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これからの「はたらく」は、組織と個人の歩み寄りから生まれる ― 「働き方改革」「ダイバーシティ」の事例に学ぶ(前編)

株式会社オカムラが、さまざまな企業・大学と手を取りながら「ワークインライフ」に関連したテーマを調査・分析・発信していく研究会「Work in Life Labo.(ワークインライフラボ)」。

12月18日に、2019年度の研究報告会が開催されました。テーマは、ワークとライフのあり方を考えるうえで重要な「働き方改革」「ダイバーシティ」の2つ。社会の状況や企業の具体的な施策などが、多くの事例とともに紹介されました。前編では、セクション1で語られた「働き方改革」についての調査結果をレポートします。

一人ひとりの思い描くライフに、ワークをどう取り入れる?

まず、ワークインライフラボ所長の薄良子さん(以下、薄所長)が、研究会の活動をあらためて定義しました。

「『ワークインライフ』とは、これからの『はたらく』を考えるための新しいキーワードです。一人ひとりが自分の思い描くライフをつくるために、どう生き、どう在りたいかを見つめ直す。そのうえで、ワークをどんなふうに取り入れていくかを、考えていきます」

そんな意識で立ち上がったワークインライフラボは、意識醸成や研究調査といったフェーズを経て、2つのテーマを見いだしました。それが「ダイバーシティ」と「働き方改革」。ワークインライフを実現するためには、組織と個人が歩み寄りながら、この2テーマを実践していく必要がありそうです。

「では、組織と個人はそれぞれの立場で、具体的にどんなアクションを取っていけばよいのか?今回の報告会では、少しでもその『実践』部分をお伝えできるよう、研究を進めてきました」と、薄所長は話しました。

テレワーク・副業の2軸で「働き方改革」の中身を調査

セッション1は「働き方改革」の研究報告です。2019年度は、改革のなかでも「テレワーク」「副業」にテーマを絞り、企業インタビューを実施しました。

取材対象は「競争環境が激しく、早い事業展開をしている企業」と「環境変化に直面し、組織変革に取り組む企業」の2種類。業種が偏らないように5社をピックアップしたうえで、テレワークと副業についてどのように運用しているかをインタビューしています。

「Work in Life Labo.で2017年に調査を開始したころは、社長から人事部に『副業やテレワークの制度をつくりなさい』と指示しているケースばかりでした。ところが今年度は初めて、人事部から経営層に問題提起がなされたことで、制度化に動き始めた会社があったんです。これは社会の変化を反映した、エポックメイキングな出来事だと思いました」(調査チーム)

当日は5社の事例が紹介されましたが、ここでは3社を抜粋して紹介します。

CASE1:IT・エンターテインメント企業(3000~5000名規模)

この企業は、つねに30~40種類もの業種を稼働させている、多角的な経営が特徴です。テレワークは禁止も推奨もしておらず、上司が把握していれば容認。副業は、本人のキャリアプランに貢献する内容であればOKという状況でした。調査担当者はこの事例について、こう分析します。「さまざまな業種・業態が混在しているため、全社で統一した制度はなし。そのかわり、現場や本人の主体性を尊重しながら、柔軟に運用しているのが特長です。各ビジネスを成功させるための「個別最適」を重視するので、現場ですばやく判断を下せるマネジメント層の育成も欠かせません」

この企業では、11~17時をコアタイムとするフレックス制も導入。調整できる時間帯の幅は少ないけれど、それでも自分で選べるという仕組みが、働き方への納得感を強めているそうです。「小さなステップなのかもしれませんが、この企業としては好例になったそうです」と、調査担当者は話しました。

CASE2:飲食業(500~1000名規模)

九州に本社を持ち、グローバルに店舗展開をしているこの企業は「帰属意識」がキーワード。会社と仕事を好きになってもらうことで、社員が楽しく働ける環境を整えようとしています。国内外に拠点があるため、テレワークはすでに導入されており、業務に大きく貢献。育児中の社員の利用も多く、会社としても推奨しているそうです。対して、副業にはとても保守的。経営層に「帰属意識に悪影響があるかもしれない」という懸念があり、制度導入が見送られてきました。

「帰属意識の向上に力を尽くしているため、働きやすさをアップさせるための施策は、とても充実しています。テレワークをはじめ、外食産業にはめずらしいスーツの非着用や、フリーアドレスのオフィス整備も実施。社員のエンゲージメントを高めるため、将来的には副業や兼業に関しても議論していくようです」と、調査担当者はまとめました。

CASE3:機器メーカー(3000~5000名規模)

ものづくりの企業では、工場の現業職以外にテレワークを導入していました。製造部門にはフレックスや時間単位有休などの積極的な利用を促進。在宅勤務は育児・介護者のみ(直行直帰時は育児・介護者以外も適用可)の適用ですが、今後の拡充を予定しています。副業も今後の導入を目指し、検討中。社内兼業は、少しずつトライアルが始まっているそうです。

「課題は、職種による不公平感やマネジメント層の意識です。とはいえ、時間の有効活用に対する意識は高まり、制度利用率も向上してきました。積極的な活用を促すため、社内メディアやワークショップで管理職を啓蒙しているのも興味深いポイントでした」(調査担当者)

アンケートや話し合いを通じて社員の意見を吸い上げ、少しずつ働き方を改善。自分の想いによって会社が変わり、自らの働き方も変わると実感してもらうことで、エンゲージメントにつなげていきたいと考えていました。

企業のカラーに合わせて、導入の切り口を変えるべき

これらの事例をふまえ「テレワークや副業といった『働き方の自由度を高める施策』は、各企業の背景や風土によって、導入の切り口が変わる」と、調査担当者は分析します。

「競争環境が激しく、早い事業展開をしている企業では、なにごとも『事業・現場ファースト』を優先する傾向がありました。一律のルールを定めず、事業に合わせて仕組みをカスタマイズすることで、社員の思考停止やマネジメントの負荷増大が防げます。また、よさそうな制度はまず試してみる。不都合があればやり方を見直していく、というフットワークの軽さもある。結果として、会社が個人を気にかけてくれることへの感謝が生まれたり、一人ひとりが働き方を選べる状況ができ、社員のエンゲージメントにつながるようです」一方、環境変化に直面し、組織変革に取り組む企業の場合は「社員に多様な経験を積んでもらうことで、組織のイノベーションを図るのが目的」といえます。

「働く時間や場所に制約がある社員が活躍しやすくなれば、事業成果にもつながるはず。キャリアの自律によって、ぶら下がり社員化を抑える狙いもあります。制度導入への懸念は、まずトライアルで払拭していくのが基本。自律意識の高い人から機会を提供するなど、デメリットが少ないことを確認しながら、段階的に進めていくのがポイントといえるでしょう」

働き方改革では、施策とその成果を明確に結びつけることがなかなか難しい。

「それでもやってみればさまざまなメリットがあるし、意外とデメリットは少ないこともわかってきました。だからこそ導入を促すには、企業の特色に合わせて『仕組みや成果の語り方を変える』ことが大切なのです」


前編はここまで。後編では、セッション2の「ダイバーシティ」の研究報告についてレポートします。

2020年2月25日更新
2019年12月取材

テキスト:菅原さくら
写真:WORK MILL編集部