築50年の厚生会館を大改革。社員の「おもしろい」を軸に、新食堂が会社の文化醸成の場に(パナソニックEW・Culture Base.)
1973年竣工の食堂が入った建物「厚生会館」をリニューアルさせ、新たに文化発信基地「Culture Base.」として開いたのが大阪府門真市にあるパナソニックエレクトリックワークス株式会社です。
テーマである「DEI」を、「誰もが(D)、遠慮なしに公平に(E)、一緒にイキイキ(I)働ける」として再定義。門真に在籍する約7000人の従業員の多様な価値観を創造し、パナソニック文化を創造し育む拠点としてスタートしました。
今の働き方にあった食堂としての機能に、ウェルビーイングを具現化する「Culture Base.」。ハード面とソフト面との両面の構築に携わった6人の立役者にお話を伺いました。
築50年の食堂が、ウェルビーイング実現の場へ

まずは「Culture Base.」が生まれた背景について、お伺いしたいです。


浅井
この建物は、1973年に「厚生会館」として建てられたものです。1階と2階が食堂、3階と4階が社内クラブ活動の拠点として、50年以上の歴史を歩んできました。


浅井
当時の食堂は、13時に営業を終えた後は無人の空間。2020年に老朽を理由に改築計画が持ち上がったとき、まずは「ランチ以外の時間も人が集まる場にしたい」と考えました。
というと?


加々見
グランドコンセプトを「文化発信基地」に掲げて、ただ食べるだけの場所ではない食堂を目指すことになりました。


加々見
コロナ禍でいったん計画が延期になり、2023年に再スタートしたのちに、予想以上におもしろい形で実現したと思います。

予想以上に……! では、順に詳しくお伺いさせていただきます。
1階と2階が食堂です。ランチ時は、1階の食堂の入口のモニターでメニューだけでなく各階の混雑状況がわかるようになっているんですね。


浅井
効率よく利用してもらうための混雑回避策です。
1階は少し価格帯の高い凝ったメニューを、2階は比較的オーソドックスなものを提供しています。
食事の提供時間は、11時半から13時まで。ですが、電源やWi-Fiなどを完備しており、それ以外の時間に一人で作業したい人や打ち合わせや交流を目的にこの場所を利用する人も多いです。

天井も高くて開放的ですね。


加々見
室内は、明るくポップな色味をアクセントとして配置しています。
食堂の提供カウンターの高さは、車椅子に座った状態からも見えるよう、標準より少々低めにしました。
1人用のカウンター席や2名席、6名が座れるBOX席など、座席の種類にもバリエーションを持たせています。
1階奥には「こもりエリア」があり、1人や数人で静かに食事したい人に人気です。

浅井
1階の入口近くにある「みんなのエリア」は、誰でも利用できますが、通路幅が広く、高さを変えられる昇降テーブルもあるので車椅子の方に人気です。壁一面を彩る大きなアート絵画で、ゆったり華やかな空間です。


加々見
2階には、「ワークショップエリア」があって、予約すれば、可動式の机を並べて数十人規模の研修や講習、発表、懇親会も開催できます。

浅井
今回のリノベーションにおける大きなポイントは、ジェンダーレストイレの導入です。
私たちは「みんなのトイレ」と呼んでいて、一般のトイレが3つと、多目的トイレが2つ。身体的な性別や、車椅子使用などの区別なく誰でも使えます。
とはいえ、身体的な性別を問わないことに抵抗感を覚える方もいるだろうと想定しました。そのため、2階と3階は男女別トイレにしつつ、ジェンダーレストイレでは3つの工夫をしました。


浅井
まずエントランスに緩衝地帯として洗面台を設けました。その後ろにゆるく仕切りを立て、奥に並ぶ個室が直接見えないようにしています。
2つ目が、入口のランプで使用状況を表示したことです。新幹線のイメージですね。あえて、遠くからでも一目でわかるようにしています。
3つ目は、個室に向かって左右どちらからも入れる回遊型の導線にしたこと。通路上のすれ違いを回避できます。


