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働き方研究者がおすすめするビジネス書 ― 人生100年時代編

はじめに

「働く」に関する社会の関心・課題は時代とともに変化し続けてきました。近年、日本では働き方改革が大きなテーマとなり「生産性の向上」を求め、いまやパンデミックをうけて改めて「安心、安全」が見直されています。社会で起きている変化と、働く人々やライフスタイルの在り方を見つめながら「働き方」を考えていきます。

働く場においてもオフィスだけでなく、私たちが生活する空間すべてにおいて、健康でいきいきとした人間らしい働き方や過ごし方ができることが、今の時代に問われています。この連載では、これからの働き方や働く場を語るうえで考えるべきテーマをもとに、参考になる書籍を「働き方」の研究者が選定し、ご紹介します。 

今回のテーマ : 「人生100年時代」に関する書籍

『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』

著  リンダ・グラットン 、アンドリュー・スコット
訳  池村 千秋  
発行 東洋経済新報社  2016年10月21日 

この本のおすすめポイント

  • 人々の寿命、健康、生活基盤について現在の動向を紹介           
  • 寿命が延びる事により変わる、世代と段階ごとの仕事や人生について分析   
  • 長い人生で生活の変化にどう対応するか、世代ごとの違いを詳しく解説    
  • あなたのこれからの人生設計と資金計画をどのように捉えたら良いか     
  • 今後の社会変化として医療の発展、高寿命、雇用激変、家庭経済の変化、人口の都集中など社会全体の変化を相対的に解説、人生戦略の全体像を見せてくれます 

   

皆さんは何歳になられましたか。会社員として働いている多くの方は22歳以上65歳未満かと思います。本書では人生を教育、仕事、引退の三段階に分け、3世代の人生設計について寿命、健康、生活設計、社会、経済など段階毎の違いと変化を解説していきます。

3世代とは「父親、1945年生まれ」「息子、1971年生まれ」「孫、1998年生まれ」の人生を想定し、「誕生」してから「教育」→「仕事」→「引退」の三段階に分けて人生設計を描きます。「父親」世代は一つの企業で働き安定した働き方をよしとする考え方、「息子」は自分の仕事人生を探し求める生涯、「孫」は生きがいを求めて社会の変遷の中で生活。なぜ働き方の違いが世代間で生まれてくるのでしょうか?人が誕生してから「教育」「仕事」「引退」のステージが社会、経済、医療の変化や進歩、発展で三世代の人生戦略を翻弄し、自分たちの人生をどう捉えていけば良いのか具体的に教えてくれます。

2019年における日本の平均寿命は女性87.45歳、男性81.48歳と発表されています。今40歳代の半数以上の人々は100歳前後の寿命となっていると思います。今年4月に定年制度の改定があり、大企業は70歳定年制が努力義務となりました。2025年の日本では65歳定年制度の施行が決定されています。いま働き盛りの「1970年世代」や「1980年世代」は少なくともあと30年前後は働き、「人生100年時代」ではまだ50年以上が待ち受けています。これからの「長い人生」を改めて考えるきっかけとなる本です。 

 

LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』の読後感は?

前半では身近な経済指標が提示されて解説され、イメージしやすく内容も理解しやすいものでした。タイトルの「LIFESHIFT」は人の一生を捉え、生きがいを感じながら過ごす人生の事ですが、三世代における生活意識と人生の違いを想定しシナリオを描いてくれます。「寿命が延びる」事によって、これほど色々な事柄が変わってしまうものなのか、もっと早くこの本の事を知っていたら…と思いました。 後半は、人生の「無形資産」を心理学や社会学の面から解説しています。学術的な説明となっていますが、全体にわたって事例をあげ日常の生活に根付いたきめの細かい解説と、筆者の生活に根付いた気配りは、私にはとらえきれない多くの部分を見せてくれたと思います。

