オーストラリアの企業「Scape」「Single O」に学ぶ、多様性を活かす組織が大切にするコミュニケーションとは? Future Work Style Session 2024イベントレポート
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国籍や民族の枠を超えて多文化共生を実現しているオーストラリアを特集した『WORK MILL with Forbes JAPAN 09』(2024年8月発刊)。そこには、異なる個性を持った人々が互いに尊重し合いながら働き、ともに未来を切り開く姿がありました。
2024年10月3日には、発刊を記念して「Future Work Style Session 2024」を開催。今回は、その第1部トークセッションの内容をレポートします。
多様性をブランド力に変えて躍進するオーストラリア企業である、「Scape(スケープ)」のピーター・ギブソンさん、「Single O(シングルオー)」の山本 酉さんをゲストに迎え、ダイバーシティを基軸にした組織づくりの秘訣を伺いました。モデレーターを務めたのは、株式会社オカムラ WORK MILL統括リーダー / 編集長 山田雄介です。
多文化共生国オーストラリアで、多様性を強みに成功している2社を紹介
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山田
オーストラリアは、移民をはじめ海外生まれの人たちが人口のほぼ半数を占める「多文化共生国」です。
さまざまなバックグラウンドを持った人々が、互いに理解し合いながら働いています。
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山田
日本でも、一人ひとりが異なる個性を持って働いています。その中で、それぞれの個性をつぶさず生かしていくには、どんなことが大切なのでしょうか。これからの組織づくりのヒントを探っていきたいと思います。
まずは、お二方から企業紹介をお願いします。
はい、本日はよろしくお願いいたします。
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山本
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「Single O」は、シドニーのサリーヒルズで2003年に誕生したコーヒーカンパニーです。
2014年、日本展開し「Single O JAPAN」がスタートしました。
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山本
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商社を通さず独自にコーヒー豆を買い付け、日本国内ではあまり目にしないようなユニークなシングルオリジンコーヒーを提供しているのが私たちの大きな特徴です。
また、店舗では蛇口からコーヒーが出てくる「コーヒーオンタップ」という世界初のテクノロジーも展開しています。
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山本
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オーストラリアの店舗は若いスタッフが多く、社風は比較的自由です。さまざまな個性を持った人々が、いろいろな想いで働いている。それで成り立つ組織づくりを意識しています。
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山本
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山田
ありがとうございます。
続きまして、ピーターさん。「Scape」のご紹介をお願いいたします。
本日はよろしくお願いいたします。
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ピーター
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2013年に創業の「Scape」は、「PBSA(学生専用宿泊施設)」と呼ばれる学生寮を運営しています。
現在はオーストラリア国内最大級の34棟1万7000床のベッドを所有しており、これからさらに10棟増えていく予定です。
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ピーター
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「PBSA(学生専用宿泊施設)」は投資業界で新たなアセットクラスで、「Scape」はオーストラリアの民間賃貸住宅セクターにおける最大の民間投資家でもあるのが特徴です。
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ピーター
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ビルや物件を運営する企業は子会社への委託や分業をする会社が多いと思います。
「Scape」では、基本的に工事以外は全て自社で完結しています。そのため、チームワークが非常に重要です。
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ピーター
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来日留学生は住まいを探しづらいという問題を抱えているため、将来的には日本でも「Scape」の施設を設立したいと考えています。
2033年までに来日留学生を約20万人から40万人に増やすという政策目標があり、日本の留学生マーケットはますます変化していくでしょう。
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ピーター
多様性を武器にできる組織づくりとマネジメント術とは?
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山田
お二人とも、ありがとうございました。
今回、「個性をつぶさず、多様性を活かす組織づくりに大切なことは?」というテーマで話を進めていきたいと思います。
こちらのスライドに、お二人との事前ミーティングで出てきた4つのキーワードを抽出しました。
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山田
まずは「コミュニケーションスタイルの同意」について。ピーターさんから出たワードですが、詳しく伺えますか?
