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【クジラの眼-未来探索】 第11回「ニューノーマル時代のセンターオフィスの位置づけとは?」

働く環境、働き方の調査・研究を30年以上続ける業界のレジェンド、鯨井による”SEA ACADEMY”潜入レポートシリーズ「クジラの眼 – 未来探索」。働く場や働き方に関する多彩なテーマについて、ゲストとWORK MILLプロジェクトメンバーによるダイアログスタイルで開催される“SEA ACADEMY” を題材に、鯨井のまなざしを通してこれからの「はたらく」を考えます。 

―鯨井康志(くじらい・やすし)
オフィスにかかわるすべての人を幸せにするために、はたらく環境のあり方はいかにあるべきかを研究し、それを構築するための方法論やツールを開発する業務に従事。オフィスというきわめて学際的な対象を扱うために、常に広範囲な知見を積極的に獲得するよう30年以上努めている。主な著書は『オフィス事典』、『オフィス環境プランニング総覧』、『経営革新とオフィス環境』、『オフィス進化論』、『「はたらく」の未来予想図』など。

イントロダクション(オカムラ 齊藤達)

齊藤:多くの企業はコロナ収束後の働く場について考え始めています。オフィス面積の縮小や拠点分散にとどまらず、これからはオフィスを構えなくてもいいのでは、という極端な報道も出てきています。一方で、優秀な人材を確保し、そうした人材を結び付けながら「求心力」を高めて企業として価値を生み出し続けていくための「場」としても、センターオフィスは必要であるという意見も出ています。

今回のSEA ACADEMYでは三菱地所の竹本さんをゲストスピーカーに迎え、オフィスを企業経営上どう位置付けていくのかについて、ニューノーマル時代におけるワークプレイス戦略のあり方や、その中におけるセンターオフィスの必要性を問うていきたいと思います。

プレゼンテーション(三菱地所 竹本晋)

ニューノーマル時代のワークプレイス戦略

竹本: オフィスとは「その企業ならではの価値を生み出すための手段の一つ」だと私は考えています。いまオフィス不要論が盛んに取りざたされていますが、安易に要・不要の結論を出すのではなく、価値を継続的に創り出していくためにどうすればいいか、という本質的なところに立ち返って議論していかなければなりません。

Withコロナによる働き方の変化

都内で働くワーカーを対象にコロナ前・自粛期間中・コロナ後の働き方を調査した結果、今後はオフィスとテレワークを組み合わせたハイブリッド型で働いていきたいとするワーカーが数多くいることがわかりました。オフィスでは採用活動やプレゼンのような相手の反応を確認しながら進める業務を行い、逆に情報共有を目的とする会議や資料作成・事務処理などはテレワークで行いたいと考えているようです。

テレワークにはメリットもあればデメリットもあります。総合的に評価するとメリットの方が高いと認識されているようですが、大人数の会議や創造性の発揮を求められる議論、温度感が大切な業務にはテレワークは不向きなのです。今後オフィスに求められるのは、やはり対面の価値を高めるような機能や施策だと思われます。

メリットだけに着目してテレワークに偏った働き方にしてしまうと「遠心力」というリスクを生む恐れがあります。「遠心力」とは、企業にとって不可欠な「人」「モノ」「情報」が分散することと「時間」のズレを引き起こすリスクです。

「人」は企業にとって最大の経営資源です。ちょっとした会話や雑談をきっかけにして新しいアイデアが生まれることがよくあります。テレワークによってそうした機会が減ってしまうとイノベーションが低下するリスクが生じます。また、離れた場所で働くことになると、仲間の顔が見えにくくなり、一緒に働いているという感覚が弱まることで組織に対する帰属意識の低下を招くなど、互いの信頼感の醸成にも影響を及ぼしかねません。

「モノ」については、オフィスで効率的に共有できていた高品質な機器、備品などを利用できなくなるというマイナス面がありますし、「情報」で言えば、オフィスの外で働くことによって情報漏洩リスクが高まります。オフィスでコアタイムを共有していれば人間関係が築きやすかったのですが、テレワークで各人の「時間」がずれることでチームビルドはしにくくなってしまいます。

