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「働かなくても全然いいのではないか」仮面屋おもて・大川原脩平の散歩重視の店舗運営

土日のみの週2日営業。

店主が散歩に出かけてしまうので、土日もお店が開いている保証なし。

開いてなければ、散歩中の店主をお客さん自身に探してもらうシステム。

現代作家の仮面を扱う専門店「仮面屋おもて」は、一風変わった営業スタイルを持つお店です。

場所は、墨田区にある下町情緒ただようキラキラ橘商店街の一角。決して観光地ではない、人々の生活を感じさせる場所です。お店は不思議な雰囲気を醸し出してはいるものの、商店街のレトロな雰囲気と相まって違和感はありません。

なぜ、このようなスタイルでお店を運営されているのでしょうか。店主の大川原 脩平さんに仕事との向き合い方について伺いました。

大川原 脩平(おおかわら・しゅうへい)
株式会社うその代表取締役。舞踏家としての活動をきっかけに、2014年頃からネットで仮面の販売をはじめ、後に店舗も構える。たばこのふりをしてトランプを販売する「うそのたばこ店」も運営している。

サービス業のお店だとは思っていない

レトロな商店街にたたずむお店。外から見ても仮面たちが目を引く。

下町情緒あふれる素敵な商店街ですね。こちらにお店を構えたきっかけについて教えてください。

大川原:国分寺からこちらのほうへ引っ越してきたとき、下町物件ツアーを見つけて参加したことがきっかけです。その時は、全然お店を構えるとかは考えておらず、町のことを知りたくて参加しました。その時に「ここ空いてるよ〜」と言われたので、「お店作るか〜」といった感じで作ることになったんです。

意外とゆるいノリで始まったのですね(笑)。その時は、すでにネット通販のお店はされていたのですか?

大川原:はい、ネット販売をちょうど始めた時期でしたね。それで場所があったほうが楽だなと思って。

どのような人がお店に来られるのでしょうか。

大川原:めちゃくちゃ仮面が欲しい人か、仮面屋そのものに興味がある人か、のどっちかです。接客については、あまりサービス業のお店だとは自分自身で思っていないので、自分からは話しかけない、話しかけられたら答えるというスタンスでいます。

ドキドキしながらやってくる中学生とかもいるのですが、基本話しかけないんです。30分くらいたって、意を決して「すみません」と話しかけてきてくれると、かわいいなあって思います。

店内1階のディスプレイ。さまざまな仮面の迫力に圧倒される。

2階にも仮面がずらりと並ぶ。

仮面を買わない人もいらっしゃるのですか?

大川原:そういう場合は、おしゃべりにくるのかもしれません。でも、仮面を買わないほうが普通ですよね。世の中の仮面を買う人と買わない人の割合で考えると「買う人の方が少数派」だという自覚はしたほうがいいと思っていて。正直、仮面を買わなくてもいいと思っています。

仮面屋は存在していること自体が大事

今は週2日営業ですが、もともとは週4日営業だったそうですね。

大川原:そう、週4日も開けていたなんて、偉いですよね。お客さんも来てくださるのですが、それよりも「店を開けなければいけない」という感じになってきたことが「よくないな」と思ったので、週2日にしました。

「働かなきゃ」という気持ちについてよく考えるのですが、社会的な合意がとれれば、たぶん人間は働かなくてもいいはずなんですよね。ただ、今はその合意がとれていない。

そうですね。働いていないと、社会的な風当たりが強い。

大川原:「別に働かなくても、全然いいのではないか」という感覚は、自分として持っていた方がいいと思っているんです。手放せるものは、どんどん手放したほうがいい。そう考えて行動した結果、週2日の営業日になりました。いつか営業日自体もなくなるといいなと思っています。

営業日がなくなるって、お店をなくすということですか?

