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なぜ、女性CFOに注目が集まっているのか? ― 日本電気株式会社 グローバル事業CFO・青山朝子

この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE07 EDOlogy Thinking 江戸×令和の『持続可能な働き方』」(2022/06)からの転載です。


上場企業の女性役員数が2012~21年で4.8倍に増加している(東洋経済新報社『役員四季報』調べ)。その中でも特に注目が集まっているのが女性CFO(最高財務責任者)だ。ビジョナル・末藤梨紗子やスタディプラス・中島花絵ら比較的若い女性がCFOに就任するケースが増えていることも一因だ。 

39歳で東京コカ・コーラボトリング取締役兼CFOを務め、現在はNECグローバル事業CFOである青山は、その役割を大きく4つに分類する。まずは①ビジネスモデルの構築、②競争戦略の立案・推進、③リスクマネジメントとガバナンスの構築・強化、④株主との対話といったステークホルダー・マネジメント。いずれもファイナンスの知識や経験、そして客観性が求められる。 

ー青山朝子(あおやま・あさこ)
日本電気株式会社(NEC)Corporate SVP 兼 Deputy CFO 兼 経理財務部門長 ※2023年4月現在
国際基督教大学在学中に公認会計士2次試験(当時)合格。卒業後は監査法人トーマツ、メリルリンチ日本証券、日本コカ・コーラを経て、2011年、39歳で東京コカ・コーラボトリング(現コカ・コーラ ボトラーズジャパン)取締役兼CFOに就任し、日本のコカ・コーラビジネスにてボトラーの再編をリードした。20年1月にNEC入社。22年4月より執行役員 グローバル事業CFO就任。23年4月から現職。太陽ホールディングス社外取締役。オハイオ州立大学でMBA取得。

青山はそれらのスキルが大前提としたうえで、CFOの資質を「数字が読める、戦略的フレームワークを知っているというだけではダメ。ビジネスへの深い理解、『なぜこの数字が出てくるのか』という視点を生み出す好奇心やパッションがなければ、周囲からリーダーとは認められない」と説明する。 

任務として重要なのが、CEO(最高経営責任者)らビジネスリーダーへの数字に基づいたインサイトの提供だ。

「提供したインサイトによってリーダーがスピーディーな意思決定をする。それにより、事業における価値の創出・拡大を図るのがCFOの責務です。そのためにはリーダーとの信頼関係が必須。価値観を共有し、時には耳の痛い提言も。リーダーにとってのアクセル/ブレーキの両方を担うことで、信頼が構築されます」 

そしてストーリーテラーという意外な能力が求められる。

「数字を提示するだけでは人は動きません。数字が導き出す真実をビジネスに当てはめ、このアクションによりどういった価値が提供できるかをストーリーとして語ることで、一気に実現に近づくことが多い。そこは女性が得意な部分であり、CFOという職務を女性に勧めたい理由のひとつでもあります」 

青山がそう語る背景にあるのは、日本社会におけるバイアスだ。「何を言うか」よりも「誰が言うか」が重視され、特に女性の発言には裏付けを求める傾向が根強くあると指摘する。

「その点、CFOが持つのは『数字』という紛れもない事実。これほど力強いものはありません。そこをどう伝えるか、ストーリーテラーとしてのスキルが試されるのです」 

一方で、「女性CFOが増えている実感はあまりない」という。女性役員自体は増えているとはいえ、上場企業の女性役員の割合は7.5%と低い数値にとどまっている。

「枠組みを設けた方が物事の進みがいい日本のような国は、管理職に関してもクオータ制を導入すべきでは。もし数合わせと捉えて個人の能力を疑問視するなら、有期契約にすればいいと思います」 

CFOとして活躍する女性が増えてほしいと願う当事者だからこそ感じる課題もある。

「数字が苦手という女性もいますが、ファイナンスで使うのは四則演算だけ。食わず嫌いはもったいない。数字があるからこそ勝負しやすいファイナンスを、ぜひ職種の選択肢として考えてほしいですね」 

また、母数が少ない現状で女性CFOを外部登用するのは非常に難しく、企業は自社で育てるべきだと提言。

「意識的にファイナンス部門へ女性を配属すること、ただExcelでデータを作らせるのではなく、さまざまなビジネスリーダーと会話するポジションに登用することが重要です。ビジネスへの理解が深まるポジションに置くことで、絶対に彼女たちは成長しますから」

2022年5月取材

テキスト:国分美由紀
編集:佐伯香織