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巻き込むのではなく、巻き込まれにいく。建築家と元行政職員が埼玉・本庄のシャッター商店街を“自分たちの居場所”に変えるまで

埼玉県本庄市──人口およそ7万6000人の地方都市の商店街に、「自分たちが遊び倒す」を掲げてプロジェクト「本庄デパートメント」が生まれました。仕掛けたのは、建築家の大橋千賀耶さんと元行政職員の早川純さんです。

そカフェ・シェアキッチン、私設公園、DIY講座、子どもマーケットなど、多岐に渡る活動を通して拠点を展開。1つ目の拠点のオープンから4年半で、周辺に20以上の店舗が新たに開業するなど、じわじわと街の風景を変えつつあります。 異なるフィールドを歩んできた2人が、どのように商店街の一角に人が集まる場を育ててきたのか。その道のりをお聞きしました。

大橋 千賀耶(おおはし・ちがや)
本庄デパートメント 共同代表/建築家。ハウスメーカー、設計事務所を経て独立。住宅・店舗など「人が直接触れるスケール」の建築設計やリノベーションを数多く手がける。カフェでの修行経験もあり、解体予定の建物から古材をレスキューして次の現場に活かす取り組みにも携わってきた。

早川 純(はやかわ・じゅん)

本庄デパートメント 共同代表/元行政職員。東京23区の特別区職員として、幸福度に関する政策研究やケースワーカー、危機管理対策など多分野を経験。その後、群馬県の自治体にも勤務し、都市部と地方の行政の違いを体感。子育てのタイミングで本庄市に移住し、行政職員の経験を活かして活動している。

建築設計と行政経験、異色のキャリアが交わるま

本庄デパートメントの本拠地“WORK+PARLOR”で、今日はお話を伺った。

お二人はそれぞれ異なる分野で経験を積まれてきました。まず、お二人のこれまでのキャリアを教えてください。

大橋

ハウスメーカーに入社して、その後は設計事務所で住宅や店舗の設計を経験しました。もともと「人が日常生活の中で触れる建築」に関心があって、大きなビルよりも住宅や小さな店舗をつくるほうに惹かれていたんです。

都内のカフェで修行していた時期もあって、その店では浅煎りのコーヒーを扱っていました。今のカフェで浅煎りを出しているのは、その延長ですね。

設計とコーヒー、珍しい組み合わせですね。

早川

私は東京23区で行政職員をしていました。幸福度に関する政策研究をしたり、ケースワーカーや危機管理対策をやったり。

人事異動のたびにまったく違う仕事をしてきたので、結果的にいろんな分野を経験しました。その後、地方の自治体にも勤めて、都会と地方の行政の違いを肌で感じましたね。

公務員時代の経験は、今の活動にどうつながっているのでしょう?

早川

行政側の視点と民間側の視点って、当然ですけど全然違うんです。行政に関わってきたからこそ、予算の仕組みや条例などの障壁を理解したうえで、民間側として地域課題にアプローチできる。いわば「通訳者」のような役割ですね。

行政の職員って、いざ民間に転職してみたらいろんなことができると思うんですよ。人事異動のたびに新しい分野をゼロから学ぶ経験って、実はものすごく応用が利くので。

リスクを分け合うための法人化

お二人はどのように出会ったのでしょうか?

大橋

私が本庄市で「暮らし会議」というワークショップを企画したのがきっかけです。

学生や会社員も対象にしたら、約50人が集まりました。そこに早川さんが参加者として来ていたんです。

当時、開催された本庄暮らし会議の様子(提供写真)

早川

子育てのタイミングで移住してきたんですが、当時は友人がゼロの状態だったんです。新しい活動を始めるきっかけが欲しくて参加しました。

そこから法人の立ち上げに至るまでには、どんな経緯があったのですか?