大川原:いいえ。お店を維持しながら、オープンせずに営業し続ける方法がないかなと思っているんです。

仮面屋は存在していること自体が大事なので、なくすことは考えていません。この店があることで、地方にいる高校生とかが「東京にこんなお店があるんだ」と、救われている気がしているんです。なぜなら、私自身も子どもの頃、行ったことがないお店に憧れるような子だったんですよね。店が生きる希望になることもあると知っているので、そういう意味では仮面屋という存在は、絶対あったほうがいいんです。

大川原:それに、店があると便利ですよね。このお店をやっている理由のひとつは「本置き場がある」ということかもしれません。

経営しているもう1つのお店「うそのたばこ店」を作ったときも同じような理由でしたね。あるとき、タバコのショーケースが欲しくなったのですが、家には置けないじゃないですか。

確かに。家に置くには、ハードルが高いモノですね。

大川原:だから、「店を作ったら買ってもいいな」と思って、タバコのショーケースを置くために「うそのたばこ店」を作ったんです。

「店をやるためにショーケースを買う」のではなく、「ショーケースを置くために店を作った」んですね。そして仮面屋さんは、本を置くために……。

うそのたばこ店に置かれたタバコのショーケース。実際はタバコではなくトランプを売っている(提供:うそのたばこ店)

仮面屋おもて店内。さまざまな本が置かれており、お客さんも自由に読んでいい。

大川原:私はコレクターではありませんが、何かコレクションするにしても、ある程度「開かれた場所」があったほうがいいと思っています。それはなぜかというと、この場所にいっぱいものが集まってくるし、欲しいものも置くことができる。

それに、人は何か理屈を付けると、買い物しやすくなるじゃないですか。私も何か理屈をつけて、自分が好き勝手できるお店を作っているのです。

でも単純に小売業の観点からみると、店舗は必要ない。なにより、店を開けるために人を雇うというのはよくないと感じているんです。なぜなら、人は「仕事」が発生すると、いかに効率的に行い、作業を縮小していくかを考えます。ということは、最終的には「仕事」がなくなったほうがハッピーですよね。

確かに。

大川原:みんながハッピーならば、「仕事」はなくしていったほうがいいんじゃないかと思うのです。

加えて、好きなことを「仕事」という枠組みの中で行う必然性を感じていません。好きなことをしている時間を持ちつつ、やりたくないことをしない。それとは別に、生きていければいいんじゃないでしょうか。

なるほど。仕事という名前や枠組みではなく、やりたいことをやる。その感覚を大切にされているのですね。

嫌なことはやらない、ただ歩きたいから散歩する

お店のHPに掲載されている、店主がいそうな場所。お店にいない場合は、これを元に捜索すると見つかる可能性が上がる。

週2日の営業日以外は、何をされているのでしょうか?

大川原:平日も基本的には営業日と変わらないですね。散歩したり、友だちの会社へ遊びに行ったりしています。

打ち合わせや手伝いをしに行っている、というわけではなく……?

大川原:「これが遊び」「これが仕事」といった言葉の定義を気にしないようにしているんですよね。ただ、やっていることには集中するようにしてます。嫌なことはやらないし、やりたいことをやる。そのひとつが散歩です。営業時間中も散歩に出ています。

散歩は「やりたいこと」なのですね。

大川原:私は「移動する」ことを、いいことだと思い込んでるんですよね。あまり速いスピードは得意じゃないので、自転車や車より、歩きたいタイプなんです。動いているだけでずっと幸せ、最高ハッピー。

元々ダンサーということもあって、体を動かすことに関心があります。動くって、すごく興味深いんですよね。

歩きながら、体の動きを観察されているのですか?

大川原:そういった文脈で書いてくれてもいいですが……ただ歩いています。

もしくは、商店街の方々と交流したくて……?

大川原:もちろん挨拶したり交流したりしますが……“ジャスト”歩いています。

営業日は、どのように過ごされているのでしょうか。

大川原:散歩以外では、ちょっと伝票書いたり、梱包してみたりと……お店屋さんごっこみたいな感じかもしれません。簡単な仕事だけしかしていないです。あとは本を読んでいます。ここは読書スペースなんです。

2階の奥にある読書スペースには、丸テーブルに椅子4脚が置かれている。カフェ機能などはないが、お客さんも利用可。座って本を読む人、絵を描きにくる人、ぼーっとしてる人などさまざま。「散歩したくなったら追い出すんですけどね」と大川原さん。

