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ポストコロナ時代、コワーキングスペースはどうあるべきか、業界最大手メディアが語る ー Coworkies

コワーキング専門メディア最大手「Coworkies(コワーキーズ)」を立ち上げたPauline Roussel(ポーリン・ルーセル)氏とDimitar Inchev(ディミター・インチェフ)氏。彼らは、コロナ禍で少なくない影響を受けたコワーキングスペースの未来をどう考えているのでしょうか。WORK MILL編集長の山田雄介が話を聞きました。 

Pauline Roussel(以下、Pauline)今年の5月28日から30日まで3日間、世界中のコワーキングスペースの関係者がオンラインで参加したグローバルカンファレンスがありました。その報告では、感染者数が多かった欧州や南北アメリカなどは、特に新型コロナウイルスによる影響が大きかったようです。(※カンファレンスのイベントレポートはこちらから)

スペインでは、3ヵ月間コワーキングスペースが完全に閉鎖されました。ドイツでは、閉鎖を義務付けてはいませんでしたが、事業者側の安全対策が必須になり、ブルガリアでは、会員のみの利用にするなど利用者の人数を制限しながら運営しました。

新型コロナウイルスの感染が比較的抑えられているアジアの場合、日本・タイ・香港・台湾・中国は、一時期閉鎖されましたが、5月時点では運営を再開しているケースが多かった。欧州はアジアのように、これから徐々に再開していくようです。世界各国が新型コロナウイルスの影響を受けたのは間違いありませんが、国によって対応に違いがみられたことは興味深い点でした。

―Coworkies
世界最大手の「コワーキングスペース専門ソーシャルメディア」で、ドイツのベルリンを拠点として活動。ニューヨーク・ロンドン・東京など世界中のコワーキングスペースを訪れ情報発信しているほか、870を超える世界各地のコワーキングスペースをネットワークで結び、そのプラットフォーム上でコワーキングスペース利用者による相互の仕事のマッチングなども実施している。Pauline氏(写真右)はCoworkiesのCEO、Dimitar氏(写真左)はプロダクトマネジャーを務めている。

山田雄介(以下、山田)日本含めたアジアのコワーキングスペースでは、体温チェックやマスクの着用など衛生管理が進んでいますが、他の国はどのような状況ですか?

Dimitar Inchev(以下、Dimitar)その点も国によってさまざまです。スペインでは、プライバシーを考慮して体温チェックを禁止しています。屋内でのマスク着用も人々に強く推奨している国もあれば、慣れていないため不快に感じている人が多い国もある。特にマスクをあまり着用しない西側諸国では、コワーキングスペース側も人々にマスク着用を呼びかけることに気を遣っているようです。

山田そのなかで営業を再開しているコワーキングスペースは、以前と同じように営業しているのでしょうか?何か変化はありましたか?

Dimitar対応は大きく2つに分けられます。ひとつは、少ない人数で距離の保った利用が可能になるようスペースの利用スケジュールを分散調整すること。もうひとつは、座席の数を少なくすることなど、レイアウトを変更することです。利用者にとって安心かつ居心地よく利用してもらえるようにする心理的な工夫が大切です。

例えば赤いテープで「ここには座ってはいけない」と表示すると、かえって利用者が恐怖を感じて利用したがらなくなります。むしろ、ただ椅子の数を少なくする方がよいのです。

これからのコワーキングスペースに必要な4つの視点

山田リアルな空間のなかでは、利用者の行動をどのように制限していくかがポイントですね。逆に、制限が少ないバーチャル空間におけるコワーキングスペースが注目され始めているとも聞きます。

Paulineバーチャルコワーキングスペースは、24時間いつでも空いていますし、誰でも参加でき、さまざまな人々と対話し接することができます。日本でも自粛期間中にバーチャルなコワーキングコミュニティが全国に広がったと聞いています。また、新たなコワーキング環境として、Zoomなどのオンライン会議ツールでつなぎながらも、マイクをミュートにしたままカメラはオンにしておく「サイレンスルーム」も広がりました。家にいても孤独を感じない仕組みです。

Dimitarいままでコワーキングスペースを経験したことがない人にも、コワーキングの環境が広がっている。そこが面白い点です。新型コロナウイルスでロックダウンが行われたことで、グローバルネットワークの有用性に人々が気づき、使うようになったのです。在宅勤務が続く状況で、人々は新しい仕事の方法を模索し始めた。今後はバーチャルな世界で、世界の裏側にいる人々と積極的に交わっていく事例も多くなるでしょう。ただZoomの画面に向かって話すだけでは、物足りない人たちもいるのです。

例えば、世界のローカルマーケットについて情報が知りたかったら、インド・ムンバイのバーチャルコワーキングスペースに行けば、現地の話を聞くことができる。ラテンアメリカがいまだコロナの危機と闘っているなかで、感染拡大を比較的抑えている日本のコミュニティとつなげることもできます。

山田バーチャルの活用によって、グローバルコワーキングが広がるわけですね。

Dimitarアメリカにいる私が、ブラジルやイギリス、日本や中国のバーチャルコワーキングスペースで働きたいと思ったら、それも可能です。グローバルネットワークがあれば、人々はつながり、すべての都市に「存在」することが可能になるわけです。

