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仕事にもっとやりがいを見出したい。人事図書館・館長 吉田洋介さんに聞く、キャリアに迷ったときに読む本5選

就職してから、がむしゃらに働いてきた人も、ある程度のキャリアになってくると「このままで本当にいいのだろうか」「もっと別の働き方が合っているのでは?」と思いはじめる場面がでてくるものです。

今回は、そんな「仕事で不安を感じたとき、やりがいを見出したいときに読む本」をご紹介します。選んでくれたのは、人事領域を中心に2500冊以上の本を揃える「人事図書館」の発起人・館長の吉田洋介さん。

ちょっと立ち止まってこれからのキャリアを考えたいとき、組織の中でモヤモヤしたときにぴったりの5冊。それぞれの読みどころを教えてもらいました。

吉田洋介(よしだ・ようすけ)
人事図書館 発起人・館長。2007年に新卒でリクルートマネジメントソリューションズに入社。組織人事支援として国内外500社以上の採用、人材開発、組織開発、人事制度等に関わる。2021年に独立し、株式会社Trustyyleを設立。組織人事のコンサルをしながら、2024年4月に設立した「人事図書館」(東京都中央区)を運営し、埋もれた良書を紹介し続けている。

キャリアの普遍的な考え方を教えてくれる『働くひとのためのキャリア・デザイン』

吉田さんが選んだ5冊は刊行時期がさまざまですね。

なかには、20年以上前の本も……!

吉田

日本では1日に約200冊の新刊が出ています。古い本は埋もれがちですが、じつは良書はたくさんあるんですよ。

今回は「このままでいいの?」と仕事に疑問を持った人や、ミッドライフ・クライシス(中年の危機)を迎えて今後のキャリアに不安を感じた人に寄り添ってくれる本を選んでみました。

1冊目の『働く人のためのキャリア・デザイン』が刊行されたのは2002年ですね。

『働くひとのためのキャリア・デザイン』(金井壽宏・著/PHP新書/2002年)
https://amzn.asia/d/0zptE7Z

吉田

当時大学生だった私は、すぐに読みました。

節目では計画性が必要だが、それ以外の部分では偶発性も大事にしながらキャリアを描いていこうという「キャリアドリフト」を紹介した本で、最近よく取り上げられている「計画的偶発性(プランドハプンスタンス)」にも触れているので、今読み返しても普遍性があります。

長く読める本なのですね。

吉田

「キャリアとは会社の中の自分だけではなく、もっと広い視野で考えていいんだよ」と背中を押してくれる内容なので、就職してから初めて迷ったり、「これでいいのかな?」と思ったりしたタイミングで読むといいですね。

キャリアの悩みは誰にでも共通してやってくるものだとわかり、視界が晴れていくのではないでしょうか。

自分以外の人生の選択肢に触れられる『1歳から100歳の夢』

『1歳から100歳の夢』は1歳から100歳までの人の顔写真とそれぞれの夢が見開きで紹介されています。

『1歳から100歳の夢』(日本ドリームプロジェクト・編集/いろは出版/2006年)https://amzn.asia/d/efklJ77 

吉田

これも私が大学生のときに読んだ、大好きな本なんです。人生にはいろいろな選択肢があることを教えてくれます。

「他人の年齢は聞かないし気にしない」という世の中ですが、自分と同じ年の人の生き方はやはり気になりますね。真っ先にそのページを開きました。

吉田

同年代の人が何を考えているのか知るのも面白いですし、自分より若い人のページを読むと、彼らが「こうなったらいいな」と思っていることを自分が実現できていることに幸せを感じます。

多様な読み方ができる本なんですよね。

「人生の先輩」の夢を知って、生き方の指針を探すのにも役立ちそうですね。

吉田

そう思います。

通して読むと、年齢によって人生のフェーズが変わっていく過程がわかるので、「60歳になったらこんな感じがいいな」など長い目でのキャリアデザインを考える参考にもなりますよ。

組織の中で息苦しさを感じている人へ『「組織のネコ」という働き方』

次の本は『「組織のネコ」という働き方』。「組織のネコ」というキーワードがユニークで目を引きますね。

『「組織のネコ」という働き方』(仲山進也・著/翔泳社/2021年)
https://amzn.asia/d/5BzoQwn

吉田

「組織のイヌ」という言葉を聞いたことはありますか?

組織に従順で、組織のルールや方針を優先して行動する人を指す言葉ですよね?

吉田

その通りです。

この本では、そんなイメージがある「組織のイヌ」に対して、組織や上司が何と言おうが自分の意志や価値観に忠実な人を「組織のネコ」と表現しています。

著者の仲山進也さんは、「本当はネコなのに無理してイヌの皮をかぶったままだと組織で働くのが苦しくなるかも」「ネコはネコのよさを生かした働き方があるよ」と教えてくれます。

たとえば、「ネコのよさ」とはどんなところでしょう?

吉田

ネコは他の人が気づかないことにも気づいて疑問を呈したり、組織に新風を吹き込んでくれたり、本質に立ち返ったりすることが得意といわれています。

でも、組織がちゃんと回っていくためにはイヌもネコも必要なんです。

組織の一員であっても、あなたはあなた自身の考えや価値観を大事にしていい、と言われると安心します。

社命にひたすら忠実な人を見て「自分はああはなれない」とモヤモヤしている人も救われそうです。

吉田

組織内でポジションが上がり、息苦しさを感じている人にもおすすめしたいですね。

自分らしさを生かしながら組織で働くヒントを得られると思います。

「個」を生かす働き方とは? 『心理学的経営』

『心理学的経営』はリクルート出身の方が著者なのですね。

『心理学的経営 個をあるがままに生かす』 (大沢武志・著/PHP研究所/2019年)
https://amzn.asia/d/fggszqj

吉田

ええ。リクルートの個性を生かし切る組織づくりは、この大沢武志さんが担ったといわれています。

リクルートという会社は心理学を活用してエネルギッシュな組織をつくり上げてきました。その考え方や仕組みが詳しく書かれています。

難しそうなのですが、経営者向けの専門書なのでしょうか?

