万博をチャンスに変える! 民間の力で街から勝手に盛り上がりをつくる実証実験「まちごと万博カーニバル」をリポート
2025年に開催が予定されている大阪・関西万博。各国の英知やアイデアが集結する世界的イベントの幕開けまで500日を切りました。
しかし「万博って、結局何をするの?」「興味はあるけれど、どうやって関わればいいのかわからない……」と、どこか他人事に捉えてしまう人が多いのでは?
その一方で万博に向けてたくさんの人を巻き込みながら「勝手に」盛り上がり、共創の渦を生み出しているのが、有志団体「demo!expo」。本連載では、彼・彼女たちが生み出すムーブメントを取材していきます。
2023年4月、大阪・関西万博(以下、万博)を有志で「勝手に」盛り上げる一般社団法人 demoexpo(法人名は「!」表記なし)が立ち上げられました。万博公式とは異なる動きの軸となっているのが「まちごと万博」と呼ばれるプレイベントの数々。万博や街づくりを話題に日本各地で開かれている「EXPO酒場」、貸切電車をパビリオンに見立てた「EXPO TRAIN 近鉄号」など、すでにさまざまなイベントが開催されています。
そして、万博開幕までちょうど500日前に迫った2023年11月30日、「一連の活動や盛り上がりを知ってもらおう!」と、ミナミの街を舞台にした活動報告イベント「まちごと万博カーニバル」が開かれました。
メインテーマは「万博ヤバい。※いい意味で」。
大阪商工会議所や有識者と進める「まちごと万博プラットフォーム」構想、会場設計を担う若手建築家の取り組みなどを披露するトークツアー、バラエティ豊かな出店が目白押しの夜市という豪華なプログラムが組まれました。
会場となったのは、南海なんば駅からほど近い複合商業施設・なんばパークス内にあるなんばカーニバルモール。多くの人々が行き交うミナミのストリートでの「勝手な盛り上げ」は、どのような化学反応を生み出したのか。当日の様子をリポートします。
大阪のストリートの象徴・なんばから万博を盛り上げる!
今回のまちごと万博カーニバルは「万博と街の力が合わさればもっとおもしろくなるのでは?」「夢洲会場に限らず、街中で盛り上がろう!」という認識のもとに企画されたもの。関西人らしいおせっかいマインドを働かせ、国際的な祭典を最大限に使い倒すことで機運醸成を図るのが狙いです。
イベントの舞台は音楽やファッション、お笑いなどさまざまなカルチャーが集まるミナミの中心、なんば。
demo!expoのメンバーはもちろん、会場の設計担当者や出展企業を迎え、万博本番に向けた活動の進捗発表、そして何よりこれまでの取り組みを街に持ち出すことで、新しいナイトカルチャーを誕生させる実証実験を兼ねています。
3基の櫓がステージ! 街全体がお祭りムードに
イベントは15時から18時までのまちごと万博トークツアーと、18時から21時までのEXPO夜市の二部構成で行われました。
第一部のトークツアーは、参加者がツアー形式で会場に設けられた3ヶ所の櫓(やぐら)を練り歩くという趣向が凝らされたもの。登壇者は万博の公式スタッフから実際の会場設計に携わる若手建築家、demo!expoのメンバーまで多岐にわたります。参加者はツアーコンダクターの先導のもと、それぞれの櫓で30分ずつ万博に向けた取り組みや期待感についての話に耳を傾けました。
第二部の夜市は、グルメや体験型コンテンツが目白押しの「EXPOナイトマーケット」に音楽やダンスパフォーマンスが華を添える、にぎやかな内容です。
それでは、当日の様子を見ていきましょう!
