地域の中に接点をちりばめる。西池袋のまちづくり人が語る、街を面白くする“余白”のデザイン(シーナタウン 日神山晃一)
築70年超の古民家カフェ、子どもたちがふらっとアイスを買いに来る多目的スペース、海外からの旅行客と地域のプレイヤーが自然に挨拶を交わすゲストハウス。西池袋の裏路地や椎名町の商店街でいま、面白い人たちが次々と集まる「化学反応」が起きています。
東京・豊島区にある椎名町~西池袋エリアの様々な拠点の仕掛け人は、空間設計の枠を超えて街のハブとして活動するシーナタウンの代表・日神山晃一さん。人と人を無理につなぐのではなく、ただ「たくさんの接点と余白」を街にちりばめる。
そんな彼が見つめる、コミュニティが自走し、街の中に自然な「共創」が生まれるための仕掛けの秘密に迫ります。
余白には、アイデアや人が集まる

池袋駅西口の大通りから1本入っただけなのに、いきなり雰囲気が変わりました。
なんだか面白そうな不思議な建物がいっぱいありますね。


おしゃれなマンションですかね……?
お向かいには、雰囲気のあるカフェまでありますね。緑豊かで、お庭が素敵ですね。



日神山
ここは「Chanoma(チャノマ)」という古民家カフェです。もともと大家さんが住んでいた築70年以上の家をそのままリノベーションしたものです。
土日は行列ができるほどの人気店です。私もコーヒーを飲みたいのですが、なかなか入れません(笑)。

あ、日神山さん! 今日はよろしくお願いします。
ここは隠れ家カフェなんですね。カフェのお向かいの建物はなんですか?


日神山
隣にあるこちらの建物は、長い間平屋の駐車場だった場所に新築で建てた「PUL」というデリカとお酒のお店です。ニシイケバレイ住民など、ローカルな人のたまり場になっています

へー! ここでお祭りをするんですか!
さらに隣の建物も面白そうです。アイスも売っているんですね。



日神山
ここは「3rrrd(サード)」という名前の多目的シェアスペースです。「まちのサービスエリア」をコンセプトにしていて、作業や休憩ができるのはもちろん、ワークショップやポップアップ販売などイベントにも利用ができるんです。
中学生よりも小さい子は無料で使えるので、よく近所の子どもたちがアイスを買ったり、遊びに来たりしていますね。
こんなに都会なのに、そんな場所があるなんて素敵ですね!
どんなきっかけで、このエリアは生まれたのでしょうか?


日神山
この一帯の土地建物を所有する大家さんから、エリアリノベーションしたいと相談を受けたんです。
そこから、「どんなエリアにしたいかを一緒に考え、何か面白いことをしてくれる人が現れるような仕掛けを一緒に作っていきましょう」と始まったプロジェクトです。


日神山
それで大家さんが所有する物件を一つずつリノベーションして、カフェや飲食店などの商業施設、多目的スペース、住居などが集まるエリアになりました。


日神山
この辺りは西池袋の地名と、池袋のビルの間にある谷をイメージし「ニシイケバレイ」と名付けていて。
私自身も、ニシイケバレイのコンセプトや空間の設計に携わっています。
素敵ですね、人が集まるためにどんな仕掛けを?


日神山
たとえば、この道。
今は開かれた雰囲気ですが、実はもともと道と家の間には塀がありました。そのため、人目のない細道になっていて、タバコのポイ捨てが多かったんです。そこで、「開かれた雰囲気にするためにも、塀を取り払いましょう」と提案しました。


日神山
大家さんは最初塀を取り払うことに不安をもっていましたが、結果として明るい雰囲気の道になり、ポイ捨てもなくなりました。
ニシイケバレイの中にある私の設計したシェアスペース「3rrrd」もそうですが、まちの中に「余白」を残すと、さまざまな使い方ができるし、「こんなことをしてみたい」という思いを持った面白いことをしてくれる人が集まってきます。



街から必要とされる人になる方法
ニシイケバレイ、とっても素敵なところですね。日神山さんが西池袋の街づくりに関わるようになったきっかけを教えてください。


日神山
直接的なきっかけは、2015年に池袋がある豊島区のリノベーションスクールに参加したことです。
でも、その前から「街から必要とされる人になりたい」と思っていました。

街から必要とされる人……?


