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世界のデジタルノマドが集まるサイトはホスピタリティに満ちている テクノロジーとヒトが持ち寄る情報の力(カフーツ・伊藤富雄)

テクノロジーの進化によって、人々の働き方はどんどん変化してきましたノマドワークのように物理的にひとつの場所に留まらずに働くことなどの考え方・価値観が登場し、それに伴って新しいトレンドが次々に登場しています。日本最初のコワーキングスペース「カフーツ」主宰者で、世界中のコワーキングスペーストレンドをウォッチしている伊藤富雄さんが気になるテーマをピックアップ。今回は、世界の「デジタルノマド」たちが、次の旅先を選ぶときに情報源としているサービスをご紹介します。

一体、今、世界にデジタルノマドは何人いるのだろうか。一説によると1,000万人とも、いや1億人とも言われている。その調査機関や方法によって出てくる答えはさまざまだ。が、コロナ禍を挟んでとりわけ欧米を中心に増えていることは間違いなく、2035年までに10億人になるというデータもある。

そんなデジタルノマドが次の旅先を決めるのに重宝する情報サイトがあるので、今回はそれを紹介する。

細密すぎるスコアが持ち味のNomad List

まずは何をさておいても真っ先にチェックされるのは「Nomad List」だろう。このサイトの情報網羅ぶりはスゴイ。もうほとんどここだけ見ておけば、ロケーション選びに苦労することはないと言っても過言ではないのではないだろうか。

出典:Nomad Listウェブサイト

2014年の開設以来、Nomad Listには1億1,900万人以上がアクセスし、2021年だけで500万人以上の人がNomad Listを利用して、190カ国以上の1,357都市で生活や仕事をする場所を探したと言う。

トップページには人気ランキングに沿って世界のロケーションがズラっと並ぶ。第2位のインドネシアのチャングーが目についたのでちょっと開いてみよう。

このカードにマウスを持っていくと、

出典:Nomad Listウェブサイト

「総合評価」「生活費」「ネット環境」「娯楽」「治安」の5項目がグラフで表示される。

出典:Nomad Listウェブサイト

これをクリックすると、さらに詳細な情報が33項目にわたってスコアで表示される。

総合評価スコア(チャングーは5点満点中4.17)や、どれだけNomad Listのメンバーが高評価しているか、生活水準はどうか、家族向けか、ナイトライフは楽しいか、ネットの回線速度、交通の利便性・安全性、1カ月滞在時のホテルやAirbnbの料金の中央値、便利なタクシーアプリ、リモートワーカー向けの仕事案件紹介、温度や湿度、中には人種偏見度やLGBTQ+の受容度などが、人口や男女比や為替レートや平均所得といったよくあるデータに混じってこれでもかと表示されている。

気になることはほぼカバーされていて、まさにかゆいところに手が届く幅広さと徹底ぶりに舌を巻く。

出典:Nomad Listウェブサイト

そのすべてのスコアがなんと10分ごとに更新されているというから驚きだ。まさに、世界の状況をリアルタイムに刻々と映し出している。

人口統計や犯罪発生率、安全、医療などの情報については、国連、WHO、IMF、世界銀行による公共データセットを、また、天候、大気質、交通密度などについては公共APIを利用している。

Nomad Listではすべてのデータを常に処理し、正規化されている。異常値を取り除き、古い値を割り引き、ノマドがその場所に到着したときに最も正確である確率が高い中央値を算出している。当然、より多くのデータ(つまりサンプル)がサイトに挿入されるほど、データ全体の精度は高くなる。

その結果、アムステルダムの空気の質は42種類、東京のインターネットの速度は9種類存在する。

その空気の清浄度はアメリカの環境保護庁が定めた大気質の測定システムを利用していて、世界中から1万個以上の大気センサーを調達し、各地の現地時間正午の大気測定値を表示している。

「大気汚染は毎年700万人の命を奪っていると言われています。だからこそ、住む場所を選ぶ際には欠かせない指標となるはずです」という説明には、ただ単に奔放なツーリズムを煽るのではなくて、ノマドが安全で有意義な時間を過ごせるようサポートするという姿勢が伺える。