山田コロナ禍以前は、コワーキングスペースの地域性が重要視されていました。しかし、アフターコロナの世界ではグローバルかつバーチャルな要素も重要になってきた。すると、コワーキングスペースを運営する側はローカルとグローバル、リアルとバーチャルの両方の視点を考えなければいけませんよね。

ー世界中のコワーキングスペースを訪問し、親交を深めるCoworkiesの二人

Dimitarそれらは相反するものではありません。バーチャルで離れた場所にいる人と交流することはできますが、利用者が生活している場所は変わりません。実際には、地方に住んでいる利用者が大都市に移住したわけではないですから。

サンフランシスコでは企業の多くが再び在宅勤務を始めましたが、人々に必要なのは自分の生活場所の近くにあり、かつ仕事の拠点となるローカルコワーキングスペースでした。結果、多くのコワーキングスペースが開設されました。コワーキングスペース事業者は、グローバルかつバーチャルな空間を提供しつつ、一方でその地域で生活する人々の嗜好にあったオフィス環境を意識しなければならなくなったのです。

また今後は、大企業の在宅勤務がもっと進むでしょうから、ローカルコワーキングスペースが大企業と同様のオフィス環境やセキュリティ環境を提供していかなくてはいけませんし、そうなると大きな投資が必要になります。オフィス環境が整っている大企業から来る利用者が、高い利用料金を払っても満足できる環境やサービスが求められます。彼らを雇う大企業側も、彼らが利用するローカルコワーキングスペースがこれまでのオフィスと同程度のサービスを提供できているかを管理しなくてはいけない時代が来ると思います。

「信頼」が生まれる環境をつくること

山田多くの人が在宅勤務をする中で、「働く場所」の選択肢が増え、コワーキングスペースの需要が増える可能性がありそうですね。ビジネスとしてコワーキングスペースの市場を考えたとき、さまざまな企業の参入があって、競争は激しくなるでしょう。これまでのコワーキングスペースが持っていた人的交流、すなわち「つながることの価値」は変わっていくでしょうか。

Pauline人々はいまだ人々とつながるためにコワーキングスペースへ足を運んでいます。コワーキングスペースの価値は、これまでと同様に強まっているのではないでしょうか。在宅勤務で他の人々とのつながりが不足しており、孤独を感じている人が多いからです。人は他者に囲まれていたい、他者とともに働きたいと思っているし、Zoomだけのコミュニケーションに疲れ始めたという声もあります。

Dimitar最も大切なことは、利用者同士がお互いをどれだけ信頼できるかです。お互いの健康を保ち、お互いを信頼するための決まりを守る。そうなるためには、利用者同士の会話が必要。だから、事業者側はたまに一歩引いた目線を持ち、利用者同士にコミュニティマネジメントを任せることも重要になります。

例えば、空き状況を管理ツールで提供するだけでなく、「いま空いてる?」などと利用者同士が連絡を取り合いながら確認するようあえて促してもいいでしょう。コワーキングスペース側は、コミュニティ内で人々の自然な会話を創造するような環境を作る必要があると思います。

山田一方で日本では、交流ではなく仕事に集中するためのコワーキングスペースのニーズが高まっています。

Pauline在宅勤務で自宅にいると仕事に集中しづらいですからね。そこで、いま多くのコワーキングスペースでは、会話が制限される、図書館のようなスペースを設置し始めています。騒音や邪魔するものがない環境です。これは、バーチャル空間でも同様のものが用意されつつあります。

Dimitar:コワーキングスペースが、オフィスや自宅に代わって何にも邪魔されずに仕事ができる場所になっているのです。在宅勤務では、いままでスーツを着て通勤していた人が、自宅のキッチンで部屋着を着て、必ずしも快適ではないイスで仕事をしなくてはなりません。

仕事に行くような格好をしたり、いつものような設備がないと、仕事に集中できない人もいるわけです。そういう人は、仕事を自宅でするのではなく、近くのコワーキングスペースに行けばいい。コワーキングスペースなら、仕事をするためのマインドセットをする「ルーティーン」を提供できると思います。

Pauline在宅勤務では、ずっと自宅でエンドレスに仕事をすると閉鎖的な気分を感じることもあります。しかし、在宅勤務が広く可能になったいま、暮らしと仕事を無理矢理にでも分けることで、精神状態も良いバランスを保つことが大切なのかもしれません。

Dimitar集中したい人や交流したい人など、ニーズはさまざま。各々の利用者が求めている、仕事の「体験」をつくることがコワーキングスペースの運営ではとても重要です。利用者がどんな会社で働く従業員なのか、フリーランサーなのかなどによってもニーズは異なります。それに応じて、提供するサービスやスペースの在り方も変えていくこと。それに基づいた仕事体験を、個々のコワーキングスペース独自のブランドと結びつけて提供するようになっていくはずです。

2020年10月7日更新
取材月:2020年6月

テキスト:丹 由美子
写真:山田雄介、Coworkies提供