日神山
当時の私は、店舗を設計する仕事をやっていて。その時点で400店ほど設計をしてきましたが、ずっと思っていたことがありました。
「店舗を訪れるお客さんから、設計者の顔って見えないよな」と。
たしかに、素敵なカフェがあっても「誰が設計したのかな?」と考えることはあまりないかもしれません。


日神山
その頃たまたま、西武池袋線の「椎名町」の近くに、事務所を移しました。池袋駅の西のエリアです。商店街があって、生活の空気があっていい街なのですが、空き家が多いことが気になりました。
「この街で何かを仕掛けてみたい」と考えた私は、面白い人が集まりそうな、街の会合に片っ端から顔を出しました。そこで、豊島区のリノベーションスクールの話を聞いて参加したんです。


日神山
スクールでは遊休不動産をどう活用していくか考えるプログラムがあり、僕は椎名町のとんかつ屋の跡地を考えるチームになりました。
そして、その場所をまちやど(※)にする企画を立てて実現したんです。
(※)ある地域全体を一つの宿と見立てて、飲食店や銭湯などを含めて地域を楽しん滞在してもらう宿泊スタイル。
なぜ、「まちやど」なんですか?


日神山
街の人同士の交流はもちろん大切なのですが、街に活気をもたせるためには外から人を呼び込むことがさらに重要だからです。
宿ならお客様は少なくとも2日はその街にいてくれて、近くのお店でお金も使ってくれるはず。
シーナと一平は今、東京のローカルを体験したい海外からの観光客にとても人気の宿になっていて、リピートで訪れる人も多いんですよ。その後、その1階にミシンカフェを併設しました。
ミシンカフェ?


日神山
私の家業・日神山内装はインテリアなどを手がける内装の会社で、私の母が工業ミシンを使って、住宅や店舗で使用するカーテンを縫っていたんです。
それで私自身も工業ミシンを持っていて。それをカフェに置いたら、どうだろうと思ったんです。
ミシンカフェがあれば、子どもの持ち物を作るために、ミシンをもっていない若い世代が来るはず。ミシンを使えるおばあちゃんが来ていたら、使い方を教えてあげるんじゃないか。そんなシーン(場面)が頭に浮かびました。
シーンが浮かぶ……?


日神山
店舗設計をするときは、その空間で、お店の人とお客さんにどんな交流が生まれるか、どんな場面が生まれるのかをいつも考えます。
たとえば今、まちやど「シーナと一平」の1階はミシンカフェからシェアキッチンに使い方を変えました。ただ、このシェアキッチンエリアを通り抜けないと宿に行けない作りにあえてしてあります。


日神山
すると、宿泊した外国人観光客の方も、朝晩キッチンを通り抜けるので、そこにいる人と挨拶したりします。
さらに、お菓子職人の方がいたりすると、お菓子を買ってくれたりもする。すると、そのお菓子職人さんのファンになって、次に来日するときはその人がいる日に合わせてくる。そんな面白いシーンが生まれています。
自然に接点が生まれそうですね。


日神山
今は面白い写真が1枚あれば、SNSで全世界に情報が届く時代です。
西池袋の面白いシーンが広まって、さまざまな人が来てくれて、「いい街だね」って言ってくれたら、住民としてもうれしいじゃないですか。

街の中に接点をちりばめる
街の中で、人と人をつなげる機会が多いと思いますが、意識していることはありますか?


日神山
人と人をつなげるというより、「たくさんの接点を作っている」という感覚でいます。
人が集まる「場」に余白があると、「ここで、こんなことができたりします?」とアイデアや接点が生まれます。すると、人が自然に動き出して、結果としてつながりができていくと感じます。
余白が大事なんですね。


日神山
たとえば、空間設計をお手伝いした東長崎の「CACAOKOBO TRIBUTE」というチョコレート工房では、大家さんとチョコレート屋さんに「ポップアップスペースを作りませんか?」と余白を提案しました。


日神山
二人とも最初は「なぜ、そんなスペースを作るの?」と半信半疑だったのですが、ポップアップスペースを使いたい人を募集してみたら、張り子職人の女性が使ってくれることになりました。
すると、街に張り子職人さんの存在が可視化されて、仕事を頼みたいという人が出てきました。「パッケージに張り子を使いたい」「ワークショップをしてほしい」という依頼が来るようになったんです。
ポップアップスペースという余白が、人と人の接点をつくったんですね。
そういったアイデアはどう思いつくのでしょうか?


