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共創人口が増えれば地域も変わる。JR東海・conomichiが仕掛ける「関わりしろ」の作り方(吉澤克哉さん)

日本の大動脈を支える堅実な社風のJR東海で、「地域と人々をつなぐ共創型ローカルメディア」として立ち上がった「conomichi(コノミチ)」。若手社員3人で立ち上げた会社非公認のワーキンググループから、どのようなプロセスを経て新規事業化したのでしょうか。

conomichiを立ち上げた東海旅客鉄道株式会社 事業推進本部の吉澤克哉さんに、共創のための試行錯誤の歩みをお聞きしました。

吉澤克哉(よしざわ・かつや)
2016年入社。東海旅客鉄道株式会社 事業推進本部 係長・conomichiプロデューサー。2023年には3人の有志で始めた会社非公認ワーキンググループから、沿線地域の関係人口を創出する共創型ローカルメディア「conomichi(コノミチ)」として事業化。

観光でも移住でもない地域との関わり方を探して

吉澤さんがプロデューサーを務めている「conomichi(コノミチ)」について教えてください。

Evoto

吉澤

conomichiはJR東海とJR東海エージェンシーが2023年から運営している、地域と訪れる人をつなぐ共創型ローカルメディアです。

沿線地域の様々なプロジェクトに伴走し、地域に関わるファン(関係人口)を増やすことで、新たな価値を共創することを目的としています。

地域と訪れる人をつなぐ共創型ローカルメディア「conomichi(コノミチ)」のWebサイト

Evoto

吉澤

2021年に、会社非公認の新規事業ワーキンググループを立ち上げたのがはじまりでした。

当時、僕は入社5年目でしたが、コロナ禍だったこともあって自分の将来のキャリアにモヤモヤした不安を抱えていました。

モヤモヤの正体について、もう少し詳しく聞いていいですか?

Evoto

吉澤

会社勤めの人なら皆どこかのタイミングで感じることだと思いますが、「このままの働き方でいいのかなとか」「社内にすごい先輩はいるけど、その人が自分のロールモデルではないな」とか。あとは、大きな組織だとローテーションで部署異動がありますから、自分の意思だけでキャリアを決められない部分もあります。

そういう日頃抱えていたモヤモヤを、仲の良い先輩2人と話す中で発足したのがワーキンググループです。

さらに、そこで生まれたアイデアを「せっかくだから」と役員に提案したところ、面白がってもらえて「業務時間内にやっていいよ」と会社公認になりました。

JR東海といえば鉄道事業という「安全」を最優先する堅実さが求められるイメージがありますが、若い社員の意見が積極的に出しやすい雰囲気が社内にはもとからありましたか?

Evoto

吉澤

安全を最優先とする組織ですが、担当業務の中でのブラッシュアップや提案は常に求められますし、歴史を遡れば、JR発足当時には多様な新規事業に挑んでいた時期もありました。

名古屋駅の開発や農業参入など、大胆な試行錯誤の歴史もあったと聞いています。

そのような組織風土で、「地域と人々をつなぐ共創型ローカルメディア」というconomichiの方向性はどのように固まっていったのでしょう?

Evoto

吉澤

さまざまなアイデアをブラッシュアップしていく中で、僕が提案した「沿線地域に関わる人を増やしていく」というアイデアがconomichiのプロトタイプになりました。

また、当社はこれまで「観光」や「旅行」には注力してきましたが、「沿線地域に関わる人を増やしていく」という領域はまだ手を着けていなかったため、会社としても新しい領域として受け入れられたのだと思います。

このアイデアはどうやって思いついたんですか?

Evoto

吉澤

僕自身の背景とも深く関わっていて。僕は山口県生まれで今は横浜に住んでいますが、転勤族の家庭だったのでこれまで11の地域に住んできました。そのおかげで、「いろいろな地域に生活の拠点を置くことが、人生を豊かにする」という強い実感があったんですね。

さまざまな地域や文化に触れた経験は、今の自分のポジティブな姿勢にも間違いなくつながっています。

「特に思い出深いのは山形県の小学校に通った経験です」と振り返る吉澤さん。クラスの誰もが学級委員になりたがるような仕掛けがあり、主体性が自然と身についていく環境だったそう。

「土の人」と「風の人」の共創がもたらす意味

そこから具体的にどのようなプロジェクトからスタートしたのでしょうか?

