2度のメンタル不調を乗り越え、組織への疑問を仕事に。合同会社&ante原田優香さんが語る「組織のなかでいきいきと働く方法」
今の組織や、そこで働いている自分の姿に、違和感がある……。そんなふうに、組織と自分の関係性にモヤモヤしている人は少なくないのでは。
そんな葛藤を経て、人と組織の可能性を共に広げる事業を展開しているのが、合同会社&ante(アンドアンテ)代表・原田優香さんです。
原田さん曰く「組織のパズルにうまく入り込めない」ことから適応障害を患い、1社目は半年足らずで退社し、その後も転職と休職を繰り返して一時期は職につかず過ごしていたことも。
現在は、組織開発やコーチング、カウンセリング事業を行い、人が組織でいきいきと働くための事業を展開しながら、大学院で組織・人材開発について研究も重ねている原田さん。
今のお仕事に邁進できるようになった経緯、そして組織や自身との向き合い方のヒントを伺います。
原田優香(はらだ・ゆか)
合同会社&ante代表。大学時代は社会福祉を学び、卒業後は福祉や場づくりの仕事に関わり、独立後は自分の魅力を発見するプログラム「ジブン研究」を開発。2023年より立教大学大学院リーダーシップ開発コースに在籍し組織・人材開発をテーマに研究。
2度の休職と転職を経て、組織への疑問を仕事に
原田さんは、会社を立ち上げる前は、休職や転職を繰り返されていたそうですね。簡単にこれまでのキャリアを教えてください。
原田
今、私は29歳ですが、これまでに転職と適応障害による休職を2回ずつ経験しました。無職で1年間暮らしていたこともあります。
大学で地域福祉について学んだ後、宮城県石巻市にて移住・就職し、同市で社会福祉士として被災地の支援をさせていただいていました。 このときに1つ目の挫折を経験し、入社5カ月で休職、そして退職をします。
その1カ月後に生活困窮者への支援を行うNPO法人へ転職するも、ここでもうまくいかなくて。2つ目の挫折を味わい、入社8カ月で休職、そして退職します。
短期間で2度の休職を経験したのですね。それからどうしたのですか?
原田
そこから1年間は、どこにも所属せず、ただの原田優香として過ごしました。日雇いバイトをしたり、海外をふらふらしたりと、自分と向き合う時間を意識的に作りました。
25歳になり、そろそろ元気になったかなと思い、飲食ベンチャーに転職。この会社ではイベント運営の仕事に携わりましたが、初めて仕事を面白く感じました。自分に合う組織が見つかったと思い、嬉しかったです。
しかし働き出して1年が経った頃、新型コロナウイルスの影響で事業が止まってしまって。悩んだ末、イベント運営の仕事を続けたいと思い、26歳のときに個人事業主として独立しました。
独立してからは、どのようなキャリアを歩まれたのですか?
原田
いろんな場づくりやイベントのお仕事を行ったり、自分の強みや魅力を発見するプログラム「ジブン研究」を展開したりしていきました。
原田
そのなかで、「こんなに組織や社員の雰囲気が暗くて大丈夫?」と思うことが多くて。しかし、当時は組織開発や人材開発のお仕事を任されていたわけではないため、私には組織を変える権限はなく、アプローチもできません。
自分も組織の中で悩んだ経験がたくさんあったので、問題解決のアイデアはありました。でも、自分で体現できないと解決にはならない。それで、28歳のときに「自分でも組織を作ろう」と合同会社&ante(アンドアンテ)を設立しました。
現在は会社経営の傍ら、組織開発を専門的に学ぶため、大学院へ通っています。まさに座学と実践の両軸で学んでいる最中です。
自分と向き合うなかで取り戻した「私らしさ」
過去2回の休職で原田さんは挫折を味わったと話していましたよね。どのようなときに、組織で働くことの難しさを感じましたか?