日神山
やはり、シーンが浮かぶんですよね。
アイデアの段階では僕にしか見えないのですが、そのイメージでみんなを説得していくと、そのシーンが実現していく。そんな仕掛けを街の中に、たくさん作っていきたいです。
ありがたいことに、最近は西池袋エリアの場所とさまざまな情報が入ってくるようになりました。いろいろな面白い人の存在が街の中で可視化されるほど、場所と人の掛け算もしやすくなります。
今の立ち位置ならではですね。


日神山
空間設計の仕事だけをしていたら、「この場所でお店をやるから設計をしてほしい」という依頼しかこないと思うんです。
でも、今は「どうやったら、この場所が面白くなると思う?」という相談が多くて。依頼される仕事の半分は、コンセプト作りから一緒に考えています。
自分の仕事の境界線をあいまいにしたことで、化学反応が起きていますね。


日神山
企画や空間設計を手がけたお店は、「一緒にやってほしい」と向こうから声をかけてもらったものばかりで、こちらから営業したことはないんです。
ただ、実はこういったシーナタウンの活動からは収入は得ていません。でも、シーナタウンの活動が「空間設計の仕事をしている人」として私を知っていただくきっかけになって、日神山内装としての仕事につながっている。
場づくりの上流であるコンセプトから関わっていれば、ここ以外での内装や空間設計の仕事も自然に頼まれることになります。
街の中で知られる存在になったことで、声がかかるようになったんですね。


日神山
少し打算的なようですが、「惚れたほうが負け」なのと同じだと思っていて。仕事も自分が周りから欲しがられる存在になることが大事です。
僕の感覚では、仕事はサーフィンと似ています。誰にでもいい波は来ているけど、それを見つけて乗れるかどうかは、縁とタイミングがすべて。いい波に出会えるように、いろいろなところに顔を出しています。
多くの方と接点があると、日神山さん自身が大変なときもあるのではないでしょうか?


日神山
確かにありますね(笑)。でも、街づくりに関わっているからといって、街の人すべてに向き合わないといけないとは思っていないです。考え方が違う人と無理に接点を持つ必要はないですし。
だから、僕自身が知っている面白い人同士をつないで、その人たち同士が接点を持つのがいいと考えています。
多くの人と会ってきたので、最近は「この人とこの人は相性がいいんじゃないか」というシーンが浮かぶようになってきました。

「私も何かやってみたい」という空気が生まれた
シーナタウンの活動を10年続けてこられたそうですが、どんな変化を感じますか?


日神山
僕自身の変化でいえば、街にいるプレイヤーの顔がたくさん見えるようになりました。
あと、「私も何かやってもいいのかな」という空気が街にできてきたと感じます。余白のある場を作ったことによって、シェアキッチンを使っていた人は自分の店を持つようになったりもしています。
プレイヤー同士が知り合いになると、競争相手ではなく「共創」が生まれてきます。街の中につながりが増えているので、関係性が複層的になっていますね。
それは大きな変化ですね。


日神山
最近では、西武鉄道さんと一緒に、椎名町の駅施設を開発しています。
通常なら、もっと大きな企画会社が請け負う仕事かもしれませんが、「ローカルに根付いた会社とやりたい」と依頼をもらいました。

今後、手がけてみたいことはありますか?


日神山
野望のような大それたものはないですが、小さな面白い活動を続けていきたいです。
まだアイデア段階ですが、「シーナと一平」の朝の時間を、宿泊客以外の人も体験できるようなコーヒータイムを開きたいなと考えています。
なぜ、コーヒータイムなんですか?


日神山
シーナと一平には世界各地の人が宿泊していて、実はグローバルな接点を生み出せる場です。今まで知らなかった国の人と話してみたら、いろんな興味が広がっていきますよね。
その接点から、また面白いシーンが生まれるんじゃないかと思っていて。実現できるのが楽しみですね。

2026年5月取材
企画・取材・執筆=久保佳那
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代/ノオト


