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勤務日&時間は自分で選ぶ。しっかり休める病棟看護師の働き方とは?(夜勤専従看護師・ナースあさみさん)

休みたいし、休んだほうがいいとわかっている。会社も働き方改革を推進している。でも、正直なところ、休みづらい……。そんな日本において「ちゃんと休みを取ろう」と試行錯誤する人々に、『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』(KADOKAWA)の著者・髙崎順子さんがインタビュー。日本での休み方を「働き方と同じだけ」考えていく連載です。

夜勤や週末出勤は当たり前、労働時間が長く、休みにくいイメージのある病棟看護師。有給休暇があっても、希望日には取得できないケースも多いと聞きます。

休みにくさに加え、日勤と夜勤を繰り返すシフトが体力や家庭の事情に合わず、正社員勤務を諦める人も。資格を持ちながら看護職に就いていない潜在看護師は、2018年度の時点で全国50万人以上にのぼります(「新たな看護職員の働き方等に対応した看護職員需給推計への影響要因とエビデンスの検証についての研究」より)

そんな看護職を、自分のライフスタイルに合った働き方で続けているのがナースあさみさん。月10〜12回ほどの勤務シフトと年1回の長期休暇という、休みを重視した生活を送っています。それを可能にする「夜勤専従看護師」の実態と仕事観を聴きました。

ナースあさみ
東京都大田区在住。看護学科を卒業後、大学病院で6年勤務し、派遣会社所属の夜勤専従看護師。テキストプラットフォームnoteを中心に執筆活動も行っている。
https://note.com/asami300765

知られざる看護師の多様な働き方

「夜勤専従看護師」とはどんな働き方なのでしょう? 

髙崎

ナース
あさみ

文字通り、夜シフトだけで勤務する看護師です。勤務時間は16時半〜翌朝9時、その間に2時間の休憩があります。さらに、私の場合は「月8回以上夜勤すれば社会保険に加入できる」という派遣会社と契約しています。

ナース
あさみ

勤務日は自分で決められ、今は月10〜12回ほどシフトを入れていますね。全日休めるのは月に6〜8日くらいです。

あれ? 月に6日のお休みとなると、一般的な週休2日より休みは少なくありませんか?

髙崎

ナース
あさみ

日数だけ見るとそうですね。ただ、夜勤は連続でシフトが入っていても間に24時間はあくので、体感としてはもっと休みが多いんです。

なるほど! そのインターバルは「夜勤だけ」ならではですね。

髙崎

ナース
あさみ

看護師には昼間だけ働く「日勤専従」という働き方もありますが、そこまで長いインターバルにはなりません。

私は体調によってまとめて10〜12時間の睡眠が必要なタイプなので、日勤で週5日働くのは、逆に無理ですね!

実は今回お話を聞くまで、日本の看護師に「夜勤専従」という働き方があるのを知りませんでした。看護師ならみなさん、日勤と夜勤を繰り返しやるのかなと。

髙崎

ナース
あさみ

病院の正社員になると、日勤と夜勤を両方やらねばならないところが多いようです。

一方、派遣やパートの看護師は契約形態がかなり多様で、パートや時短は当たり前。日勤の契約だけでも、シフトが15種類あるんですよ。たとえば、週に1日、午前中だけ働いている人もいます。

それだけ短時間のシフトだと、どんな仕事をするんでしょうか?

髙崎

ナース
あさみ

ナースコールの対応や入浴介助のように、タスク化できる業務や個別性がそこまで高くない業務を担当します。継続的に看護師の目と手が必要な業務は、長時間シフトの人がやる、という分担です。

業務を細分化して整理して、各人の働ける時間に合わせて振り分けているのですね。

事務系の仕事では「時短の人に任せられる仕事がない」との声も聞きますが、看護業界の業務整理が参考になりそうです。

髙崎

休む日を自分で決められない?

今の働き方はどのくらい続けているんですか?

髙崎

ナース
あさみ

2024年で8年目です。その間は同じ派遣会社、同じ病院に勤めています。時々別のアルバイトなどを挟んでいますね。

この働き方になる前は、新卒で入った大学病院で6年間、日勤も夜勤もする正社員看護師でした。

二つの働き方を比べて、どう思いますか?

髙崎

ナース
あさみ

今の夜勤専従の働き方は、休みたい時と稼ぎたい時を自分で決められるのがいいですね。休みには旅行に出たり、本を読んだり、時間のかかる料理を作ったりします。私のライフサイクルにおいて、こういう休みの時間は仕事より重要です。

以前、大学病院に勤めているときは、休む日を自分で決められませんでした。有給も勝手に消化されていましたね。

えっ? 「有給を勝手に消化されて」って、どういう意味ですか?

髙崎

ナース
あさみ

シフト表の自分の休みの日に、「有」の字が書いてあるんです。あれ、「公休のはずなのになんだろう?」と思っていると、「有給が余ってたから、ここで入れといたよ」と。

大きい病院は労働基準監督署のチェックが入るので、有給を消化させないといけないんですよね。なので、管理職が部下の休みを有給扱いにするんです。

ええと、有給を使わなきゃいけないというのは分かるんですが、取る日を自分で全く決められなかったと……?

髙崎

ナース
あさみ

月に1日はシフト希望を出せました。

でも、それが通るとは限らないし、翌月のシフトが出るのが前月の末日だったりして。私生活の予定は全然立てられませんでしたね。

い、1日!