なるほど。逆に「やらないこと」も決めていらっしゃるのですね。

大川原:そうですね。やりたくないことがいっぱいあって、それを除外していった結果が今のお店のスタイルなんです。アルバイトさんがいるときは、基本的にお任せするスタンスです。何か仮面のお仕事するときも、周りに作り手さんがいっぱいいるので、その人たちにお任せして。自分で成果物は出さないことにしているんです。

大川原さんの「3つの活動方針」

「やること」「やらないこと」に対して、なにか基準があったりするのでしょうか。

大川原:自分の中で3つの活動方針があるんです。「ものを作らない」「ゆっくりやる」「暇でいる」。やりたいことがあるのは素晴らしいですが、一方で、空白の時間をいかに持ち続けるかということも大切だと思っているんですね。

例えば労働革命など、何か社会的に成し遂げるべき目標がある状態の若者は幸せだけど、成し遂げた後は目標がないから不幸になると言う人がいるんです。でも、せっかく目標を達成したのに不幸になるのはちょっとおかしい気がしますよね。

革命が起きたことで不幸になるなら革命を起こさないほうがいい、というわけではないけど、本当に何も目標がなくなったときに何をするべきなのかということを考えるなら、究極的には永久に革命を起こし続けるよりほかなくなってしまいます。なのでそれよりも私は、何をするべきかではなく「何もしなくても幸せでいられる方法はないか」をずっと考えているんです。

人はやることがないと刺激を求めてしまい、そのエネルギーはよくない方向に行くこともあります。退屈だけど何もしないということは、実は死よりも恐ろしいことなんです。だから、暇だけど充実した状態をいかに持ち続けられるか、それが自分の中にテーマとしてあるんです。

深いテーマですね。

大川原:熱狂も楽しいけど、冷めたときに結局、退屈に追われてしまう……ということを考えるんです。

例えば、うちのアルバイトさんたちには、「お金をあげるから何もしなくていいよ」と最初に言っています。でも、何もしていないのにお金をもらう状態が結構辛かったみたいで。逆に「会社のために何かしなきゃ」と変なプレッシャーを与えてしまっていたんです。仕事をして、その対価としてお金が得られている自覚があったほうが安心して過ごすことができたようです。

でも、「自分にとってやりがいがあるもの」は、自分の中で作り出さないと意味がない。だから、何もしなくていいよと言われたときに、罪悪感なく時間の過ごし方を作れる人のほうがうちで働くにはベストなのでしょうね。

大川原さんは、暇な時間を大切にされているんですね。

大川原:私自身は、多少無理して暇な時間を作り出している状態なんです。何かやったら熱中してしまいますから。

正直やりたいことはいっぱいあるので、私は一人で過ごす時間も全く苦ではありません。でも、それってもしかしたら退屈から逃げている状態なのかもしれません。先ほどお話ししたように、革命後に何もしなくてよくなるから不幸せになるのか、という命題に対して、自分のライフスタイルをかけて取り組んでいるんです。

脱・営業日にむけて、ちょっと進化中

お店をこうしていきたいなど、今後について考えていることがあれば教えてください。

大川原:最近はトランプを扱う「うそのたばこ店」にいるほうが多いんです。もともと舞台のことを一通りやってきたおかげで手品もやるので、地方から来た小学生にキラキラした目を向けられて「マジシャンですか?」と聞かれると断れなくなってしまいました。なので最近は、舞踏家、仮面屋に加えて手品師もやるようになりました。

仮面屋としては、もう実際に半分くらいおこなっているアイデアはあります。仮面屋が好きな若い子がいて、その子たちにお店へのアクセスキーみたいなものを渡して、いつでも店内に入れるようにしているんです。だからお客さんは、その子たちと一緒にいれば土日じゃなくても店内に入れるし、買い物もできるようになっています。

自分の知らないところで売上が立つようになったので、「ちょっとした進化」っぽいことができたなと感じています。

脱・営業日に近づく面白い試みですね。これからも、他の人が思い付かないようなお店の在り方を期待しています。ありがとうございました!

取材後すぐ、お店を閉めて散歩へ出かけた大川原さん。

取材・執筆:ミノシマタカコ
編集:うないいちどう(ノオト)