Evoto

吉澤

まず、2022年に岐阜県の美濃市・飛騨市と関係人口創出のための実証実験を行いました。

その時点では今より旅行寄りで、「人に会いに行く旅」というテーマを設定したり、地域に関わる人を増やしたりする活動を自治体や地域事業者とのコラボレーションという形で実践したところ、地域の皆さんから非常に喜んでもらえました。

そこで手応えを感じたんですね。

Evoto

吉澤

「関係人口」という言葉がすでに知られていた時期でしたし、社会的ニーズがあることはヒアリングの段階から感じていました。

実証実験によってお金を払ってでもやりたいと思ってもらえる、ビジネスのニーズがあると確信できたことから、2023年からJR東海グループの新規事業としてconomichiを本格稼働させることができました。

公式サイトではさまざまなプロジェクトが紹介されていますが、conomichiらしい象徴的なプロジェクトを教えてください。

Evoto

吉澤

2つあります。ひとつは「Local Research Lab」と名付けた地域デザインプログラムです。

これは住民以外の外の人たちにも関わってもらいながら、まちづくりを進めていこうというプロジェクトで、岐阜県中津川市と静岡県焼津市で行っています。

「ローカルリサーチラボ」に参加した、地域の住民と地域外から来た参加者の集合写真(提供写真)

Evoto

吉澤

地域の方を「土の人」、地域外から来る方たちを「風の人」と名付けて、半々の人数になるように募集し、リサーチからフィールドワークまですべての工程で同じ時間を過ごしてもらいます。そうすると、すごくいい化学反応が起きるんですね。

土の人にとっては当たり前だった景色が、風の人の目には価値あるものとして新鮮に映ることも多々あるし、風の人たちも普段関われない地域や人とつながれる満足感が得られます。

「土の人」と「風の人」の共創によって、双方と地域に新しい変化がもたらされるのですね。

Evoto

吉澤

だから、プログラムが終わった後も、参加者が自主的にSNSアカウントを立ち上げたり、ポップアップ出展やトークイベントを開催したりと、それぞれ自主的に動き出してくれるんですね。

地方の人口が減少していく中で、まちづくりの担い手を増やす取り組みの形として非常に有効だと思っています。

Evoto

吉澤

僕たちが大切にしているのは「関わりしろ」です。外の人が関わる余白をあえて残すことで、関わりを持てる接点、「関わりしろ」を増やしていく。それが地域の活性化にもつながっていきます。

Local Research Labによる成果が評価された結果、中津川市とは関係人口創出に関する連携協定を結ぶまでになりました。

魅力がない地域なんてない

もうひとつの象徴的なプログラムについても教えてください。

Evoto

吉澤

「里山LIFEアカデミー」です。

これは里山や自然との関わりから都市で暮らす自分たちの生きかたを考えてみようという講座で、長野県飯田市、滋賀県米原市で実施しています。

里山LIFEアカデミーを経て、参加者それぞれの生き方のアウトプットする企画を名古屋駅で展示した(提供写真)

Evoto

吉澤

オンライン講座はすごく人気で。募集をかけるとすぐに100人くらい集まりますが、実際に現地を歩くプログラムでは人数枠を10数名にまで絞っています。

あえて人数を抑えているのはなぜでしょう?

Evoto

吉澤

人数をKPIにして「こんなに集まりました」と成果にすることもできますが、conomichiの目的はその日限りで大勢を集めることではありません。

お互いの顔を覚えることができて、かつ地域のプロジェクトに「自分ごと」として向き合ってもらいたい。その目的を第一に考えると、やはり少人数が適切だという考えからです。

都市部からの参加者はどんな人たちなのでしょう?

Evoto

吉澤

30~40代の方々を中心に、会社員、個人事業主、学生など、幅広いバックグラウンドを持つ方が集まってきます。

都市部からのアクセスは決して良くない地域ですが、それも承知の上で参加される方ばかりです。リピーターも多いですね。

移住者ではなく「関わりしろ」を持つ関係人口を増やすことに力点を置き続けていることが伝わってきます。

Evoto

吉澤

あらゆる自治体が移住政策に取り組んだ結果として、今は自治体間での移住者の奪い合いが起きています。それならば関係人口を増やしていこうという流れが来ていたのですが、その流れが広がった結果、今度は関係人口の奪い合いが起きているのが現状です。

だからこそ、conomichiではさらに一歩踏み込んで「共創人口」を増やしていこう、と提案しています。

そのためには、外から来る「風の人」を増やすだけではなく、その地域で暮らす「土の人」たちにも、共創によるまちづくりの担い手になってもらわなければなりません。

共創人口、素敵な言葉です。

Evoto

吉澤

自分たちでプロジェクトを動かしていける、よりコアな共創人口を増やしていくことが今の目標です。

そのために、地域資源の良さを見直すことを僕たちは「再読」と呼んでいます。「再読」とは建築情報学を専門とする森下有先生が提唱されている言葉ですが、そもそも魅力がない地域なんてない。

「ない」と思い込んでいるのだとしたら、それは「気づいていない」だけ。自然と人、まちと人の関係性を再構成していくために、「再読」というプロセスが必要なのです。

conomichiが「再読」のきっかけを作っているんですね。

Evoto

吉澤

そうなれていたら嬉しいです。

調べれば何でも出てくる時代だからこそ、移動して得られる一次情報や、匂い、人間関係といった「言葉以外の情報」に価値がある。

鉄道会社として、移動による「消費」だけでなく、移動によって生まれる「価値創造」や「生産」を増やしていきたいと思っています。

アセットと距離を置く戦略的社内交渉

歴史ある大企業における新規事業、という立ち位置には難しさもあるのではと想像します。その点に関してはいかがですか?

