リングは夢洲だけじゃない! プロレスとプレゼンが熱闘を展開した「まちごと万博」決起集会をリポート

2025年に開催を予定している大阪・関西万博。各国の英知やアイデアが集結する世界的イベントの幕開きまで、半年を切りました。
しかし、「万博って、結局何をするの?」「自分には関係なさそう」「興味はあるけど、どうやって関わればいいのかわからない……」と、どこか「他人事」に捉えてしまう人が多いのでは?
その一方、万博に向けて「勝手に」盛り上がり、続々とたくさんの人を巻き込み、共創の渦を生み出している企業・人々がいます。
本連載では、大阪・関西万博に向けて「勝手に」生み出されたムーブメントに着目し、その仕掛け人たちの胸の内を取材していきます。
大阪・関西万博というチャンスを使い倒し、会場の外である“まち”や“人”の魅力にスポットを当てる「まちごと万博」の決起集会が12月3日、大阪中之島美術館で開催されました。夢洲の万博会場に負けじと、館内にも“リング”が出現。まちごと万博のキーマンらが颯爽とリングインし、自分たちの取り組みや、将来の街の理想像を語り合いました。
万博を盛り上げるために、勝手にやってます。全然儲からんのに──。
リング上でそうつぶやいたのは、まちごと万博をプロデュースする一般社団法人demoexpo(以下、demo!expo)代表理事の花岡(はなおか)さん。にもかかわらず、彼・彼女らを突き動かすものとは一体……!? プロレスラーも登場し熱気に包まれた当日の様子を振り返ります。
オープニングからプロレスラーが乱入!? ゴングと雄叫びが大阪中之島美術館に鳴り響く


決起集会は大阪商工会議所会頭の鳥井信吾さん、株式会社E-DESIGN代表取締役の忽那裕樹さん、花岡さんらによる、キックオフトークで華々しく開幕……のはずが、登壇者紹介の途中で突如BGMが切り替わり、大阪プロレス所属の「ブラックバファロー」がリングへ駆け上がります。会場をジャックしようと企んでいたようですが、駆けつけた「大阪万博マシーン」が撃退し、事なきを得ました。


会場の空気が温まったところでトークもスタート。鳥井さん、忽那さん、そして花岡さんの3人が登壇しました。
以前からまちごと万博を応援してきた鳥井さんは「夢洲だけで盛り上がっても意味がない」と強調。一方の忽那さんは、万博会場のランドスケープも統括する立場です。景観デザインとその活用を数多く成功させてきた経験から「街じゅうを万博化する取り組みが展開されれば、本体(大阪・関西万博)よりも面白くなる可能性がある」と話しました。

続いてのトークテーマは「demo!expoが成し遂げたいこと」。demo!expoを代表して花岡さん、理事の今村治世さん、メンバーのしまだあやさんが登場しました。
「demo!expoは、万博の応援団ではないんです」と話す今村さん。面白い人たちが自発的に集まり、活動が自然発生してきたと振り返ります。
またこれまでの取り組みとして、全国各地で開催している「EXPO酒場」や、企業・大学とのコラボレーションなどを紹介。しまださんは、母親が1970年の日本万博博覧会(以下、大阪万博)のスタッフだったことがきっかけで、万博に興味を抱くようになったといい「私も、街をより楽しく面白くしたくて、demo!expoに参加したんです」と明かしました。

リングサイドでも、今村さんにじっくりとお話をうかがいました。初めて上がったリングの感触については「特別な体験でした」と興奮した様子。「万博も、やったことのないことに挑戦できる機会です。テンションが上がることを、大阪のみんなもきっと求めているはず。難しいことを分かりやすくして伝える、というクリエイティブの力を発揮して、多くの人を巻き込みたい」と意欲を燃やしていました。

前哨戦が終わり、ここからが本番! まちごと万博の関係者が、リングに続々と上がります。1人5分という制限時間で「これまでの歩み」「2025年の活動計画」「万博以降の街に残したいシーン」という3部構成のプレゼンテーションに挑みました。
“第1試合”を飾ったのは「夜のパビリオン」で活躍する3人。最初の選手は、demo!expo理事であり、コミュニティマネージャーとして各地の「EXPO酒場」をサポートしている岡本栄理さんです。
会場にゴングの音が響きわたるやいなや、「酒場を活用して、全国と大阪をつなぎます!」と高らかに宣言。2022年夏の第1号店を皮切りに全国で72回開催、のべ4,700人集客してきた実績を披露し、2025年、ミナミ(心斎橋PARCO TANK酒場)とキタ(LUCUA大阪 B2F)にEXPO酒場 常設店をオープンすることを発表しました。「47都道府県でのEXPO酒場開催にも挑戦していく。万博というイベントを使って、日本を元気にしたい」と熱弁しました。

