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働き方研究者がおすすめするビジネス書 ―『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』

はじめに

「働く」に関する社会の関心・課題は時代とともに変化し続けてきました。近年、日本では働き方改革が大きなテーマとなり「生産性の向上」を求め、いまやパンデミックをうけて改めて「安心、安全」が見直されています。社会で起きている変化と、働く人々やライフスタイルの在り方を見つめながら「働き方」を考えていきます。

働く場においてもオフィスだけでなく、私たちが生活する空間すべてにおいて、健康でいきいきとした人間らしい働き方や過ごし方ができることが、今の時代に問われています。この連載では、これからの働き方や働く場を語るうえで参考になる書籍を「働き方」の研究者が選定し、ご紹介します。 

『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式 』

山口周
発行 ダイヤモンド社 2019年 7月

この本のおすすめポイント

ニュータイプの時代を予測させる24要素の解説

  • 問題解決型「役に立つ」から問題発見型「意味がある」への意識変換を提案する
  • 当たらない未来予測より、未来を構想することを薦めている
  • モチベーションを高めるにはGDPの量的指標より質的指標を推奨する
  • 二者択一の「良い・悪い」よりもデュアルスタンダードが大事な理由が理解できる
  • 「独占化」と「分散化」の二極化が進む理由を解説

本書は「『20世紀的優秀さ』の終焉」というタイトルから始まっています。21世紀の初頭にかけて優秀な人材とされてきた従順・勤勉・論理的・責任感の強い人は徐々に価値を下げていき、自由・平等・直観的・好奇心の強い人が今後評価されていくことになると述べています。前者を「オールドタイプ」後者を「ニュータイプ」と呼んで、なぜそのように変化していくのかを解説していきます。

著者は現代における大きな課題として「これから求められる思考・行動様式とは?」を命題に掲げ24の思考と行動様式に沿って詳しく解説。オールドタイプの「量的な向上」・「役に立つ」は時代に合ったもので、問題が山積していた1980年以降を生き抜くための時代の要請でもあったとしています。しかし、物があふれ問題が希少になった現代では新たな課題発見が重要な要件となり、ニュータイプの「何のために」・「意味のある」が重要なことだとします。

本書には古今東西の引用文や、それに対する考えも提示され説明しています。著書としては、例をあげればデヴィット・グレーバー氏の『ブルシット・ジョブ』、カール・マルクス氏の『資本論』、リンダ・グラットン氏の『ライフ・シフト』、J・M・ケインズ氏の『マクロ経済学』などです。これ以外にも多様な分野の経済・心理学・社会学・生物学と数え上げればきりがありません。さらにこれ以外にも、企業の成功・失敗事例も「なぜそうなったのか」を具体的に解説、著者の背景にある知識の豊富さに、そして奥深さに納得出来ます。

筆者は、巻末に「本書をたたき台として、自分なりの『新しい時代の要件=ニュータイプ』について考えていただき ~(中略)~ 新しい人生の在り方を実践していただければと思います。」と多様な人びとの生き方にあった働き方を自分なりに探求していきましょう、と私たちに呼びかけています。

『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』の読後感は?

著者は広告会社の電通やボストン コンサルティング グループ等で戦略策定・文化政策・組織開発などに従事してきた時代の変化に敏感な独立研究者です。本書は2019年7月に発行され、コロナの流行とともに急激に変化する情報社会で今また再認識されています。

 大きな流れとして「オールドタイプ」と「ニュータイプ」を切り分けた社会認識はなるほどと思わせ、大きく21世紀初頭でこの2つを分けて解説しています。もちろん年齢や年代だけでタイプ分けが明確にできるものではありませんが、24項目に分けて「思考と行動」を解説し複雑に絡んだ社会変化を解説してくれます。

 本の構成は大きくは8章に分かれ大項目ごとにまとめの頁があり参考図書の紹介も細かく提示されており、章、大項目、中、小項目ごとの紹介もされておりとても読みやすく分かり易い構成となっています。まずは書店で手に取って読んでみてください。

著者プロフィール

ー田尾悦夫(たお・えつお)
株式会社オカムラ ワークデザイン研究所 研究員。企業のオフィスや金融機関店舗のスペースデザインを長年、現場中心に携わり、クライアントと一体となる空間づくりを心掛け、支援する。その後、オフィス構築のノウハウを生かし、人々の「モチベーションやウェルビーイング」を主軸にこれからの「働き方」の研究に従事。 また、研究活動の傍ら「オフィス学会」、「ニューオフィス推進協会」、「日本オフィス家具協会」など多くの関係団体で研究や教育研修、関連資格の試験制度の運営にも携わることで、業界全体の啓蒙活動にも積極的に活動している。 

2022年5月27日更新

テキスト:田尾悦夫(オカムラ)
イラスト:前田豆コ