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働き方研究者がおすすめするビジネス書 ―『サーキュラーエコノミー実践 オランダに探るビジネスモデル』

はじめに

「働く」に関する社会の関心・課題は時代とともに変化し続けてきました。近年、日本では働き方改革が大きなテーマとなり「生産性の向上」を求め、いまやパンデミックをうけて改めて「安心、安全」が見直されています。社会で起きている変化と、働く人々やライフスタイルの在り方を見つめながら「働き方」を考えていきます。

働く場においてもオフィスだけでなく、私たちが生活する空間すべてにおいて、健康でいきいきとした人間らしい働き方や過ごし方ができることが、今の時代に問われています。この連載では、これからの働き方や働く場を語るうえで参考になる書籍を「働き方」の研究者が選定し、ご紹介します。 

サーキュラーエコノミー実践 オランダに探るビジネスモデル

著 安居 昭博
発行 学芸出版社 2021年 7月

この本のおすすめポイント

サーキュラーコノミーの現状と未来を解説

  • 循環型経済の取り組み方と考え方を、社会・環境・経済も含めて解説
  • 多様で豊富な事例を掲載、サーキュラーエコノミーの現状と今後が理解できる
  • オランダ、アムステルダム市における実証実験を中心に具体的に説明
  • 政府・行政・地域住民・民間企業との仕組みづくりを写真も交えて紹介
  • オランダ の環境対策の歴史と課題先進国日本の環境対策を比較

本書では、従来からの取り組み方としての「リニアエコノミー」直線的経済構造と「サーキュラ―エコノミ―」循環型経済の二つに分けて考え、循環型経済の解説をしています。

「サーキュラ―エコノミ―」は循環型経済を目指し製品を計画、廃棄ゼロを目指します。原料の時点から再資源化を考慮して製品を計画、市場で販売され使えなくなったら分解・分類して再資源化して原料とします。そして再度原料から製品化、再資源化へと循環するのが基本的考え方です。こうして社会全体の多くのものに、企画段階から社会全体としての循環型システムを考慮し、廃棄ゼロをめざして資源の有効活用を計る考え方です。工業製品に限らず野菜や衣類なども同様に循環させるという事を基本とし、廃棄ゼロ社会の構築を目指す社会の仕組みを紹介していきます。本書では、主にサーキュラーエコノミー先進国オランダの実践企業を参考に、日本での事例もふくめて30余りもの実施例を掲載して解説、個々の取り組みと政府・行政との連携も紹介していきます。

実施例では、オランダ政府やアムステルダム市が積極的にかかわり、政府・行政・地域住民・企業(製造業・金融・サービス業)と、多くの多様な取り組みを紹介しています。地域社会に根付いた活動としては、賞味期限切れ食品の有効活用・銀行によるサスティナブル企業への投資・解体建築資材の店舗内装への再利用などがあります。さらにQRコードとブロックチェーンによる再資源情報の管理も、再利用・ごみ処理・再生可能エネルギーなど、行政と民間企業の建築廃棄物に関する情報活用も紹介。地域ぐるみの協力なしには解決できない事例を多数紹介しています。日本での活動事例も、政府・行政・地域住民・企業(衣類・生活用品・農業・建築・林業)などの共創活動も紹介しています。

サーキュラーエコノミー実践 』の読後感は?

本書では、単にデータで知るエコ事例(エコロジーとエコノミーを両立させる)にとどまらず、機構としての仕組みづくりに重きをおき、社会システムとしてのサーキュラーエコノミーを豊富な事例で解説。社会を循環型経済に変換させるには、政府・行政・地域住民・企業などの関連性を、どのようにシステムとして組み立てるかが大事と説明します。

アムステルダム市における実証実験の事例紹介は、社会インフラとの連携や水の都アムステルダムならではの、なるほどと思わせ明るい未来を感じさせます。また社会環境や風土の異なる日本での多様な取り組みの紹介は、自分たちが知らない所で地域社会における地道な活動がなされている事を知りました。

改めて我々の生活を見直してみると環境への悪影響がいくつか思い当たり、現状のままでは廃棄ゼロを目指す「サーキュラーエコノミー」を達成することは出来ません。一つの「エコ」を達成しても地域社会全体の仕組みづくりを構築しないと循環型経済は成立しないのです。廃棄ゼロを目指す、地域の仕組みづくりに人びとが臨む必要があることを理解して、皆さんも環境対策の現状を把握し循環型経済を実践するために本書を参考にして頂ければと思います。

著者プロフィール

ー田尾悦夫(たお・えつお)
株式会社オカムラ ワークデザイン研究所 研究員。企業のオフィスや金融機関店舗のスペースデザインを長年、現場中心に携わり、クライアントと一体となる空間づくりを心掛け、支援する。その後、オフィス構築のノウハウを生かし、人々の「モチベーションやウェルビーイング」を主軸にこれからの「働き方」の研究に従事。 また、研究活動の傍ら「オフィス学会」、「ニューオフィス推進協会」、「日本オフィス家具協会」など多くの関係団体で研究や教育研修、関連資格の試験制度の運営にも携わることで、業界全体の啓蒙活動にも積極的に活動している。 

2022年4月7日更新

テキスト:田尾悦夫(オカムラ)
イラスト:前田豆コ