働く環境を変え、働き方を変え、生き方を変える。

WORK MILL

EN JP

オフィス復帰のGoogle、フレキシブルなAmazon ー 海外IT企業ポストコロナの働き方

新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから早くも2年、世界の働き方は大きく変わった。コロナ前には全世界で16%ほどしか行われていなかったリモートワークだが、現在では全体の55%の企業が何らかの形でのリモートワークを提供している。国によっても異なるリモート率であるが、企業レベルでも多様な対応がなされている。

筆者の住むアメリカ国内ではいよいよコロナ禍が終わりつつあるように見える。少しずつではあるが公共の場でのマスクの着用義務やソーシャルディスタンス等がなくなり、世間ではすでにコロナ禍以前の風景が戻ってきている。多くの学校や企業がリモートを切り上げる一方で、リモートワークに利得を見出しポストコロナの働き方として取り入れる者も多い。

働き方の変化は企業の在り方、そしてワーカーのニーズの変化にも繋がる。今回は、コロナを受け世界のIT企業の方針がどのように変わったのか、そしてワーカーにどのようなサポートが提供されているのかを紹介する。

オフィス復帰&ハイブリッド・ワーク型

ハイブリッド・ワークとは、基本的にオフィス業務とリモートワークを組み合わせ、常にオフィスに誰かがいる状態を保持しながら、交代にリモートで業務を行うワークモデルのことを指す。オフィス内のスタッフの数が減ることでソーシャルディスタンスが取りやすくなり、感染拡大防止のメリットがある。ハイブリッドのリモートとオフィス業務を組み合わせた柔軟性は、コロナ禍の現在、そしてポストコロナでも広く好まれ続けることが予想される。

Google

Googleは一時期オミクロン株の影響により延期されたオフィス復帰を、今年4月4日に定めたとして今年3月にCNBCを筆頭とする様々なメディアが報じた。ベイエリア在住の従業員に少なくとも週3日の出社を求めており、今後時間をかけてハイブリッド型の業務体系を目指すとしている。Google副社長John Casey氏は同じくCNBCのインタビューで今回のオフィス復帰はいよいよ終わりの見え始めてきた今、ポストコロナに向けた新しい働き方を試すといった目的もあると語っている。

社内の福利厚生チームは、訓練を受けたカウンセラーによる15分間のバーチャルミーティングなどを行っており、ワーカーの復帰の準備、手助けをしている。同じくCasey氏によるとGoogleはマスク着用義務や完全な予防接種を受けた従業員に対しては抗体検査義務を取り下げるとのこと。社内ではカフェやレストラン、マッサージ、シャトルバスなどのアメニティの再開することで積極的にオフィス復帰を促している。

しかしGoogleの一部オフィス復帰という決定に対して、物価の高いベイエリア外への移住を希望する社員からは既に不満の声も上がっているようだ(FORTUNE)。ベイエリア以外では、全世界の正社員156,500人のうち14,000人近くが転勤や完全リモートワークに移行しており、全体の85%の申請が承認されているという。オフィス復帰までに時間が必要な社員は、在宅勤務の延長を申請することができると付け加えた。ベイエリアで試験的にハイブリッドモデルを試したのち、データやフィードバックを収集し今後他の国やエリアでの実践を検討するのだろう。

IBM

2021年8月、IBMが全社員に対して送った翌月からオフィスに戻ることを初めて許可するという内容の社内メールをReutersなど大手メディアが報じた。実際にオフィスに戻るかは個人の判断に委ねられており、全2回のワクチン接種を終わらせた社員のみマスク無し可、という条件は2022年現在でも変わっていない。

復帰のスケジュールに関してIBMは非常に慎重で、国や地域ごとの感染状況、政府の判断などを加味した上でオフィスごとに段階を踏みながらの復帰を目指すと公表している。社員がオフィスに戻るか否かの決定が個人に委ねられているかは定かではいないが、IBMは最終的な目標としてハイブリッドを掲げている。

実際、最高経営責任者のArvind Krishna氏はBloombergのインタビューでパンデミック後に従業員の80%がハイブリッドモデルで働くと予想していると答えており、ハイブリッドに対して非常に前向きな姿勢を見せている。

特筆したいのがIBMのリモートワーカーをサポートする試みの数々だ。IBMは2021年、1年間を通して計250回以上のウェルネス向上を目的としたバーチャルイベントを開催しており、およそ3,000人もの社員が全世界から参加した。他にも、リモートワークが原因で社会的な隔離を懸念し、ワーカー向けに無料のオンラインでのセラピーセッションを設けたりと、メンタルヘルスにも気を配っている。サポートは多岐に渡り、オフィス復帰に際しての有給休暇、育児支援をさらに充実させ、ワーカーに向けての経済的な支援も行っている。

