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頼まれていない、でもやる。大阪万博に取り組む株式会社人間が巻き起こす共創のムーブメント

2025年に開催を予定している大阪・関西万博。各国の叡智やアイデアが集結する世界的イベントの開催まで、1000日を切りました。

しかし、「万博って、結局何をするの?」「自分には関係なさそう」「興味はあるけど、どうやって関わればいいのかわからない……」と、どこか「他人事」に捉えてしまう人が多いのでは……?

その一方、万博に向けて「勝手に」盛り上がり、続々とたくさんの人を巻き込み、共創の渦を生み出している企業・人々がいます。本連載では、大阪・関西万博に向けて「勝手に」生み出されたムーブメントに着目し、その仕掛け人たちの胸の内を取材していきます。

大阪・本町エリアにある“面白くて、変なことを考える会社”、その名も「株式会社人間」。枠にとらわれないアイデアやコンテンツを世に生み出している、デザイン・コンテンツ・イベントの制作会社です。

彼らは、万博の開催地が大阪に決まる前から、「万博を盛り上げたい」と想いがあったそう。そこで、関西を拠点に活動するクリエイターや、まちづくりに注力しているビジネスパーソン、各市町村で働く人、さらには公式イベントの関係者を集め、主催者とは別に「勝手に」万博にまつわるイベントを企画してきました。

どうしてそこまで万博に対して夢中になっているのか? 代表取締役の花岡さんと山根シボルさんに、話を伺いました。

大阪・関西万博に向けて「勝手に」取り組む

これまでに、株式会社人間としてはどんな万博関連イベントを行ってきたのでしょうか?

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山根

最初の活動は、万博の開催地が大阪に決定する前の2018年10月。関西のクリエイターや、デザイン会社のBYTHREEと一緒に「はじめて万博」というフリーペーパーを自費で発行し、連動して「はじめて万博展」という作品展示会を開催しました。

大阪・関西万博が決定する前から活動していたのですね。

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花岡

当時はまさか大阪に決まるなんて、思ってもいなかったですね。

山根

2018年11月に大阪開催が決まった瞬間は両手をあげて喜びましたよ。仕事で出張中だったのですが。

万博の開催地が大阪に決定し、喜んでいるシーン。(提供写真)

山根

当時は開催まで7年もありました。そこで、「まだまだ先なので、万博に興味のある人をターゲットに、基礎知識を得られるイベントをやっていこう」と思い、「expo study meeting」という勉強会も定期的に開催していました。

expo study meeting開催の様子(提供写真)

花岡

そして2021年9月に、誰でも万博に参加できる仕組みを作るチーム「demo!expo」を立ち上げました。これは個人や団体に関わらず、全員が万博の主人公になることを目指すもの。このプログラムを起点に、さまざまなイベントを開催しはじめました。

まず行ったのが、大阪・関西万博のメイン会場になる夢洲で「EXPO TEAM CAMP」という1泊2日のキャンプ型イベント。

さらには「勝手にパビリオン」というプロジェクトも立ち上げ、「EXPO酒場」という交流イベントを関西各地で開催し、参加者同士でまちづくりや万博について語り合う場づくりをしています。

7月18日に開催した各地でのEXPO酒場の様子(提供写真)

花岡

他にも、「1000日後の万博開催が楽しみになるビール」や大阪のお土産を開発したり、大阪の千日前商店街とコラボレーションしたり……。まずは関西のさまざまなビジネスパーソンやクリエイターを巻き込んで、誰でも万博に気軽に楽しめる拠点づくりを行っているところです。

山根

「勝手にパビリオン」は、「万博のことが気になっているけど、どうやって参加したらいいのかわからない」という企業や人々の声をすくいあげ、すべての方が万博を楽しめる拠点を作るべく企画しました

1000日前というタイミングで、非公式ながら万博を楽しみたいし、盛り上がりたい。これは、企業だけでなく飲食店や個人商店も同じ気持ちではないかなと思ったんです。

そもそも、そこまで積極的に、そして「勝手に」万博イベントを企画する動機は何なのでしょうか?

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山根

きっかけは、大阪万博の誘致活動のポスターを見たことでした。クリエイティブに携わる人間として、そこまで熱量を感じられなかったというか。市民と熱意を共有できているように思えなくて、やきもきしていたんです。

自分たちも関西企業の一員として、そしてクリエイティブを作る会社として、どうにかして万博の誘致活動に参加したいなと。さまざまな企画を通して社会課題をクリエイティブで噛み砕いてきた会社として、何かできることがあるだろうと思ったんです。

そこで、まずは活動に賛同してくれる大阪のクリエイターを集めました。

山根

最初は「クリエイティブ一揆」という団体名で、まさに一揆を起こすような気持ちで「キャンペーンを実施したり、Webサイトを作ったりしませんか?」と大阪府の誘致委員会に企画を持ち込みました。

その時は、残念ながらいい反応が得られなかったのですが、結果的に「それなら勝手にやってみよう」という原動力に変わりましたね。

草の根的に広がりを作っていく

demo!expoには、株式会社人間だけでなく、万博開催に意欲のある人々が参画しています。BABY JOB株式会社の取締役・灘広樹さんもその一人。主に「EXPO TEAM CAMP」の運営に携わりました。インタビュー後半では、灘さんも加わり、プロジェクトの意義について語っていただきました。