そのことはNomad Listが会員を相互に見える化し、会員間でコミュニケーションがスムーズに行われ、旅人にありがちな孤独感から解放することに腐心していることにも通じる。

「People」のタブを開くと、今現在誰がチャングーにいるか、また、近い将来に誰がやって来るかが判る。これはスゴイ。

出典:Nomad Listウェブサイト

また、同じ場所にいる他の会員に会うために行程を記録したり、Slackで毎日チャットを使って質問したり、情報を共有したり、あるいは友人を作ったりするための機能も提供している。

出典:Nomad Listウェブサイト

ついでに、都市、国、大陸、人で検索し、「いいね!」や「フォロー」もできる。

出典:Nomad Listウェブサイト

さらに彼らの多くは、定期的なミートアップをこれまでに1563回開催し、22,056人が現実に(つまり、オンラインではなくてリアルに)参加している。

出典:Nomad Listウェブサイト

そのミートアップにはコワーキングスペースでのセッションも含まれる。デジタルノマドは仕事をしながら世界を旅する人種だから、ワークスペースの確保は最重要課題だが、Nomad Listならコワーキング情報もしっかり提供してくれる。

出典:Nomad Listウェブサイト

会員は自分の行程を記録し公開できる。これを見ているだけでも楽しい。例えば、彼はこれまでに68の旅をして23カ国35都市を訪れ、20万7,530kmを移動してきている。

出典:Nomad Listウェブサイト

10月15日から1カ月はチャングーにいて、その前はイタリアやマルタ、タイ、トルコにいたことが分かる。インドネシアの次は香港を経由してオーストラリアに行くらしい。いいなぁ。

トップ画像は、そんな彼のこれまでの旅の記録のマッピングだ。どうやら日本にもいたみたい。当然、人によってこの画像は違うし、またあらたな旅が始まれば、その都度、更新されていく。実に楽しい仕掛けだ。

このページの情報で彼に興味を持った他の会員は、フォローしたり、メッセージを送ったりして友人となる。そうしてつながった会員が世界中にコミュニティを作っている。

出典:Nomad Listウェブサイト

こうした多くの機能がリモートワーカーを孤立させないことを目的としていることは明らかだ。

そして、ノマドが理想的な旅ができるよう相互に情報を持ち寄っているところは注目に値する。つまりコワーキングの根本理念である助け合いの精神が発揮されている、ということだ。

Nomad Listでは、毎秒、世界中の何千もの町(や村)について、生活費、気温、安全性など、何百万ものデータを収集する高機能なシステムを開発しアップデートするために、このサービスを無料ではなく有料会員にのみ提供している。会費は$199.98で、アカウント登録の際の一回だけ。(※記事執筆時点で2022年11月末までの50%OFFキャンペーン中で$99.99)

あえて有料とすることでコミュニティ内のカルチャーを守り、デジタルノマドのコミュニティとしての一定の質を担保することを実現していると共に、無料サービスで成長した時点で大手企業に買収されて会員情報まで売り物になることを回避している、とも言っている。いかにも、世界中のデジタルノマドをコミュニティ化するNomad Listらしい考えだと思う。

ところで、日本は?と思ったら、152位に東京があった。ただし、コロナのせいで長らくデータが集まっていないからだろうか、スコアは空っぽだった。昨年から動きだした諸外国と比べて、この出遅れ感はなんともやるせない。日本に、とりわけ日本の地方に興味を持つ海外のデジタルノマドは多いと聞く。例のデジタルノマドビザの発行と相まって、ローカルから海外に情報発信することで挽回したいところだ。

「仕事」寄りが何かと便利なDigital Nomad World

もうひとつ、デジタルノマドにオススメのサイトがDigital Nomad World」だ。

出典:Digital Nomad Worldウェブサイト

ここも世界各地のロケーションが紹介されているが、Nomad Listがスコアをメインにしているのと比べて、テキスト中心で構成されている印象だ。

特に各地を紹介するシティガイドのページはものすごい文章量で、全部読むのに相当時間がかかる。一応、Nomad Listのように、「生ビール1パイントやカプチーノ」「片道切符」「基本光熱費(月額)」「ワンルームのアパートメントの家賃」などの平均価格や、為替や便利なアプリなどは一覧で表示されているが、それに加えて以下のような情報がこれまた詳細に綴られている。

