「まつりごと」の中心地 霞ヶ関に勝手に盛り上げている人たちが集結!「EXPO酒場 霞ヶ関店」開催リポート
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2025年に開催が予定されている大阪・関西万博。各国の英知やアイデアが集結する世界的イベントの幕開けまで400日を切りました。
しかし「万博って結局何するの?」「関わり方がわからない」と、どこか他人事に捉えてしまう人が多いのでは?
一方で万博に向けてたくさんの人を巻き込みながら「勝手に」盛り上がり、共創の渦を生み出しているのが、有志団体「demo!expo」。本連載では、彼・彼女たちが生み出すムーブメントを取材していきます。
大阪・関西万博について、勝手に考え、勝手に盛り上がるチーム「demo!expo」。「まちごと万博」をコンセプトに、あらゆる垣根を越えて万博を楽しみたい人たちを巻き込み、機運が高まるよう活動しています。
そんな彼らの活動の1つ「EXPO酒場」は、各地域のキーマンやクリエーターなどの「おもろい人」を「店長」として迎え、飲みながら語り合うというイベント。関西だけでなく青森から鹿児島まで日本中で開催され、これまで40回以上、のべ3,800人もの参加者が集まりました(2024年2月現在)。
そして今回はなんと、 日本の中枢、霞ヶ関にて開催されることに……! 今回の参加者は、各地から集まったEXPO酒場の店長たちと、万博を推進している霞ヶ関の内閣官房で働く人、経済産業省や公益社団法人2025年日本国際博覧会協会(以下、博覧会協会)のみなさん、そしてもちろんおもしろがりたい民間の人たちなどなど、普段はまじり合うことがあまりない面々。
政府関係者でなければ足を踏み込む機会なんてなさそうな霞ヶ関で、この人たちがごちゃまぜになって万博を語ったら、いったいどんな化学反応が起こるのか?
大きな壁がありそうな「官」と「民」。その壁は壊せるのか? 予測不可能!? な当日の様子をリポートします!
万博という機会を霞ヶ関が使い倒すきっかけを作りに来た!
集まったのは、官民合わせて50人以上。まずは「乾杯!」からスタート。今回の店長、内閣官房の長崎敏志(ながさき・さとし)さんが乾杯の音頭をとります。
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「万博は予算が膨らみすぎだとか、みんな白けてるとか、なんのためにやってるんだとか、さんざん言われています。そんななかでdemo!expoにお誘いいただいて、日本全国で万博を盛り上げているみなさんがいることを知りました。自分たちはこういう方々に支えられてるんだと感じられれば、こんなに元気をもらえることはない」(長崎さん)
冒頭から本音がにじみ出る長崎さんの言葉。緊張気味だった空気も一気にゆるやかに!
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そこから、参加者たちは所属がごちゃまぜになるようにテーブルに着き、ビール片手にdemo!expoチームから岡本栄理さん、花岡(はなおか)さん、今村治世(いまむら・はるとし)さんのプレゼンがはじまりました。
demo!expoが掲げる「まちごと万博」の目指す姿とこれまで開催された数々のEXPO酒場の紹介、そして今回の万博への思いなどが語られます。
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demo!expoのミッションは「万博をきっかけに、もっと面白くできるはずのものに提案をぶつけ、前例を作り、一人でも多くの人の野生心を解放する」こと。つまり「これってこういうもの」という思い込みを疑い、自分のなかの衝動を抑えることなくトライしていこうぜ! という感じでしょうか。
「自分たちは“前例作り屋”」と今村さんは言います。万博をめぐるさまざまな意見があるなか、「口だけじゃなく、自ら行動しよう!」というdemo!expoのパッションに引きつけられて行動に移した、各地のEXPO酒場店長の活動報告が次に続きます。
【梅田店】梅田でやるのは自分たちの使命
まずは、EXPO酒場 大阪梅田店の店長、阪急阪神ホールディングス株式会社の皆川ゆり(みながわ・ゆり)さんです。
京阪神に沿線がある阪急電鉄と阪神電気鉄道をグループ会社に持つ同社。大阪の中心都市である梅田をより魅力的にしていくための都市構想をまとめた「梅田ビジョン」が掲げられています。梅田ビジョン策定のきっかけには大阪・関西万博の開催も含まれていたようで、EXPO酒場の存在を知った皆川さんは「これはぜひやらなければ!」と、2023年7月に大阪梅田店を開催しました。
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結果は160人もの人が参加し、大盛況に終わりました。酒場開催後は、それまで「どう関わっていいのか」と困惑していた社員の万博に対する熱量が高まっているそう!