このような「遠心力」が発生してしまうことは企業経営上の大きなリスクです。これからのオフィスは、その裏返しで「人」「モノ」「情報」「時間」をつなぎ「求心力」を増す役割を持つものにしなければなりません。コロナによって多様な働き方は急速に広がりました。優秀な人材を確保するために多様な働き方の導入は今後さらに増えていくでしょう。そうなったときオフィスはコア機能を高度化させ、離れた場所、異なる時間で働く人たちをつなぐ存在にすべきだと私は考えています。

組織のイノベーション・ハブとなるセンターオフィス

これからのオフィスはどのようなものにしていけばいいのでしょうか。リアルに人を集める場として、これまで以上に安心・安全であることはマストです。感染症対策として、接触回避ができ、清潔であり、健康管理がなされていなければなりません。具体的に弊社では次のような取組をしています。(2020年8月末時点の施策)

【ビル共用部】

エントランス・ロビー:検温カメラとモニター、消毒液、感染予防ポスターを設置。

エレベーター内:床にディスタンスシール、注意喚起ポスターを設置。

トイレ:ハンドドライヤーの使用を中止し、ペーパータオルを設置。

【当社オフィス専用部】

飛沫防止パネルの設置。着席位置の制限。出社制限(出社率の目安30%、上限50%)等。

安心・安全が確保された上で、組織のハブとして「求心力」を発揮するオフィスとはどんなところかと言うと、それは、わざわざ来たくなるオフィスであり、ワクワクする場所であるに違いありません。

「求心力」を増すために弊社のオフィスで採用している「人」「モノ」「情報」「時間」に関する施策を紹介しましょう。

「人」を集める機能

リアルに集まるからにはコミュニケーションがとりやすいことが大切です。弊社では本社移転時(2018年1月)よりフリーアドレス制を導入しています。仕事の内容等に応じて自律的に場所を変えて働くABW(Activity Based Working)の一環であり、席を固定せずいろいろな場所に移動して働くことによってコミュニケーションが活性化され、従業員のアンケート調査の結果では着座率の低い人(移動する機会の多い人)は生産性高く働いていると認識していることがわかっています。また、ディスタンスを確保して着席する等の施策に柔軟に対応できるというメリットがあります。

「モノ」を集約する機能

文具などをシェアすることで、一人ひとりのツールにコストをかけず、共通化して質の良いものを最低限に抑えられます。オフィス内にツールを集約する場所を用意すれば、それらを効率的に共有できるだけでなく、コラボレーションの促進にもつながります。消毒液の設置等の安全対策も同時に実施しています。

「情報」を整理・発信する機能

会議や打ち合わせをオープンな環境で行うことにより、そこを通りがかった人間はいま誰がどんなことをしているのか知ることができます。さらに、役員の近くにオープンなミーティングスペースを配置すれば、相談を仰ぎやすくなり、意思決定を迅速に行えるようになります。

「時間」を共有する機能

同じ時間を共有し体験を共にすることは重要ですから、フレックスとコアタイムをいかにバランスさせるかがポイントになります。コアタイムをしっかり設けることで、意思決定が集約され、業務の効率化につながります。

働き方の多様化・分散化は今後も続いていくでしょうから、テレワークしている人たちが集まりやすく、わざわざそこに行きたくなるという視点でオフィスの立地を考えなければなりません。これまでのように都心を軸にして議論するのではなく、地方と都心の関係を整理して戦略を立てていく必要があります。働き方が多様になれば、センターオフィスだけでなくサテライトオフィスの整備やシェアオフィスの利用についても検討していかなければなりませんし、テレワークの比率によって必要なオフィス面積も変わっていくことでしょう。