「Scape」には約900名の社員がおり、なんと100カ国語もの言語が使われています。
もちろん国籍や文化も異なるため、コミュニケーションをするときは最初にどんなスタイルで話を進めていくのかを確認し、みんなが同意できるよう努力しなければなりません。
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ピーター
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「Scape」には「No Stupid Question(=バカな質問はない)」という文化があります。
発する質問、情報はたとえ間違えていてもいい、どんな意見も貴重である、という意味です。
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ピーター
日本人は「空気を読めないとダメだ」という雰囲気がありますよね。
でも、オーストラリアでは「空気を読む」が通用しない。「相手に聞いてみないと分からないことがある」という意識を持つのも、重要なポイントだと思います。
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山本
さらに、同僚に「Are you OK?」と毎日聞きます。聞かれた側もその質問に本気で答えないといけない。
もし「No」と言われたら、マネジメント側がしっかりとケアをする。それもメンタルヘルスを守る方法なのです。
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ピーター
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山田
次に2つ目の「アイデアマンはいらない」について、山本さんに伺っていきます。
これは、弊社のバリュー「Single O ‘6’(シングルオーシックス)」に関わるものです。
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山本
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その一つが「MAKE IT HAPPEN!(=実現させよう!)」。大きな利益を上げるアイデアを提案して何もしないよりは、小さくても目標を立ててそれを実現させるほうが大事だという意味です。
そのために、自らリーダーシップをとって、周りを巻き込んで進めていく。そういった小さなアイデアでも出しやすい環境を整えてあげるのが会社として重要だと考えています。
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山本
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山田
まさに山本さん自身が「MAKE IT HAPPEN!」を実行したと伺っていますが、詳しく聞いてもいいですか?
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私は、2007年にワーキングホリデーでオーストラリアに渡り、「地元の人たちと一緒に働きたい」という想いで2008年にSingle Oに入りました。
そこで1日8時間ずっと皿を洗い続ける日々でしたが、まかないで飲んだエスプレッソの美味しさに感動してコーヒーの世界にのめり込みました。その一杯が人生を変えたと言っても過言ではありません。
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山本
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山田
「Single O」は元々日本に出店する予定はなかったそうで、まさに山本さんの力強い想いがチームや代表を巻き込み、「やってみようよ」となったのですね。
はい。オーストラリアのカフェは食事も飲み物も両方しっかり出すスタイルが主流。
それは日本でも流行るのではないかと考え、代表に提案をしたのが日本進出のスタートでした。
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山本
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山田
3つ目は「得意を引きあげる」。これも山本さんから出てきたキーワードです。
日本で展開したいと思ったのち、バリスタや焙煎士としてコーヒーについて学んでいきましたが、自分の得意に気づくまでかなりの時間を要したんです。
カッピングというコーヒーの味を確かめる手法があるのですが、4年ほど経って初めて「どうやら自分はカッピングが人より得意なのだ」と知ったんです。
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山本
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ただ、その気づく機会を早めてあげることはできる。私たちは企業内でも「それ、得意だよね」と本人にちゃんと伝えてあげて、得意を伸ばせるポジションにつけたり、仕事を任せたりしています。
マネジメントチームがいかに早く得意に気づき、引き上げていくことが会社の成長にも繋がると思います。
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山本
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山田
自分の得意に気づくのは意外と難しいですよね。得意を探すために、どんな工夫をされているのですか?
社員には年1回のミーティングで目標に対する効果測定を行いますが、それ以外で目標に設定していないけどできていたこともしっかりと拾い上げます。
ただ、得意分野を仕事にしたくないスタッフもいるかもしれません。その場合は、ストレスにならないよう「こういう形はどう?」と違うアイデアを渡します。
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山本
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山田
次の「自分のスーパーパワーを発見しよう」も、とてもユニークな言葉だと感じました。これはピーターさんからの言葉です。
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毎日出勤すると、CEOから「あなたのスーパーパワーは何ですか?」と聞かれるんです。
自分のスーパーパワーを発見し、マネジメント側もそれを支えて活かしていくことが大切です。
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ピーター
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山田
「得意」と「スーパーパワー」……。キーワードは違っても、まさに共通のことを実行されているだと思いました。それぞれ個人がパフォーマンスを発揮できるよう、素質をいかに伸ばしていけるか、ですね。
逆に、人には不得意や苦手もあると思うんですけど、それはどう見つめているのですか?