万博に関わるヤバい人たちの想い。会場と街、両方から盛り上がってほしい
A班、B班に分けて時間帯別に行われたトークツアーは、ともに紙芝居師・ガンチャンによる万博を題材に取った紙芝居で幕開け。両班で登壇者の変わるツアーの模様をダイジェストでお伝えします。
オープニングセッションでは、大阪商工会議所 会頭でサントリーホールディングス株式会社 代表取締役副会長の鳥井信吾(とりい・しんご)さんが、おなじみの「やってみなはれ」という言葉を交えて、一連の取り組みにエールを送ります。
「『やってみなはれ』には『やってみないとわからない』という意味が含まれている。とにかく、最初の一歩となる行動力を持つことが大事。本日も『やってみなはれ』精神で楽しんでほしい」
関西財界を代表する人物による、まちごと万博の目的にも通ずるメッセージを受け、大阪公立大学の嘉名光市(かな・こういち)教授は、街づくりの観点から半世紀の時を経て大阪で万博が開催される意義を解説しました。
「大阪は1970年と1990年、そして2025年と国際博覧会の開催地に選ばれながら、常に『街の外』にあたる場所を会場としてきた。今回も人工島が舞台ですが、『街』から万博を盛り上げてもいい。そこで市民が刺激を受けて『私も何かやろう』という行動につながれば」
さらに万博のランドスケープデザインディレクター・忽那裕樹(くつな・ひろき)さん、会場デザインプロデューサー・藤本壮介(ふじもと・そうすけ)さんも、街の盛り上がりが万博の自分ごと化につながることを、異口同音に語りました。
若手建築家による会場計画が初めて公の場に。具体化する設計と会期後も残る建築とは?
「大御所」たちによるオープニングセッションが終わると、参加者は次の櫓に移動します。
続くテーマはこの日、特に注目された「夢洲×まちごと万博」。開幕まで日数が迫り、夢洲会場の設計も徐々に進んでいますが、その主役は公募で選ばれた若手建築家です。会場内の休憩所やトイレ、展示施設といった施設の設計実務担当者が、若い感性に満ちたアイデアや想いを語りました。さまざまな話が飛び交ったトークツアーのなかでも、この記事では彼らの取り組みをクローズアップします。
会場全体を束ねるプロデューサーらと連携しつつ、地道に計画をブラッシュアップしてきた若手建築家たちですが、その活動は日頃なかなか日の目を見ません。そこで、忽那さんがdemo!expoに相談。代表理事で株式会社人間の花岡(はなおか)さんが「勝手に紹介したらええやん」と応じ、今回の登壇につながりました。具体的な設計案がお披露目されるのは、今回が初めてです!
テレビ局が使用するサテライトスタジオを設計する三谷裕樹(みたに・ゆうき)さんは、人の都合で切られたり、台風で倒れたりした「困った木」に着目。困っているのは人ではなく木という観点を得て、目立たないところで不利益を被る木々について問題提起しようと考えた背景には、豪雨被害に遭った御神木の撤去と保存活用に関わった経験があります。町民が御神木を想う姿に胸を打たれたといい、どうせ撤去するなら有効活用をと思い至ったのです。
「困った木を各地から集めて、建築として物語を伝えられたら。それが自然や地球を学ぶ契機になればうれしいです」
その言葉にも熱がこもります。
一方、竹村優里佳(たけむら・ゆりか)さんと小林広美(こばやし・ひろみ)さんは、残念石と呼ばれる巨石を用いたトイレを設計中。残念石とは今から約400年前、大坂城の石垣を築くために切り出されたものの、運搬中に落下して放置されたり、単に使われなかったりした石のこと。これらを新たな建築の一部として利用し、「万歳石」という新たな名で輝かせる計画です。
なお、利用予定の残念石は、河川の堤防工事で何度も移動された経緯があったり、道路のバイパス工事のために埋設や移動が予定されたりしていたもの。河川に沈んでいるものについては、地域NPOの協力も加わって引き揚げる個数を増やす方向で話が進みました。
「日本には自然や動物など、あらゆるものに魂が宿ると考えるアニミズムが根付いている。石を命として丁寧に扱い、建築に取り込むことで建築にも命を宿せるのではないか。建築は造って壊すことも多いですが、巨石や残念石などの石は人間を超えた時間軸で残り続けている。石を再度利用する前提での設計プロセスは、建築のあり方を少しずつ変えていくかもしれないと考えています」(竹村さん)
こちらもトイレを設計する溝端友輔(みぞばた・ゆうすけ)さんは、梁や柱に鉄骨構造を採用すると同時に、外壁には3Dプリンタを活用。幅2メートル、高さ2.5メートルのパネルを3Dプリンタで出力し、それらを組み合わせて1つの建築物とする予定です。
三井嶺(みつい・れい)さんが担当するポップアップステージは、「協力して作り上げる」がコンセプト。
