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老舗洋菓子メーカー・ユーハイムがサードプレイス作りに乗り出した理由 ー 「BAUM HAUS」で考える食の未来

日本におけるバウムクーヘンの祖として知られる、洋菓子メーカー・株式会社ユーハイム。同社は2021年3月、名古屋市・栄に複合施設「BAUM HAUS」をオープンしました。

1階ではキャッシュレススタイルのフードホール「BAUM HAUS EAT」を、2階ではシェアオフィス「BAUM HAUS WORK」をそれぞれ展開。「BAUM HAUS WORK」にはオフィスとフリーデスクスペース、ワークラウンジや会議室を擁し、すでに企業が入居を始めています。

洋菓子業界としてほぼ前例のないこの取り組みは、なぜスタートしたのでしょうか。またアフターコロナを見据えて、「BAUM HAUS」はどのような空間になっていくのかーー株式会社ユーハイム  本社海外事業室室長の町田啓さんにお話をうかがいました。

BAUM HAUSプロジェクトの経緯と、名前に込めた想い

WORK MILL:改めて、BAUM HAUSがどのような施設なのか教えてください。

町田:BAUM HAUSは「食の未来」をテーマにした複合施設です。1階の「BAUM HAUS EAT」は、地域に開かれた食堂をイメージしています。デリやベーカリーの販売のほか、弊社が開発したAI搭載バウムクーヘンオーブン「THEO(テオ)」を初めて実装したカフェを営業。2Fのオフィスで働く人はもちろん、近隣の方にも、気軽にご利用いただけます。

― 町田啓(まちだ・けい)
株式会社ユーハイム本社海外事業室室長。1989年ユーハイムに入社し、店舗や販売の営業を経験した後、企画開発部門に従事。2015年から新規案件、海外ブランドの出店、商品開発、販売促進、PRを担当するチームを主導する

WORK MILL:1Fの「BAUM HAUS EAT」は、完全キャッシュレス決済なんですよね。これはコロナに合わせて導入したのでしょうか?

町田:店舗の準備期間がコロナ禍であったこともあり、何かしらの対応が必要ということで導入を検討していました。現金決済も必要ではないかという意見もありましたが、最終的には完全キャッシュレスに。個人的には、店舗での閉店後のレジ締め作業は、非常に時間がかかり、スタッフの方の負担になっていたため、どこかでキャッシュレス対応の店舗が作れないかと思っていました。今回のBAUM HAUSではそれが実現できたので、今後キャッシュレスでどのような効果がでるか見守っていこうと思います。

WORK MILL:そもそもBAUM HAUSプロジェクトは、いつ頃立ち上がったんでしょうか?

町田:3~4年くらい前ですね。当社は元々、愛知県の中電不動産株式会社とお付き合いがありました。

愛知県にはユーハイムの基幹工場である中央工場がありますし、特に名古屋は中日ビルにユーハイムの喫茶店、ラシックにフォートナム・アンド・メイソンの店を展開していたこともあります。弊社にとって馴染みがあり、お客様も多くいらっしゃるエリアです(※中日ビル、ラシック共に現在はユーハイム店舗なし)。

そして中電不動産さんが新しい施設を作られるということで、「何か一緒に新しいことをやりませんか」と、お話をいただきました。最初はレストランやカフェなどを考えていたんですが、ご提示いただいた場所が思いのほか広かったんです。そのまま大きな店舗を作る選択肢もありましたが、何か新しいことにチャレンジすることになりました。

WORK MILL:なるほど。それにしても老舗の洋菓子企業がサードプレイスづくりやワークスペースづくりに乗り出したのは、社内にとってもかなり大きな挑戦だったのではないでしょうか?

(画像提供:株式会社ユーハイム)

町田:そうですね。こういったスペースを運営するのは初めてのことですから、知識が全くないところからのスタートでした。今も勉強しながら、模索しているような形です。

菓子の流通の世界は、限られた業界の方との深いお付き合いで成り立っています。一方、まったく異業種の企業と、新しい取り組みをしてみたいという考えもありました。そこから「さまざまな企業の方々と、新しい社会・未来の在り方について一緒に考え、新しいことに共にチャレンジしていく場を作るのはどうだろうか」という構想が浮かび 、「オフィスとフードホールが一体となって食の未来を考える」という、BAUM HAUSのコンセプトに繋がっていきます。

WORK MILL:「BAUM HAUS」という名前は、バウムクーヘンの由来でもあるドイツの芸術学校「Bauhaus(バウハウス)」から来ているとうかがいました。

