ご縁をつなぎ、共に醸す「関係案内人」という仕事。鎌倉「はつひので」で起こる偶然から始まるプロジェクト(小林ななみさん)
仕事での出会いも、地域での暮らしも、思いがけないプロジェクトも。実は多くは人とのご縁や偶然の出会いから始まっています。
一方で、会社や組織のように役割が明確な社会の中で暮らしていると、私たちはついそうした「人と人との関係性」が持つ力を忘れてしまいがちです。
鎌倉・材木座にある関係案内所「はつひので」では、人と人、人と地域をつなぐ「関係案内人」が活動しています。個人の移住相談から地域プロジェクトの立ち上げ、企業との共創まで、その役割は多岐にわたります。
今回は、「関係案内人」として活動する小林ななみさんに、世代や立場、肩書きを越えて人をつなぐ仕事の面白さと、人をつなぐときに大切にしていること、これからの地域に必要な関係性づくりなどについて伺いました。

小林 ななみ(こばやし・ななみ)
株式会社public and co代表/関係案内人
山形県出身。大学時代にフィリピン・セブ島で市民参加型のまちづくりを研究。鎌倉の起業支援拠点「HATSU鎌倉」でコミュニティマネージャーを務めた後、2022年にpublic and co設立。「人とまちの結節点になる」をビジョンに、人とまち、人と人をつなぐ事業を展開。元酒屋をリノベーションした関係案内所「はつひので」を拠点に、移住相談や空き家活用支援、地域コミュニティづくりに取り組むほか、「佐助シェア畑」の運営、企業・自治体・市民団体のまちづくり支援などを行っている。
人のつながりから、新しい価値を生み出す「関係案内人」の仕事とは?
「関係人口」というキーワードを聞く機会は増えてきましたが、関係を案内するというお仕事があったのですね。


小林
そうですよね。初めて聞く方も多いと思うのですが、「関係人口」という考え方は総務省が提唱・推進しています。私たちはその考え方をもとに、「関係案内所」という拠点を運営し、そのなかで、私たち「関係案内人」は人と人をつなぎ、新しい価値を生み出す役割を担っています。


小林
たとえば、移住したいという方の相談に乗って、「こういう暮らし方がありますよ」と地域を案内したり、実際に一緒にまちを歩いたり。
ただ場所を紹介するのではなく、「このまちにはこういう人との関係性があるんだ」と感じてもらうことを大切にしています。
なので、移住だけでなく、「鎌倉に友達がほしいです。どんなコミュニティがありますか?」といった気軽な相談にも乗っています。
そんな相談まで! まさに街を介して関係性を結んでいるんですね。


小林
関係案内所「はつひので」としては、お店やプロジェクトの立ち上げ相談、シェアオフィス・コワーキングの運営のほか、毎週水曜日に持ち寄りランチ会「自炊の日」を開催しています。
どなたでも参加OKで、ご近所の方も多くいらっしゃいますよ。

地域のお祭り・中学校の授業・メーカーのリサーチ。多様なプロジェクトの生まれ方
関わりのなかで、さまざまなプロジェクトが生まれていますよね。印象的なものをいくつか教えてください。


小林
まずは、2022年10月に稲村ヶ崎公園で開催した「なみおと盆踊り祭」でしょうか。
「はつひので」をオープンした年だったのですが、ちょうどコロナ禍で地域のお祭りがなくなっていた時期で。
「はつひので」の近くに住んでいた鎌倉発のアーティスト「小川コータ&とまそん」さんと出会って、「一緒に盆踊りやっちゃう?」の一言から始まりました(笑)。


小林
最近は、中学校の探究学習のご相談も増えています。
都内の学校が鎌倉に研修に来ることも多いのですが、ただ観光地を回るだけではなく、実際に手を動かす体験をしてほしいという先生方の願いがありました。
手を動かす体験?


小林
今、都心の子どもたちは便利な環境で育っていて、自分が社会に必要とされる体験が少ないんです。たとえば、地方なら雪かきのような地域の手伝いがありますが、都市部では多くのことがシステム化されている。
だからこそ、鎌倉研修で実体験を通じて「自分は社会とどう関わるか」を考えてほしい、と。


小林
地域の方々との対話を通じて、プロダクトやサービスの開発につなげる取り組みも行っています。特に、メーカーからの相談も増えていますね。
これまでBtoB中心の事業をしていた企業から、「エンドユーザーともっと接点を持ちたい」「地域と一緒に新しい事業をつくりたい」とご連絡いただいて。
地域課題の解決をテーマにした新規事業開発やユーザーヒアリングを実施するのをお手伝いしています。
「偶然」をKPIに! 「はつひので」らしいつなぎ方
本当にさまざまですが、どんなふうにプロジェクトは生まれていくのでしょうか?