【青森店】万博を通じて距離を超えたつながりを
続いて登壇したのは、青森店の永井温子(ながい・あつこ)さん。りんごの販売やりんご園の運営など、りんごに携わる複数の事業を展開しています。
永井さんはすでに2023年に5月(青森店 in 弘前)、7月(コラボ企画で兵庫県にて、青森店 with 兵庫店)、10月(青森店 in 八戸)と3回も店長を経験。他にも、和歌山店とのコラボがあったりと、地域を超えてさまざまなつながりを生み出しています。
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今後は、万博会期中に青森産の商品を扱うポップアップショップを関西で出店することや、外国人旅行客を青森に呼び込むことなど、さらなる展開を推進しているようです。
【八尾店】2025年、町工場をパビリオンにしたい
3人目は、八尾店の店長、松尾泰貴(まつお・やすき)さん。過去に自治体職員だった経験もある松尾さん、現在は、大阪府八尾のものづくり企業で役員を務める傍ら、地域と組織を越えてつながるオープンファクトリー(工場体験)プロジェクト「FactorISM(ファクトリズム)」を進めています。
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「町工場の人と話すと、実はすごいものを作ってることがわかるけど、多くの人はそれを知らない。そんな工場と、地域をつなげるのがFactorISMです。地方創生ってお金をかけて派手なことをやるよりも、お金がなくても人の心を動かすことが一番だと思った。熱い思いを持っている人にツールとして使ってもらいたいのがオープンファクトリー」(松尾さん)
2025年には、町工場の一つひとつがパビリオンになることを目指しています!
あなたにとっての「まちごと万博」は?
続いてはグループワーク。各チームにはペンと紙とオリジナルのサイコロが配られます。
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テーマは「まちごと万博を作る」。
サイコロを振って、出た目のテーマに沿って即興でアイデアを出します。どんなアイデアが生まれるのでしょう?
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まずはそれぞれのチームで、自己紹介や名刺交換などがはじまりました。
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予定よりも時間はかなり押し気味だった様子。でも、お酒の勢いも手伝って、参加者の距離が一気に近くなるのがわかります。
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ワイワイしつつも、各チームでどんどんワークシートが埋められていっています。
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そしてあっという間に各チームのプレゼンタイム! その一部をご紹介します。
まずはこちらのチームのテーマは「外国人が驚くホテル」で、出てきたアイデアは「なりきりホテル」!
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外国人が好きな日本の要素の1つ「忍者」に本気でなりきってしまえるというコンセプト。例えば「フロントマン=門番」とし、門番に見つからないようにキーを借りる、見つかった場合は泊まれないなど、ホテルではありえなさそうな振り切ったアイデアで会場を沸かせました。
そしてまた別のチームは、堺市の町工場を代表して参加した堺店の副店長、小泉達哉(こいずみ・たつや)さん他が持参したオリジナルおもちゃを活用して、アイデアを固めました。ネジを使ったマスコットがとってもかわいいんです。
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「ファクトリーブランド(生産・製造を手がける企業が自ら企画や販売を展開するブランド)」としてこのオリジナルおもちゃも価値づけして売り出そう! という企画でした。
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他にも「大人たちが夢を見せるホテル」「空飛ぶ大谷翔平」「我が家の万博写真館」などなど、タイトルだけでは内容が想像できないものばかり。みなさんの妄想とパッションが混ざったアイデアがたくさん発表され、大いに盛り上がりました。
万博のレガシーってなんだろう
最後に、EXPO酒場 霞ヶ関店のボーイである渡邊さんが「万博のレガシー」について話しました。
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「万博に関わってまだ1年半。正直『開催意義ってなんだろう』『レガシーってなんだろう』と日々自問自答している。でも、今日みなさんのお話を聞いて、万博をきっかけに生じる越境とか新たな交流とか、それこそが万博の開催意義で、レガシーなんじゃないかと思いました!!」(渡邊さん)
この一言に会場の熱は一気に高まり、ワークタイムは終了しました。
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非公式でもなんでも、誰もがインスパイアされてほしい
今回の霞ヶ関店の店長を務めた長崎さん。EXPO酒場やdemo!expoについての感想を伺ってみました。
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万博は「機運醸成」とよく言われますが、つまりはどういうことを目指しているイベントなんでしょう?