原田
1社目では、「自分は社会人として当たり前とされることが苦痛なのだ」と気付きました。
たとえば、スーツで出社すること、就業時間中はずっとオフィスにいることなど。最初は「できない私が悪い」と思い、組織に合わせようと頑張りすぎてしまいました。
「社会人ならできて当たり前」と自分で責めてしまいますよね。
原田
そうなんです。そして2社目では、人間関係における自身の特性を自覚できていなかったために苦しみました。ペアで働いていた上司と上手くいかず、喧嘩ばかりしてしまって。
それはつらいですね……。
原田
当時、「仕事で結果を出せないと、自分自身の価値そのものがなくなってしまうのでは」という恐れがありました。だから、その部分に触れられると怒りに変わってしまって。その結果、人間関係がギクシャクしてしまいました。
内面の壁にぶつかったとき、「このまま次の会社に転職しても同じことになる。時間をかけてでも自分と向き合わなければいけない」と感じたんです。
そういった経験から、あえて職につかずに自分と向き合う時間を1年間つくられたのですね。
原田
まずは、自分自身が合う組織はどんな場所なのか? そして、組織で人がいきいき働くために必要なのは何なのか。
私は決められた場所や服装、時間の中で働くのが苦手で、仕事に自分自身の価値を投影することがある、という特徴があったわけです。
だからこそ、3社目ではフレキシブルな働き方ができ、自分の裁量が確保でき、仕事以外のプロジェクトも認めてくれる会社に転職。それで、組織で働くことに楽しさを見出せたんです。
自分というピースがどのパズルに合うのか、それを探す時間だったのですね。
原田
あと、周囲に手伝ってもらいながら内省を進めるなかで、少しずつできないことを認め、そんな自分にも価値があると思えるようになりました。
また時間があることを前向きに捉え、休職経験のある人に意識的に会いにいったり、いつか行ってみたいと思っていた場所に足を運んだりもしました。
さまざまな場所で人に会うなかで、新しい発見や気づきにつながったことはありますか?
原田
フィンランドへ行ったとき、現地の人に「優香は何をしている人なの?」と聞かれたことがあります。「今は仕事をしていなくて、これからどうしようか迷ってるんだよね」と素直に話したら、「めちゃくちゃいいね」と肯定してくれて。
そう言ってくれたのは、元ミュージシャンで、「やっぱり医者になりたい」と大学に通っている35歳の医学生でした。
日本にいると、「休むのは悪いこと」「仕事をせず相手に迷惑をかけている」と思ってしまう私がいて。でも、その人と話すなかで「これからどんなこともできるんだな」と、気持ちが楽になりました。
くすぶっている違和感から目を背けないで
原田さんのご経験は、組織や人材開発に関する現在のお仕事とリンクされていますね。
原田
はい、事業作りや啓蒙活動などに活かされています。
たとえば、&anteでは仕事の壁にぶつかった人に向けて、「悩んで立ち止まりつつも、どう前へ進むか」を一緒に考えるプログラムを行っています。
私も経験があるのですが、挫折したり悩んだりしているときに「頑張れ」「甘えている」「自分の方が大変だった」などと言われるのはとても辛いことです。人にはそれぞれ物語があり、相手を尊重した対話が求められます。
確かに、相手の背景を見ずに前向きで強い言葉を投げかけられると、本人はもっとダウンしてしまいますよね……。
原田
そうなんです。私の周りには、一緒に働いているメンバーがメンタル不調で休職・退職してしまうという悩みを抱えている人が多くます。
そんな方には、「安易な励ましはしない」「状況を事実のまま受け止める」「話から『いい』・『悪い』の判断をしない」「これらを意識しながら、相手の話に耳を傾けることを大切にしてほしい」と伝えるようにしています。
一方で、経営者ではなく企業の中にいる人で、組織に何かしらの原因で違和感がある人もいますよね。
組織のために自分が変わるべきなのか、もしくは自分の輝ける組織を探すべきなのか……。そんな人には、どんな声をかけていますか?