大橋

「暮らし会議」で「もっと本庄を良くしていきたいよね」と意気投合した仲間がたくさんいました。

ただ、その多くは会社員だったり公務員だったりで、リスクを取って事業ができる状態ではなかったんですよね。

その中で、実際に会社を作れるくらい自由の身だったのが私と早川の2人で。そこで私たちが共同代表として「本庄デパートメント」を立ち上げたんです。

初めから「一緒にやったらうまくいく」という確信があったのでしょうか?

早川

いや、全然そんなことはなくて。「一緒にやったらうまくいくぜ!」じゃなくて、「一人で借金するよりリスクを分散しよう」という発想です。

場所を運営していると、さまざまなリスクがありますよね。誰かがプライベートの都合でカフェに立てなかったり、融資の必要が発生したり。だったら、それを分け合えばいいんじゃないかと考えました。

暮らし会議で出会ったほかのメンバーとは、今も関わりがあるのですか?

早川

ありますよ。マーケットの手伝いをしてくれたり、ふらっとお店に立ち寄ってくれたり。

もともと、一から事業を立ち上げるより「何かやりたい」という関わり方だったので、距離感は最初から変わっていないですね。

分かり合えなさを前提に、共に創る

本庄デパートメントは、よくある「地域活性化」を目的に掲げていないと伺いました。

早川

そうですね。よく言われる、「地域活性化」や「まちづくり」という言葉を私たちは一度も言ったことがありません。

自分たちが面白いと思うことをやって、結果的に地域がおもしろくなったらいいなという感覚です。

とはいえ、昔からある商店街の場合、そこを守ってきた先輩世代もたくさんいらっしゃると思います。そこでカルチャーや世代の違いによるギャップを感じることはありますか?

早川

世代間の差はどうしてもあります。「物を出せば売れた時代」を生きてきた先輩たちと私たちでは、見えている世界がどうしても違うと思います。

たとえば、高度経済成長期を経験された世代の方々は、道路を広げれば車が通りやすくなり、人が来て活性化すると考える人が多い。でも、むやみに道路を広げるだけじゃまちの更新が生まれず、「将来世代の子どもたちが負担する借金が残るのでは」と考える僕らのような世代もいる。良かれと思っていることが、お互いに違うんです。

地域住民の方と意見が割れたとき、どのようにされているのですか?

大橋

分かり合おうとすること自体が正解ではないかもしれない、と考えながら動いています。そのくらいの距離感のほうが、お互いに楽なんですよね。 実際、地元の方々との関係は決して敵対的ではなく、そういう「お互い様」の空気があります。

早川

今は競争するタイミングではないのかも。これから閉まっていたシャッターが開いて、めちゃくちゃ面白い街になったら、その時点でみんなで競争すればいいのではないか、と。今はまだ共につくっていく“共創”のフェーズという認識ですね。

巻き込んでいるのではなく、巻き込まれている

4年半で16事業、細かいものを含めると50以上の事業の立ち上げに伴走してきたそうですね。そこまで広げられた理由は何でしょうか?

造園・外構を手がける「一般社団法人ドコデモヒロバ」と組み、私設公園「本庄銀座GOODPARK」。2026年3月まで運営されており、ここでマーケットやビアガーデンなどが行われていた(提供写真)

大橋

このカフェ“WORK+PARLOR”のおかげですね。ここは入口になっていて、いわば誰でも飛び込めるきっかけにもなっているんです。

コーヒー一杯でも気軽に立ち寄れる。入ってきた人がスタッフにやりたいことや興味のあることを話して、何かがが始まる。そういう流れが自然にできていました。

本庄デパートメントの本拠地“WORK+PARLOR”が、カフェだからこそ開かれた場所になった

お二人とも、「巻き込み力がある」と言われませんか?