町田:はい。1919年、ドイツのヴァイマールでBauhausが開校し、その革新的な教育は今日のアート(芸術)とデザインに大きな影響を与えました。仰る通り、ドイツのバウムクーヘンも、この影響をとても強く受けています。

Bauhausの時代はアートと技術が融合し、工業化によって人々の生活が豊かになり、世の中も大きく変わりました。当時の時代の変化にインスピレーションを受けながら、BAUM HAUSではフード(食べ物)とテック(技術)を融合させ、ネットワークという文脈の中で人々の生活を変えていきたい。そんな想いも込めています。

20年ほど前から、当社ではデザインの一部をドイツの ペーター・シュミット・グループにお願いしています。そのペーター・シュミット・グループの創始者である ペーター・シュミットさんもBauhausに影響を受けたそうです。ユーハイムに根付いているデザインのルーツにBauhausがあるというのも何かの縁かもしれません。

洋菓子業界に訪れている、「変わらなければいけないタイミング」

WORK MILL:食品業界ではフードテックという言葉が出てきて久しいですが、洋菓子業界ではいかがでしょうか?

町田:実はまだ、それほど進んでいないと思います。私たちもかなり前から考えていたわけではなく、取り組みが動き始めたのはここ2、3年くらいのことです。

コミュニケーション型アバターロボット「newme」を介した新たなコミュニケーションとテクノロジーを体験できる「avatarpark」

町田:ただ、フードテックとはいかないまでも、「ITを使った新しい取り組みができれば」という想いはありました。BAUM HAUS WORKではアバターロボット「newme(ニューミー)」を導入するなどして、場が生み出すコミュニケーションデザインの可能性を探っています。

WORK MILL:御社は昨年、職人の技を再現するバウムクーヘンのAI焼成機「THEO」を開発し、話題になりました。そして冒頭でお話しいただいた通り、「THEO」はBAUM HAUS内にも実装されています。こういった先進的な取り組みが続く背景には、どのような意識があるのでしょうか?

町田:洋菓子業界は比較的保守的な業界だと個人的に思っていますが、変わらなければいけないタイミングが来ているとは感じています。これは弊社だけでなく、同業他社にも、そういう感覚の方は多いのではないかと思います。

町田:今回「THEO」の導入によって、画期的に変わったことが1つあります。それは、「焼きたてのバウムクーヘン」を販売できるようになったことです。通常、バウムクーヘンは焼き立ての状態ではうまく切れないため、冷ました状態でカットしています。焼きたてのバウムクーヘンは生産する工場の中だけでしか食べることができない特別なものでした。

「THEO」によって現場で焼成できるようになり、焼きたてのバウムクーヘンを出すことができて、非常にお客様に喜んでいただいています。これもまた、新しい価値観の提供と言えるでしょう。

こういった挑戦の一つひとつが後に新しい商売につながり、お客様にも私たちにも良いことがある。「THEO」の導入は、そういう発見ももたらしてくれました。

コロナが落ち着いたら、BAUM HAUSを自社の研修にも使いたい

WORK MILL:BAUM HAUSオープンから4ケ月ほどが経ちましたが、利用状況はいかがですか?

町田:コロナの影響で当初想定していた来客数までは届いていないですね。一方で、2階のオフィスやワーキングスペースには特に大きな影響はなかったと思います。今後は、ユーハイム社内の研修やいろいろなことに活用していく予定です。

WORK MILL:確かに、2階にはオフィスもありますし、1階では実際のお客様のご利用状況も見られますし、自社の研修にはこれ以上ない環境ですね。現在はどんな企業が入居しているのでしょうか?

町田:地元名古屋の企業が多いですね。

WORK MILL:今回のプロジェクトを進めるにあたって、先ほど「まったく異業種の企業と、新しい取り組みをしたい」と仰っていました。入居している地元企業などとのやり取りもそのひとつになっていますか?

町田:はい。異業種の方と接することでいろいろなインスピレーションを頂けるのではないかと思います。時間に関する感覚も弊社の場合は、何かをアウトプットする際に要する時間がけっこう長くかかっていたんだなと実感しました。

今後、日本国内だけでなく海外の企業とも協業する時代が来ると考えたときに、今までと同じことをしているだけでは置いていかれてしまうではないかと思います。BAUM HAUSプロジェクトを巡って今いろんな企業と重ねている情報交換が、5年10年後、何か新しい道につながればいいなと考えています。

2021年8月10日更新
取材月:2021年6月

テキスト:プレスラボ
写真:深村英司