原田
そんなときは、「体と心に何か反応が出ていないか?」をまずは確認するといいと思います。もし心身に悪い影響が出ているのであれば、組織を離れるというのも1つの選択肢になるからです。
一方で、心身に影響はないけれど、がんばり方が分からないという人には、早急に辞めることが後悔につながる可能性もあるため、「すぐ決断しない方がいい」と話しています。
逆に、やりたいことはあるけど、今の安定を手放したくないという人には「ある程度のリスクを取ってチャレンジしてみたら?」と伝えたいです。
組織の中でくすぶっていると、「こんなはずでは」と悔しい思いをすることもありますよね。そんなときはどうやって自分の内面と向き合えばいいのでしょうか?
原田
その状況を素直に受け入れることが大切なのではないでしょうか。
日々の仕事に忙殺されると、違和感を横に置いたまま、とりあえず目の前の課題に手をつけて解決したくなりますよね。でも、そういうときこそ違和感を引っ張り出して眺める時間を取ることが重要だと思っています。
私がよくやっているのは、少しの違和感でも周囲に伝え、一緒に考えてもらうことです。社内の人や利害関係がある人をはじめ、友人やパートナーなどにも話し、いろいろな視点からコメントをもらうようにしています。
多角的な視点を通して、違和感をフラットに眺めるのですね。
原田
ひとつお伝えしておきたいのですが、壁に突き当たって悩んでいる状況は、ネガティブなことではなくて、順調なことなんです。
もし今、悩んでいるとしたら、それは絶対未来の自分につながる一歩だと思います。後退しているのではなくて、むしろ前進しているので大丈夫です。
弱点をユーモアに変えられる組織は上手くいく
ここまでのお話から、組織内で弱さを補い合えると、いい関係性が作れるのではないかと思いました。
お互いの弱さをうまく見せ合うには、どんな点に気を付ければいいですか?
原田
個人的な話になりますが、私は思い込みが激しく、勘違いをしてしまうことがよくあって。でもあるとき、そんな私に対して「ほんと優香らしいよね」と、笑いながら言ってくれたメンバーがいたんです。本来であれば、怒られるかもしれない場面なのに(笑)。
そうやって、仲間が私の弱点をユーモアに変えてくれたとき、何だか気持ちが楽になりました。そこから相手が自分の弱さを見せてくれたときは、「それ、めっちゃいいね」みたいに私もユーモアで返すようにしています。
このように、弱点をポジティブなものとして捉え直すことを心理学の言葉で「リフレーミング」と言います。
周りの人が明るく返してくれると、こちらも言いやすいですね。
リフレーミングなどの社内の雰囲気作りは、実践していくなかでだんだん広がっていくのでしょうか?
原田
実践することで広がる部分もありますが、会社として大切にしたい部分を予め言語化しておくことも大事です。皆の共通認識となり、違和感なく浸透していくと思います。
言語化?
原田
はい。たとえば&anteでは、「違和感を愛でる」「愛と勇気を持って触れる」「問いは尊い」の3つを行動指針として定義しています。
私たちはこの3つを日々大切にして仕事をしているので、どんなに忙しくても、時間がなくても、納得いかないことを問い続けたり、踏み込んだり、違和感を共有したりできます。
言語化すれば、組織と個人の思いの齟齬を防げそうです。
そもそも、個人が組織の中でいきいきと働けている状態って、どういう状態のことを指すのでしょうか。
原田
実はその内容を大学院の卒業テーマにしようしていて……。だから、確かな答えはまだ出せていないんです。
私の仮説は、「自分のやりたいこと」「会社としてのやってほしいこと」の2つが、できるかぎり近づいている状態で働けている人です。
どのようにしたらそこへ近づけるかという具体的な方法はまだまだ勉強中です。大学院で研究を進めるなかで、自分なりの回答を導き、その結果をいろいろな組織へ展開できたらと考えています。
原田さんが感じられた変化や気づきは、さまざまな人の学びになると思います。ありがとうございました!
2023年11月取材
取材・執筆:スギモトアイ
編集:桒田萌(ノオト)