吉田

いえ、経営者のためだけの本ではありません。読む人の置かれた状況や立場によっていろいろな読み方ができます。

たとえば、管理職やリーダー層なら、「若手がやる気を持つにはどうすればいいのか」「個性を尊重するとはどういうことか」を考えるヒントにも。

やる気を引き出す要素についての解説もあるので、「もっと仕事を面白くするには?」と自分の働き方に当てはめて考えてみることもできますよ。

立場にかかわらず、仕事への向き合い方を見つめ直せる本なのですね。

吉田

これから、世の中の人手不足はさらに進行します。採用側にも応募者側にも、タイトルにある「個をあるがままに生かす」ことが今後ますます重要になるでしょう。

どうすれば自分らしさを生かして仕事ができるようになるか。立ち止まって考えたい人におすすめです。

「一時的に仕事を離れる」という選択『キャリアブレイク』

最後にご紹介いただくのは、『キャリアブレイク』。

一時的に仕事を離れてキャリアを見つめ直す「キャリアブレイク」について書かれた本ですね。

『キャリアブレイク — 手放すことは空白(ブランク)ではない』 (石山恒貴、片岡亜紀子、北野貴大・著/千倉書房/2024年)
https://amzn.asia/d/8cR2IFt

吉田

はい。仕事で疲れてしまった人にこそ読んでほしい本です。

キャリアブレイクは、日本ではまだあまり馴染みがないかもしれません。

吉田

特に日本では大学を卒業したら新卒一括採用ですぐに就職しますし、1つの会社に長く勤める人もまだまだ多い。キャリアを中断することに対する不安が大きいのだと思います。

けれど海外では、キャリアブレイクは働き方を見直す機会、成長の機会として捉えられています。必要な人には「こんな選択肢もあるよ」と教えてくれる本ですね。

人生100年時代といわれますから、休んで考える時間もときには必要かもしれません。

吉田

はい。キャリアブレイクを取った人たちの事例が豊富ですし、キャリアブレイクの間の過ごし方の話題にも触れられています。

たしかに具体的な過ごし方は気になります。

吉田

本を読むと、「休むのは恐いことじゃないよ」とわかると思います。

キャリアブレイクの考え方が日本にも浸透して、必要な人が適切なタイミングで気軽に選択できるようになるといいですね。

確かにそうですね。

吉田

あと、「仕事がつまらない」「違うことをやってみたい」というときは、一度仕事から離れてみてもいいと思うんです。

仕事を脇に置いてみて初めて、生身の自分はどんなふうに生きていきたいかがわかるかもしれません。

吉田さんご自身がまさにキャリアブレイクを経験されているんですよね?

吉田

そうなんです。多様なキャリアを持つ人材の活用ノウハウをクライアントに提案する仕事をしていたのですが、「そんな自分が1つの会社にとどまっていていいのか?」という疑問が湧いてきて。

新卒入社した会社を40歳のときに辞めて、その後3年間、広義のキャリアブレイクの時期を過ごしました。

何をするかを決めてから退職したのでしょうか?

吉田

色々な仕事はさせてもらっていたのですが、正直に言って明確なビジョンはなかったですね。

ただ、自分の強みが何なのかを見つけたいなとは考えていたので、色んな人に会いにいったり、家族との旅行など、会社員時代にできなかったことをいろいろと経験しました。

この時期を経て、自分はコミュニティづくりや人を集めることが向いていると気づいたことが、人事図書館につながっています。

30代後半〜40歳前後は仕事やキャリアに対する不安を抱きやすい時期

どの本も、キャリアの節目節目で不安を感じている人にヒントをくれそうな本ばかりでした。

吉田

特に40歳前後というのは、昔から仕事やキャリアに対する不安を抱きやすい時期と言われています。

今はSNSの発達によって他人がキラキラと活躍する様子が嫌でも目に入る時代。今まで以上に自分の状況を不安に思ったり、将来に対する不安を感じたりしやすくなっています。

そういう方々がヒントをもらいたくて、人事図書館に来ているのでしょうか?

吉田

そうですね。30〜40代のビジネスパーソンは「もっと学びたい」という気持ちを持っているのですが、実際に時間やお金を使って学んでいる方はそれほど多くないというデータがあります。

人事図書館には人事系の本を中心に2500冊以上の本が揃っているので、必要とする人に適切な本を届けていきたいと考えています。

今回の5冊は人事図書館にもありますか?

吉田

はい。全部図書館にあります。人事図書館は会員制ですが、イベント時には誰でも入れますし、無料の体験見学もあります。気になった方は、ぜひいらしてください。

地方で出張図書館をすることも計画されているそうですね。

吉田

自分が普段触れない本は、オンラインでおすすめされてもなかなか手が伸びないんですよね。

情報があふれすぎている今の時代だからこそ、人の手を介して本のよさを届けることが大事だと思っています。人事の知を東京だけでなく、地方にも届けていきたいですね。

2025年2月取材

取材・執筆=横山瑠美
アイキャッチ制作=サンノ
編集=鬼頭佳代/ノオト