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「キャンプ」が従業員の幸福度を高める?スノーピーク流働き方改革


この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE07 EDOlogy Thinking 江戸×令和の『持続可能な働き方』」(2022/06)からの転載です。

日常を離れ、自然に触れることで自らを開放する。アウトドアの醍醐味だが、
それを働き方に取り入れる提案をしているのがスノーピークビジネスソリューションズだ。
同社経営戦略室室長の山本真道にその効能について話を聞いた。

ースノーピークビジネスソリューションズ
ハーティスシステムアンドコンサルティングとスノーピークとの合弁で2016年に設立。アウトドアを活用した研修やコワーキングスペースを提供する。19年、スノーピークの完全子会社となる。本社は愛知県岡崎市。

アウトドアメーカーの筆頭と言えるのがスノーピークだが、同社が企業に新たな働き方を提案していることは、一般にはあまり知られていない。それを担うのがスノーピークビジネスソリューションズだ。

同社が提案するのは、働き方にアウトドアを取り入れた「キャンピングオフィス」。全国にある提携先のキャンプ場やホテルなどの宿泊施設を利用し、企業研修を提供している。それはただの研修ではなく、テント設営から始まる。チームを組んでテントを設営することで、信頼関係を構築する。ゲーミフィケーションを取り入れたチームビルディング研修だと、同社経営戦略室室長の山本真道は説明する。(*¹ 2022年5月時の所属)

「みんなが一緒に試行錯誤しながらテントを立てることで、上下関係もセクショナリズムもなく、同じ立場で意見を交わしあえる関係性を築けます。立てたテントの中で食事をしたり、焚き火を囲んだりすることで、人と人との心の距離を縮めます。チームワークがよくなり、最終的には生産性向上につながるのです」

コミュニケーションが活性化し、さらには自然の中で五感が刺激されることで、新しいアイデアも生まれやすくなるという。

この事業のきっかけは、代表取締役の村瀬亮が創業したハーティスシステムアンドコンサルテ
ィングにある。ITシステムを提供していた同社は、システムの導入にはコミュニケーションが欠
かせないと考えていた。

「システムを導入するユーザーは、上から一方的にこれを使ってくれと完成品を渡されるだけだと、抵抗を感じることがあります。ところが開発途中からユーザーを巻き込み、意見を反映し
ながら一緒にシステムを作り上げていくと、一体感が醸成されます。そうすることで、導入したシステムがしっかり定着するのです」

その考え方はシステムに限らず、あらゆるプロジェクトを進めていくうえで重要であると気づいた。

「我々がシステム部や経営陣と調整し、ユーザーとの間を取り持つことで、両者の思いがうまくかみ合っていきます。ちゃんと話し合える人間関係を構築し、みんなで共通のゴールに向かってプロジェクトに取り組むことができれば、そんなにすばらしいことはない。良い人間関係を築く方法を模索してたどりついたのが、アウトドアを取り入れることでした」

自らが実践し、効果を感じたことから事業化を決断。2016年にスノーピークとの合弁でスノーピークビジネスソリューションズを設立した。

もちろん、キャンプ場で研修を行うのは、ハードルが高いという企業もある。そこで同社は、ホテルなどの宿泊施設と併用した「CAMPINGOFFICE」というオフサイトミーティングプランを用意。また、もっと身近な場所でキャンピングオフィスを体験できるよう、コワーキングスペース「Camping Officeosoto」も運営している。室内でも自然を感じられるよう、人工芝や観葉植物を多数配置。椅子やテーブルなどにキャンプ用品を使用し、アウトドアを再現したオフィスだ。

さらに同社では、オフィス空間の改善提案も行っている。オフィスにアウトドア要素を取り入れるだけで、働く人に好影響を与えると山本は言う。

「期間限定で通常のオフィスをアウトドア空間に変え、そこで働く人の脳波を測定したところ、ストレス値が大幅に下がりました。アンケートでも『仲間との会話が増えた』『視点が変わって働きやすくなった』と好評でした。キャンプ道具ですので、自由にレイアウトを変えること
ができ、自分たちが主体的にオフィスづくりに関われます」

リラックスした雰囲気のなか気づきや学びを語り合う。普段は言えないことや新しいアイデアなども自然と口に出せる。

コミュニケーションを深める焚き火

コロナ禍のいまだからこそ、人と人とのつながりがいっそう重要になっていると山本は指摘する。

「リモートワークが当たり前になり、社内でのコミュニケーションが取りづらいなか、経営者1人が経営の判断を下すことは難しい。変革する時代に企業が存続していくには、メンバーと一緒に考えていくことが必要条件だと考えています」

それを推進するのがアウトドア研修なのだ。社員が本音を語り合ううえで特に効果が大きいのは、焚き火だ。みんなで火を囲むことで、これまで会話したことがなかった人の話を聞けたり、心を開いて話したりすることができたといった感想が多く寄せられているという。

「飲み会では、酔ってヒートアップしてしまう場面もあると思いますが、焚き火ではそのような光景を見たことがありません。火を目の前にすると、人の意見に耳を傾けたうえで自分の思いを話すということが、自然にできるようになります。焚き火は、コミュニケーションを深めるのに最も適した手段なのではないかと思っています」

焚き火はキャンプ場でなくても、許可された公園や街中の提携施設などで気軽に行うことができる。「働く幸せの原点にあるのはワクワク感であり、それは一人ひとりが主体的に働くことで得られます。日常的にアウトドアを活用した働き方ができれば、“ワクワク”は継続していくはずです」

2022年5月取材