建物自体は交差する2本の柱に丸太を渡し、そこに松葉の束を葺くシンプルな構造。ステージの主役はあくまで人との考えに根差した、大胆な提案です。
「街の人が万博を自分ごとに捉えるには、一緒に何かを作ることが重要」と三井さん。建物を構成する松葉を束ねるワークショップの計画など、来場者が参加できる仕組みづくりにも尽力しています。
続々と飛び出すアイデアのなかで強調されたのが「会期後、建築を街にどう残すか」というテーマ。成果物が長く活用されてほしいという想いは全担当者に共通です。夢洲会場やパビリオンの会期後の活用法は未定。つまりは、将来を自由に決められる余地があります。「施設を譲り受けたい人や企業がいれば手を挙げてもらえれば」という発言も出たように、若手建築家たちの視線はポスト万博にまで注がれています。
竹村さん、小林さんは「石をもとあった場所に返すのは前提ですが、例えば残念石を400年越しに大阪城に持っていき、建築と組み合わせて東屋のようにして、人々に親んでもらうことで万博の記憶にできれば」と語ります。
サテライトスタジオを手がける三谷さんは「スタジオは150平米の住宅ほどのサイズ感。シャワーなど必要設備を追加すれば、宿泊施設としても活用できるはず」とアピール。
丸太と松葉を使ったポップアップステージを設計する三井さんは「僕は記憶に残るものにしたい。ワークショップで束ねた松葉を最後に燃やすとか。そこまで見届けられれば、より強く記憶に残るはず」と「形より記憶派」です。
3Dプリンタを使ったトイレを設計する溝端さんは形を問いません。
「3Dプリンタは多様な材料を取り混ぜられるので、本来なら捨てられるコーヒー豆のかす、プラスチックゴミさえ建築にできる。会期前後でまったく形や用途が異なる、新しいものが生まれる可能性の存在がおもしろいなと。みんなで使い方を考えて、それこそ僕の死後も形を変えて残ってほしい」
と、誰かの手が加わることをむしろ歓迎しているようです。
こうした若手建築家の熱意を受け、忽那さんからもコメントが。
「スケジュールや予算に限りがあるなか、みんな本当に頑張っています。その姿を見ると僕らも奮い立たされる。ぜひ、彼らの今後を応援してください!」
合計6つのセッションでさまざまな話題が飛び出したトークツアーでしたが、着々と具体化する若手建築家のアイデアは、万博への期待感を高めるうえで特に印象的でした。
資金面など困難を乗り越えて完成した建築で、みんなとポスト万博まで楽しみたい!
トークツアーでは語られませんでしたが、設計の過程で直面した困難や、それを乗り越える工夫を登壇後の建築家に聞いてきました。
例えば、サテライトスタジオ担当の三谷さん。材料となる木材の調達にメドはついたものの、運搬作業だけで10万円近いお金がかかるケースもあるのだとか。費用の捻出に課題を残すのは、他の建築家も同じです。
しかし、困難をそのままで終わらせず、新しいアイデアに昇華させるのが彼らのすごみ。「万歳石建築」を設計する小林さん、竹村さんは12月末から残念石を大阪まで祭りのように運び出す費用を集めようとクラウドファンディングに挑戦しています。
400 年越しに大阪へ!「残念石」を「万歳石」へプロジェクト
「これだけ多くの人が集まるのを見て、万博が迫ってきていることを肌で感じました。この熱気をもっと広げるためにも、残念石を祭りのようにみなさんと運びたい。『万歳石』という半分冗談のような言葉を用いた背景には、こんなに歴史や魅力のある残念石のような石が、私たちの知らないところで埋め戻されたり、触れられなくなったりしている現実があります。今回の計画は『旅』に出る石以外の石の存在を可視化するのも狙いで、それらをどう後世に受け継げるか、みんなで議論する機会にもなれば。歴史的瞬間を共有して、完成したらやっぱり万歳石の休憩所でバンザイ式をしたいです(笑)」(竹村さん)
ちなみに目標金額は大きく300万円! 夢洲会場で開催できるかは未定ですが、バンザイ式や祭りのように残念石が運び出される様子を見送るイベント、残念石グッズ(フィギュア)などのリターンを予定しています。
最後にワークショップを含めた企画を考案中の三井さんに、当日の建築物の楽しみ方を伺うと、とてもリラックスした回答が。
「ワークショップで僕ら自身が楽しんでいるところに、興味を持った人が好きな形でフラッと入ってくれたら十分です」
建築家と聞くと、個人で自分の理想を突き詰める印象があるかもしれません。しかし、今回のメンバーはお互いの仕事に刺激を受け、より良いものを作ろうとする向上心に満ちていました。人を集めて盛り上げるには、まず自らの関心領域で楽しむのが大事。そして、より良いアイデアは積極的に取り入れる。彼らの話は、そんな当たり前のことを思い出させてくれました。
第二部は夜市! グルメに展示、ライブ、盆踊りと自由な空間に
外がすっかり暗くなった18時頃、第二部のEXPO夜市がスタート!
