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「一人テレワーク場所」から「ゆるいつながり」の本質へ コロナ禍でコワーキングを使う意味は変化するのか

コロナ禍の後押しもあり、身近な存在になってきたコワーキングスペース。しかし、少し前にさかのぼると、日本でのコワーキングスペースの知名度は全く高くありませんでした。リアルな場での新しい人との出会いがしづらくなったコロナ禍。そんな今、あえて「Co-Working」をするのはどうしてなのでしょうか? コワーキングスペース運営者の皆さんに語ってもらいました。


2020年の春先よりつづく新型コロナウイルス感染症の影響は、コワーキングスペース運営者にとって大きなものです。コロナ禍では空間を共有する働き方が敬遠された面もあり、コワーキングの価値も変化の途上です。

そんな厳しい状況においてなおコワーキングが必要とされ、今後よりその重要性を増していく未来を考察したいと思います。

2013年から東京・茅場町でコワーキングスペースを運営

東京都中央区で「コワーキングスペース茅場町 Co-Edo(コエド)」を運営している株式会社ダイレクトサーチジャパンの田中弘治です。

ソフトウェア開発者として独立後、コワーキングスペースの認知が広まってなかった2013年に、ドロップイン利用可能で勉強会やセミナー開催に適したスペースとしてオープンさせました。

2013年、オープン直後の「コワーキングスペース茅場町 Co-Edo」の様子

運営を続ける中で、規模の大きなイベント利用が増えていき、コワーキングスペースの増床や貸会議室としてセミナールームの設置を行い、今に至ります。

一人作業を好む元オフィスワーカーの利用が増えた

コロナ禍に入り、もっとも大きく変わったのは、イベント利用や貸会議室利用が激減したことです。企業研修などは徐々に再開されてきましたが、有志による勉強会やセミナーのようなイベントはまだほとんどありません。

コワーキングの利用者層も変化しました。作業やイベント参加を目的に遠方から来る利用者が減った一方で、リモートワークの作業場所として近隣に住んでいると思われる利用者の割合が高まっています。

コロナ禍に入る前後でいわゆるテレワーク需要が高まり、日本においてもオフィス外で仕事ができる環境が急速に整備されました。

テレワークによる通勤時間が節約できるなどのメリットを感じているオフィスワーカーは多く、会社としてもオフィスにかかるコストを最適化する動きが増えてきています。

コロナ禍に入ったばかりの2020年頃は、自宅に十分なネットワーク設備がないことや仕事に集中できる環境になっていないなどの理由でコワーキングスペースを使う方が大半でした。

コロナ禍以前にオフィスで仕事をしていた方は、テレワークになっても個室やブース席を好む傾向があります。

Web会議が確実にできる場所で、通常の作業も集中して行いたいというニーズから、「決まった時間に、腰を据えて仕事ができ、声を出せる環境を求めている」ようです。

一方、2021年後半からは、徐々にグループでの利用も増えてきました。週末に本業とは別のプロジェクトを行っているチームや、会社設立の準備段階の方々、ボランティアグループなどです。

コロナ禍以前と比べるとまだまだですが、あらためて「協働」する場所としてコワーキングスペースが求められてきています。

コワーキングスペースのもつ「作業場所」と「コミュニティ」の価値

テレワークに集中できる環境を求めて一人で利用するニーズと、協働する場所としてのニーズ。一見すると、これらは相反するものに映るかもしれません。

しかし、コワーキングスペースが生まれた起源を振り返ると、2つの機能があり、そのどちらの面も包含していることが分かります。

コワーキングスペースは、もともとフリーランスエンジニアなど、独立した事業者がたまに集まって仕事をする日を作ることの価値を知ったことで生まれました。

独立した個人が一緒に作業をするためには、コミュニケーションをとれる環境である一方で、各自が集中できる環境でなくてはなりません。

その後、このムーブメントはコワーキング (Coworking) と名付けられ、新たな働き方として世界に広まりました。

つまり、コワーキングスペースは「コミュニティ」と「作業場所」のふたつの機能を有するのです。

コロナ禍に入り、一時的にコミュニティの要素が敬遠されました。しかし、コワーキングの2つの本質は変わらないと感じています。

変化したのは、以前はフリーランスなどの独立した事業者が中心だったのに対し、コワーキングスペースの認知度向上とともに、コロナ以前は毎日出勤していたビジネスパーソンがテレワークをする場所としても使われるようになってきた点です。

誰もが享受できる「ゆるいつながり」のメリット

では、コロナ禍をきっかけにリモートワークをしはじめた利用者は、今後も一人でコワーキングスペースを使うことを求め続けていくでしょうか? 個人的には、その答えは「NO」です。

1970年代にハーバード大学のマーク・グラノヴェッターは「弱い紐帯の強み」 “The strength of weak ties” という説を提唱しました。緊密な関係性よりも、いわゆる「ゆるいつながり」のほうが得られる情報が多様になるメリットがあるという考え方です。

たとえば同じ会社で働く同僚が10人、20人と増えるほど、お互いの知っている情報は重なり合います。一方、別々のコミュニティにいる人たちは、それぞれ別分野の情報を持っている。その結果、自分に合った多様な情報が得られやすくなるでしょう。

これはコワーキングスペースが社会に求められた要因の一つであり、リモートワーク場所と使っている人々も、すでに異なる人々が関わるゆるいコミュニティから得られるメリットに気づきはじめているのです。

今後、フリーランスはもちろん企業で働くビジネスパーソン、そして社会全体でこのメリットを享受していくことになるかもしれません。

オンライン、リアル両方のコワーキングが「接点」を生み出せる

そういったコミュニティでは、メンバー同士の「接点」が必要となります。「場」といってもよいかもしれません。

この仮説が正しいならば、コワーキングスペースのコミュニティ機能は、コロナ禍を経ても色褪せるどころか、より大切になり、存在感を増していくでしょう。実際、リモートワーカーの接点として、Co-Edoを始めとした「コミュニティを大切にしているコワーキングスペース」の価値は高まってきたのを感じています。

コロナ前に開催した、オープン7周年記念イベント

他にも、「みんコワ」のようなオンラインコワーキングスペースや、メタバースといった仮想空間も、接点として活用されていくはずです。

ドロップイン(一時利用)が可能なコワーキングスペースであれば、利用者が入れ替わり、偶発的な出会いも生まれやすくなります。

普段は一人用の作業スペースで作業をしている方も、よろしければコミュニティを大切にしているコワーキングスペースも使ってみてください。きっといつか、「ゆるいつながり」のメリットを享受できると思います。

編集:ノオト