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長崎
1つは世界中のみなさんに「万博に来たい」という気持ちになっていただくこと。今「なぜ万博?」っていう疑問を持つ人がいるのは、やっぱり我々の説明不足だと思うんです。なので、みなさんにいろんな未来を感じたいと思っていただくのも目的です。
もう1つは、日本は新しい事業に対して、投資が小さいとか消極的だとか言われますよね。ですから「未来社会の実験場」として、各企業の方をはじめとしたいろんな方にチャレンジする機会を提供し、実際に万博へ出展していただくこと。
これらが機運醸成の柱だと思っています。
遊びに行くだけじゃなくて民間人も出る側に回れると?
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長崎
そうそう!
万博はパビリオンだけじゃなくて、もっといろんな出し物があっていいと思うんです。だから今日もみなさんからいろんなアイデアをいただけたのはすごくありがたかったんですよ。普段は国会議員や事業者の方たちとばかり接していますから。民間のみなさんから忌憚のない意見をもらえる機会にはなかなか恵まれないし、貴重だと思います。いつもの仕事をやってるだけでは、新しい発見ってなかなかないじゃないですか。
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長崎さんは万博を契機に「日本はまだまだポテンシャルがあると思ってほしい、産業界には国民のみなさんがもそんな気持ちを持てるようなものを作ってほしい」と話します。それはつまり日本を元気にすることなのかもしれませんね。
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決して歓迎ムードばかりではない今の状況において、長崎さんにとって万博を開催する意味とは?
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長崎
私は今53歳、霞ヶ関で働いて30年です。そんななかで万博を職務として与えられたことは、すごく光栄だと思っている。今の日本は少子高齢化だとか、新しい産業が育ちにくいとか、いろんな意味で岐路に立たされているけれど、なんとしても日本が元気になるようなことをしたいと思うんです。
もう1つは、私の地元は兵庫県宝塚市。ずっと東京にいるので地元の関西で行う事業に自分が関われるというのも、すごく喜ばしいことです。
大阪の企業や自治体には、やはり地元である関西のために頑張りたいという人が多いです。彼らからすると私は「政府の、東京サイドの人」だと思われているかもしれない。でも 私としては「僕の故郷のために一緒に考えてくれてありがとう」という思いで、すごくやりがいを感じているんです。
機運醸成は1人ひとりのもの
参加者にコメントをいただきました。
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「内閣官房にいると、普段は内閣官房内と経済産業省と博覧会協会の人しか関わりがないんです。盛り上がってるのは役所だけかと思ってたけど、そうじゃなかった! 今日は新鮮な発見がたくさんあって、これからのモチベーションになりました」(内閣官房職員)
「どうやったらネガティブな反応を防げるかということばっかり、日々考えがち。でも今日ここに来た人たちはとてもポジティブに万博のことを捉えていて、ご自身で何ができるかを考えている。発想が全然違うと思いましたね」(経産省職員)
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「万博をどう盛り上げていいのかいまいちわからず……。ちょっとくすぶっていたんですが、今日はみなさんがポジティブに応援してくれることにうれしくなりました」(万博事務局)
「万博にそこまで強い興味はなかったんですが、万博をうまく使って、自分のやりたいことを発展させていってる人がいることを知りました。万博って“使える”んだ、と。もしかしたら自分にも何かできるんじゃないかという思いが、万博に触れることで生まれてくるかもしれない」(会社員)
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政府で働く人たちからお話を聞くと、やはり「官」と「民」の間に大きな壁があるのだなと感じます。でも、今回のEXPO酒場はいろいろとこんがらがった糸をほどくようなきっかけになるかもしれないと感じさせるものでした。
万博は、ただ眺めるもよし、批判するもよし、もちろん思い切り楽しむもよし。
でも、もう1つオプションがあるとすれば、2025年の万博は「使う」ということ。国民の誰もが「この万博、うまく使おう」と思えること、これこそが万博のみならず1人ひとりの「機運醸成」なのかもしれません。
2024年2月取材
取材・執筆:ikekayo
撮影:中村年孝
編集:かとうちあき(人間編集部)