髙崎

ナース
あさみ

びっくりですよね。でも当時は、「そういうものなんだ」と思っていました。

新卒で働き始めてから、有給の取り方を誰も教えてくれませんでしたし、先輩たちが優先的に休みを取っていくのも「当たり前だ」と。

……。

髙崎

ナース
あさみ

あっ、絶句されてる……(苦笑)。これは8年前も話なので、今はもう変わっていると思いたいですね。

ただ、身近なナース仲間に聞く限りでは、大病院はなかなか休みを取るのが難しいみたいです。シフトを組むのは大変ですし、そのやり方では看護師はどんどん辞めていってしまうし。

自分で休みを決めるためには、派遣看護師に転職するしかなかった、と。

髙崎

ナース
あさみ

はい。私にとっては、自分を取り戻すための転職でした。正社員看護師にはボーナスがありますが、私はそれを失っても、自分で自分の働き方を決めたかったんです。

シフトの入れ方によっては、派遣の夜勤専従看護師もしっかり稼ぐこともできますし。たとえば、年末年始は基本給が3割増しになるんですよ。

「夜勤専従看護師」の働き方で得たもの

「働き方を変えて得たものは何?」と聞かれたら、どう答えますか?

髙崎

ナース
あさみ

自分で選び取る楽しさと責任」でしょうか。

組織に属さず、自分一人で働いているという自覚があるからこそ、責任をより強く感じています。私はとにかく記録をしっかり取って、何かトラブルがあっても、自分の仕事をはっきり示せるようにしています。

あと私は日勤が好きではないので、夜勤だけできるのがいいです。

日勤と夜勤は、そんなに違うものなんですか?

髙崎

ナース
あさみ

全然違います。看護師の仕事は患者さんの状態に合わせて点滴や投薬、衛生を管理するのが主ですが、日勤はそれ以外の割り込み業務が多いんです。

担当医やご家族とのやりとり、カンファレンス(会議)、調整……とにかくやることが多い。

ナース
あさみ

一方で、夜勤は緊急事態でない限り、家族の面会も、検査や手術もまずありません。

患者さんは基本的に就寝時間でベットにいますし、看護業務に集中しやすい。体感では、夜勤の業務量は日勤の十分の一から二くらいかと思います。

そんなに違うんですね?!

髙崎

ナース
あさみ

勤務中の歩数で見ると、日勤は2万5000歩、夜勤は1万5000歩くらい。

夜勤というと一般の方からは「大変」というイメージを持たれがちですが、看護師仲間には「私もできるなら、夜勤専従でやるわ」という方が多いんです。

「できるなら」ということは、夜勤専従にもハードルがあるんですか?

髙崎

ナース
あさみ

昼夜は逆転するので、体力的に夜勤が苦になる人はいます。私は夜勤が大丈夫な体質でラッキーでした。

あと、やはりご家族のいる方は難しいです。小さいお子さんがいるから夜勤専従は無理と感じられている方も多いんじゃないかな……。

看護師さんはお医者さんと結ばれるケースも多いと聞きますが、夜勤のある働き方を理解し合える相手、というのも理由にありそうですね。

髙崎

ナース
あさみ

平日の日中に働くのが当たり前の人に、この生活は理解しにくいでしょうね。ある病院では、看護師と夜勤のある警察官・消防隊員・医療従事者の合コンをセッティングしたりしていました。

困難から知ったこと

医療従事者の働き方は特殊だと感じてきましたが、想像以上でした。

髙崎

ナース
あさみ

特殊な世界ですからね。

医師は看護師よりもさらに、「休む」という概念自体がないんじゃないでしょうか。以前は、始業や終業の感覚がなく、着替えもシャワーも病院で、ほぼ住んでいるという人もいました。

だから、「ずっと病院にいる人がえらい」という価値観が根強い。そういう働き方ができる体力おばけだけが生き残り、ずっと続いています。

ナースあさみさんもその価値観の中にいたんですよね。

先ほど「自分を取り戻すために転職した」と言っていましたが、そう考えられるようになったきっかけはありましたか?

髙崎

ナース
あさみ

就職して2年目の時に、大きなインシデント(医療事故)を起こしてしまったんです。

クビにはなりませんでしたが、報告会や事例研究会のたびに吊し上げのような体験をして……。周りへの信頼を無くし、組織にいつづける意味がわからなくなって。それで、働き方を考えるようになりました。

そのあと辞めるのに4年かかってしまいましたが、ファーストキャリアを大病院で築けたのはよかったと思っています。

そうでしたか……。この連載では、病気を機に働き方を考えた方にも話を伺いましたが、困難な状況が自問のきっかけになることは、やはりありますね。

髙崎

ナース
あさみ

あと、コロナ禍も働き方を考える機会でした。PCR検査やワクチン接種会場などで時給の高い看護師の募集が出て、病院勤務では出会わないような、いろんな働き方をしている看護師たちと知り合いました。

仕事と生活のバランスを自分なりに取っている人ばかりで、話していて面白かったです。

時代を経て、看護師の働き方も変わっているのですね。

髙崎

ナース
あさみ

大病院の働き方は、今の時代にフィットしていない面も多いと感じていて。

「医療従事者も人間で、休みが必要だ」という考えが広がらないと、これからますます人手不足が厳しくなる一方じゃないかなと思います。

看護師は働き方が合わず、離職者が多いと聞きます。ナースあさみさんが看護職を続けるのはなぜなんでしょう? 

髙崎

ナース
あさみ

看護師は「人間のダメな部分」に触れられる仕事だから。一次情報としてここまで人間のダメさを見られる仕事は他にないです! それが私は面白いですね。

おおお……。執筆活動をしているナースあさみさんならではのお答えですね! 休み方をお尋ねして、働き方のふかーいところまで伺った気がします。今日はありがとうございました。

髙崎

2024年4月取材

取材・執筆=髙崎順子
アイキャッチ制作=サンノ
編集=鬼頭佳代/ノオト