「オンラインスナック横丁文化株式会社、Make.LLC」代表の五十嵐真由子さんは、各地のスナックを渡り歩く「スナ女®️」としても知られています。

コロナ禍を機に取り組んだオンラインスナックや外国人向けスナックツアーなどを踏まえ、日本特有のナイトエコノミーの文化的価値を主張し「海外にはないからこそ、万博をきっかけに外国の人たちに知ってほしい。スナック巡りをするために日本に旅行する、という世界をつくりたい」と締めくくりました。

大阪を拠点に活動するバンド「愛はズボーン」のボーカル・ギターを担当する儀間建太さんは、万博期間中の実施に向け準備を進めている「夜市」の構想を解説。音楽活動に14年間取り組む中で、多様なクリエイターと出会ってきたといい「大阪らしいカオスなカルチャーで観光客をもてなそう」と呼びかけました。

儀間さんは自身の立場について「(大阪・関西万博や、まちごと万博の)他の関係者と比べると若手ではあるけど、同世代の仲間たちをフックアップする側でもある」と位置付けます。自分よりも、周囲の才能に光を当てる責任があるとし「ストリートや地下から“地上”へ、さらに若者を引き連れて行けたら」と決意を新たにした様子でした。さらに、外国人観光客の来日を見据え「ガイドブックに載っていないスポットこそ面白い。血の通ったお店で大阪の夜を楽しんでもらいたい」と話しました。

第2試合は「残し、拡げる万博の活動」がテーマ。このセクションでは、demo!expoと共鳴しながらユニークなチャレンジを続ける企業などが登壇しました。
最初にリングロープをくぐったのは、パナソニックグループパビリオン「ノモの国」の運営・イベントを担当する那須瑞紀さん。「大人も子どももみんなでつくるパビリオン」の実現に向け、ワークショップなどを展開してきました。「パビリオンや創作活動で自分を開放してほしい。その経験が自分らしい未来をつくることにつながるはず」と語る声にも力が入ります。

オランダ総領事館職員で、万博担当のマルタイン・フーレさんは「どうせやるなら面白く、というdemo!expoに共感しました!」と会場を盛り上げます。オランダパビリオンのテーマである「コモングラウンド」(※)の意義を軸に、気候変動やパンデミックなど、いま世界が直面するさまざまな課題を解決する上での各国との関係の重要性を力説。オランダは水害を克服してきた歴史の中で、国境を越えて課題解決する力をつけてきたと論じ「この時代の国際課題の解決に貢献できるはず」と語りました。
※同じ土台に立ち、共に新しい価値を生み出すこと

阪急電鉄株式会社の岩田唯淳さんは、阪急電車の車両を活用した「EXPO TRAIN 阪急号」など、自社の資産をフル活用した体験型イベントの開催風景を紹介しました。

「より良い明日を、阪急沿線のみなさんとつくっていきたい。そして、公共交通が、移動という機能のみならず、人が集まるハブのような機能を有した空間になっていくとうれしく思う」と思いを語り、万博開催地の公共交通機関として、存在感をアピールしました。

「コモングラウンドは『みんなが同じ場所に集まることで、新しい発想が生まれる』という考え方。万博自体の理念と共通する部分が大いにあります」と語るマルタインさん。また国際社会への貢献だけでなく、経済的な意味でも参加国には効果が期待できると言います。「万博は、国同士がさまざまなつながりをつくり、次のステージに向かうチャンス。各国がそれに向けて準備しているはず」と、海外からの万博の捉え方を示しました。

第3試合は「境界なき万博をつくる」というタイトルのもと、パネルディスカッション形式でトークが繰り広げられました。鳥井さんと花岡さん、さらにJR西日本SC開発株式会社の出口清史(でぐち・きよふみ)さんが加わり、2025年日本国際博覧会協会、副事務総長の水谷徹(みずたに・てつ)さんを迎えるスペシャルマッチです。
このうち水谷さんは、ここまでの選手の熱弁を受け「万博を契機に、みなさんが街の中でさまざまなことを試みている姿に感動しました。イノベーションがすでに生まれ始めていますよね」と顔をほころばせました。
また鳥井さんが「彼らが、誰にも頼まれずにやっているのが素晴らしい」とパスを出すと、花岡さんは「誰かがやらないと……」としつつ「“民”から始めるのが、昔からの大阪の流れですから」と応じ、笑いと拍手を誘いました。

さらに出口さんは「万博のタイミングだからこそ、企業が持つ資産の面白い使い方ができるし、そのアイデアも生まれている。街の情緒的・文化的価値を高めるためにも、熱い仲間を集めてムーブメントをつくりたい」と力説しました。
遠くない未来について語り合う舌戦は白熱する一方ですが、制限時間いっぱいに。最後は鳥井さんが「やってみなはれ」と力強いエールを送り、試合終了のゴングが鳴りました。

リングサイドには多彩な“パビリオン”が登場。「スコール!」の掛け声で、交流会がにぎやかにスタート!