早川

そんなことはなくて、逆ですよ。

なにかをやりたい人の伴走支援をしているのだから、その人に巻き込まれている。つまり、巻き込むのではなく、僕らは巻き込まれているのです。

なるほど。巻き込まれ力も一つのスキルな気がします。

カウンターの中にあるシェアキッチン

早川

“WORK+PARLOR”にはシェアキッチンになっていて、お菓子や雑貨などを作れるんです。

商品がたくさんの人たちに知ってもらうようになると製造キャパも足りなくなり、自分の製造場所を持つ人もいます。つまり何かをはじめる人の「スタート地点」になっているということです。

“WORK+PARLOR”の店内ではシェアキッチンで作られた焼き菓子の販売も

いきなり大がかりなビジネスを始めるのは難しいけど、小さな一歩を踏み出したい人にはピッタリですね。

早川

“WORK+PARLOR”の主役は私たちというよりも、使う人たちとも言えます。

だからこそ、レギュラーのフードメニューはあえてフォーだけにしているんですよ。フードロスもできるだけ減らしたいですから。

“WORK+PARLOR”を起点に、商店街の空き家をリノベーションして次々と新たな拠点がオープン。新たなことにチャレンジしたい人のための場所になっている(提供写真)

「活動してきます」──仕事と暮らしはシームレス

お二人とも、心の底から仕事を楽しんでいらっしゃるようですね。ストレスがなさそうといいますか……。

早川

そもそも仕事という感覚はなくて、ストレスを感じたことはありません。その証拠に、自分の子どもにも「仕事にいってきます」ではなく「活動してきます」と言って家を出るんですよ。

大橋

私も仕事だと思ったことが一度もないんです。毎日が休みでもあり、毎日が仕事でもある。 会社員時代は毎朝「出社したくないな」と思っていたけど、今は「今日はどんなことが起きるんだろう」と楽しみにしているんですよ。

毎日ワクワクできるんですね。とても素敵です。

大橋

自分たちの暮らしに合わせて事業設計しているので、もし子どもが熱を出したらカフェを閉めます。無理して辛そうな顔でいたら、場の空気が淀むので。

早川

カフェスタッフにも、カフェでの自分の役割を果たしているのであれば、この場所で自分の他の活動をしてもいいと伝えています。コーヒーの研究をする人もいれば、自分の屋号でシェアキッチンを使って料理提供することもある。

やるべきことをやったら、残りの時間は自分のために使っていい。

仕事と休日を分けたい人もいるでしょうし、それは否定しません。ただ、少なくとも自分たちの周りに集まっている人たちは、その境界線がない人が多いですね。

「暮らしの中に仕事が溶け込んでいるから苦じゃない」という感覚は、当事者として裁量権を持って動いている人に共通するものなんじゃないかと。

大橋

規模が小さい会社だからこそ成立する面もありますけどね。このスタンスが、結果的に場の空気をつくっている気はします。

早川

ここは、「公民館の次の役割」と表現してくれたお客さんがいました。会社員でも公務員でも学生でも、やりたいことを内に秘めている人が、何かを表現できる。これからも、そんな場所であり続けたいと思います。

宮野 玖瑠実
宮野 玖瑠実

【編集後記】
終始、お二人の笑顔と笑い声に包まれた、とても明るく軽やかな雰囲気の取材でした。もともとは、お互いに「リスク分散」の意味合いもあってタッグを組んだというお話が印象的で、本庄で何かを始めたい人たちにとっても、WORK+PARLORというアセットや居場所があるという「安心感」が、新しい挑戦の後押しになっているのだろうなと感じました。
今は、暮らすことと働くことの境界がゆるやかに混じり合っていく時代。私自身も「こんな営みができたら素敵だな」と少し羨ましく思いながら、何かを始めてみたくなるような、小さな一歩をもらえる時間となりました。
(株式会社オカムラ WORK MILL 編集員 / 共創ディレクター 宮野 玖瑠実)

2026年3月取材

取材・執筆=池田愛(めぐみ)
写真=甲斐靖士
編集=桒田萌(ノオト)