この夜市は、万博500日前という節目を機に新たなナイトカルチャーの可能性を実証実験するもの。グルメはもちろん、音楽やアクティビティ、ダンスなど万博のパビリオンさながらに、多様なコンテンツが集結しました。
アクティビティで目を引いたのは、ナイトモルックや「ヘンな『ただいま』博」。
「ヘンな『ただいま』博」は、参加者が会場に設置されたドアをくぐって「ヘンなただいま」を披露する、簡単なようでハードルの高いアクティビティ。普段と違う「ヘン」なことをしたり笑ったりすると、気持ちが前向きになるとの研究が下地にあるそうです。
日中、トークツアーの舞台として使われた櫓は、パフォーマンス用のステージに様変わり。ある櫓では「世界のリズムで盆踊り」CREWによる盆踊りが。サンバ、ベリーダンス、ボリウッドダンスなど各国の踊りで会場を盛り上げます。
また会場には、万博公式キャラクターのミャクミャクの姿も!
もちろん、グルメもバラエティ豊か。demo!expoの企画「勝手にパビリオン」で生まれた商品も販売されていました。
その他、ユニークな味が揃ったおにぎりも。こちらは地元企業である象印マホービン、ニコニコのりと、大阪芸術大学がコラボレーションしました。
19時過ぎには多くの人だかりができ、学生や家族連れ、仕事帰りの会社員にご年配、外国人観光客まで幅広い層が楽しむ盛況ぶり。こんなブースも盛り上がっていました。
……というように、さまざまなコンテンツが混ざり合うようにして、20時30分過ぎには会場のボルテージは最高潮に!
盛り上がりを聞きつけてやってきた来場者からはこんな声も聞かれました。
「にぎやかな音が聞こえたので買い物ついでに。万博はもっと固い印象だったけど、こんなのもアリなんですね。2025年の本番も行ってみようかな」
「仕事帰りに立ち寄りました。パビリ本など活動内容も興味深かったですね」
多様な人と文化が交錯するなんばの街。万博の裾野が広がるような雰囲気が感じられたのも、そのロケーションゆえだったのかもしれません。
今後もイベント多数! 関係者が楽しむ姿が新たな盛り上がりを生む
そうして21時前、demo!expoメンバーのあいさつでイベントは締めくくられました。
まちごと万博カーニバルを主催した花岡さんは「こんなに多くの人が参加してくれてうれしいです。今後も300日前、200日前とイベントを企画するので、万博をもっと盛り上げましょう!」と力強く宣言。
締めは同じくdemo!expoの理事で、今回はツアーコンダクターを務めた株式会社オカムラの岡本栄理(おかもと・えり)さんが担当。普段は「デモ、エキスポ〜!」の掛け声が定番ですが、この日はイベント冒頭に語られた「あれ」で締めくくることに。
「みなさん、覚えていますか? サントリーの鳥井さんが話してくれた『やってみなはれ』。今夜はこれで締めましょう! やって〜?」
「みなはれ〜!」
「ありがとうございました!」
こうして、大阪・関西万博500日前のまちごと万博カーニバルは終了。
若手建築家のように万博に主体的に関わる人、興味を持って参加した人、当日たまたま立ち寄った人。参加のきっかけはバラバラでしたが、誰かが楽しむ様子が人を呼び、さらに大きな盛り上がりを生むことを感じさせました。
いよいよ来年に迫った大阪・関西万博。demo!expoは今後も「勝手に」万博ムードの盛り上げを担っていきます。今回のまちごと万博カーニバルを機に輪が広がれば、さらに新たなプロジェクトが生まれるかも? そんな希望を感じさせてくれる、熱気あふれる冬の日でした。
2023年11月取材
取材・執筆:森木あゆみ
撮影:西島本元
編集:関根デッカオ