浅井
3階には、新たに祈祷室を設けました。信仰する宗派をもつスタッフにとって、祈る場がないことがストレスなのではないかと考えたからです。
入口そばに手足を洗える洗い場を設け、室内はカーテンでゆるく仕切ることができます。特定の宗教に限らないよう、あえて物を置かずシンプルな空間にしています。


浅井
ほかに3階には、20ほどのクラブの部室も。軽音部や茶道部、合唱部などの、それぞれ活発に活動していて。たとえば、陶芸部の室内には電気窯、電動ロクロが数台かあり、それらで焼いた作品がたくさん並んでいます。

DEIをパナソニック流に再定義
ジェンダーや宗教、障がいなど、あらゆる人が「自分の場所」として利用できるのが魅力的ですが、DEIの考え方を大切にされているとか。
DEI担当の助田さんに、その背景についてお伺いしたいです。


助田
まずDEIとは、「Diversity(多様性)」、「Equity(公平性)」、「Inclusion(包括性)」の頭文字をとった言葉のことです。パナソニックグループをはじめ、近年ではDEIの観点を大切にした企業が増えてきました。
この「Culture Base.」を計画するにあたり、従来のDEIの考え方を大切にすることはもちろんのこと、当社独自で「誰もが(D)、遠慮なしに公平に(E)、一緒にイキイキ働ける(I)」と再定義しました。社員全員にわかりやすく、ダイレクトに響くメッセージにしたかったのです。

誰もが快適に利用できる食堂や、「みんなのトイレ」など、各所にDEI要素がちりばめられていました。


助田
2階奥にある「リトリートマルシェ」もその一つ。テーマは、「自分と向きあう」。会社の文化創造を担う場ですね。
コロナ禍で出社が最低限に抑えられていた頃、社員たちは精神的負担を感じていたと思うんです。それで、誰もが自分と静かに向き合い、本来の自分に戻れる場にしたいと思い、名付けました。

「リトリートマルシェ」では、どのような活動が行われているのですか。


有村
部署や社外の人を招いての懇親会や、人工芝を敷いてのモルック大会、ランチ時のゲリラDJ、ボードゲーム会など、自由に使われています。
パナソニックは巨大な組織です。そのため一人ひとりが出会い、互いを知り、信頼関係を築いていくプロセスを大事にしたい。
「Culture Base.」がさまざまな人の「B面(仕事以外の一面)」が見られる場所となり、グループ会社や組織の壁をすんなり越えられる役割を果たしていると感じています。

人のつながりが場を生み、楽しむ文化を育む
では次に、「リトリートマルシェ」を中心にソフト面であらゆる仕掛けを行っている渡辺さん、有村さんにお伺いします。
「Culture Base.」の稼働から1年経ちましたが、利用する社員に変化はありましたか


渡辺
「食べるだけ」だった食堂とは異なり、社員それぞれが思い思いに過ごせる場所になっていると思います。
たとえば、私は陶芸部員で、部室に行く前に軽食をつまんだり、給湯器のお湯を使って自分で豆から挽いた珈琲でリラックスしたり。ろくろを回していると、合唱部の歌声が聴こえてくるんですよ。


有村
各クラブはそれぞれ活発ではあるものの、横のつながりが希薄でした。でもこの「Culture Base.」や「リトリートマルシェ」ができたことで、つながりが生まれたように思います。
9人制女子バレー部の試合で、DJ部が音響を担当してくれたり。はじめは社内の大会だけだったのが、いまや対外試合にも協力してもらっているそうです。
他にも、軽音部のゲリラライブや日本酒バーの開催、そこから派生して生まれた「かどま酒文化部」など、社員のやりたいことがこの場で形になっていると思います。

もともと社食だった場所が、とても自由な場所になっているのですね。
たとえば、「リトリートマルシェ」は使用にあたってルールなどはあるのでしょうか?