・その町の歴史的な背景
・食べ物や文化
・主要な交通機関
・フィットネス、ジョギング、サイクリング、フットボール
・ナイトライフ
・その他のアクティビティ
・滞在するのに最適なシーズン
・家族向けの情報
・仕事のできる場所(カフェや、もちろんコワーキングスペース)
・住むのに最適な地域
・ローコストで滞在する方法
・デジタルノマドが必要とするビザの申請方法
・生活費

例えば、ブルガリアの首都・ソフィアのページ。

出典:Digital Nomad Worldウェブサイト

この下に怒涛のようにテキストが押し寄せてくる。スマホで読むには少々つらいかもしれないが、次の旅先を調べているデジタルノマドにとっては、貴重な情報源であることは間違いない。

試しにアカウントを取得してログインしてみたら、トップページはよく見るSNSのようになっており、利用者同士のコミュニケーションが交わされている。

出典:Digital Nomad Worldウェブサイト

例えば、「アルゼンチン滞在中にウエスタンユニオンで送金することについてアドバイスがほしい」といった質問の投稿に対して、他の会員が「ワイズがいいですよ。ペソも扱っていますから」と情報を提供しているのだ。

デジタルノマドは旅先で貴重な体験をする旅人であると同時に、その地に新たな知を持ち込んでくれるワーカーでもある。ローカルにあるものと彼らが持ち込むものによって、いわば「知の融合」が生まれ、新たな価値がもたらされる。

そうしたエコシステムが働いていることに気づいた各国が、こぞって導入しているのが「デジタルノマドビザ」だ。やはりサイト内でも、「デジタルノマドビザに関してアドバイスしてくれるデジタルノマドコンサルタントを紹介してほしい」という質問は目についた。

Digital Nomad Worldは、無料ユーザーでもコミュニティに参加したり、ジョブボードで仕事を探したり、詳細を極めるシティガイドも読める。月額5ユーロの有料会員になれば、コワーキングやホステル、ゲストハウス、各種アクティビティの割引サービスの利用やミートアップへの参加もできるようになる。

出典:Digital Nomad Worldウェブサイト

個人的に、特に目を引いたのは専門家のコンサルティングを受けられるサービスだ。そのなかには、デジタルノマドやリモートワークの専門家もいるが、移民弁護士、労働法弁護士、不動産専門弁護士、税理士、移民コンサルタント、入国管理局パートナー、リロケーションのスペシャリスト、など法律関係のコンサルタントが圧倒的に多い。

出典:Digital Nomad Worldウェブサイト

デジタルノマドは観光客ではなく仕事をしながら旅をするワーカーなので、訪れた先の国でも何かと法律のしばり(もしくは助け)を受ける。その際に、現地専門家のサポートが受けられるのはやはり心強いはずだ。

また、求人のためのページも用意されていて、会員になればジョブボードに仕事案件を投稿できる。フリーランサーのノマドはこのボードから仕事を受託し、また旅を続けられるという寸法だ。

出典:Digital Nomad Worldウェブサイト

こうして見ると、Digital Nomad Worldは、「旅」はもちろんだが、「仕事」「ビジネス」にウェイトを置いた編集方針を持っていると分かる。

世界にはデジタルノマドをサポートするこうしたサービスが数多く存在する。その事自体が、リモートワーク、引いてはデジタルノマドという働き方、生き方が、時代の流れとともに常態化しつつあることを物語っている。願わくば、日本もこうした世界のトレンドに沿って多くのデジタルノマドを受け入れ、「知の結合」を全国各地で実現してほしい。

日本には世界中のデジタルノマドを惹き寄せるポテンシャルが満ち溢れている。そのことに、日本、とりわけローカル(地方)自身が気づいてアクションを起こしてほしいとぼくは考えている。

どちらのサイトにも日本のページは用意されているが、まだまだアップデートする余地がある。これらのサイトに日本の最新情報が満載になる日が待ち遠しい。

企画・調査・執筆=伊藤富雄
編集=鬼頭佳代/ノオト