ウィズコロナでオフィスは変わる? 気になるポイントを解説
新型コロナウイルス感染症対策がとられる中、外出自粛、テレワーク(在宅勤務) の徹底が要請されています。最初は在宅勤務に抵抗があった人も、「取り組んでみると思ったより仕事ができる」「効率がよい」などと思うことが多いかもしれません。オカムラでは、そんな在宅勤務の実態について調査を行い「慣れない在宅勤務 どんなことが起こっているのか緊急調査」を掲載し、在宅勤務の実態について紹介してきました。
しかし、その一方で、オフィスでおきることの重要性を改めて感じている部分もあるのではないでしょうか。
今回のレポートでは、新型コロナウイルス感染症の収束に向けて、私たちがこのウイルスとどう向き合いながら働くのかという「ウィズコロナ」の期間のオフィスについて考えていきます。
「ウィズコロナ」期間のオフィスコンセプト
緊急事態宣言が発令されてからひと月。日々感染者数の増減が発表される中で、緊急事態宣言後の生活についての議論も高まってきています。オカムラでは緊急事態宣言が出されている状況を「エマージェンシーコロナ」、緊急事態宣言が解除されたもののまだ感染の恐れがある状況を「ウィズコロナ」、ワクチンや特効薬が開発されて感染の危険性がなくなった状況を「アフターコロナ」と定義し、それぞれの期間に求められる働き方や働く場について議論を重ねてきました。
当然、この状況が過ぎ去った後の「アフターコロナ」がどうなるのか気になるところですが、その手前のウイルスと共存していく「ウィズコロナ」への対策が先決なのは言うまでもありません。
「ウィズコロナ」の働き方、働く場で最も大きな変化は、コンセプトが変わるということです。ビフォアコロナの時代に登場したいくつものオフィスコンセプト、働き方のコンセプトは「効率」や「創造性」を求めるものでした。しかし、「ウィズコロナ」の働き方や働く場に求められるのは「安心・安全」であることです。それを実現したうえで「効率」や「創造性」を追求していく必要があります。
オフィスの人口密度を下げる
ではどうやって「安心・安全」を実現していけばいいのでしょうか。まず考えなければいけないのは新型コロナウイルスに感染しやすい状況「密閉」「密接」「密集」の「3 密」を避けるということです。そのためにはオフィスに出社する社員の数を制限し、オフィスの人口密度を下げていく必要があります。オカムラが試算した結果、オフィスの中でソーシャル・ディスタンシングを実現して働く場合、約半数の社員しか出社できないことがわかっています。今後は新規感染者数の推移などを見ながら、どの段階でどれくらいの割合の社員をオフィスに戻していくのかという戦略が求められます。一番簡単な手法では、出社日を限定し、オフィスで働く人数を減らすことが考えられます。
また、オフィスに出社する人を限定する際には、オフィスですべき仕事が多くある人という基準とともに、出社によるリスクが高い人を避けるということも重要です。都市部を中心に、オフィスでの人口密度を下げる以前に通勤途中で「3密」が生まれる可能性があります。感染することで重篤化の危険性が高い人などはなるべく在宅で働くようにしたいものです。
「安心・安全」を最優先したオフィス
具体的にオフィスで「安心・安全」を実現するためにはどのような手法が考えられるのでしょうか。先ほどの「3密」が発生しないこと、オフィスが衛生的に保たれていることを想定した場合、オフィスでとるべき対処法は「距離をとる」「仕切る」「接触を減らす」「清潔を保つ」「運用・ルールの対策」の5つに集約可能です。
従来、オフィスづくりにおいてはコミュニケーションを活性化し、コラボレーションを起こすことが良しとされてきました。しかし、この特殊な状況ではコミュニケーションはなるべくオンラインでおこない、「3密」が発生しないようにしなければいけません。会議室に大勢が集まっていた会議も換気などに配慮しつつ、分散しておこなうことが望ましいですし、インフォーマルなコミュニケーションが活発にとられていたカフェやラウンジのような空間では人が滞留しないような工夫が必要になります。
「ホテリング」でオフィスの状況を把握する
先ほど段階に応じて社員をオフィスに戻していくという話をしましたが、その手法として注目が集まっているのが「ホテリング」です。ホテリングという言葉、オフィスに長年関わっていらっしゃる人は記憶のかなたにあるかもしれませんが、一般的にはほぼ認知度ゼロなのではないでしょうか。簡単に言うと、「予約制のフリーアドレス」のようなオフィス運用をおこなうことです。ホテリング自体は新しい考え方ではなく1990年代くらいに提案されたオフィスの運用形態です。ホテリングのオフィスには社員の数よりも少ない座席が設定されており、社員は座席を予約して使います。この「社員の数より少ない座席設定」ということと「予約して使う」という特徴が衛生状態を適切に管理しなければいけない今回の状況とマッチして、注目を集めているのです。
先ほど述べましたように、ソーシャル・ディスタンシングを確保した状態で働くとなると、オフィスに全員が出社することはできません。基本は在宅勤務で、出社の必要性が高い人、リスクが低い人から出社していくことになります。オフィス内でもソーシャル・ディスタンシングに配慮された座席をワークポイント(WP)として指定し、そこを予約して使うようにします。こうすることでオフィス内の人口密度を一定以下にコントロールすることが可能です。また、予約して使うということで「いつ」「誰が」「どこで」働いたのかを把握することができ、WPの周囲に消毒・清掃用品を置き、執務の前後WPを清掃することで衛生状態を確保することができます。
コンセプトの転換に柔軟に対応する
今回の状況でオフィスや働き方のコンセプトが一時的に転換するということを述べました。それは「ウィズコロナ」から「アフターコロナ」に移行するときにも起こるとオカムラは考えています。「安心・安全」第一のオフィスから再び「効率」や「創造性」などが求められるオフィスへ。ビフォアコロナのような働き方やオフィスに戻っていくのか、それとも今回体験した在宅勤務やリモートでのコミュニケーションから得たものを活かした働き方、オフィスに進化していくのか。いずれにしてもほんの数年の間に急激なコンセプトの転換が複数回起こることには違いがありません。組織が、そして個人が強く成長していくために、この転換に柔軟に対応する力が求められています。
2020年5月14日更新
テキスト: 池田晃一(株式会社オカムラ)
調査:オカムラ ワークデザイン研究所 2020年
データ参照元:ウィズコロナの働き方と働く場/アフターコロナに向けたワークプレイス戦略