決起集会の第二部、交流会は鳥井さんの「スコール!」(乾杯)で開幕。関連団体のフードや展示が参加者を楽しませました。



関連プロジェクトがブース形式で連なり、参加者を楽しませるさまは、まさにパビリオン。「さっきのプレゼン、かっこよかった!」と登壇者をねぎらう姿も見られました。



思いの詰まったフードは、ただおいしいだけではなく、楽しい会話のきっかけに。この日も、ボーダーを超えた出会いが至る所で生まれていました。
まちごと万博関連団体も続々とリングへ!
活動にかける思いが交錯するスペシャルマッチ開幕
まちごと万博と連動するプロジェクトの仕掛け人もリングに登場。1分間のショートピッチに思いを凝縮し、活動への意気込みを語りました。

「国登録有形文化財全国所有者の会」の青山修司さんは大阪の文化財の豊富さに触れ「御財印めぐりなど体験型の事業を通してファンになってほしい」と訴えました。

「水都大阪コンソーシアム」事務局長の松井伊代子さんは、大阪を「水の都」として発信するイベントなどを紹介しました。

働く女性を支援するプロジェクト「サクヤ ワーキング コミュニティ」に取り組む沢田裕美子さん、澤かおりさんは、万博に向けて「女性×健康×キャリア 働くことの未来を描く:ウェルビーイングとともに」と題したトークセッションの概要を紹介しました。

東條こみちさんは、所属するサントリーグループの社内公募に応募。自社アセットの活用として、自動販売機のアート活用に取り組んでいます。
リングある所に“祭り”あり。大阪プロレスのタッグマッチで会場の熱気は最高潮に!

決起集会のフィナーレを飾ったのは、大阪プロレスによる豪華6人タッグマッチ。30分1本勝負で人気選手が躍動しました。ゼウス&タイガースマスク&大阪万博マシーンと、松房龍哉&ビリーケン・キッド&佐野蒼嵐が激突。


各選手のボルテージが高まるにつれ、リング上は次第に無秩序な光景に。観客の視点も定まらないうちに、あちこちで闘争が巻き起こりました。選手の走る足音、倒れ込むときの衝撃音は、ここが美術館であることを忘れさせます。


レスラーが投げ出されると、戦いの舞台は突如リングの外に。客席に向かって「選手から離れて!」と叫ぶスタッフの声に、にわかに緊張感が高まりました。


両チーム一歩も譲らないまま、制限時間の30分が近づきます。選手の表情は疲労の色が濃厚に。大阪万博マシーンも相手選手からフォールされますが、客席からは自然と万博コールが。何度も立ち上がる姿を見せつけられ、いつしか会場は熱気に包まれていました。


勝利を収めた、大阪プロレス社長・ゼウスこと大林賢将さんがスピーチで会場を一つにします。自身の座右の銘「人生は祭り!」にちなんで「万博も祭り。一生懸命やるほど、おもろい最高の祭りになる」と参加者を鼓舞しました。
新しい“学派”の夜明け。鳥井会頭が説く「まちごと」のエネルギー

最後に、“激闘”を終えた鳥井さんに決起集会の感想を聞きました。
「みなさんが自由な発想で、しかも自発的にやっている姿にチャレンジ精神を感じました。さらにそれぞれが仲間になって活動が熟成し、次の活動につながっているのが素晴らしい。あらためて、水谷さんとも協力していきたいと思った」と語る表情には、充実感がにじみ出ています。
また江戸時代後期、緒方洪庵が大坂で開いた私塾「適塾」になぞらえ「きょうは新しい学問、学派の誕生を目撃したような気分でしたね! 新しい時代の始まりを感じました」と振り返り、若い力の躍進に期待を寄せていました。

来る2025年4月13日、大阪・関西万博がいよいよ開幕します。それを「祭り」とするならば、踊り子である私たちの姿も、きっと街の景色を彩るはず。
まちごと万博は、各国から訪れる人々と手をつなぐため、踊りの輪を広げる音頭取りともいえそうです。会期は半年に及びますが、そのステージは夢洲だけにあらず。街じゅうを大きなリングに見立て、みんなで楽しむことができたとき、新しい関西、日本の姿が立ちあらわれるのかもしれません。
2024年12月取材
取材・執筆:山瀬龍一
撮影:牛久保賢二
編集:人間編集部/南野義哉(プレスラボ)