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社会を動かすデザインリーダーに必要なマインドと環境 ー 世界を一歩前進させるデザイン #5【後編】

次なるリーダーへのメッセージ

最後に、登壇者3人から「未来のデザインリーダー」へのメッセージが送られ、シンポジウムは締めくくられました。

紺野: 先ほど話した通り、デザインは時代によってその役割が変わってきました。リーダーという言葉もその意味が変わってくると思いますが、今、みんながリーダーシップを発揮しないといけないことは確かです。

日本はなかなか変わらないと言われていますが、どこかで転換点が現れます。80年代までのアメリカは独占禁止法の縛りが強く、系列化とみなされるような企業連携、のちのオープンイノベーションなどは難しい時代だったんですよ。

それがインターネットが普及して、アメリカは大きく変わった。そういう歴史的転換を織り込みながら変わっていくことができると考えます。

ベイソン: デザインは、前例にとらわれず「もっとよくできる方法はないか?」と、世界を捉えるレンズになりえます。市民や顧客、同僚、そして次の世代の人々がこの世界で生きていく意味を考え、共感し、世界を再構築していくのです。またデザインはセクターを越えて社会課題に取り組み、真のコラボレーションを促進するために必要不可欠です。 世界はこれまでになく想像力と創造力、コラボレーションを求めていると思うのです。私は日本社会とデンマーク社会がどちらもよりよい方向に進めると信じています。もちろん魔法はありませんが、デザインはその手助けができると思います。

加藤: 産総研では今、産総研デザインスクールの一部のカリキュラムと一緒に、「アントレプレナーシップ研修」を実施しています。研修の第一部では、社会でイノベーションを起こした起業家やリーダーをお招きし、そのプロセスや成功体験をお話いただく講演会を開催しています。やはり変革を起こした当事者のお話を聞いたり、彼らに問いかけたりすることは、もっとも早く、自分のなかに新しい概念を落とし込むことができると感じています。

あとは、個々人の多様性を理解し、その特徴や強みをどう組み合わせていくか、「共創型のリーダーシップ」が今の時代には必要とされていると思います。

大本: ありがとうございます。日本には優れたアントレプレナーが点在しており、その繋がりが薄いために表向きのインパクトが欠けているように感じます。アントレプレナー、あるいは変革を起こした人は、意外と身近にいるかもしれません。まずは彼らの話を聞き、問いかけることによって、新たな視点を受け取ることができる。このように人がつながる環境が、次の社会のデザインに繋がっていくのだと感じました。

こうして、昨年9月から開催された「Designing X ━ 世界を一歩前進させるデザイン」が幕を閉じました。紺野氏が言うように、デザインの範囲は時代ごとに変わり、そして広がりを見せています。またベイソン氏が言うように「現状を新しい眼差しで見つめ、新たな変化を生み出す」ことができるデザインは、混乱の時代において、あらゆる分野で活用できる考え方であり、ツールとも言えるでしょう。

明日からすぐにデザインの方法論やそれを活かすリーダーシップを身に着けることは難しいかもしれません。しかし、最後に加藤氏が述べたように、身近な変革者を観察し、問いかけることで、まずは自分のなかに変化を生むことが、はじめの一歩になるかもしれません。その最初の場として、「Designing X」シンポジウムが少しでも貢献したことを願うばかりです。

Designing X ━ 世界を一歩前進させるデザイン とは

産業技術総合研究所が企画運営する産総研デザインスクールの主宰で、「Designing X ━ 世界を一歩前進させるデザイン」と題する全5回のオンラインシンポジウムを開催します。今日よりも明日、今年よりも来年、その先の未来を少しでもよりよい世界にするためのデザインを探求していきます。ここで用いる「デザイン」は見た目の美しさを表す意味にとどまらず、システムの設計、社会の構想にいたる広義のデザインを意味しています。

本シンポジウムでは、毎回異なる領域「X(エックス)」で活躍するゲストをお招きし世界を一歩前に進めるための実践知を共有いただきながら、ゲストや参加者の皆さまと共にこれからの時代のあり方を探っていきます。

全5回の Designing “X”

2022年2月取材
2022年3月16日更新

テキスト:花田奈々
グラフィックレコーディング:仲沢実桜