Evoto

吉澤

社内における価値観の相違のすり合わせはやはり苦労がありました。たとえば、新幹線は利便性と合理性を突き詰めた象徴のような乗り物ですが、そこに重きを置く社員から見れば、conomichiは合理的ではないように見えてしまう。

実際、事業として立ち上げる際には多くの賛否両論がありましたが、「新規事業なのだから賛否が割れて当たり前。むしろ反対意見が出ない新規事業なんて、既存の枠を超えられていない証拠だ」という当時の社外メンターの声に支えられながら進めることができました。

事業として継続していくために心がけてきたことはありますか?

Evoto

吉澤

会社のアセット(資産)からあえて距離を置く戦略を取りました。新規事業ほどアセットに頼りたくなるものですが、まずは他部署の力に頼らず、自分たちで小さな実績をひとつずつ積み上げることに徹しました。

そうやって実績がひとつずつ積み重なっていくと、社外で話題になって社員の耳に入ったり、メディアで取り上げられた記事を見た会社側から「ちょっと教えて」と聞かれたりするようになるんですね。

こちらからお願いして企画を持っていくのではなく、向こうから頼まれたときに初めて「ぜひ一緒にやりましょう」と乗る。ボトムアップだからこそ、そうした姿勢を大切にしてきました。

非常に戦略的ですね! ところでチームは現在何名なのでしょう?

Evoto

吉澤

チームは僕を含めた2名体制で、JR東海エージェンシーとの共同事業です。少なく聞こえるかもしれませんが、地域の事業者や自治体職員の方にディレクターになってもらう仕組みなので成り立っています。

外部の人間がいきなり行って「こうすべきです」と言っても地域の方々の心は動きませんから。そのあたりは過去の地方創生の反省を活かしています。

二元論を超えた「間」の価値を見直す

地域の方々とのコミュニケーションで意識していることはありますか?

Evoto

吉澤

地域の方々と向き合う際、常にフラットな関係であることを心がけています。「都会が上」という語り口にならないことですね。無意識だったとしても、そう思わせてしまうようなときもありますから。

都会の生活は地方に支えられていて、僕らの方が学ばせてもらっているというマインドを持つこと。サービスを売るのではなく、モヤモヤしているところから一緒に形にしていけるパートナーであることを大切にしています。

活動を通じて、吉澤さん自身の視点にはどのような変化がありましたか?

Evoto

吉澤

自分は二元論に囚われすぎていたのかもしれない、と最近気づきました。都会のオフィスにいると、「都市か地方か」「経済性か社会性か」といった二元論で語ってしまいがちですよね。「土の人か風の人か」という発想も、実は二元論に基づいている。

けれども、「土の人」が以前には東京に住んでいたなんてこともありますし、「都会も田舎もどっちも好き」という意見だって否定されるものではないはず。

二択で単純化するのではなく、それぞれの「間」にある曖昧さを許容できる場所。そんな、多様な関わり方を包み込める場を育てていきたい、と今は考えるようになりました。

Evoto

吉澤

JRは移動を支える会社として発展してきた企業ですが、「地点を結ぶ」ことを目的とした組織内で「地域のパートナーになれている」ことはconomichiの特殊な立ち位置です。

「共創人口」という考え方をさまざまな地域で実現し、実績を積み上げていく。それが沿線の価値向上や移動の価値の向上につながり、JR東海への還元にもなると信じています。

組織の中で新しい一歩を踏み出したいと考えている方へ、アドバイスをいただけますか。

Evoto

吉澤

自分にとっての「出島(でじま)」を持つことが、挑戦の第一歩になる気がします。

地域でも特定の領域でも何でもいい。そこでの好奇心が原動力に変わるはずです。

宮野 玖瑠実
宮野 玖瑠実

【編集後記】
同じく組織の中で、社内外の人を混ぜながら活動を推進していく立場として、取材中は何度も「わかるわかる」とうなずきながらお話を伺っていました。
何かをやりたいと思ったとき、どうしても強い課題感や熱意を原動力に取り組み始めることが多いかもしれませんが、自分自身のちょっとした「わくわく」や「モヤモヤ」を手がかりに、軽やかな興味関心から始めていくことも、プロジェクトを前に進めるうえで大切な要素なのかもしれません。(株式会社オカムラ WORK MILL 編集員 / 共創ディレクター 宮野 玖瑠実)

2026年2月取材

取材・執筆:阿部花恵
撮影:星野祐司
編集:鬼頭佳代(ノオト)