小林
基本的に紹介です。農家や大学、地域コミュニティなど、いろんなご縁が次のご縁につながっていくんですよね。
そんな自然発生的に?


小林
はい。実は一時期、「はつひので」のKPIを「偶然」にしていた時期があるくらいで。
この場でどれだけ予期せぬことが起きたか、スタッフみんなで記録して数えていて。あまりにもいろんなことが起こるので、今はもう数えていないのですが(笑)。
「はつひので」には、特に目的がなくふらっと訪れる人もいる。そしたらたまたま隣で話していた人が、実は昔新卒で同じ会社だった、なんて偶然が起きたりするんです。


小林
今の世の中って目的や正解を求めがちですが、そういう思わぬ出会いも面白いなと思うんですよね。
もともとこの建物は酒屋だったので、甘酒や日本酒みたいに人が交わることで、それぞれ違うものが立ち上がってくる感覚がある。私たちにとって「関係案内人」は、関係をつなぎ、ともに何かを醸す人たちなのかなと思っています。
「発酵」の文化は、まさに偶然からはじまったとも言われますよね。そもそも小林さんは鎌倉のご縁はどう始まったのでしょうか?


小林
大学卒業後はバンコクで働いていたのですが、地域コミュニティと関わる仕事がしたいと思うようになり、リサーチしていると「鎌倉が面白そうだな」と思って。


小林
鎌倉は街に愛着を持って活動している人が多く、街自体もコンパクト。行き止まりの道が多く、メインロードも限られているので、自然と誰かに出会って挨拶する機会が増える。そんな偶然が起きやすい構造の地域なんです。
そしたら、起業家創出拠点「HATSU鎌倉」のコミュニティマネージャーとして声をかけていただいて。
コミュニティマネージャーのときはどんな仕事を?


小林
当時「地域とつながる起業支援拠点」がコンセプトだったので、起業家が地域で実証実験をしたり、地域の人にユーザーヒアリングをしたりと、私は地域の人と起業家をつなぐ役割を担当していました。
すると、「シェアハウスを作りたい」「空き家を探している」といった相談が自然と集まるようになり、“誰に聞いたらいいかわからないことを話せる相談場所”が、地域には必要だと感じるようになりました。
そうして物件探しを始めて、唯一「使っていいよ」と言ってくださったのが100年以上続いていた酒屋「日の出屋商店」でした。


小林
大家さんも地域活動に熱心な方で、「関係案内所みたいなことをやるなら」と貸してくださり、そこから「はつひので」が始まったんです。

「どうなったら最高ですか?」から始まる関係づくり
新しく来た人と長く地域にいる人の間には、見えない壁があるのではないかな、と思います。その壁を溶かすために意識していることはありますか?


小林
まずは挨拶ですね。そして、相手に興味を持つ。この2つがとても大事だと思っています。関係をつないでいく仕事は、相手への関心がないと生まれないんですよね。
だから、「この人のこういうところ面白い」をちゃんと見つけて、引き出していくことを意識しています。


小林
もちろん、誰でもつなげればいいとは思っていないですが、「偶然のスピードを上げる」という感覚は大事にしていて。
本来ならいつか出会っていたかもしれない二人を、自分たちが間に入ることで少し早く出会えるようにする。
そのときにお互いがリスペクトし合えるような“お膳立て”をすることで、少しずつ境界線を溶かしていくイメージです。
日々いろんな人が来ると思いますが、どんなコミュニケーションを取るのでしょうか?


小林
人生相談しに来る方もいるのですが、私たちは何かアドバイスをするわけではなくて。「うんうん」と話を聞きながら、「どうなったら最高ですか?」と問いかけをしています。
お金やキャリアの制限がなかったら、どんな状態が理想なのか。その答えに対して、「それならこういう人いますよ。話してみますか?」と提案していく感じです。
やりたいことが明確な人は動き出すのも早いですが、「まだ自分が何をしたいかわからない」という人も多い。でも、いろんな人と話していくと、「こういう方向もあるかも?」と少しずつ見えてくることもあるんです。

地元のキーパーソンの方々とは、どのように関係性をつくっていったのでしょうか?


