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学校の役割は”エンパワーメント”。生徒の自律性を育み、創造性を引き出す教育のデザイン ー 世界を一歩前進させるデザイン #4

学びの最前線を走り、変わり続ける学校 KAOSPILOT

小林氏と参加者との熱いラリーが続いた後、二人目のゲストスピーカーとして登壇したのは、デンマークにあるビジネスデザインスクール「KAOSPILOT(以下、カオスパイロット)」で校長・CEOを務めるクリスター氏です。カオスパイロットは「クリエイティブリーダーシップと有意義な起業家精神のための学校」として、多くの起業家や組織のリーダーを輩出しています。「学校は学生をエンパワーメントする存在である点に、ISAKとカオスパイロットの親和性を感じた」と話すクリスター氏。カオスパイロットという学校の役割を説明します。

クリスター:  カオスパイロットの出発点は1990年代初頭に遡ります。その頃デンマークでは若者の失業率が上がっており、私たちの問いは「社会に居場所を見つけられない若者たちを、どのようにエンパワーメントするか」でした。

カオスパイロットのミッションは「次世代を担うリーダーの育成」です。私たちが最も重視するのは、昨日までの課題ではなく、今日や明日の課題に取り組み、未来における価値を創造すること。そのためには、実験的な取り組みが不可欠です。

だからこそ、私たち自身が学習のフロントランナーであろうとしています。時代や学生のニーズに合わせて、新しい学習のフォーマットを開拓し続ける必要があると考えています。

学生を中心に据えた学びの文化

 カオスパイロットには、毎年夢や野心を持つ学生が集まります。そんな学生たちをエンパワーメントするために、学生中心の学習を設計する大切さを強調します。

クリスター: カオスパイロットにおいて、学校の多くのことが学生によって動かされている点は特筆すべきポイントでしょう。学生たちの夢や価値観に焦点を当てようとすると、学校自体が毎年変化していく必要があるからです。

多くの教育機関では時間が経つにつれ、学校の構造が文化を侵食する傾向にあります。 つまり、ポリシー、 規制、制限を固定化してしまう。それは創造性、革新性、そしてリーダーシップの育成に悪影響を及ぼします。リーダーシップはボトルに入れることはできませんし、創造性は特効薬ではありません。大切なのは、構造と文化の二つのバランスです。

学生がみずから学びを探求し、学校の文化を構築する。そのためには、学生と先生のあり方も変化するといいます。

クリスター: カオスパイロットの3年間の教育プログラムでは毎年35名の学生が入学し、彼らはチームを結成します。チームの役割は、お互いの学びの旅をサポートすること。彼らは学生であると共に、本質的には先生でもあるのです。

私たち教育者の役割は、学生たちが目指す夢や社会の実現を手助けすることです。カオスパイロットではほとんどの教授を外部から招いていますが、内部にはチームリーダーと呼ばれる存在がいます。チームリーダーはコーチやファシリテーターに相当する重要な役割を担い、学生の学びをサポートしています。

カオスパイロットには「いつでも、どこでも、誰からでも学ぶことができる」という信念があります。学校は「あらゆる人・プロジェクトから学べるのだ」と学生たちが心から実感できるように支援することに責任があり、学生は自分で学ぶ責任があります。

私たちカオスパイロットというコミュニティは学生一人ひとりを支持し信頼している、だからあなたは思っている以上に可能性にあふれ、物事を達成できると学生に伝え続けることも役割の一つなのです。

カオスパイロットが育てる”リーダー”の定義

カオスパイロットの教育を通して、どのようなリーダーを育てようとしているのでしょうか。ISAKの小林氏が「チェンジメーカー」と謳うように、教育の先に目指すリーダー像がありました。

クリスター: 今の時代に求められるリーダーシップは4つあると考えています。1つは「不確実性をナビゲートする人」です。現代に生きる人は、ますます多くの人が解決策のわからない課題に取り組むことになります。向かう先すら分からない世界を、どのようにナビゲートするか。また、変化のなかを俊敏に動ける組織を構築する能力も含まれるでしょう。

2つ目は、「意味をつくる人」です。これから製品や技術が進化すればするほど、それに込められる意味の側面も大きくなっていきます。自分の仕事のなかに意味を見出す力がさらに求められます。

3つ目は、組織を超えたコラボレーションを生む「境界を超える人」。時には摩擦を活かしながら、創造性を高めるために知恵を絞るリーダーシップです。

そして4つ目は、「コミュニティのファシリテーター」。企業組織は社会の一部であるという認識のもと、どんな社会をつくりたいかを語ることを促進する役割が求められます。

最後の点において、日本は他国に比べて優位性があると思います。私が日本で話したほとんどの人は、よりよい社会のために貢献したいと考えています。日本の組織は社会に貢献できる可能性を秘めていると思います。

社会にインパクトをもたらすリーダーを育成するISAKとカオスパイロット。両者共に、学生の多様性や自律的な学習を重んじる文化、「ファシリテーター」として学生の学びをサポートする教員の役割などの共通点がありました。

変化の多い時代、教育においても正解はないのでしょう。カオスパイロットがそうであるように時代や学生に応じて変わり続けられる学校が、そしてISAKのように教育に多様な選択肢をもたらす学校が、これからの教育のあり方に一石を投じ、よりよい方向へと変わっていける。未来の教育に希望を感じられる時間でした。

Designing X ━ 世界を一歩前進させるデザイン とは

産業技術総合研究所が企画運営する産総研デザインスクールの主宰で、「Designing X ━ 世界を一歩前進させるデザイン」と題する全5回のオンラインシンポジウムを開催します。今日よりも明日、今年よりも来年、その先の未来を少しでもよりよい世界にするためのデザインを探求していきます。ここで用いる「デザイン」は見た目の美しさを表す意味にとどまらず、システムの設計、社会の構想にいたる広義のデザインを意味しています。

本シンポジウムでは、毎回異なる領域「X(エックス)」で活躍するゲストをお招きし世界を一歩前に進めるための実践知を共有いただきながら、ゲストや参加者の皆さまと共にこれからの時代のあり方を探っていきます。

全5回の Designing “X”

『Designing X ━ 世界を一歩前進させるデザイン』最終回は、2022年2月9日(水)にオンライン開催された「社会のデザイン」です。デンマークの国立デザインセンター『デンマーク・デザイン・センター(DDC)』CEOのクリスチャン・ベイソン氏、日本で知識創造経営やデザイン思考の第一人者である多摩大学大学院教授の紺野登氏をお招きし、社会のイノベーションとデザインの関係性と可能性を探求します。次回のイベントレポートもお楽しみに。


2022年1月取材
2022年2月22日更新

テキスト:花田奈々
グラフィックレコーディング:仲沢実桜