多様な働き方を支えるサービス

オフィスの機能を充実させることと併せて、生産性を高めるためには多様な働き方を促進していかなければなりません。そうしたことを支える弊社のサービスを紹介します。

「テレキューブ」

防音されたBOX型のワークプレイスで、この中で資料の整理などの集中作業をしていただけます。ビルのパブリックスペースや駅の構内などで展開しているサービスですが、オフィス内に設置すれば、音が気になるWeb会議のためにわざわざ個室を設ける必要がなくなります。

「xLINK」

什器つきのフレキシブルスペースで、プロジェクトチーム用の短期利用スペースが必要な場合などに自由度の高いスペースを提供するサービスです。コロナの状況では、一時的に一人当たりのオフィス面積を増やそうとするニーズに対してスイングスペース(一時的な社員の執務場所)として活用していただけます。

「WORK×ation」

Location(場所)Motivation(動機) Communication(対話) Innovation(刷新)などの意味合いを込めたワークスペースです。イノベーションの創出には、濃密なコミュニケーションや高いモチベーションが必須。ロケーションを変え、非日常感の中で創造性を発揮していただくことを目的に提供しているワーケーションサービスになります。

まとめ

今後は、ハブ機能として高度化したセンターオフィスと多様化する働き方をサポートする施設の最適ポートフォリオを模索していくことが重要になっていきます。これは会社として価値を生み出し続ける為にはどの様な働き方が望ましいかという経営戦略の一環であり、社内の実務としては総務部や人事部がメインで行う仕事ですが、これからはワーカー一人ひとりも考えていかななければならないと思っています。自分が何者なのか、強みは何なのか、それを活かす為にはどういう所でどのように働くとパフォーマンスが高まるのか、自身の働き方を見つめ直すことが必要なのです。

ワーカーは自律的に自分が働く場のポートフォリオを描く必要があります。私は、働き方改革とは生き方改革そのものだと考えています。「何時から何時までこの場所で働きなさい」と他律的に管理される働き方ではなく、限られた時間を自律的にマネジメントして自分の働き方を見つめ直し、最終的に自らの人生を充実したものにしていかなければなりません。今回のコロナ禍は、そうした自律した働き方・生き方の大切さをいっそう明らかにしたのではないでしょうか。

クロストーク(竹本 × 齊藤)

齊藤:プレゼンテーションの中で、求心力を高めるために「わざわざ来たいと思う」「ワクワクする」がオフィスのキーワードになるとされていました。それを実現するために私たちはまず何をすればいいとお考えですか。

竹本:従業員の働き方を把握することではないでしょうか。どこでいつ働いているのか、どんな場合にパフォーマンス高く働けていると感じているのかなどを調べてデータ化する必要があると思います。それによってハード・ソフト両面の次なる施策が見えてくはずです。

齊藤:私はセンターオフィスに期待することとして次の7項目を考えているのですが、これらの中でどれが一番重要なのはどれだと思われますか。

  • どこで働くかを選択(センターオフィスもその1つ)
  • 同じ方向を見る場(ミッション、ビジョンの共有)
  • 刺激感(ワクワク感)
  • 五感を使えること(リモートでは難しい)
  • 仕事のスイッチを入れる(オン/オフ)
  • アイデア出しや議論の場
  • 偶発的な出会いにも期待(雑談も大事)

竹本:「同じ方向を見る」ことだと思います。一緒に働く仲間とどのようなゴールを目指すのかを共有するのはきわめて重要なことです。情報交換レベルならオンラインでもできますが、お互いの温度感を確かめ合うには空間と時間の共有が欠かせません。

齊藤:オカムラ・WORK MILLが発刊した冊子「FUTURE IS NOW 『働く』の未来」の中で、有識者の方々からこれからの働き方に関する考え方を伺っています。そのお一人、Studio O+A創業者であるプリモ・オーピリアさん は「オフィスはラリーポイント」だとしています。ラリーポイントとは、みんなで方向性やアイデアを結集し合う場所のことで、例えるなら「町の中心にある広場」のようなイメージ。価値観がマッチする人々のエネルギーが出会って、互いにインスパイアし合い、生き生きとやっていける場所とのことです。竹本さんはこれからのオフィス空間をどのようイメージされますか。

