大阪・関西万博の開催まであと1年! 特別ルートで沿線をつなぐ、イマーシブ列車「EXPO TRAIN 阪急号」イベントリポート
2025年に開催を予定されている大阪・関西万博。各国の英知やアイデアが集結する世界的イベントの幕開きまであと1年を切りました。
「万博って、結局なにをするの?」「自分には関係なさそう」「興味はあるけど、どうやって関わればいいのかわからない……」と、どこか「他人ごと」に捉える人が多いのでは?
その一方、万博に向けて「勝手に」盛り上がり、続々とたくさんの人を巻き込み、共創の渦を生み出しているのが、有志団体「demo!expo」。本連載では、彼・彼女らが生み出すムーブメントを取材していきます。
2025年4月13日の大阪・関西万博開幕まで、いよいよあと約1年! これを記念して、ちょうど1年前の同日である2024年4月13日にイマーシブ(没入体験)列車イベント「EXPO TRAIN 阪急号」が開催されました。
阪急電鉄株式会社の主催で、企画プロデュースをdemo!expoが担った今回のイベント。「阪急電車はタイムマシン」と銘打ち、「過去・現在・未来」をテーマにした車内装飾や体験型演劇など、万博の「これまで」と「これから」を感じられるプログラムが盛りだくさんです。さらに、阪急沿線に縁のある団体によるマルシェ出店、紙芝居や音楽ライブなどのパフォーマンスまで楽しめるという、特別な乗車体験を生み出しました。
しかも、「車両を貸切」&「この日だけの特別ルートを走る」というめったにない機会だったので、参加チケットは早々に完売した大注目のイベント。
パフォーマー、出店者、そして参加者が一体になって楽しみ、活気に満ちあふれた当日の様子と、イベント主催者や協力者たちの思いをお届けします。
通称「ミャクミャク号」を貸切! 夢の特別ルートを走る「EXPO TRAIN 阪急号」いざ出発
「EXPO TRAIN 阪急号」の出発駅は、阪急大阪梅田駅。
イベントの受付・集合場所である阪急大阪梅田駅の2階にあるイベントスペース「NORIBA 10 umeda(ノリバ・テン・ウメダ)」 には続々と参加者が集まり、イベント企画メンバーの1人である、阪急阪神不動産株式会社の皆川ゆり(みながわ・ゆり)さんが、イントロダクションを行いました。
概要や注意事項などとともに、大阪・関西万博まであとちょうど1年というタイミングに合わせたイベントだと、思いを伝える皆川さん。そして、今回の電車走行ルートをここで発表! 宝塚本線と今津線、そして神戸本線をつなぐ、普段の運行にはない夢の循環ルートを聞いた参加者たちからは、拍手が起こりました。
さあ、ホームへ移動して電車に乗り込みます!
「EXPO TRAIN 阪急号」の舞台は、阪急電鉄が大阪・関西万博500日前の2023年11月30日から走行させている、万博の公式キャラクター「ミャクミャク」のデザインをあしらったラッピング列車。通称「ミャクミャク号」です。
いつも利用している電車、そしていつものホームから乗り込んで特別な1日の旅へ出発します!
電車に入ると、6・7号車は1970年代、2・3号車は未来をイメージ、4・5号車はマルシェ関連の飾り付けがされているなど、各車両さまざまな内装です。
電車が動き出すと、車内からワァッと歓声が上がりました。マルシェ出店者も、電車の揺れを楽しみながらにっこり。
走り出した電車のなかで、ブラスバンド「Big Mouth Brass Band(ビッグ・マウス・ブラス・バンド)」の演奏がスタート!
電車は宝塚本線を進んで曽根駅を通過。参加者たちが音と空間を楽しもうとしたまさにそのとき、車内アナウンスにノイズが入りました。どうやら、なんらかの異常が発生した模様。アナウンスとスタッフの指示に従って、参加者は3号車と6号車に集められます。
こちらは6号車。参加者全員が移動し終わったと思ったのに、隣の車両から何人かの乗客が駆け込んできました。しかも、なんだか装いが現代とは違う……?
そう、体験型演劇「イマーシブ・トレイン」がスタートしたのです!
時空の歪みでタイムスリップ!? 参加者を巻き込んで展開するイマーシブ・トレイン
今どきではない服装の駆け込み客たちは、参加者の服装や車窓からの景色の違い、そして参加者が構えているスマートフォンを不審がっている様子。
「今って西暦何年ですか!? これってタイムスリップじゃないですか!?」と騒ぎ始めます。
昔のドラマに出てきそうな大きめのスーツを着たオジさんの手には、1970年大阪万博のガイドブック……? なんと、1970年から迷い込んできたようです。
タイムスリップしてきた人たちのコミカルな動きやセリフで笑いが起こったり、近くに座っている参加者は話しかけられたりと、ストーリーに巻き込まれていきます。
すると、車両に新たな登場人物が!