浅井
かっちりしたルールはありません。また利用料もありません。そこにお金が発生すると、自由な使い方が難しくなるものだからです。

有村
それではこの場所らしさがなくなってしまうんですよね。しばりがないからこそ、歌の練習をしたりボードゲームに興じたりと、気軽にやりたいことを自由にやる環境になっているというか。
ただ、やっぱり相談する場所はあった方がいいとも思っていて、そのために「アンバサダー部」を作りました。「新しいことをやってみたい」と思う人の相談に乗って、一緒に考えたり、ちょっとお手伝いをしたり。僕もその一人として活動しています。
ただし、あくまでも「管理者」という立場ではなく、「文化を生みたい人を応援するための部活」なんです。
皆さんの中にあった「楽しむ」気持ちが表に出て、つながり、大きなウェーブになっていますね。


有村
何かが新たに生まれたのではなく、みんなが持っていたものが「出てきた」だけのような気がします。
場づくりにあたり、外部の立場で専門的な視点を提供してくださっているのが、カモメ・ラボの今村謙人さんです。
今村さんは普段、屋台をつくるワークショップや場づくりの仕事を各地で行っていて、私もそれに参加したことがあったことが出会いのきっかけでした。そこで、「ぜひパナソニックでも屋台を作りたい」とお願いしたのです。

今村
場づくりや街づくりに関わる外の立場から、「この会社にいる人がどうやって面白く働けるのか」について一緒に考えるのが僕の仕事です。
ワークショップの開催などを通して、いろんな人の声を聞きながら、この場所の裾野をどんどん広げていく役割だと思っています。


今村
やはり何かを始めるにあたって大切なのは、失敗してもいいから小さく何かをやってみること。これはスモールスタートの屋台と同じことだと思っていて。
それが大きなものに広がっていって、みなさんのさまざまな活動へとつながっていっていると思います。

有村
おかげさまで、社外や地域の方から、「パナソニックっていいね」と言われることが多くなりました。ここを利用している人の目が「自分たちって、いいことをしてるのかな」とどんどん変わってきているのも実感しています。
自分たちの活動に誇りを持つことは、きっと仕事にも生きるでしょう。
「おもしろいことをやる」という輪が、波紋のように広がっていますね。年齢や部署の垣根を超えたつながりが生まれているのではないでしょうか。


有村
場を作るには、まずはそこに集う人のつながりを作ることが大切だと実感しましたね。
こうして活動が広がった今、会社の文化のことや、自分たちが会社に貢献できることは何なのだろうと考えるようになりました。
それはやっぱり、会社が私たちの自由な活動を受け止めてくれたから。だからこそ「もっと会社に良い影響を与え、持続可能な形にしなければ」と深く思えるようになったんだと思います。
活動を受け止めてくれたのは、パナソニックエレクトリックワークスの社風によるものなのでしょうか?


有村
そうかもしれません。弊社は、ものづくりの血を受け継ぐ会社です。「創りながら試行錯誤する」社風が、私たちの活動を後押ししてくれていると思います。
自分たちがおもしろいと感じることをやってみて、そこで生まれたDEIやウェルビーイングの価値観を、結果的に商品にも落とし込んでいく。
それが「Culture Base.」ができる、会社への貢献だと考えています。

【編集後記】
取材を通して感じたのは、Culture Base.が「やってみたい」がつながる場になっていることです。例えば部活動。以前は各部内で活動が完結していて、互いのことはあまり知らなかったそう。それがCulture Base.をきっかけに、互いの面白さを知り、コラボレーションが生まれ、今ではさまざまな活動へと広がっています。
印象的だったのは、ここに集まるのが、一人ひとりのピュアな「やってみたい」だということ。その楽しさが周囲にも伝わり、「自分もやってみたい」という次の一歩を呼び起こしているように感じました。一人ひとりの中にある「好き」や「楽しむ」という気持ちが、この場を通して自然と表に現れ、新たな挑戦へとつながっていく。Culture Base.には、そんな心地よい連鎖が育まれていました。(株式会社オカムラ 前田英里)
2026年5月取材
取材・執筆=國松珠実
写真=衣笠名津美
編集=桒田萌(ノオト)