竹本:オフィスは大きなターミナル駅のような存在であるべきだと私は考えています(注:竹本さんは熱心な鉄道ファン)。そこでいろいろな人が出会い、すれ違う。別れた後はそれぞれの目的地を目指す。人々の結節点であるターミナル駅をイメージしてオフィスをつくっていければと思っています。

これからのセンターオフィスがどのようになるのか、私もすべてを見通しているわけではありません。手探りの状況の中にいるというのが本当のところです。ですが逆にそういう状況だからこそ新しいものが生まれるのでしょうし、そこに面白さやワクワク感があるようにも思います。みなさんと共に「未知の旅」を楽しむ感覚で新しい働く場をつくっていきたいと考えています。

おわりに ~もっと道草を食おう~

コロナで在宅勤務している今、私たちはやらなければならない仕事を自宅で効率よく仕上げています。オフィスで働いているときのように上司や同僚から「ちょっといい?」と仕事を中断されることもない。余計なことを避けて働ける、つまりとても効率的で無駄のない時間の使い方ができているのです。

それってまるで「ゴルゴ13」のようだと私は思うのです。ターゲットをライフルのスコープに捉えたらあとは引き金を引くだけ。そこには自分(デューク東郷)と相手との直線的かつ閉鎖的な関係性しかない。世界はその中だけで完結していて他の要素が加わる可能性はきわめて低い。他のいかなる要素も入り込む隙はないのです。

でもはたしてそれでいいのでしょうか…。

たしかに物質的な無駄は大いに省くべき。でも精神的な無駄はある程度必要なのではないでしょうか。余裕やゆとりがない世界は息苦しくてかなわない。必要最小限のことだけをしているだけでは本当に大切なことを見落としてしまうし、無駄の中に将来起こることの兆しが隠れているようにも思えます。いつも最短ルートを行って時間を短縮すればいいわけでなく、ときには道草を食って無駄な経験を積み重ね、そのときは役立たない知識や知恵と出会うことで人は味や深みを増すのです。新しい価値の創出はきっとそうした中で起きるに違いありません。

自宅でも仕事ができると気づいた人の中には「オフィスは要らなくなる」と考えている人がいます。確かにやるべきことがはっきりしている(ゴルゴ13的な)仕事をこなすのには在宅勤務は最適です。でも誰もがそういう仕事ばかりしているわけではないし、そういう仕事ばかりしていては組織の未来は見えてこない。

「道草を食う」ことのできるセンターオフィスは、企業が継続的に発展していくために、そして個人が成長し続けるために必要不可欠なものでしたし、これからテレワークが増えていく中でその役割はいっそう大きく重く、そして鮮明になっていくことでしょう。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。次回お会いする日までごきげんよう。さようなら!(鯨井)

登壇者のプロフィール

-竹本晋(たけもと・すすむ)三菱地所株式会社 ビル営業部 FMコンサルティング室長
「新たな価値を創出し続ける、常に進化するオフィス」の実現を目指した三菱地所の本社移転プロジェクトを担当後、本年4月よりビル営業部に新設されたFMコンサルティング室へ。同社の本社移転でのワークプレイス×ワークスタイル変革の知見とノウハウを活かしながら、これからの「働く」のあり方をお客様と共に考えている。

-齊藤達(さいとう・さとる)株式会社オカムラ 働き方コンサルティング事業部 共創センター
1993年栃木県栃木市生まれ。早稲田大学院時代に、人間工学や健康経営の観点から、オフィスや働き方を研究し、2018年にオカムラ入社。現在は、ワークスタイル研究の傍ら、イベントプランナー、社外共創、社内の働き方改革、新卒採用等のチームに参画中。趣味として、学生キャスター時代の経験を活かし、イベント司会業も行っている。

2020年10月8日更新
取材月:2020年9月

テキスト:鯨井 康志

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