「秩序、乱れてるなぁ〜!!」と大声で話しながら入ってきたのは、“阪急電鉄車両部タイムパトロール課”を名乗る女性。彼女が言うには、普段とは違うルートを走ったり、電車内でイベントをするなど「ありえないこと」をしたから、時空の歪みが発生したのだとか。
発生したバグを直すことで、時空を超えてきてしまった人たちが元の時代に戻れるようです。
ここからは参加者たちも見ているだけでは終わりません!
バグを直すべく、バラバラになってしまったポスター写真を元に戻すというパズルのようなミッションが課せられました。近くの座席に座っていた人同士がチームになって、ミッションスタート!
ものの数分で完成させた鉄道好きチームや、元の写真を撮っていたファインプレーが光ったチームなど、みんなで協力しながらバグを修正していきます。
そして、無事にミッションコンプリート!
だけど、これだけでは終わらないみたい。
バグ修正のためのパズルを完成させたのに、時空を超えてきてしまった人たちは元の時代には戻れていません。
「“ありえないこと”をしたからバグが発生したんです。もっと“ありえないこと”をしてたんじゃないですか!?」と尋ね回る車両部タイムパトロール課職員に、「そういえば、さっきは車内でブラスバンドがライブをしていた!」「それだ!」と参加者の推理が進みます。
どうやら、バグが発生したときを上回る“ありえないこと”をしないといけないようです。
先ほどは参加者はライブを見ていただけですが、それを上回るために今度は参加者も一緒に楽器を鳴らすことに!
みんなで童謡「線路は続くよ どこまでも」を合奏&合唱し、無事にバグが解決。タイムスリップしてきてしまった人たちは1970年に帰れたようです。
ちなみに3号車では、未来から迷い込んだ人と出会ったそうですよ。あちらも無事に戻れたとのこと。
なんとか元通りになった車内。
電車は、園田駅で一時停車したのちに十三駅へ向かい、神戸線から宝塚線へ乗り入れます。
引き続き、車内のマルシェを楽しんでいきましょう!
沿線のまちと人の魅力が詰まったマルシェ開催!
4号車・5号車では、大阪府や兵庫県のまちである豊中・池田・川西・宝塚・西宮・尼崎と、今回の特別な走行ルート上の阪急沿線の各エリアから集まったマルシェが開催されています。
まずは大阪府内から。「勝手に豊中観光協会」のブースはとにかくノリがいい!
笑顔とサービス精神がいっぱいで、たくさんのお土産を配っていました。
大阪府池田市「まるごと池田」では、食品販売やワークショップのほか、市内にある五月山動物園の展示に力を入れていました。
兵庫県川西市内の事業者が展開するアイテムを集めた「まちなか木箱ショップ」のコーナー。日本ビリヤニ協会の代表が川西出身らしく、川西を「ビリヤニのまちにしたい」のだとか。初耳の情報も聞けて、面白い!
兵庫県宝塚市からは、個性的な出店者による体験型車内マーケット「宝塚的万博」。
兵庫県西宮市からの出店「COFFEE GATE NISHINOMIYA(コーヒー・ゲート・ニシノミヤ)」では、地域の店が厳選したコーヒー豆やドリップパックを販売していました。
「趣味尼崎」のマルシェでは、カプセルトイを用いて兵庫県尼崎市で活躍する女性にスポットを当てています。イベントが多い尼崎ならではの、フライヤー展示数は圧巻! 電車のなかを装飾するのは初めてだったそうで「(準備中は)みんなが興奮してきて、学校の文化祭みたいだった」とのことでした。
出店団体のエネルギーに満ちたバラエティ豊かなマルシェを、たくさんの人が楽しんでいました。
ライブや紙芝居、車両を舞台にしたパフォーマンスと特別展示 楽しさがますます広がる車内
続いてライブパフォーマンスがスタート! ふたたびBig Mouth Brass Bandの登場です。
続いての演奏は大阪を拠点に活動している音楽デュオ「花柄ランタン」の2人。ギターを演奏する村上真平(むらかみ・しんぺい)さんから「電車で演奏するなんて、素敵な機会! みんな楽しんでいってね」と声をかけられます。
高く朗らかな歌声と楽器の音色に合わせて、自然と手拍子が生まれる瞬間は気持ちがいいものでした。
ライブやマルシェを追いかけて、数車両ある車内をぐるぐる回る参加者たち。そこかしこで、賑やかな人だかりができていました。
車両内に点在している特別展示も見逃せません。
ひときわ異彩を放っていたのが特別展示「まきもどし神社」。
万博をきっかけに、まちのキーマンとまちの未来を語り合うdemo!expoのイベント「EXPO酒場」の豊能店チームによる展示で、「巻き戻したい」瞬間をカセットテープに吹き込んで納めるというもの。
気づけば、ふたたび大阪梅田駅が近づいてきていました。
2号車では「梅田サイファー」のteppei(てっぺい)さんによるライブがスタート!
車内のボルテージは最高潮!
