貢献したい」「人の集まる場所が作りたい」と考えるようになったんです。

そこで就職するのではなく自営業としてやっていこうと考え、京都ランドリーカフェを始めることにしました。

「ランドリーカフェ」という形態は、当時まだ珍しかったと思うのですが、その発想はどこから出てきたのでしょうか?

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山本

韓国で働いていたとき、バックパッカーの方から聞いていたのです。「コペンハーゲンではコインランドリーが国際交流の場所になっていた」「移民の人が現地でランドリー経営をしていることが多い」と。

その国の出身者ではない移民がランドリー経営をすることで、地域に溶け込んでいく。そんな働き方があるんだと知って、ピン!と来ました。

カフェとランドリースペースは地続きになっている

自分ならではの働き方を見つけたわけですね。

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山本

日本と韓国、両方の国で働いてみて、いろいろな働き方があることを知りましたし、その頃には移民であることを誇りに思えるようになっていたんです。

だからこそここで、自分にしかできないことをやってみたいという思いもありました。

そうだったんですね。実際にコインランドリーカフェを始められてどうでしたか?

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山本

オープン直後はコインランドリーとカフェがメインで、今のようにコミュニティスペースとしてそれほど機能してはいませんでした。

ですが、お客様との交流が深まるうちに、「こんなことがしてみたい」というちょっとした会話からイベントや講座がいくつも生まれていきました。

イベントの様子(提供写真)

本当にバラエティーに富んだイベントが催されていますよね

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山本

そうなんです。イベントには、外国籍の方、子育て中のお母さんや子どもたちなど、国籍や性別、年齢も実にさまざまな人が来てくださります。

私自身、日本では移民という立場にありますが、多様化の時代だからこそ、いろんな方を混ぜていきたい。このような場所は「ブレンディング・コミュニティ」と呼ばれています。ここをそんな場所にしたいんです。

イベントは私一人でできるものではありません。だから、この場をみんなで作り上げていけばいい。多様化の今だからこそ、いろんな人にとっての居場所でありたいと考えています。

働き方は常にアップデートしていくもの

数年で地域に愛されるお店に育てるなど、ここまではとても順調に見えますが……。

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山本

いえいえ、最初から自信があってここまで来られたわけではありません。お話したように、アイデンティティが揺らぎ、自分の居場所が見つけられないと悩んだ時期もありました。

ですが、今振り返ってみると、そのとき目の前にあった、今の自分にできることに没頭したことが、結果的に今に繋がっているように思います。

たとえば、カフェをいろいろな人が集うコミュニティの場にできているのも、展示会を企画したり、人と場をつなぐコーディネーターをしていたりした過去の経験が生かせているように思います。

会社員と自営業。働き方は異なりますが、これまでの経験がすべて今に生かされているんですね。

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山本

たしかに、今でこそひとつに繋がっているように見えます。そのときは夢中で分からなかったのですが。

だからこそ40代になった今の私から、もっと若い人たちに伝えられることがあるとしたら、焦らなくてもいいということ。

焦って探さなくても、大丈夫ということ。

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山本

ええ。働くことは一生続いていくので、長い目でキャリアデザインをしていったらいいのではないかなと思っています。私自身、この店が最後の仕事とも思っていません。

京都ランドリーカフェの形態が少しずつ変化していったように、私の働き方もきっと、どんどん変わっていく。今に固執することなく、アップデートしていくものだと捉えています。

なるほど。アップデートしていくという考え方は素敵ですね。

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山本

はい。もしかしたら、表向きには順調に来たかのように見えるかもしれません。しかし、このカフェでも当然、問題や課題は常にあります。

ですが、仕事をする上でトラブルはつきもの。1人で抱え込まずに、みんなで解決していけばいいんです。

これからの私のキャリアをデザインしてくれるのは、お客様。お客様のニーズに合わせて、私がこれからすべきことも見えてくるし、変わっていくのだと思っています。

自分の居場所は、意外と近くにある?

お客様のニーズに対応することが、つまりさっきおっしゃった「今できることに没頭する」ですね。

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山本

そうですね。何が正解かは、そのときには分からないもの。やりながら見えてくることだと思います。

正解を見つけるためには、自分の好きなこと、アツくなれることからやってみる。私にとってそれが、生まれ育った町でした。その上で大事なのは、変わり続け学び続けていくという気持ちなのかもしれません。

私は移民であることで悩んだ時期もありましたが、今では違いがあること=ラッキーなことと捉えられるようになりました。

それは異なる国の企業で働く中で気づかれたのでしょうか。

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山本

それはあるかもしれません。

そもそも社会とは厳しいもの。だからこそ、自分の中にある良いところを探す。そうしないと、とてもじゃないけど生きていけない(笑)。

自分が持っていないものを数えて不安になるより、今ある持ち駒を社会にどう活かすかを考えるようになりました。

その考え方、ぜひ取り入れたいです。

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山本

私が地元に居場所を見出したように、自分の求めている居場所って遠くにはなくて、意外と近くにあるものなんじゃないでしょうか。近くを探していたら、いつか必ずたどり着ける。

私もそう信じて、これからもアップデートしつづけていきたいなと思っています。

2023年8月取材

取材・執筆:江角悠子
写真:蛭子美和子
編集:桒田萌(ノオト)