週休3日で個人と組織が得るものは? 永井宏明さんに聞く、「+1日」のある生活
「週休3日」がセーフティネットになり、“タイ”が“カモ”になる
永井さんは、介護施設でも週休3日制を導入された経験があるんですよね?
はい、週休3日の正社員として2年ほど働いた後、その会社の介護事業を立て直す必要があることが見えてきました。僕はちょうど非常勤講師の仕事も一段落したので週休2日の働き方に戻り、介護施設の施設長をやることになったんです。
ところが、そこで働く人がどうにも集まらなくて。試しに、年間休日150日以上、つまり週休3日の正社員を募集してみました。働く日数が8割だから給与も8割の固定給です。最初は他の職員も、「そんな働き方したい人はいないだろう」という反応でしたが、募集してみると「本当にこの条件で働けるんですか?」という問い合わせが来て、採用できるようになったんです。
どういう人が週休3日の働き方を希望するのでしょう?
子育て世代の方や子育てが一段落した世代の方、ご家族の介護をされている方などもいました。
パートタイマーの方とはどのように区別されていたのですか?
パートさんは働く曜日が固定で夜勤はありませんでした。施設としては夜勤や土日の勤務ができる人の確保が課題でしたので、その点において他の正社員と同等に、なおかつ責任をもって仕事をしてくれる人を「週休3日の正社員」と位置づけたわけです。
週休3日の正社員をマネジメントする側になって、難しいと感じたことはありますか?
シフトを組むときに、人によって時間数が違うので多少複雑ではありました。でも、それ以上にメリットがあると考えています。週休3日の正社員という働き方を選ぶのは新たに来てくれる人だけでなく、育休から復帰した人が子育てと両立するためとか、パート・アルバイトだった人がもうちょっと頑張って働きたいとかで希望されることも多かったんです。
あとは、「仕事もプライベートもいっぱいいっぱいで、心身ともに疲れてしまったので辞めたい」という方のセーフティネットになり、辞めずに済んだことも。結果、当時の職員の3割以上が週休3日正社員を選択していました。
採用力が上がっただけでなく、既存の社員の定着にも効果があったんですね。
そうなんです。週休3日について講演するときにいつも「鯛(タイ)が鴨(カモ)になる」と言うんですけど、「もう1日休み“たい”」と言っていた人が、「もう1日働いてもいい“かも”」になるんですよ。そうした心の余裕が生まれることは、サービスの質の向上にもつながります。
「週休3日」のニーズの高まりに、企業は危機感をもって対応すべき
週休3日制が注目される一方で、「収入が減る」「一日の業務量が増える」といった否定的な意見もあります。
「収入が減るなら週休3日を利用したくない人が8割」といったアンケートを良く見ますよね。これはデータの捉え方が間違っていて、もはや20%もの人が「利用したい」「どちらかといえば利用したい」という時代なんですよ。極端に言えば、日本の就業者数が6,000万人だとして、1,000万人以上が希望する可能性があるわけです。
それに「本当は正社員がいいけれど、週休2日は難しいからパートにせざるを得ない」という人もいます。そう考えると、週休3日を選択したい人はもっと増えるでしょう。だからアンケートで2割というのはもはや少数ではありません。
私たちは「週休3日という選択肢があった方がいいよね」という提案をしているのであって、全員に週休3日で働いてほしいと言っているのではないんです。さらに言えば、一人の人間であっても週休3日で働きたい期間もあれば、フルで働きたい期間があっていい。人生のステージに応じて働き方を変えられる方が豊かですよね。
それでも、「うちには関係ない」と考えている経営者が多そうです。どういったことが企業を動かす後押しになるでしょうか?
先日「週休3日制」についてのアンケート調査を行いました。「仮に転職先を探す場合『週休3日』という選択肢がある方が魅力的に感じるか?」と尋ねたところ、54.3%が「とても魅力的」、39.9%が「少し魅力的」と回答しました。つまり、94%が週休3日という選択肢がある企業の方が魅力的だと感じているんです。
今、特に地方の企業が若い人を採用するのに苦労していますよね。働く人にこういうニーズがあることを踏まえて募集しなければ、採用は困難です。本当に採用したい人たちが何を考えているのか、トレンドや価値観を把握し、危機感をもって対応していかないと、事業の継続自体が危ういのです。
同じアンケートで「どの働き方が魅力的ですか?」と聞いたときに、「週休3日正社員で給与は8割」を選んでいる人が28.7%いたんです。これを見ても、週休3日の働き方が選べるようになれば25%程度の人はそれを選択するだろうと確信しています。こういうことを理解し、直視できる企業から変わっていくのだと思います。
特に人手不足の企業では、週休3日を許してしまったら仕事が回らなくなってしまうと心配する経営者も多いのではないでしょうか。
「みんなが週休3日を希望したらどうしよう」とかね。でも、例えば介護業界では、そういう事業所さんに限って人が足りないからワンフロアまるごと閉鎖していたりするんです。そうやって営業機会を損失して売上を減らしている状態の方がよほど怖いはず。ですが、週休3日というものがよく分からないから、漠然と怖がっている経営者の方は多いと思います。
事業を通じて価値を生み出していくために、企業は「働き方の定義」を
逆に、週休3日を取り入れていく組織が気をつけるべきことはありますか?
週休3日を含め、働き方の多様性というのは手段でしかないわけです。その手段を表面的に採用するだけでは、上手くいかないですよ。
日本の労働法で、週に40時間というのはあくまで上限です。各企業はその中で自由に労働時間を設定していいんです。でも、日本の企業の多くはその自由を生かしていません。経営上の重要な要素である「ヒト、モノ、カネ、情報」、その一丁目一番地である「ヒト」にどうやって働いてもらうのかを考えていない。それは企業としてやるべきことをやっていないということだと思います。
確かに。
最近、ある保育園を運営されている会社の社長さんとお話ししてすごく勉強になりました。週休3日正社員で保育士さんを募集されることになったんですけど、それは単に人を集める手段として始めたわけではないんです。
園児の安全を確保し、成長をサポートしていくにあたって、多様な人たちがいろいろな視点で見ることが必要だよね、と。そうなると、週休3日で働いて+1日の休みを他のことに関わっている人材がいるのもいいよねということで、週休3日正社員も募集しようということになりました。「+1日」のお休みで副業や起業をしたい人に来てもらうのもOKということになったんです。
今は、企業が自分たちはどんな事業を行うのか、どんなサービスを提供し、どんな価値を生み出していきたいのかを明らかにした上で、それを実現するための働き方を定義することが求められる時代です。そのときに、週休3日正社員が有効だというのが、僕の考えです。
2022年3月取材
編集:ノオト