BABY JOB株式会社の灘広樹さん

僕も人間さんと同じく「2025年の万博開催をただ待ちたくない。とにかく勢いで動いてみよう!」という気持ちが原動力でした。

というのも、僕の中にも「大阪の中で万博に対する関心が低いのでは。このままでは、開催に向けての盛り上がりが欠けてしまうのではないか」という思いがあって。

そんな僕たちの思いから生まれたキャッチコピーが「頼まれていないけど、でも、やろう」。これは、団体のコンセプトにもなりました。

このキャッチコピーに、灘さんや人間さんの思いが詰まっていますね。

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その通りです。そのコンセプトを形にするために、「何か足跡が残るような、非日常空間を設計する」ことを意識しています。

その一つとして、「夜のキャンプで一晩明かしながら、みんなで将来について語り合う」キャンプイベント「EXPO TEAM CAMP」を開催したんです。場所は大阪万博の開催地でもある夢洲。2022年時点で唯一の施設「夢洲木造模擬パビリオン」を選びました。

イベント当日は100名を越える参加者で大いに盛り上がって、万博をもっと気軽に考えるための第一歩になりました。

「EXPO TEAM CAMP」開催の様子(提供写真)
「EXPO TEAM CAMP」には、万博に想いを馳せる多くの参加者が集まった(提供写真)

キャンプを通じて、同じ考えを持つ人々とのつながりは広がりましたか?

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もちろん、ありました。

それを印象付けたのが、焚き火を囲んで、夜にみんなで話し合う時間でした。5年後、10年後というスパンで将来を考え、「どんな未来がいいかな」と語り合う。特に学生の参加者には「将来に向けて社会を変えていこう」「もっと社会貢献したい」という熱量があって、大人たちが「自分たちももっとがんばらないと」と触発されて。

参加者の思いが重なったことで、最大限のパワーを発揮されるのを目の当たりにした気分です。これからも繰り返し実行することで、きっと大きな力になる。これこそが「草の根的な活動」なのだなと感じました。

個人の想いから生まれるパワーは強いですよね。

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最近は、個人の想いが埋もれやすい風潮があると感じています。でも、「もっと自分の想いを語っても良いんだ」と思える場所があれば、広がるはず。万博を盛り上げるためにも、これからはそんな心理的安全性のある場を作っていきたいですね。

社会貢献や未来の社会を考える、そのキッカケでもあるイベントになりましたね。

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そうですね。「万博に興味があるけど、自分がどう関われるのか」という漠然とした疑問の答えが、参加者同士で話すことで見えてくるキャンプイベントでした。

万博の開催まで、私たちが生んだ一つのタマゴをどんどん育てる刺激的な活動をもっと行っていきたいですね。

万博イベントを通して共創の渦を作る

これまでの活動は、今後の万博を盛り上げる企画にどのような影響を与えそうですか?

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山根

「勝手にパビリオン」初期の企画書では、「全員が参加できる万博を作る」ことを掲げていました。これは、イベントとして楽しめることにプラスして、ある程度はそれぞれの持ち場に還元するのが最終目標です。

万博という存在はツールに過ぎません。それを目的にすることで、ビジネスパーソンもクリエイターの人も集まってくる。そこには壁がなくて、どんな立場の人でも万博に共通の想いを持つことができる。

山根

常々考えているのが、「万博はお祭り」だということ。それに対して、自分達がやっている企画やイベントは、神輿みたいなものでしょうか。

公式の主催者は境内で出店を出しているけど、「勝手に」やっている私たちは神社の外で盛り上がっているに過ぎない。いわば駅から境内までの通り道に出店してお祭りに参加している状態なんです。

花岡

大きなお祭りって、街ぐるみで出店をだしたりしますよね。どれだけ大きなお祭りでも、出店がなくて境内だけでしか盛り上がっていなかったら、多くの人は集まらないのではないでしょうか。

境内の外から広がっていく、つまり人間さんの行うプロジェクトが広がることで、新たな文化が生まれるともいえそうです。

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山根

そうですね。そのためにも、我々の周りにいる特定の人々だけが集まるイベントにならないようにしたいですね。

花岡

参加者が同年代に偏ったり、男性の比率が多くなったり……。そうではなく、誰でも参加できる仕組み作りが大事かなと。

山根

そのためにも、これまで各地の酒場イベントには現地でまちづくりに携わっている方や、ビジネスパーソンや学生まで、さまざまな業種の人に参加してもらいました。

すると、予想しないところで共鳴が生まれるんです。語り合いの場で、思いがけない切り口の意見もあったりして。

「勝手にパビリオン」から生まれたお土産開発など、さまざまな人が関わることで盛り上がりそうな企画もありますよね。

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花岡

「1000日後の大阪みやげ計画」でも、これまで関わってこなかった業界の方も、いかに一緒に何かできるのかをもっと考えたいなと思っています。

万博の時期にインバウンドブームが到来することを見越して、残りの時間で準備できるかが重要ですね。これからは宿泊業界も巻き込みたい……と狙っているところです。

山根

正直、我々がいなくても万博の会場は盛り上がると思います。しかし、我々のように「勝手に」盛り上がっている人がいれば、楽しめる人がもっと増えるはず。

さらにたくさんの方を巻き込みながら活動を加速させつつ、いかに他府県や海外の人が行きたくなる大阪、そして関西を作っていけるか、考えていきたいです。

2022年9月取材

取材・執筆:田村さとし
写真:古木絢也
編集:桒田萌(ノオト)