「みんなでみんなに拍手! このイベントで勢いつけて、来年の万博に向けてガンガン盛り上がっていきましょう!」というteppeiさんのMCの通り、車内の熱気と活気はムンムンです。
学生のときも会社勤めをしていたときも、阪急電車を利用していたというteppeiさん。思い出がたくさん詰まった電車でライブができることの喜びを言葉にして、最後の曲「Patchwork」へ。
「今日がみなさんにとって、最高の日になれば!」と、大人も子どもも大盛り上がりのなか、ライブは締めくくられました。
こうして「EXPO TRAIN 阪急号」は、大阪梅田駅に到着。
出店者や演者のパワーあふれるイベントで、1日限りの特別な体験をした参加者のみなさんは帰路につきました。
万博をきっかけに生まれる、企業と沿線と人々をつなぐコラボレーション
参加者が車内で楽しめる工夫と、沿線の魅力が盛りだくさんだったイマーシブ列車「EXPO TRAIN 阪急号」。イベント企画メンバーの皆川さんと、主催者である阪急電鉄の岩田唯淳(いわた・ただあつ)さんにお話を伺いました。
「EXPO TRAIN 阪急号」が開催された経緯を教えてください。
皆川
阪急阪神ホールディングスと阪急阪神不動産が、2022年に大阪梅田エリアの価値向上を目指す「梅田ビジョン」を発表してから、グループ内での取り組みを強化しました。そのなかで、大阪・関西万博開幕1年前のタイミングで機運醸成に取り組みたく、阪急電鉄運輸部やグループ各社と連携して今回のイベントを企画しました。
demo!expoとの出合いは2023年2月開催の国際イノベーション会議「Hack Osaka」です。「万博に向けて」という文言はさまざまな場所で目にしますが、そのなかで特に、demo!expoは次々と新しいアクションを起こし、さらにイベントでは参加者が一体となって楽しんでいる姿が印象的でした。前向きに活動している団体だと感じて、昨年7月に「EXPO酒場 大阪梅田店」、そして今回の「EXPO TRAIN 阪急号」の企画プロデュースをお願いしました。その結果、参加者も出店者も自分たちも楽しみながら深く関わり合うことができる、目指していた通りのイベントが実現できました。
阪急電鉄としては珍しい走行中の車両を貸し切ってのイベントでした。特別ルートの運行を含めて、どのように企画を進めたのでしょうか?
岩田
大阪・関西万博をきっかけにしたイベントなので、参加者に楽しんでもらいたいという思いと、沿線で活躍するみなさんと一緒に万博を盛り上げていこうというメッセージを込めました。運行ルートはかなり前から調整し、システムの確認やダイヤに影響しない時間を探して、なんとかルートを引くことができました。
大阪・関西万博にどのような期待を寄せていますか?
皆川
今回のイベントでは沿線で活躍する人たち、クリエーターや演者、そして参加者同士などの共創が生まれました。万博をきっかけに、垣根を越えた共創が生まれ、会期後もまちの魅力につながってほしいです。
岩田
国内外から万博に訪れる人々に沿線を楽しんでもらい、関西がさらに盛り上がることを期待しています。沿線で活躍する人々のように、万博の会場外でもそれぞれが自分らしく活動し、明るい未来を描いてほしいですね。
万博も自分たちの手で作るものにしていきたい。過去と未来をつなぐ「イマーシブ・トレイン」の演出
体験型演劇「イマーシブ・トレイン」パートの演出と脚本を担当した、劇団「ヨーロッパ企画」の左子光晴(さこ・みつはる)さんにも、お話を伺いました。
「demo!expoから『前例のないことがやりたい』と依頼をもらったのが始まりでした。普段電車に乗っていると、イヤホンで音楽を聴いていたり、スマホを触っていたり、パーソナルな時間を過ごしていますよね。そんな個々の空間から人々を引っ張り出して、混ざり合うような瞬間を作りたくて、参加者を巻き込む形にしました。
また、阪急電鉄は「これまでも、そしてこれからも。」というキャッチコピーを掲げています。このコピーから、過去と未来のイメージが浮かび、阪急電車をタイムマシンに見立てたストーリーへつなげていきました。
今回のイベントでは、参加者に演劇の登場人物になってもらいました。同じように2025年の大阪・関西万博でも、たくさんの人が『万博』という物語の登場人物になったらいいなと思います」
電車でのイベント開催に今後も期待、万博をきっかけに「ワクワク感」を
「EXPO TRAIN 阪急号」の企画協力団体である、MUIC Kansaiの益子泰岳(ましこ・やすたか)さんにもお話を伺いました。
「私たちは観光やインバウンドに焦点を当てて活動しています。エンタメ系のイベントに関わるのは今回が初めてでしたが、電車でのイベントに大きな可能性が見えました。
1970年の大阪万博では、月の石を見るためにたくさんの人が何時間も並んだそうです。自分たちの次の世代にとって、2025年の大阪・関西万博が、そんな『ワクワク感』の出発点になればと思います」
参加者が巻き込まれる演劇やパフォーマンス、沿線で活躍する人たちが前に出て盛り上げたマルシェなど、どれも参加者が乗客として座っているだけではない特別なものばかり。沿線の魅力とパワーで、参加者が笑顔になる楽しいイベントでした!
2024年4月取材
取材・執筆:狸山みほたん
撮影:平野明
アイキャッチ撮影:浜村晴奈
編集:かとうちあき(人間編集部)