小林
「HATSU鎌倉」で働いていた時期に、地域のキーパーソンの方々とたくさん出会えたことは大きかったですね。
ただ、場を持つと、どうしてもそこに居続けてしまうので、意識的に外へ出るのも大事にしています。


小林
あと、私たちは巻き込まれることも好きで。「これやりませんか?」と言われたら、「はい、やります!」と返すことが多い。
そうやって動いているうちに、「あそこに相談したら何とかしてくれるらしいよ」と噂が広がっていった部分もあると思います。


小林
鎌倉は住民が17万人ほどのコンパクトな街なので、一人のキーパーソンとつながるとそこから100人くらいに広がっていく感覚があるんです。
地域の人たちが自然と集まる溜まり場のような個人店も多くて。そういう場所で関係が広がっていくこともあります。
人をつなぐのってタイミングも、人柄も重要ですよね。


小林
おっしゃるとおり、関係案内人はかなり属人的な仕事です。誰にでもできるけれど、その人にしかできないつなぎ方がある。
だからこそ、私たちは何かを得るために人をつなぐことはしたくなくて。「あのとき、ああしてあげたのに」みたいな感覚は持たないようにしています。


小林
大事にしているのは、価値観ベースでつなぐこと。「この物件を探している人」と「この物件に住んでほしい人」のようにモノベースでマッチングすると、実は上手くいかないことも多くて。
でも、価値観が合っていれば結果的にモノも上手く回るんですよね。実際に会って「この人は何を大切にしているのかな?」という空気をキャッチして、つないでいる感覚かなと思います。
違いを超えて、横断しながら、まちと人との結節点を
2022年6月に「はつひので」がオープンしてから、現在までを振り返ってみていかがですか?


小林
今考えると、特に1年目は忙しすぎて記憶がないくらいですね(笑)。
まずはいろんな方に来ていただくことが大事だと思って、ミートアップを開いたり、地域のお店に顔を出したりしながら少しずつ広げていきました。


小林
私たちはいわゆる社会課題解決型というより、この地域にある面白いものをどう組み合わせれば新しい価値になるのかを考えるアセット思考に近いんですよね。
家を建て続けている感覚といいますか。最初は「日本家屋を作ろう」と思っていたけれど、いろんな人が来るうちに「ここはヨーロッパ風にしてみよう」「ここに庭つくってみよう」……と関わる人によって常に更新されていく。
みんなで完成しない建築をつくり続けているような?


小林
そうなんです。まちは、文化や環境、伝統、若い担い手など、いろんなものが重なってできているので、会社のように役割をきれいに分けられなくて。
領域を横断しながらつないでいく人が必要なのではないかと思っています。

「はつひので」としては、今後どんなことをしていきたいですか?


小林
私たちは、まちに対してアクションする人を私たちは「Acter(アクター)」と呼んでいて。こういう人たちを増やしたいんです。
ゴミ拾いでもイベント企画でも何でもいい。関わる人が増えれば、まちはもっと元気になっていくと思うので。


小林
「はつひので」のミッションは、地域コミュニティをエンパワーメントすることなので、ゆくゆくは世界中に“まちと人との結節点”になる場をつくっていきたいです。地域にローカルコミュニティハブのような存在があれば、幸せに暮らせる人がもっと増えるのではないかな、って。
国籍や年齢、性別といったカテゴリーに関係なく、人と人が自然につながる。これからの社会ではそうした違いを越えて関わり合える場が、ますます必要になっていくと思います。
素敵です!


小林
同時に「関係案内人」を職能として確立していくことが次のミッションです。
現在は、ユーザーヒアリングや地域事業開発のサポートを企画費としていただいたり、神奈川県の移住・暮らし相談事業に携わったりして、単発の案件を組み合わせながら「関係案内人」という職能を定義している段階です。
将来的には、自治体や企業などが地域や社内に関係案内人を配置できるようにして、きちんと職能として成り立つ形にしたいです。
小林さんのお話を伺っていると、日々、地道にさまざまなことを積み上げてきたその土台の上に偶然が成り立っているのだと感じます。
だから「はつひので」にしかできないプロジェクトが生まれているのかなと思いました。


小林
たしかに「はつひので」がやっていることは属人性が高いですし、偶然に再現性があるかと言われると難しいですが、私たちはそこを面白いと思っているんですよね。自分が面白いと思うものに突き進んでいく。それでもいいんじゃないかな、と。
それと、人それぞれの話を聞くのがとても好きなんですよ。一人ひとりに人生があって、唯一無二のストーリーがある。話しているうちにその人の顔がキラッとする瞬間があって、「あ、この人はこういうところが好きなんだ」と知れる。そこが、私にとっての「関係案内人」の面白いところですかね。

2026年5月取材
執筆=矢内あや
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代(ノオト)