『LIFESPAN 老いなき世界』

著  デビッド・A.シンクレア 、マシュー・D.ラプラント 
訳 梶山 あゆみ
発行 東洋経済新報社  2020年9月16日

この本のおすすめポイント

「人類は老いない身体を手に入れる」という希望と知見を与える本

  • 老化は医学的な病気であり、予防・治療できると実例が示してくれる    
  • タバコの副流煙が体に悪いのはDNAを傷つける特定物質があると紹介   
  • 最先端の老化学医療を、遺伝子、染色体から分かり易く丁寧に説明     
  • 山中教授の発見がなぜ若返りを可能にするのか解説、未来に期待が持てる  
  • 医療のイノベーションと健康寿命のこれからを説明、新しい未来を予測   
  • 章ごとに登場する論文、研究者、専門用語を巻末で解説、詳細索引付き

「寄る年波」と言いますがその波がだんだん長くなり寿命が延びています。老化は「仕方のないもの」でありましたが、医学の発展で「老化生物学」という分野の学問が生まれてきており、その研究で「老化」は今や「病気」の一つとして捉えられ初めています。

病気は治す事が出来るもので、完全になくすことは不可能でも予防し進行スピードを緩める事は出来るはずです。本書で「老化」の定義は”時とともに臓器の機能が不可避的、不可逆的に低下すること”とされています。遺伝子の破壊によって体の機能が後退し機能不全を起こす事が老化の原因とされ、いまだ老化のシステムは全容解明されていません。しかし研究成果は上がっており、山中伸弥教授のIPS細胞を使った研究も良い結果を出し期待されています、しかし研究はこれからと言ったところです。 

これらは、ほとんどが遺伝子に関する研究でゲノム(染色体の最小単位)とエピゲノム(遺伝子調整機能)の関連研究となっています。どの遺伝子に老化防止又は老化修復機能があるのか老化防止薬とはどんな可能性が有るかなど。我々が普段見る事が出来ない未来医療の開発に関して解説。専門用語はあるにしても分かり易い解説が掲載され、健康寿命に興味を持っている方なら楽しく読み進んでいける貴重な書籍と言えます。 

LIFESPAN 老いなき世界』の読後感は?

「老化生物学」という学問領域は最近認知され始めてきました。著者が働くハーバード大学医学大学院の学部は「遺伝学部」その教授で「ポール・F・グレン老化生物学研究センター」の共同所長でもあり、これ以外にもいくつかの研究機関の運営に携わり老化学の第一人者であります。この本を取り上げた一番の理由は、老化を「病気」と捉えているところです。治す事の出来る医学領域としてとらえアプローチしています。

私たちのまわりの高齢者を見ると個人差が大きく、経済会や政界など広く社会全般で頑張っている人、また元気はつらつと世界中を駆け回って活動している人も多くいます。超高齢化社会日本、その中高年の人びとにこれからも生き生きとした生活を送ってもらうために元気の秘訣を多少なりとも伝えられれば良いと思います。 

おわりに

今回紹介させて頂いた2冊は、寿命を題材にした本で健康で楽しい生活を過ごすには、これからの人生に対してどのように備えていけば良いかが主題です。皆さんの中にも体調を崩して休暇や入院を経験し、健康管理や人生設計が気になってきた方もいるのではないでしょうか。 将来叶うであろう高齢者の先端医療の現状を知り寿命が今まで以上に伸び生活の備えの術を知ることで、これからの時代を活力あるものにして頂きたいのです。

「人生100年時代」長い道のりです、「LIFESPAN」で紹介している老化生物学の医療発展や「LIFESHIFT」の人生設計の建て方はとても参考になります。あなたの周りにも人生の諸先輩がいて人生設計や健康管理についての情報は手に入ることでしょう。これを機会に今後の人生戦略を立て直してみませか。 

著者プロフィール

ー田尾悦夫(たお・えつお)
株式会社オカムラ ワークデザイン研究所 研究員。企業のオフィスや金融機関店舗のスペースデザインを長年、現場中心に携わりクライアントと一体となる空間づくりを心掛け支援する。その後、オフィス構築のノウハウを生かし、人々の「モチベーションやウェルビーイング」を主軸にこれからの「働き方」の研究に従事。 また、研究活動の傍ら「オフィス学会」、「ニューオフィス推進協会」、「日本オフィス家具協会など多くの関係団体で研究や教育研修、関連資格試験制度の運営にも携わることで、業界全体の啓蒙活動にも積極的に活動している。 

2021年7月1日更新

テキスト:田尾悦夫
イラスト:前田豆コ