Apple

今年3月初旬のBloombergの報道によると、Apple社CEOのTim Cook氏は、今年に入ってから社内メールにて社員に対し4月11日をオフィス復帰の期日とすると通達している。リモートからの移行は段階的に行われるもので、11日以降三週間は週2回、5月23日からは少なくとも週3回の出社が義務付けられている。

同メール内でCook氏オフィスへの復帰を「ハイブリッドワークの試験的実施」と表現し、複数の段階を設け各従業員の業務内容に応じて異なるルールを設けるとした。パンデミック以前は、Appleは他の多くのシリコンバレーのIT企業に比べリモートフレンドリーではなかったが、パンデミックの大半を通じてほぼ全従業員がリモートに移行していた。

Twitterなど他のIT企業の中には柔軟な長期在宅勤務ポリシーを発表しているところもあるが、流出したメールに書かれていることはそうした他IT系企業が社員にオファーしているワークスタイルよりはるかに保守的なものであると言える。

今回4月オフィス復帰の目処が立つまでに紆余曲折あり、社員による復帰反対運動などが、こうしたAppleの慎重な姿勢への不満を示していると言える。

フレキシブル・ワーク型

前記のハイブリッド形態に対し、フレキシブルと呼ばれるワークモデルは、リモート、オフィス業務に関わらず、ワークライフバランスに基づき業務時間を柔軟に変更することで生産性、効率性などの向上を目的としている。リモートワークを経てワークライフバランスが新たに見直されている今、従来の働き方ではベストな結果は出せないと感じているワーカーも多い。

Amazon

Amazonはパンデミックが始まってからかねてよりワークスタイルにはフレキシビリティ(柔軟性)が重要であると強調してきた。CEOのAndy Jassyは社内メールにて、出社せずとも業務内容に支障が出ない業種に限り完全なリモートワーク、週5日の完全なオフィス出社、またはハイブリッド・ワークによる週2~3日の出社の三種類から自由に選択することが可能であると述べたと2021年10月に報じられている(Forbes)。

また、Jassy氏は全てのチームに当てはまるような正解はないとして、業務形態の決定権は各チームリーダーに与えられており、柔軟性を重要視する姿勢が感じられる。リモートを広く許可する一方で、ワーカーはオフィスからの招集を受けた場合1日以内に駆けつけらえれるほどの距離に常に留まることが理想的だとも発信している

ただ、申請すれば年に4週間まで雇用されている国内のどの場所からでも完全リモートで働くことができるオプションもあるようだ。IBM同様、Amazonは従業員とその家族を対象にメンタルヘルスサポートを提供している。これはコロナによる一連のロックダウン、隔離などからくるトラウマを解消するという趣旨のものだ。「Resources for Living」と呼ばれるこのプログラムは1対1の個別対応でのセラピーセッションで、オンラインだけではなく最近では対面式も含まれる。社員とその家族は、1つのテーマについて、カウンセリングを3回まで無料で受けることができる。

Microsoft

Microsoftが2021年9月社内メールにて翌月4日以降に予定していたオフィスの全面再開の無期限延期を発表したことが昨年様々なメディアで報じられた。また、公衆衛生当局からオフィス復帰の時期について指導を受け、オフィス復帰を決定した場合にはその後従業員に30日間の移行期間を与えるとしている。

Microsoftは、3月にコロナウイルスが発生した際技術系の社員をいち早く遠隔地にシフトさせた企業のひとつである。同メールによるとワシントン州レドモンドに本社を置くマイクロソフトは、従業員が週の労働時間の50%未満であれば自由に在宅勤務ができるようにし、特定の条件をクリアした場合には永続的なリモートワークも認められる。

業務上可能な社員に関してはリモートワークとオフィス出社は各々自由な選択肢が与えられている。また、完全リモートの社員は海外の居住なども許可されているが、報酬や福利厚生は会社独自のジオペイ尺度によって変動する。引っ越しをする人は移転費用を自分で負担する必要があるが、ホームオフィス費用はMicrosoftが負担するとしている(GeekWire)。

会社ごとの個性が出るポストコロナのポリシー

パンデミックを経て世界は大きく変わった。世界のIT企業の多くはこの変化をポジティブに捉え、新たな企業経営のあり方を模索している。今回紹介した企業に共通することは働き方に対する「柔軟性」に重きを置く姿勢である。社内のリモート、オフィス業務の割合に傾きはあれど、やはりリモートを完全に無くすことはなく、チームや業種ごとに柔軟に対応するを変えるというやり方は多くの企業を通して見られた。

また、企業ごとの個性が大きく出ていたのはワーカーのウェルビーイングへの向き合い方だ。リモートワーカーや、オフィスに久々に復帰する社員に向けたサポートが充実している企業の方が、社内の満足度も高く復帰への反応もより良いだろう。変化への順応、そしてそれに伴うワーカーのニーズにも絶えず真摯に答えることも重要である。

2022年4月14日更新

テキスト:松尾舞姫