「I’m not perfect.」というフレーズをよく使います。みんなパーフェクトではないし不得意があるけれども、全体に「あなたの不得意を私がカバーします」というマインドがあるんです。
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ピーター
私たちも、不得意を直していくことはしませんね。
苦手なことをしなくても成り立つポジションや、得意をもっと伸ばしていける仕事を与えるよう心がけています。
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山本
複雑で難しい会議こそ、積極的にカフェを利用する
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山田
次のトピックは、「顧客のエンゲージメントをどう高めているか」。
「Single O」サリーヒルズ店では、観光客、常連客、地域の人々が行列に並んでいる姿が印象的でしたが、そういう人たちの関係づくりやカフェの存在意義について伺いたいです。
「Single O」では、あくまでも友達ではなく、関係性を弁えたフレンドリーな接客を取るよう教育しています。
ただ、リピーターと毎回同じ会話をしていてもエンゲージメントを高めることはできません。なので、お客さまとスタッフという線引きはありながらもどんどん仲良くなって、いろんなことを聞き出していく。そうすると、スタッフがハブとなって、リピーター同士を繋ぐ会話ができるようになっていきます。
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山本
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スタッフが会話を振ることで、一対一から三角形の会話になって、今度はお客さま同士だけの一対一の会話になる。
それがオーストラリアで本当によくあることで、我々のカフェではそんなコミュニケーションをどんどんとっていきたいなと考えています。
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山本
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山田
最近オフィス内にカフェを作る企業がとても多く、もはや必須の機能となってきています。
そのときに企業が求めているのは、いかにコミュニケーションを生み出し違う人同士を繋げてエンゲージメントを高めるか、そこからイノベーションのキッカケをつくりだせるか、だと思います。
オーストラリアでは、より難しい会議こそ、カフェで行うという風習がありますよ。
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ピーター
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山田
それは、カフェのほうがミーティングのパフォーマンスが高まると雰囲気があるということですか?
はい、話しやすい環境は大事だと思います。
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ピーター
音楽を流したり、バリスタやスタッフが大きな声を出したりと、あえて少しうるさい環境をつくるように狙っています。そうすることで、相手の声を聞くためにおのずと距離感が近くなるんです。
社内カフェでも、他のお客さまが来られたときに簡単な打ち合わせなどで企業同士が繋がることもある。社内だけでなく社外にも影響を与えることができる場所だと思います。
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山本
「多文化主義」を恐れず、風通しの良い環境づくりを
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山田
最後のテーマは、「日本企業がオーストラリアから学べることは?」。
特に若い人材の教育について、課題を感じている日本企業も多いと思いますが、いかがでしょうか?
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やはりコミュニケーションのとり方が一番重要ではないでしょうか。若い世代が「空気」を読んで、何も言わなくなってしまうと、エンゲージメントも高まらない。
コミュニケーションがとりやすい風通しの良い環境を作っていくことが大事だと思います。
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山本
オーストラリアは「多文化主義」という言葉に対して、基本的にポジティブなんですよ。でも、私のように外から日本を見ると、「多文化主義」に対して日本人は怖がっているように感じます。
今後の日本は、さまざまな国から人材が入ってくると思いますが、マネジメントやリーダーシップのポジションでも外国人のもっているノウハウを受け入れていけるといいと思います。
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ピーター
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山田
我々はまず他文化や異国の人たちに対して、恐れを抱かないようにしなければいけない。
簡単なことではないですけれども、そのためにはマネージャー陣にそういった多文化を経験した人たちを入れることがいいのではないか、ということですね。
日本とオーストラリアは、貿易、政府、コミュニティ、スポーツなどさまざまな分野で深い繋がりがあります。特に今はオーストラリアにとって、日本は非常に人気の観光地です。
「おもてなし」「ジャパンクオリティ」などの日本の素晴らしいサービスに、オーストラリアの「ダイバーシティインクルージョン」「理解力」「多文化主義」を組み合わせたら、より成功するのではないでしょうか。
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ピーター
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山田
「おもてなし」は、ある意味ダイバーシティ、誰に対しても気遣いできる、まさにインクルージョンでもありますよね。
今後、「Scape」さんがどんどん日本に進出し、多文化をもたらしていただくことを、「Single O」さんとともに期待できればと思います。
お二人とも、どうもありがとうございました!
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2024年10月取材
執筆=矢内あや
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代(ノオト)